医学的エビデンスに基づいて運動指導を行なう「メディカルフィットネス」が注目を集めている。山形市のドリームゲートは岩手県と山形県に実際の施設をオープンし、医療機関、自治体、健康機器メーカーと協業しながら普及に努める。超高齢社会とも深く関わるメディカルフィットネスの実像について、ドリームゲート代表取締役の村上勇氏に話を聞いた。

健康寿命延伸に資する“運動×医学的エビデンス”

コロナ禍の外出自粛により、フィットネス業界が大打撃を受けている。帝国データバンクの調査によれば、2020年4月〜2021年3月における事業者の倒産・廃業は累計26件にのぼる。これは、リーマン・ショックの影響を受けた2008年度の29件に迫る数字であり、過去10年に限れば最多となる。

2020年4月〜2021年3月における事業者の倒産・廃業件数(出所:帝国データバンク)
2020年4月〜2021年3月における事業者の倒産・廃業件数(出所:帝国データバンク)
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とはいえ、コロナ禍前は新規戦略で上昇傾向にあったことも確かだ。昨今ではビルのワンフロア、場合によっては駅ナカなどに省スペース型の店舗を展開し、会社帰りのビジネスパーソンなどで賑わいを見せた。さらには専属トレーナーがつきっきりのパーソナルジム、時間を問わない24時間フィットネスジム、女性をターゲットにしたホットヨガスタジオなど目的別のモデルが次々に生まれ、“体を動かすこと”はより身近なものとなった。それだけに、感染震源地の1つと見なされた負のイメージの反動は大きい。

そうした中、「メディカルフィットネス」が新たな価値として注目されている。メディカルフィットネスとは医学的要素を採り入れたフィットネスのことで、1980年代に医療機器メーカーが名付けた造語とされる。決して新しくないこの概念が注目される背景には、超高齢社会の構造的な課題がある。医療費・介護費の抑制に向けて健康寿命の延伸が叫ばれているが、メディカルフィットネス施設では医学的エビデンスに基づき、生活習慣病の予防・改善に即した効果的な運動指導を行なうからだ。

メディカルフィットネスの概念(出所:ドリームゲート)
メディカルフィットネスの概念(出所:ドリームゲート)
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2012年に創業した山形市のドリームゲートでは、メディカルフィットネス施設の立ち上げ支援を手がける。代表取締役の村上勇氏は大学まで地元の山形で過ごし、卒業後はJT(日本たばこ産業)に入社。かつてJT東京男子バレーボール部で活躍したアスリート出身者である。選手引退後はJT系列会社に出向して、かねてより希望していたフィットネス事業に従事。事業運営や科学的トレーニングのスキルを習得した後、Uターンした経歴を持つ。

ドリームゲート代表取締役の村上勇氏(出所:オンライン取材のスクリーンショット)
ドリームゲート代表取締役の村上勇氏(出所:オンライン取材のスクリーンショット)
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ドリームゲート創業前には、山形市の医療法人恵誠会高柳整形外科にて、高齢者からアスリートまでを対象にリハビリテーションやアスレティックトレーニングの指導を行なった。続けて医療法人徳洲会に転職し、徳洲会グループで初めてとなるメディカルフィットネス施設「ラ・ヴィータ」を立ち上げ、3000人超の会員数を集めて一躍脚光を浴びた。

「それまでのキャリアで、運動と医療は密接な関係にあることを痛感してきました。それがラ・ヴィータの成功で間違いではなかったことを証明できました。一方、日本ではこの2つが切り離される傾向が強いのは確かです。これからの日本の未来を見据えたとき、予防医療と適切な知見に基づく運動指導の掛け合わせは重要と考え、ドリームゲートを設立しました」(村上氏)

官民連携で施設を設置、ほかにはない独自性で健康都市を推進

現在、ドリームゲートでは官民連携のスキームでメディカルフィットネス施設の管理・運営に積極的に携わっている。2020年2月には岩手県矢巾町、岩手医科大学、タニタヘルスリンク、日本調剤、フィットネスジム機器のテクノジム ジャパンとともに「矢巾町健康増進施策事業の連携・協力に関する包括協定」に調印。同年4月、矢巾町にある岩手医科大学附属病院の敷地内に「ウェルベース矢巾」をグランドオープンさせた。

ウェルベース矢巾自体は小規模なフィットネスジムだが、ウエアラブル端末と連動して消費カロリーや運動データを即座に可視化できる。また、血圧などのバイタルデータに加えタニタヘルスリンクの体組成計で詳細な身体データを計測可能。このデータに基づき、健康運動指導士をはじめとする専門家がオーダーメイドの運動プログラムを作成する。

ウェルベース矢巾の様子。平日の午後でも高齢者を含む地元の人たちが集まる(写真:小口正貴)
ウェルベース矢巾の様子。平日の午後でも高齢者を含む地元の人たちが集まる(写真:小口正貴)
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ウエアラブル端末で個人アカウントにログインしてデータを可視化(写真:小口正貴)
ウエアラブル端末で個人アカウントにログインしてデータを可視化(写真:小口正貴)
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隣接する日本調剤の薬局フロアには、薬剤師や管理栄養士が常駐する「健康チェックステーション」を併設。待ち時間に健康相談が受けられたり、設置済みの機器で手軽に老化物質を測定できたりするなど、シームレスに医療、健康、運動が循環する仕組みを整備した。

「自治体に不足している専門的マンパワーを我々がメディカルフィットネスという観点からノウハウや人材を提供して補うことで、以前から矢巾町でタニタヘルスリンクと一緒に取り組んでいる健康推進事業を広く地域に周知することが可能となり、従来の介護予防事業や健康事業をブーストできるのではないかとの思いから参画しました」(村上氏)

隣接する薬局フロアにある健康チェックステーション(写真:小口正貴)
隣接する薬局フロアにある健康チェックステーション(写真:小口正貴)
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