現役医師、あるいは医師経験者による起業が増えてきた。その多くが臨床現場で培った知見とテクノロジーをかけ合わせ、新時代の医療を切り開こうとしている。オンライン診療を始め、各領域で活躍するプレーヤーたちにスポットを当てた。

起業の加速に火をつけた“オンライン×医療”

本連載で、たびたび医師が起業したスタートアップを取り上げてきた。2021年だけを見ても、医学部生を含み4人の医師起業家にインタビューしている。また、他媒体の取材でも日常的に現役医師、あるいは医師経験者のCEO(最高経営責任者)に接する機会が増えてきた。

複数回メディアに取り上げられている人たちを中心に独自にリスト化したところ、約50人の医師・医師系経験者の起業家がいた。そのほとんどが2010年代、もっと言えば2010年代後半に会社を設立している。振り返ると2015年は、厚生労働省の事務連絡により実質的にオンライン診療が認められた年。医療のオンライン化とシンクロするかのように起業が増えていることがわかる。

オンライン診療の老舗でもある「curon」を運営するMICINの原氏。研修医からマッキンゼーのルートを経て起業(写真:小口正貴)
オンライン診療の老舗でもある「curon」を運営するMICINの原氏。研修医からマッキンゼーのルートを経て起業(写真:小口正貴)
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オンライン診療はコロナ禍で一般にも広く知れ渡ったが、前述した背景もありコロナ前から主要サービスは出そろっていた。中でも「CLINICS」(メドレー)、「curon」(MICIN)、「YaDoc」(インテグリティ・ヘルスケア)、「ポケットドクター」(MRT/オプティム)はこの領域では老舗であり、オプティムを除いた各社は医師が創業、ないしは経営に深く関わっている。

リーバーの伊藤氏。リーバーの創業は2017年。医療法人アグリー理事長兼アグリケア会長も務めるなど精力的に活動する。写真は2019年のイベントのもの(写真:小口正貴)
リーバーの伊藤氏。リーバーの創業は2017年。医療法人アグリー理事長兼アグリケア会長も務めるなど精力的に活動する。写真は2019年のイベントのもの(写真:小口正貴)
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T-ICUの中西氏。京都府立医科大学を卒業後、救急医として数々の病院に勤務。2016年にT-ICUを創業した(出所:T-ICU)
T-ICUの中西氏。京都府立医科大学を卒業後、救急医として数々の病院に勤務。2016年にT-ICUを創業した(出所:T-ICU)
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MICIN 代表取締役CEOの原聖吾氏は、東京大学医学部を卒業。研修医として現場で働く中で「すべての人が納得して生きて、最期を迎えられる社会を作りたい」と考えるようになったという。その後、大手コンサルのマッキンゼー・アンド・カンパニーで医療政策提言に携わるなどして2015年にMICIN(当時の社名は情報医療)を創業した。ちなみにメドレー共同経営者で前代表取締役の豊田剛一郎氏も、東大医学部からマッキンゼーという同じ道を歩んでいる。

オンライン診療ではないが、オンライン医療相談サービスとしてメキメキと頭角を現しているのがリーバーだ。筑波大学医学群を卒業した代表取締役の伊藤俊一郎氏は、2021年で17年目を迎える心臓外科医である。コロナ禍の影響を受け、同社では2018年1月に開発した医療相談アプリ「LEBER(リーバー)」を学校向けに改良。2020年6月に体温・体調管理機能を付加した「LEBER for School」をリリースし、2021年9月現在で全国23万人、910を超える学校が導入済みだ。伊藤氏は「私自身が3人の子どもを持つ父親。このシステムを用いることでより早期の検査や治療に役立つと確信している」と話す。

遠隔ICU(集中治療室)サービスを手がけるT-ICUを率いるのは、医師の中西智之氏。専門医が不在でもリモートで高品質な集中治療の相談を受けられる「リリーヴ」、高性能なカメラによる患者の遠隔監視システム「クロスバイ」など、現場の目線に立った医療従事者用のツールを提供する。2021年8月にはJICA(国際協力機構)からの受託により、アジア、アフリカ、中南米地域など約10カ国を対象に遠隔ICU支援を開始した。

デジタルアプリで保険収載が実現、百花繚乱のソフト開発

高血圧治療用アプリの進捗報告会見に立つCureAppの佐竹氏。高血圧に続き、NASH(非アルコール性脂肪肝炎)、アルコール依存症、乳がんに向けた治療用アプリの開発も進めている(写真:小口正貴)
高血圧治療用アプリの進捗報告会見に立つCureAppの佐竹氏。高血圧に続き、NASH(非アルコール性脂肪肝炎)、アルコール依存症、乳がんに向けた治療用アプリの開発も進めている(写真:小口正貴)
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サスメドの上野氏。睡眠外来で患者と接する中で、睡眠薬に変わる代替療法として認知行動療法に行き着いた。写真は2019年のイベントのもの(写真:小口正貴)
サスメドの上野氏。睡眠外来で患者と接する中で、睡眠薬に変わる代替療法として認知行動療法に行き着いた。写真は2019年のイベントのもの(写真:小口正貴)
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日本におけるデジタル治療用アプリの嚆矢(こうし)となったのがCureApp。同社が開発した「CureApp SC ニコチン依存症治療アプリ及びCOチェッカー」は2020年12月1日に保険収載され、医師から“薬”として処方される日本初のアプリとなった。CureAppには代表取締役社長兼医師の佐竹晃太氏を含め、複数の医師が在籍。佐竹氏はいまなお禁煙外来で患者の治療にあたっており、普段の治療からアプリ開発に知見をフィードバックしている。2021年5月には第2弾となる高血圧治療用アプリの薬事申請を済ませ、早ければ2022年の保険適用を目指す。

治療用アプリでは、サスメドも追随する。現在、認知行動療法によって不眠症を治療するアプリの開発を進め、100人以上の治験を実施。代表取締役社長の上野太郎氏は東北大学医学部の出身で、不眠症のほか、乳がん、腎臓病などの治療用アプリも視野に入れる。同社では、ブロックチェーンを活用した臨床試験効率化ソリューションの開発にも励んでいる。