政府が本腰を入れ、2025年には2兆円の経済効果が見込まれるフェムテック。この領域で、“オンライン診察×薬”のプラットフォームを展開する「スマルナ」の評価が高い。このサービスを展開するネクイノは、スマルナを登山口にして、ゆくゆくは医療DXの実現を目指したいという。その全貌を、前後編の2回に分けて紹介する。

話題のフェムテックで躍進する「スマルナ」とは?

フェムテックが注目されている。2021年6月に政府が閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針2021(骨太方針2021)」では、「フェムテックの推進」が盛り込まれた。2020年10月には、自民党の野田聖子議員が会長を務める「フェムテック振興議員連盟」が発足。サービス提供者と意見を交わすなどしている。

フェムテックとは「Female」と「Technology」をかけ合わせた造語で、女性特有の心身の悩みや健康の課題をテクノロジーによって解決する手段を指す。

産婦人科医の三輪綾子医師は、その内容を「MIPOC(マイポック)」に分類。これはMenstruation(月経)、Infertility(不妊)、Pregnancy(妊娠・産後)、Other(その他:セクシャルウエルネスなど)、Climacteric disorder(更年期)の頭文字を取ったもので、日本でもそれぞれに該当する製品・サービスがある。経済産業省の委託を受けた日立コンサルティングの調査によれば、フェムテックによる2025年の経済効果は約2兆円。ヘルステック分野でも明らかに成長市場のひとつといえる。

そんなフェムテック領域で存在感を増しているのが「スマルナ」だ。「アプリで診察、ピルが届く。」のキャッチコピーからわかるように、スマホアプリからオンライン医療相談・診察を受けてピルの処方と宅配を可能にしたサービス。2018年6月のサービス開始以降、じわじわとユーザーを拡大し、2021年10月時点でアプリのダウンロードは累計62万を達成した。

スマルナのサービス画面。スマルナでは「診断(医師が患者の病状・病因などを判断)」や「治療(医師が患者の病気や怪我を治す)」ではなく、「診察(医師が患者の病状・病因などを探る)」して薬を処方するサービスのため、あえて「オンライン診察」と表現している(出所:ネクイノ)
スマルナのサービス画面。スマルナでは「診断(医師が患者の病状・病因などを判断)」や「治療(医師が患者の病気や怪我を治す)」ではなく、「診察(医師が患者の病状・病因などを探る)」して薬を処方するサービスのため、あえて「オンライン診察」と表現している(出所:ネクイノ)
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日本では、医師が処方しない限りピルを入手できない。また、歴史的に避妊薬として刷り込まれてきた背景があり、常に性行為と結びつけられてしまう後ろめたさがあった。確実に需要があるのに、違法であるピルの通販が後を絶たないのはこのためだ。中には偽ピルの販売など悪質な例もある。

しかし、普及が進む欧州諸国ではPMS(月経前症候群)の緩和や月経周期のコントロール、生理不順や肌荒れの改善に効果がある薬として一般化し、薬局で購入可能だ。国連による「Contraceptive Use by Method 2019」(避妊の方法2019)をひも解くと、ピルの内服率はフランスが33.1%、ドイツが31.7%、オランダが32.7%なのに対し、日本はわずか2.9%。実に10倍以上の開きがある。

当たり前だが、女性の悩みに国境はない。スマルナは時代に即したやり方で、日本における潜在的なニーズを掘り起こした。時間と場所に縛られず医師の処方を踏まえてピルを入手できることは、対象女性にとって大きな利便性と安心をもたらした。

スマルナを提供するネクイノは大阪市に本社を置く。薬剤師である代表取締役の石井健一氏は、帝京大学薬学部を卒業後にアストラゼネカに入社。2005年にノバルティスファーマに転じ、医療情報担当者として臓器移植プロジェクトを担当。製薬業界と医療業界の双方に通じたハイブリッドなスキルを持つ人物である。石井氏にスマルナやフェムテックの現状について聞いた。

需要と供給のアンバランスに楔を打つ

――スマルナの概要について教えてもらえますか。

石井 スマホアプリでオンライン診察を受け、医師が処方したピルをユーザー宅に届けるサービスです。ただし診察は18歳以上に限定し、保険適用外の自由診療となります。中心となるのは低用量ピルで、1シート(1カ月分)2530円から用意しています。「アプリで診察、ピルが届く。」を掲げ、手軽にピルを入手できるようにしました。

ネクイノ代表取締役の石井健一氏(出所:ネクイノ)
ネクイノ代表取締役の石井健一氏(出所:ネクイノ)
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――サービス開始以降、3年余りでアプリが62万ダウンロードを突破したそうですね。日本でのピルに対する潜在的なニーズはそれだけ多かったと。

石井 その通りです。もちろん例外はありますが、ピルはもともと、医学的介入度が高い医薬品ではありません。一方で日本は専門医志向が強く、いまでもピルの処方は婦人科がメインです。でも、若い女性にとって妊娠前に婦人科に行くことは心理的なハードルが高い。加えて産婦人科医の減少が加速し、住んでいる地域によっては通院するためにかなりの移動を強いられます。

このように、専門家に性や体の悩みを相談できない状況を解決したいとの思いから着想したのがスマルナです。フェムテックの中でも、とくに避妊や生理に関しては需要と供給がアンバランスで、本来ならばプライマリケア(初期の身近な医療)で済む部分にも貴重な専門医のリソースが割かれています。そのギャップを埋めるためにテクノロジーを活用し、ユーザーの利便性を高めるサービスとして機能しています。

――具体的なフローはどのようなものですか?

石井 アプリをダウンロードして会員登録し、問診を経た上で医師の診察を受け、必要であればピルを提案し、処方します。ただ、その前段階として薬剤師あるいは助産師による無料相談の場を設け、まずはコミュニケーションを取ることに主眼を置きました。これらはすべてアプリ内でビデオチャットやテキストチャットで行なえるため、気軽に医療相談・診察が受けられると好評です。

我々は医療機関ではないため、外部の医師に協力を仰いでいますが、スマルナでは参加医師のうち産婦人科医の比率を20%に抑えています。代わりに医師コミュニティを形成してコンセンサスミーティングを開き、ほかの診療科の医師たちとエビデンスを共有しながら進めています。また医療相談は引き合いが多く、1日の平均相談件数は464件、最大では912件を数えたこともありました。相談に対し、90%以上を30分以内に返答する素早い対応も特徴のひとつです。