国に先駆けて医療情報の連携を実装

ネクイノは、スマートフォンやウエアラブルデバイスなどを利用し、いつでもどこでも個人がPHRを確認し、データを医師と共有できる世界を目指す。第一歩として、スマルナではユーザーの許可を得た助産師や薬剤師などの有資格者が、医師が記録した電子カルテを閲覧できる仕組みにしている。セキュアな個人認証システムとして、自社開発サービス「メディコネクト」を連携させたのが特徴だ。

ネクイノ代表取締役の石井健一氏(写真:小口正貴)
ネクイノ代表取締役の石井健一氏(写真:小口正貴)
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「カルテのコピーを患者が医療機関に請求することは通常の医療周辺サービスとして提供されています。このコピーを患者(本人)が誰に預けるか、託すかについては自由です。その託されたカルテのコピーを電子化して(患者の合意のもと)共有できる設計を考えました。そうすれば患者が別の病院にかかったときに、医師Aの診察を医師Bに漏らすことなく伝えられるようになります。

今の医療システムにおけるコミュニケーションのあり方は、専門家と非専門家(患者)の間で行なわれています。非専門家は当然“適切な言語化”ができないわけで、その状態で口頭でのやり取りがコミュニケーションの基本設計になっているのでミスコミュニケーションが発生しやすい。これをテクノロジーにより患者サイドをエンパワーすることで、専門家対専門家の状態に持っていき、想定していない医療不信の発生や煩雑な手間を減らそう、というのが狙いです」(石井氏)

政府もマイナンバーカードとの連携でPHRの活用を進めている。2021年10月からは健康保険証利用とともに、マイナポータルで特定健診(いわゆるメタボ健診)情報、後期高齢者健診情報、薬剤情報などを確認できるようになった。メディコネクトはマイナンバーカードの健康保険証連携を補完するシステムとして開発したものだが、自社サービスのスマルナに先んじて実装することで民間の立場から医療の未来を開拓してきた。

自社開発したメディコネクト(出所:ネクイノ)
自社開発したメディコネクト(出所:ネクイノ)
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「ネクイノFuture Vision Movieは、少し先の医療の姿を示したものです。登場する技術はスマートフォン、スマートウォッチ、AI、VR、メタバース(オンラインで活動できる仮想空間)など。重要なのは、すべての技術が現時点ですでに実装済みという点です。ユーザーレベルでも2028年の成熟が容易に想像されるため、動画を見ても説得力があるはずです。

我々は“枯れた技術”を活用して、いかに社会を良くしていくかにこだわっています。安定して運用できる技術をベースにサービスを構築することが先決です。電子カルテのブロックチェーン化、AIによる高度な画像診断支援などテクノロジーの医療活用は最先端事例に目が向きがちですが、そもそもプレイヤーが少ないし、法規制の壁も高くゴールが見えません。過激なことをやっているように見えるかもしれませんが、事業そのものは石橋を叩いて渡っています」(石井氏)

医療全体が変わるために政府にも働きかけていく

2021年9月にはENEOSホールディングスから資金を調達し、同時に協業を開始。予防医療の観点から、自宅以外の生活圏内でさまざまなヘルスケアサービスを提供する「スマートライフボックス」を共同開発し、千葉県柏市の「ららぽーと柏の葉」内に設置した。現在、2022年3月までの予定で実証実験を行なっている。

「スマートライフボックスは個室ブースになっていて、室内に置かれた検査機器によって各種バイタルデータを計測できます。このデータをもとに医療専門家とのビデオ通話によるコミュニケーションができるなどの健康相談サービスが受けられます。

スマルナでの情報共有も、スマートライフボックスの実証も、まずはユーザーが自分のPHRを見る体験を習慣化するための布石です。自分のデータを病院の端末ではなく、自分のスマートフォンの中で確認できるようにし、そこに決済システムをしっかりと紐付ければスマートフォン1台だけで病院に行けるようになります。ここまでのユーザー体験が確立されれば、もう前には戻れません。やはり、PHRを土台にしなくては、医療DXは実現できないと信じています」(石井氏)

スマートライフボックスのイメージ(出所:ネクイノ)
スマートライフボックスのイメージ(出所:ネクイノ)
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先に紹介したように、こうした流れはすでに国主導で動き出している。石井氏は2021年9月に発足したデジタル庁と熱心に意見を交換するなど、ロビイングにも力を入れる。

「日本でロビイングは良い印象がありませんが、それは私企業が我田引水をしようとするから。対して米国の場合、UberやAirbnbが萌芽の時期に徹底的にロビイングをして、3年後、5年後にルールや法律で困らない道筋を作りました。つまり、世の中のイノベーションが止まらないようにすることがロビイングの目的なのです。

我々は医療業界そのものが潤い、幸せになるスキームを提案しています。出来高制で発展してきた日本の医療を、管理医療型にどのようにして切り替えていくか。オンライン化の波が押し寄せるいま、変化を促すには絶好のタイミングだと思っています」(石井氏)

スマートフォンに顕著なように、テクノロジーは否応なく行動様式を変える。10年後には、いまの医療に対する常識が非常識になっている――。そんな時代が到来するのかもしれない。