認知症の課題解決にテクノロジーで挑むSplink(スプリンク)。設立5年目のスタートアップながら、2021年には脳画像解析プログラム「Braineer」が認知症診断支援ソフトとして薬事認可を取得するなど躍進を続ける。認知症の早期発見から診断のサポートまでを一気通貫で手がける同社のビジョンを聞いた。

圧倒的な認知症専門医の人手不足をITでカバー

認知症は高齢者の最大の介護要因であり、全体の18.1%を占める(内閣府「令和3年版高齢社会白書」)。2025年には認知症患者は700万人にも上るとされ、超高齢大国の日本にとって喫緊の課題となっている。

2015年に慶應義塾大学医学部と厚生労働省が発表した共同研究データによれば、認知症に関わる社会的コストは年間約14.5兆円にも及ぶ。そのうち、家族が無償で負担するインフォーマルケアコストの換算額は6.1兆円。昨今では老老介護、介護離職、ヤングケアラーなど厳しい介護の現実が社会問題化している。

認知症はいくつかのステージを経て段階的に進行する。具体的には、健常、発症前段階、軽度認知障害(MCI)、認知症という流れだ。さらに3タイプに大別され、最も多いのが約7割を占めるアルツハイマー型認知症、次いで約2割の血管性認知症、約5%のレビー小体型認知症となる。よく知られるアルツハイマー型は、加齢とともに記憶障害、見当識障害、失語などが進み、やがては家族の認識も困難になる。

アルツハイマー型の発症にはアミロイドβやタウタンパク質の蓄積が関わっているとの説が有力だ。2021年には、米バイオジェンとエーザイが開発したアミロイドβ除去の効果を持つ「アデュカヌマブ」がFDA(米食品医薬品局)に迅速承認され、認知症の進行抑制が期待できる新薬として注目を浴びた。しかし、十分なエビデンスが不足しているとしてさらなる検証が続けられている。一筋の光明が差してきたものの、効果的な治療薬が市場に行き渡るのはまだ先の話である。

いずれにせよ、心身ともに幸せであるウェルビーイングや健康寿命延伸が叫ばれる人生100年時代にあっては、認知症兆候の早期発見と、発症後の適切な診断が不可欠となる。2017年に設立したスタートアップのSplinkはブレインヘルスケアを掲げ、科学的なアプローチによって認知症にまつわる課題を解決しようと取り組む。

同社が提供するプロダクトは、認知能力計測のデジタルアプリ「CQ test」、認知症早期発見を支援する脳ドック用プログラム「Brain Life Imaging」、脳画像解析プログラム「Braineer」の3つ。Splink代表取締役の青山裕紀氏は「予防から診断までワンストップでサポートすることが狙い」と語る。

「そもそも日本には、日本認知症学会や日本精神科医学会に認められた認知症の専門医が2000人ほどしかいない。関連の専門医を考慮しても1人あたり200人の患者を担当しなければならないのが現状だ。複雑な症状のために診断の標準化が難しく、脳血流SPECT検査やPETイメージングなどの詳細検査は非常に高額で時間も拘束される。これらの課題をテクノロジーで解決すべくサービスを提供している」(青山氏)

Splink代表取締役の青山裕紀氏(写真:小口正貴)
Splink代表取締役の青山裕紀氏(写真:小口正貴)
[画像のクリックで拡大表示]

ポイントは脳の健康状態の把握

それぞれを詳しく説明しよう。CQ testは認知機能テストアプリで、パソコンやタブレットなどで利用できる。認知症が疑われる場合、一般的には「MMSE(Mini-Mental State Examination:ミニメンタルステート検査)」が用いられるが、CQ testのターゲットは健常者。健常段階から脳の状態を把握し、一歩前の認知症リスクをあぶり出すことを目的とする。

Brain Life Imagingは同社のコアプロダクトで、脳ドック健診で併用される。頭部の磁気共鳴診断装置(MRI)画像をAI(人工知能)で解析し、脳内の海馬領域の体積を測定して、わかりやすいレポートを受診者に提供する。海馬は記憶や学習の中枢を司るため、Brain Life Imagingにより脳の健康状態を可視化できるのが特徴だ。

Brain Life Imagingのイメージ(出所:Splink)
Brain Life Imagingのイメージ(出所:Splink)
[画像のクリックで拡大表示]

医療機関を全国展開する医療法人の南東北グループ(福島県郡山市)に導入済みで、最近では医療機関からの引き合いも多い。2021年11月にはシーメンスヘルスケアと事業提携を締結し、シーメンスの医療プラットフォーム上でBrain Life Imagingの提供をスタートするなどチャネルを拡大している。

「認知症は徐々に進行する。認知症が疑われる段階で行なうMMSEでは早期発見が難しい場合も多いため、その前の簡易なテストツールとしてCQ testを考案した。それに続く画像検査として開発したのがBrain Life Imaging。たとえ本人に自覚がなくても、画像のAI解析によって客観的に異常が認められると生活習慣の改善につながり、認知症の予防に結びつく。働き盛りの40〜50代の人たちが受診して、『ぜひ親に薦めたい』と言われることも増えてきた」(青山氏)

Brain Life Imagingはシーメンスヘルスケアのプラットフォームとも連携(出所:Splink)
Brain Life Imagingはシーメンスヘルスケアのプラットフォームとも連携(出所:Splink)
[画像のクリックで拡大表示]

Braineerは頭部MRIの画像データから脳の萎縮を定量化・数値化して診断に役立つ情報を提供。これにより、医師の知識や経験などに左右される認知症診断のブレを防ぎたいとする。2021年6月には認知症診断支援の医療機器プログラムとして薬事認可を取得した。現在、上市に向けて着々と準備を進めている。

「Braineerは匠の技を共有するツールとして期待されている。全国の医師にBraineerの話をすると、すぐにでもほしいとのありがたい声をいただくが、科学的なエビデンスを盤石にした状態で世の中に出していきたい」と青山氏。Braineerの薬事承認を機に、近畿大学、名古屋市立大学、東大病院と共同研究を開始し、ソリューションに磨きをかける構えだ。