国を上げて健康寿命延伸に取り組む日本。目標達成には日常的な歩行運動をはじめとする健康づくりが欠かせない。しかし、これまで運動に興味がなかった高齢者が取り組むためには、やる気を起こさせる必要がある。きっかけとなるのは“楽しさ”だ。今回は楽しく継続できる仕組みを紹介しながら、未来の健康づくりを見ていこう。

お年寄りがこたつで向かい合いながら、夢中になって手に持った湯呑み茶碗を前後左右に動かしている――。こたつの卓上をリンクに見立ててホッケーをしているのだ。スティックが湯呑み茶碗なら、パックはプロジェクションマッピングされたバーチャルみかん。米マイクロソフトのジェスチャー認識システム「Kinect」を使ってプレーヤーの動きをとらえ、プロジェクションマッピングを連動させる。みかんが湯呑み茶碗に“当たる”と、あたかも実物のパックが跳ね返されたように動く。ルールのわかりやすさ、操作の容易さもあって、初めて体験するお年寄りも大喜びだ。

(写真1)こたつホッケーを楽しむお年寄りたち

これは未来の架空の風景ではない。一般社団法人「世界ゆるスポーツ協会」が考えた「こたつホッケー」の一シーンだ。同協会は「スポーツ弱者を、世界からなくす」をモットーに、年齢・性別・運動神経の良し悪しを問わず誰もが楽しめる新種のスポーツを提案している。活動の一環として取り組むのが高齢者向けのスポーツ事業と位置づける「ゆるスポヘルスケア」。その場ですぐにプレーできるよう、極限までルールをシンプルにして、新スポーツを介護施設でのリハビリに役立てる狙いだ。

ゆるスポヘルスケアにおける3大スポーツは、このこたつホッケーと、「トントンボイス相撲」、そして「打ち投げ花火」だ。トントンボイス相撲は発光するデジタル盤上における紙相撲。ただし盤を手で叩くのではなく、ヘッドセットを装着し、声の大きさとリズムで競う。打ち投げ花火は天井に向けてヘリウム入りの風船を放ち、的の中心に近いほど花火の炸裂が大きくなる仕掛け。もちろん花火の映像はプロジェクションマッピングだ。

(写真2)トントンボイス相撲。周囲の高齢者も観客となって楽しむ

どれも、簡単に説明するだけで、高齢者にもすぐにできてしまう。ゆるスポヘルスケアのディレクターを担当する大瀧篤氏は「ゆるスポーツを薬にしたい」と語る。介護施設に足を運び、これら新スポーツをレクリエーションに取り込んでもらったところ、介護のリハビリに最適との手応えを得た。「普段はお年寄りもやらされている感じだが、楽しんでやっているのが見て取れた」(大瀧氏)。テレビや新聞などの露出も増え、今では各施設からリクエストが絶えない。

こたつホッケーは肘周辺の関節部の動き、トントンボイス相撲は発声、打ち投げ花火は肩の上げ下ろしと首のストレッチと、それぞれ体の動きを伴う。こうした運動効果についての数値化はこれからだが、「いずれは定量データを採取して医学的なエビデンスも得たい」(大瀧氏)と話す。ただし、最も重視しているのはメンタル面での高揚であり、そのトリガーとなる“笑い”である。「一日の中で何度笑っても疲れることはない。笑えることを中心に据える、その点はどんな競技でもぶれないようにしている」という。

(写真3)ゆるスポーツ協会の大瀧氏。後ろはゆるスポーツの1つ「ゾンビサッカー」の大会ポスター

理想的な未来図として描くのは、高齢者の健康はもとより、家族や介護施設のスタッフを含めたポジティブエネルギーの循環だ。ゆるスポーツを一緒に楽しみたいために、孫や子どもが一緒に施設に足を運ぶようになり、パッケージ化したゆるスポーツでスタッフのレクリエーションの負荷を減らす。「笑顔を増やし、周囲を含めたコミュニケーションを活性化していきたい」と大瀧氏は話す。