写真から撮影者の知性や感性、価値観など、創造性の特徴を読み解き、数値化して相互理解の深化に役立てる。スタートアップのナムフォトを率いる楢侑子氏が確立した「写真心理学」(商標登録済み)が、企業研修ツールとして好評を博している。写真と人、その関係性を拡張しようと試みる楢氏のビジョンを聞いた。

写真は人生に寄り添ったツールとして有効活用できる

――写真心理学とは斬新な言葉です。どのような経緯で考えたのですか。

私はこれまでカメラマン、編集者、まちづくりのコミュニティデザインなどの仕事をしてきました。前職のまちづくりでは、プロジェクトの一環として写真ワークショップを開催しており、写真を通して人の感性や価値観などが透けて見えることを実感していたのです。改めて言葉で伝えてあげると「意識してなかったけど、私の創造性はそういう特徴があるのですね」と気づいてくれて、才能が開花することがたくさんありましたから。

ナムフォト 代表取締役の楢侑子氏(写真:小口正貴)
ナムフォト 代表取締役の楢侑子氏(写真:小口正貴)
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今の時代、写真は世の中に溢れていますが、商業写真は技巧が凝らされたものですし、SNSは映えや「いいね!」など他者からの見え方が重視されたものが主流です。でも本来はその人の人生に寄り添ったツールとして有効活用できるはずなのです。一方で感性や価値観などは形がなく認識しづらいため、「それらの概念に形を与えてあげればいいのではないか」とメンターからアドバイスを受け、独自のメソッドとして写真心理学を確立しました。

――写真心理学の具体的な内容は。

現段階では1500人分、1万3000枚の写真分析から設計した独自の診断内容を用意しています。「なぜ」「どのように」「何を」撮ったかに着目した全14項目の定量診断と、潜在的な興味・関心を引き出すような全3項目の定性診断で分析します。より深く理解するために、数値化と定性化の両面からアプローチするのがポイントです。

写真と一緒に、撮影動機など2行程度のコメントを提出してもらいます。提出された写真とそのコメントから、脳内で起こったインプットからアウトプットまでの過程を読み解き、我々が1200字ほどの写真心理学診断書にして提供します。実際に診断を受けたユーザーからは、「普段の自分の意識していない行動こそが自分らしさだと感じた」「注視していなかった自分の深層心理を見ることができて、ポジティブな気持ちになれた」といった声が届いています。

写真心理学の概念図(出所:ナムフォト)
写真心理学の概念図(出所:ナムフォト)
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最もわかりやすいのは画角です。俯瞰が好きな人、クローズアップが好きな人など、日常での観察範囲が如実に現れるのですが、まずは5点満点の定量分析で数値化した上で、さらに視点を深めたいときはこうすればいいとか、増やしたいときはこうした物の見方にするといいといったアドバイスも記載しています。視点は画角という撮影上のテクニックの部分と、心のあり方の両方からアプローチしています。

――なるほど。独学で診断法を確立したのですか?

当初は心理学系の有名なフレームワークをひと通り調べたり、書物を読んで、どのようなフレームで診断するのが良いか探しました。でも写真心理学にぴったりと合うものがなく、一度離れてアート思考(既成概念を打ち破り、自己から生まれた新たな価値を表現する考え方)の本を参考にしてヒントを得ました。それからチームでディスカッションしながらフレームを構築して改良を重ねていきました。

写真心理学をオンラインサービス化したものが「miit(ミート)」です。写真投稿、写真心理学診断、対話の3プロセスで構成され、写真心理学を通じてメタ認知やお互いに対する理解を深めるセッションです。この体験を通じて、組織内コミュニケーションの活性化やチームビルディングの向上に役立てることができます。現在は企業研修をターゲットにmiitを展開しています。

写真心理学サービス「miit」のイメージ(出所:ナムフォト)
写真心理学サービス「miit」のイメージ(出所:ナムフォト)
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