売電だけじゃない! 新・メガソーラー活用術

<第1回>群馬県中之条町、メガソーラーでエネルギー地産地消

「地域新電力」を設立し、太陽光電力を小売り

2014/06/03 18:47
金子 憲治=日経BPクリーンテック研究所

 群馬県中之条町は、同県北西に位置し、温泉で有名な草津町と隣接する。中之条町内にも四万や沢渡などの多くの温泉があり、豊かな広葉樹に覆われた山々から流れ出る白砂川や四万川の周囲は、見事な紅葉など、四季折々の渓谷美で知られる。

 2013年10月5日、図書館などの複合施設「中之条 ツインプラザ」で、「中之条電力」設立式典が開催された(図1)。中之条電力は、中之条町などが出資した新電力(PPS:特定規模電気事業者)。9月10日に全国で100番目の新電力として経済産業省・資源エネルギー庁に届け出た。自治体が主体となる全国で初めての新電力となった。

図1●2013年10月に開催された、中之条電力の設立式典(出所:中之条町)

 このように自治体が中心となった新電力は、「地域新電力」と呼ばれ、現在、その可能性が議論されている。中之条電力は、その先駆けとして、注目を集めている。

 中之条電力の代表理事・理事長には、中之条町の折田謙一郎町長が就任し、事務所は中之条町役場内に置く。設立式典の後、10月10日から営業を始めた。同電力は、中之条町にあるメガソーラー(大規模太陽光発電所)から電力を購入し、東京電力の送配電網を使って、町内の公共施設に販売する(図2)。現在、町内には3つのメガソーラーが稼働しており、合計出力は約5MW、年間の総発電量は620~700万kWhを見込んでいる。一方、同町が管理する公共施設の電力需要は年間400~450万kWhなので、発電量の規模だけでみれば、十分に需要量を満たせる。

図2●中之条町のエネルギー地産地消の仕組み(出所:中之条町)
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複数の新電力がグループになり、需給バランス

 とはいえ、中之条電力だけで、安定的に電力を供給することは難しい。夜間や雨天の日、メガソーラーは発電しない。また、町内公共施設の電力需要を超えて発電した電力は余ってしまう。新電力は、一般電気事業者(群馬県では東京電力)に託送料金を払って送配電線を借り、顧客に電気を送る。その際、電気の供給と需要を30分単位で同量にし、需給バランスを維持する必要があり、一定程度、それを逸脱すると一般電気事業者にペナルティ(インバランス料金)を払わなければならない。これを「30分同時同量」ルールと言い、新電力にとって、その需給バランスの調整が大きな負担になっている。

 実は、中之条電力は、「同時同量」を新電力大手であるF-Power(東京都港区)に委託することで達成している。F-Powerは、中之条電力を含め、複数の新電力をグループ化して、全体で「同時同量」になるように需給調整する。これを「代表契約者制度(バランシンググループ)」という。複数の新電力が、一般電気事業者と一つの託送供給契約を結び、新電力間で代表契約者を選ぶ仕組みだ。中之条電力は、F-Powerを代表者とするバランシンググループの一員になることで、同時同量の一端を担いつつ、安定供給を実現した。

 中之条町にこうした地産地消スキームの構築を働きかけたのが、電子部品商社のバイテックだった。同社は、多角化の一環として、環境エネルギー事業に乗り出し、太陽光パネルなど環境関連商材の販売のほか、2013年にはメガソーラーの建設・売電事業や、新電力であるV-Powerを設立した。中之条町の3つのメガソーラーのうち、「バイテック中之条太陽光発電所」(出力1MW)は、バイテックが町から遊休地を賃借し発電事業の主体となった(図3)。ほかの2つ、「沢渡温泉第1太陽光発電所」「沢渡温泉第2太陽光発電所」(それぞれ出力2MW)は、町が土地を確保して、事業主体となっているが、バイテックが企画・管理から保守を担っている(図4)。

図3●バイテックが事業主体となるメガソーラー「バイテック中之条太陽光発電所」(出所:日経BP)
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図4●中之条町が事業主体となる「沢渡温泉第2太陽光発電所」(出所:日経BP)
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「再生可能エネルギーのまち」を決議

 中之条電力には、中之条町が60%、V-Powerが40%を出資して設立した。V-Powerは、中之条電力の運営をサポートする役割を担っている。バイテックは、地方自治体に対して、「エネルギーの地産地消」をコンセプトに地域活性化を提案する事業戦略を打ち出しており、中之条町がその第一弾となった。再生可能エネルギーによる発電設備の建設から運営、資金計画、電力売買など、ワンストップで提案できるのが強みだ。そのための企業としてバイテックローカルエナジーを設立した。

 一方、中之条町が新電力を設立して、「エネルギー地産地消」に乗り出したのは、2013年6月に議会で決議した「再生可能エネルギーのまち中之条」宣言を受けたものだ。東日本大震災を機に、原発に代わるエネルギーを開発するのは自治体の責任という全国的な動きと共に、再生可能エネルギーの開発、活用を通じて、地域を活性化したいという思いが背景にある。中之条町の主力産業は農林業。だが、その衰退に歯止めがかからず、現在約1万7800人の人口は、30年後には9000人を割るとの予想もある(図5)。

図5●中之条町の人口推移。平成22年に六合村を合併した(出所:中之条町の資料を基に日経BP作成)

 メガソーラーを手始めに、小水力発電と木質バイオマス発電の検討を進めている。将来は、畜産バイオマス、地熱・温泉熱の利用、風力発電にも取り組むことで、豊かな自然を継承しつつ、農林業などの地域経済を活性化させたいという狙いがある。

バイオマス発電2000kWを目標に

 すでに小水力発電に関しては、立地選定と基本設計が済み、今年度中に着工し、2015年稼働の予定で計画が進んでいる。建設するのは、「中之条パーク 花の駅 美野原」東側の丘陵(図6)。四万川を源流とする美野原用水から水を引き込み、地中に埋設する管から水車や発電機などを設置する発電所に水を通し、同用水に戻す水路式(流込式)水力発電だ。落差は約65mあり、最大出力138kW、常時出力35kWになる予定だ。

図6●「中之条パーク 花の駅 美野原」の全景(出所:中之条町)

 また、木質バイオマス発電に関しては、2013年10月に木質バイオマス事業化検討協議会が発足し、事業化に向けた検討が始まった。メンバーは、バイオマス発電の専門家のほか、地域の森林組合や林業、製材関係者、そして、バイテックやバイテックローカルエナジーの幹部も参加している。中之条町の約87%は森林が占める(図7)。林業を活性化しつつ、そこから出る端材を活用できれば、エネルギー源としての潜在性は大きい。出力2000kW規模の木質バイオマス発電所の建設を想定し、有望な技術や排熱の活用などに関して、検討を進めている。

図7●中之条町の緑豊かな里山(出所:中之条町)

 中之条町は、江戸時代に沼田藩真田氏が治めた領地の一部で、町内には真田時代に開発された用水や堰が10以上残っている。真田氏は、開発に熱心で、用水の建設によって稲作や生活に必要な水を確保して地域発展の礎を築いた。そして、現在、地域に眠るエネルギー資源をどこまで開発できるか、「再生可能エネルギーのまち中之条」の挑戦が始まった。