先端的「自家消費メガソーラー」、DIC館林工場で稼働

「蓄電池・逆潮流なし」でも「応答制御」で再エネ比率20%

2019/07/02 05:00
金子憲治=日経BP総研 クリーンテックラボ

工場に次々と自家消費太陽光

 群馬県館林市は、館林城の城下町として古くから栄えるとともに、関東内陸工業地域の一角を占めるなど、製造業も盛んだ。DICの館林工場もその1つで、東部工業団地に位置し、プラスチック用の着色剤などを生産している。

 今年2月、同工場内の敷地に、出力1.27MWのメガソーラー(大規模太陽光発電所)が稼働した。館林市も含む北関東エリアは電力系統の空き容量がほとんどなく、数年前から事業用太陽光が接続できない状況になっている。それにも関わらず、DICがメガソーラーを建設、稼働できたのは、固定価格買取制度(FIT)を使わず、発電電力の全量を工場内で消費する「自家消費型太陽光」だからだ(図1)。

図1●DICの館林工場に稼働した太陽光発電設備
(出所:DIC)
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 DICは、今年1月、国内の5事業所に合計で出力約1.5MWの自家消費型太陽光を相次いで稼働させた。導入したのは、館林工場のほか、千葉工場(千葉県市原市)、四日市工場(三重県四日市市)、埼玉工場(埼玉県伊奈町)、総合研究所(千葉県佐倉市)の5事業所。そのうち館林工場は、最大規模の太陽光設備となった(図2)。

図2●逆潮せず全量を館林工場で自家消費する
(出所:日経BP)
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 実は、これら5事業所に先駆け、同社では、鹿島工場(茨城県神栖市)にもメガソーラーとバイオマス設備、風力発電設備、北陸工場(石川県白山市)にバイオマス設備を導入していた。DICが矢継ぎ早に自社事業所への再生可能エネルギー設備の導入を急ぐのは、事業の成長とCO2の大幅削減を両立させるためだ。

2030年にCO2を30%削減

 DICは今年2月に創業111周年を迎えた。祖業である印刷インキから顔料・ポリマーなどに展開し、売上高は約8000億円まで成長した。その約6割を海外が占め、グローバル化が進んだことから2008年に大日本インキ化学工業からDICに商号を変更した。

 同社では、さらにもう一段の成長を志向しており、「2025年度に売上高1兆円」を目指す経営目標を掲げている。一方で、「CO2排出の絶対量を2030年度時点で30%削減する」という環境目標も設定している(基準年は2013年度)。

 製造企業にとって、生産量を伸ばしつつ、原単位当たりの消費エネルギーを削減することは、長らく取り組んできた「省エネ」で実現しやすい。だが、生産拡大とCO2排出の絶対量を減らすことは容易ではない。そこで同社では、事業所における省エネの一層の推進とともに、「再エネの積極的な採用」を2本柱として、目標の達成を目指している。

 すでにその成果は表れている。2013年度と2018年度の売上高を比較すると、7056億円から8055億円に14%以上も増えた一方、エネルギー使用量は12.7%減、CO2排出量は14.5%減と、逆に2ケタの削減に成功した(図3)。

図3●DICのCO2削減に関する成果
(出所DIC)
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 省エネ以上のCO2削減に貢献したのは、鹿島工場や北陸工場での再生可能エネルギーの活用のほか、海外でも、中国やタイ、インドネシアなどで、太陽光発電やバイオマスボイラを導入したことなどもある。

図4●DIC鹿島工場に稼働中のメガソーラーと風力発電設備
(出所:DIC)
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 こうした積極的な再エネ導入により、国内DICグループで消費するエネルギー(熱・電気)のうち、すでに12.1%を再エネで賄っている。2018年度の再エネ使用量は、太陽光やバイオマスの導入により、前年度比で18%も増えた。この増加分は、国内DICグループの総CO2排出量の13.6%を再エネで削減した計算になるという。

 2019年1月に館林工場など5事業所に計1.5MW分の太陽光発電設備を新たに導入したのも、こうした再エネによるCO2削減を一層進めるためだ。

「コロンブス工法」で地盤改良

 館林工場を訪れると、正門から入って、東側の最も奥まったエリアに、設置角10度に整然と並べられた太陽光パネルが目に入る。

 工場の敷地内にあるため、太陽光パネルを囲むフェンスはなく、パワーコンディショナー(PCS)と連系設備だけをフェンスで囲んでいる。発電した電力は、トランスで6.6kVに昇圧して館林工場の構内系統に送電している。

 EPC(設計・調達・施工)サービスは、三菱電機と三菱電機システムサービスが担当し、太陽光パネルは三菱電機製の単結晶シリコン型(300W/枚)、PCSは東芝三菱電機産業システム(TMEIC)製の定格出力1.25MWの機種を導入した。三菱電機は、計画段階から設計・施工までワンストップで提供し、運営・保守も担当している(図5)。

図5●太陽光パネルは三菱電機製、PCSは東芝三菱電機産業システム(TMEIC)製を採用
(出所:日経BP)
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 コンクリート製の置き基礎に鋼製の架台を設置し、太陽光パネル4242枚を取り付けた。工業用地内のメガソーラーというと、一般的には平坦な土地に容易に建設できることが多いが、館林工場内の建設では、大規模な地盤改良が必要になった(図6)。

図6●大規模な地盤改良工事を行った
(出所:DIC)
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 というのは、同工場の区画は、もともと湿地性の土地だったため、軟弱地盤で現在でもわずかながら地盤沈下が続いている。そこで、「コロンブス工法」という地盤置換工法を採用した。これは、建築物の基礎下の土を取り除いて、発泡スチロールなどを混ぜた地盤材を敷き詰め、地盤と建物荷重のバランスを調整する土木工法だ。

 館林工場のメガソーラーでは、パネル横置き3段のアレイ(パネルの設置単位)構成とし、4列を2つの基礎で支えている。この基礎の下を地盤置換工法で安定化させた。さらに置き基礎と置き基礎の間に、長尺のC形鋼を渡して台枠とし、その上に架台を載せた。

 こうすることで、仮に地盤に不等沈下が起きても、架台に不均質な応力がかかって、パネルが歪んだり、外れたりしないようにした(図7)。

図7●基礎の下に「コロンブス工法」で地盤を安定化した
(出所:日経BP)
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需要を超えるとPCS停止に

 今回の自家消費型太陽光では、三菱電機システムサービスの開発したエネルギー管理システム(EMS)を導入し、消費電力量に合わせてPCSの出力を制御して逆潮流を抑えることで設置容量を増やし、トータルでの自家消費量を最大化した。

 FITによる太陽光発電の売電単価が低下するに従い、今後の方向性として事業所での「自家消費型」が脚光を浴びているものの、そのシステム設計は簡単ではない。特に、電力系統に逆潮することが認められない場合、発電量が需要を超えてしまった場合の対応が課題になる。一般的には、連系への逆潮流を防止するための「逆電力継電器(RPR)」を連系設備に設置しておき、逆潮流を感知したら、PCSを停止して発電しないようにする。

 ただ、こうした方式だと、PCSの停止中は、発電機会の損失が大きくなる上、その都度、再稼働するなど、現場での運用に手間がかかる(図8)。

図8●逆潮流でRPRが働くとPCSが停止
(出所:三菱電機)
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 そのため、「逆潮なしの自家消費型太陽光」の場合、事業所の昼間最低需要を越えないように太陽光パネルの容量を少な目に設置することが多い。もちろん蓄電池を併設すれば、パネル容量を抑制せずに、安定的に運用できるものの、初期投資が膨らみ、事業性が大幅に悪化してしまう。

 FITで売電する屋根上太陽光に1MWを超える規模が珍しくないのに対し、自家消費型の屋根上太陽光では、メガクラスが少ないのはそのためだ。ただ、太陽光の設備容量を減らすと、需要を越える可能性は減るものの、需要を太陽光で賄う割合が減ってしまう。

「台数制御」案と「応答制御」案

 DIC館林工場でも、こうした点が設計上の課題になった。同工場の需要パターンは、平日は1.7MW程度の安定した負荷がある一方、土日は本格的な生産がないため、需要が減り、土曜は1.1MW、日曜は0.6MWまで負荷が小さくなる(図9)。

図9●DIC館林工場の負荷変動パターン
(出所:三菱電機)
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 一方、設置する太陽光発電設備は、未利用地を最大限に活用して、太陽光パネル出力1.27MW、PCS出力1.25MWを設置することで、再エネ発電量を少しでも多く確保する方針になっていた。

 こうした条件のなか、三菱電機はDICに対して、2つのシステムを提案した。

 1つは、導入するPCSを750kW機と500kW機の2台とし、台数制御することで、太陽光発電の機会損失を減らすシステム。平日、土曜、日曜の3パターンで運転方式を決め、カレンダーで制御する。具体的には、平日は2台稼働で1250kW運転、土曜は750kW機1台を運転(500kW機停止)、日曜は500kW機1台を運転(750kW機停止)となる。

 もう1つの案は、PCSに1250kW機を採用し、需要の電力値を監視しながら、それに追随するようにPCS出力を応答制御することで、太陽光発電の機械損失を最少化するシステム。PLC(プログラマブルコントローラ)を導入して、PCSに出力指令を出すことで、RPR動作による全停止を避けながら、出力を連続的に制御する仕組みだ。

 出力指令を受けたPCSは、内蔵されたMPPT(最大電力点追従制御)の機能を使って、電流と電圧値を瞬時に最適制御することで、出力を調整する。TMEIC製のPCSは、MPPTの制御速度が速いため、PLCからの指令に機敏に対応できるという。

 1つ目の「台数制御」と2つ目の「応答制御」を比べると、応答制御の方が、PCSを緻密に出力制御できるため、太陽光パネルが本来発電できる出力を最大限に活用できる。

 一方で、システム構築に必要な全体のコストは、「台数制御」より「応答制御」の方がやや高くなる。「台数制御」の場合、ON/OFFの汎用的なコントロール機器で構成できるので制御系への追加費用は数万円で済むのに対し、「応答制御」の場合、小型コンピュータともいえるPLCが必要なため、制御系への追加費用は約300万円になるという。

 こうした三菱電機からの提案に対し、DICは最終的に「応答制御」によるシステムを採用した。初期コストは上がるものの、再エネ由来の電力を最大限に増やすという全社的な目標に合致したからだ。今回導入した太陽光の自家消費型システムにより、館林工場で消費する年間使用電力量の約20%を賄える見込みという(図10)。

図10●TMEIC製PCS(1.25MW機)を応答制御する
(出所:日経BP)
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 同工場では、約15円/kWhで電気を購入している。今回の自家消費型メガソーラーの建設費を考えると、20%の売電量削減効果で、一般的な省エネ対策のめどである7~8年の投資回収を達成することは難しいという。とはいえ、再エネ利用の拡大という全社的な方針に加え、公的な補助金が活用できたこともあり、導入に踏み切ったという。

設定値を変えて運用改善も

 館林工場内の太陽光発電設備は、稼働して約半年が経過し、順調に運用している。ただ、週末に1回だけ、RPRが動作して、PCSが停止したことがあったという。

 週末には、需要レベルが小さいなかで、生産設備の停止や立ち上げを行うことがあり、その場合、需要変動が大きく、それに対応した出力制御の難易度が高くなる。PRPが作動した日には、出力制御が急な需要変動に応答しきれなかったと見られる。

 三菱電機によると、PLCによる出力制御の良さの1つには、蓄積した需要データを分析することで、運用手法を改善していくことが可能なことという。そうした意味では、稼働1年目は、データを蓄積することも含め実証的な側面もあるという。

 出力制御の運用にあたっては、系統への逆潮流を回避するために、余裕を見て常に一定の買電量を確保しておくが、その限界値や目標値をどこに設定しておくか。また、PCSへの出力指令を、どの程度の幅で行うかなど、あらかじめ設定しておく値がある。例えば、出力指令は、現在、PCS定格出力の1%(12.5kW)刻みで行っているという(図11)。

図11●昼間の出力抑制制御のイメージ
(出所:三菱電機)
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 24時間・365日の需要データ、太陽光の供給データが蓄積されていくと、買電量を最少化して、太陽光電力を最大活用できる運用を探求することで、投資効率を高めていくことも可能という。

 実は、今回、三菱電機がDIC館林工場の自家消費太陽光に導入した制御システムは、「SMART-LiCO」と名付けた蓄電池付き太陽光発電向けのEMSの機能を応用したものだ。同システムは、太陽光発電と定置型蓄電池、EV(電気自動車)の各PCSを一元的に管理して、CO2削減やBCP(事業継続計画)対策として最適運用できる(図12)。

図12●蓄電池付き太陽光発電向けEMS「SMART-LiCO」
(出所:三菱電機システムサービス)
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 このため館林工場にも、今後、蓄電池やEVを導入して、自家消費型メガソーラーと一元的に管理する仕組みに拡張していくことも容易だ。

●設備の概要
発電所名DIC館林工場太陽光発電設備
住所群馬県館林市大島町東部工業団地6023(DIC館林工場内)
発電事業者DIC
土地所有者DIC
出力太陽光パネル・出力1.2726MW、パワーコンディショナー(PCS)・定格出力は1.25MW
年間予想発電量130万8704kWh
EPC(設計・調達・施工)サービス三菱電機、三菱電機システムサービス
O&M(運用・保守)DIC、三菱電機システムサービス
太陽光パネル三菱電機製単結晶シリコン型(300W/枚・4242枚)
PCS東芝三菱電機産業システム(TMEIC)製(定格出力1.25MW・1台)
架台コンクリート製置き基礎、鋼製架台
完工日2019年2月