北海道初の「蓄電池併設型」、松前で国内最大風車が稼働

充放電制御で発電計画に沿った送電を実現

2019/07/16 06:22
金子憲治=日経BP総研 クリーンテックラボ、

 北海道の最南端に位置する松前町は、西は日本海、南は津軽海峡に面し、東西約50kmの海岸部に街並みや牧草地が広がる。対馬海流の影響を受け、北海道で最も気温が高く、温暖な気候でもあり、かつて松前藩の城下町として栄えた。

 地上30m以上の上空には、年平均風速5~6mの風が安定的に吹き、風力発電の適地としても知られ、町内には2000年ごろから複数の風車が稼働している。

札幌テレビ塔と同じ高さ148m

 今年4月、同町内に総出力40MWを超える国内有数の規模となるウィンドファーム「リエネ松前風力発電所」が稼働した。定格出力3.4MWの風車12基が海風を受けて悠然と回る。単機出力「3.4MW」は、4月時点で運転中の商用風車として日本最大となる。加えて、北海道初の蓄電池システムを併設した風力発電所でもある。

 東急不動産と日本風力開発(東京都港区)の出資による松前ウィンドファーム合同会社が事業主体となり、4月3日から商用運転を開始した。風力発電設備の定格出力は合計で40.8MW、併設した蓄電池システムの出力18MWに達する。年間発電量は一般家庭約3万世帯分に相当する1億590万kWhを見込んでいる。

 風力設備はスペインSiemens Gamesa Renewable Energy製で、タワーの高さは94m、ブレード(羽根)の長さは54mで回転直径は108m。ブレードが上方になった際の最高点は148mに達する。これは札幌市の大通公園にあるテレビ塔とほぼ同じ高さになる。

 蓄電池は日本ガイシ製ナトリウム硫黄(NAS)電池、蓄電池用パワーコンディショナー(PCS)は東芝三菱電機産業システム(TMEIC)製を採用した(図1)。

図1●4月に稼働した「リエネ松前風力発電所」
(出所:東急不動産)
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タワー内にはエレベーター装備

 今年5月30日、「リエネ松前風力発電所」の竣工式と視察ツアーが開催された。バスで発電施設を見学した後、松前公園内の神社で神事が執り行われた。

 風力発電設備は、国道228号に沿って山側に並んでおり、最も南に連系変電設備と蓄電池システム(電力貯蔵装置)、そこら北に向かい館浜地区から清部地区の約15kmにわたって、1号機から12号機までの風車が丘陵に点々と配置されている。

 見学したのは、このうち7号機の風車、そして連系変電設備と蓄電池システムだ。7号機は、町営牧場に隣接しており、牛が傍らで草を食べている。長さ54mのブレードの影が、牧草地に巨大な影を落とし、ゆっくりと回転している様子は、まさに壮観だ(図2)。

図2●隣接した牧場には、巨大風車の影が・・・
(出所:日経BP)
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 7号機では、建設中に地元の小学生が見学に訪れ、組立前に地上にあったナセル(発電機など収納しているタワー上の筐体)に思い思いに落書きをしたという。しかし、いまや94mの上空にあり、下から眺めても、「落書き」はまったく見えない(図3)。

図3●タワーの高さは94m、ブレードの回転直径は108mに達する
(出所:日経BP)
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 視察ツアーでは、風車のタワー下の入り口を開けて公開した。扉を開けると地上の機械室になっていて、PCSと昇圧器がある。上空のナセル内の発電機で生み出した電気は1000Vでタワー下に送電し、昇圧器で2万2000Vに昇圧して連系変電所に送られる(図4)。

図4●タワー下の扉を開けると機械室がある
(出所:日経BP)
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 このクラスの大型風車になると、タワー下からナセルまで、点検・保守の度に階段で上るのは体力的に限界になってくる。そこで、小型のエレベーターが装備されている。タワー地上の機械室には、エレベーターへの乗降口にもなっている(図5)。

図5●ナセルにはエレベーターを使って上がる
(出所:日経BP)
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 大型の風力発電設備は、工場から設置場所までの搬送が課題になる。今回の場合、ナセルとブレードはデンマークから、タワーは5分割して中国の上海から、船積みで輸送して、北海道の江差港で陸揚げした。組み立てには1200tクレーンを使ったという。

1ユニット2MWのNAS電池

 連系変電所と蓄電池システムは、同じ敷地内にある。加えて、SCADA(監視制御システム)室や部品庫、事務室などを備えた管理棟も敷地内に併設した。

 NAS電池は、1台・2MW のユニットを9台、設置した。1台の蓄電池ユニットごとに合計出力2MWのPCSで充放電制御する仕組みだ。通常の太陽光発電用PCSでは、太陽光パネルからの直流を交流に変換するだけだが、蓄電池用PCSの場合、充電と放電を制御するため、風車からの交流を直流に変換する機能と、蓄電池からの直流を交流に変換する機能を合わせ持つ双方向型のPCSになる(図6)(図7)。

図6●日本ガイシ製のNAS電池
(出所:日経BP)
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図7●TMEIC製の蓄電池用PCS
(出所:日経BP)
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 風車と蓄電池の連係は、風車からの交流と蓄電池からの交流を合わせた合成出力を北海道電力の系統に送電する「ACリンク」という方式になる。変動する風力発電の出力を蓄電池への入出力で補うことで、秒単位の短周期変動を平滑化しつつ、時間単位の長周期変動を平準化することで、北電の系統運用に対する負荷を軽減している。

 具体的には、事前に一定の変動率内に出力変動を抑えた発電計画(送電計画)を策定して北電に提出しておき、それに沿うように蓄電池を充放電制御する。管理棟内のSCADA室には、こうした蓄電池の運用をリアルタイムで監視するモニターがあり、視察ツアーでも公開された(図8)。

図8●SCADA室にある遠隔監視画面
(出所:日経BP)
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短周期と長周期変動を緩和

 こうした風力発電と蓄電池を連係制御しているのは、日本風力開発グループのイオスエンジニアリング&サービス(東京都千代田区)だ。同社では、青森県六ケ所村に稼働中の蓄電池併設型風力発電所で、すでに同様の運用制御を軌道に乗せた実績がある。「六ヶ所村二又風力発電所」で、51MWの風車にNAS電池(34MW)を併設したものだ。

 「六ヶ所村二又風力発電所」の蓄電池制御では、東北電力の系統連系技術要件に基づいている。今回稼働した「リエネ松前風力発電所」では、北海道電力が2016年4月に出した「風力発電設備の出力変動緩和対策に関する技術要件」に対応したものだ。東北電力と北海道電力の技術要件は、細かい点で相違点もあるものの、基本的な要請内容は近いもので、六ケ所サイトでの経験がかなりの部分で松前サイトでも生かせるという。

 北海道電力の技術要件は、短周期と長周期の両面での出力変動の緩和を求めている。短周期変動では、風車と蓄電池の合成出力の変化速度を「発電所定格出力の毎分1%以下」に緩和することを求めている。これは、道内に設置する新規のメガソーラーに対して求めている短周期変動の緩和と同じ技術要件となっている(図9)。

図9●短周期変動の緩和対策のイメージ
(出所:北海道電力)
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 また、長周期の出力変動の緩和対策では、以下4つの指定時間帯において、合成出力の変動方向を制御することを求めている。具体的には、「7~10時に(合成出力を)減少させない」「11時30分~13時30分に増減させない」「16~19時に減少させない」「20~23時に増加させない」というものだ。これらは北海道電力の発電機での出力調整が厳しい時間帯に需要変動を拡大させない方向への制御を要請しているという(図10)。

図10●長周期対策の緩和対策イメージ
(出所:北海道電力)
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 イオンスエンジニアリングでは、天気予報を元にしつつ、こうした技術要件に沿った形で、事前に発電計画を作成して北電に提出している。計画した出力ロードを達成するためには、リアルタイムでの充放電制御に加え、その時々に必要になりそうな蓄電池の充電量や空き容量を事前に予想しておき、それに備えた運転も必要になる。

 とはいえ、必要以上に充放電量が多くなると、変換ロスが大きくなって売電量が減ってしまう。一方で、必要な時に充電量や空き容量が十分にないと、技術要件を逸脱してしまい、電力連系から解列されて売電できない。技術要件を逸脱せずに、いかに売電量を最大化するかが、重要な制御ノウハウになってくる。

3つの「人」に込めた思い

 東急不動産は、総合不動産デベロッパーとしてさまざまな開発事業を進めており、再生可能エネルギー事業では、これまでに44件で844MWのプロジェクトを稼働済み、もしくは建設・開発中となっている。そのうち太陽光が37件・677MW、風力が6件・118MW、そしてバイオマス発電が1件・50MWとなっている。

 同社では、固定価格買取制度(FIT)スタート直後から、太陽光を中心に再エネの開発に取り組んできた。国内の大手企業の多くは、FITによる売電単価の低下に従い、徐々に新規開発から手を引くケースも多いが、東急不動産は、逆に2016年4月以降、さらに再エネ開発を強化する事業戦略を掲げたという。

 そして、「ReENE >>>」(リエネ)という再エネ事業のロゴを作成し、社内外にアピールしている。発電所名の「リエネ松前風力発電所」の「リエネ」もこの事業ブランド戦略に沿ったものだ。ReENEの右に配した「>>>」は3つの「人」を意味しているという(図11)。

図11●「ReENE >>>」(リエネ)のホームページ
(出所:東急不動産)
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 3つの「人」に込めたのは、「地域」「社会」「環境」を意味し、それぞれを良くしていきたい人たちを支援し、再エネ事業を通じて連携・協力していきたいというビジョンを表現したという。同社インフラ・インダストリー事業本部の西田恵介・統括部長は、「再エネ事業のブランド戦略を通じて、こうした思いを社外とともに、社内にもいっそう浸透させていきたい」と言う。

 同社は今年4月、事業活動で使うエネルギーを再エネ100%で賄うことを目指す国際イニシアチブ「RE100」に加盟した。ただ、同社の狙いは、単に再エネ比率を高めるだけでなく「再エネ開発とその運営を通じて、地域社会を活性化したい」という思いがある(図12)。

図12●東急不動産の出資した営農型メガソーラー
(出所:日経BP)
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自営線による送電も視野

 こうした戦略の背景には、国内の不動産大手のなかでも、「地域のリゾート開発ではトップ」の自負がある。「これまではゴルフ場やスキー場開発などで、地域活性化と事業拡大を両立させてきた。再エネ事業でも、うまく地域活性化につながる方向を探りたい、そうした社会ニーズの中に次の事業拡大の可能性もある」(西田統括部長)。

 同社では、すでにFIT制度の終了を睨み、FITに依存しない再エネ事業の在り方を本格的に検討しているという。その選択肢には、地域に独自に配電網を敷設して、住民に安価な再エネ電力を送ったり、地域で独立したマイクログリッドのような仕組みも視野に入っているという。

 そうした視点で見ると、「リエネ松前風力発電所」の蓄電池システムは、地域グリッドの形成に貴重な知見を蓄積できる。「FIT後を睨み、松前町の人たちに安い電気を提供しつつ、これまで培ったリゾート開発の手法などを生かして、地域や社会を活性化していく形で再エネ事業を発展させてきたい」と、西田統括部長は言う。

●発電所の概要
発電所名リエネ松前風力発電所
所在地北海道松前郡松前町館浜地区~清部地区
発電事業者松前ウィンドファーム合同会社(東急建設と日本風力開発の共同出資)
年間予想発電量1億590kWh
EPC(設計・調達・施工)サービス清水建設
O&M(運用・保守)イオスエンジニアリング&サービス
風力発電設備スペインSiemens Gamesa Renewable Energy製(3.4MW・12基)
蓄電池NAS電池(出力18MW、最大7.2時間出力、日本ガイシ製)
蓄電池用PCS東芝三菱電機産業システム(TMEIC)製
着工日2017年10月
発電開始2019年4月