5種類の防草シートを大熊町で検証、稼働3年目の違いは?

刈り払い機のエリアも隣接し、経済性を機械除草と比較

2019/07/30 05:00
金子憲治=日経BP総研 クリーンテックラボ

4月10日に避難指示が解除

 福島県大熊町は、東京電力福島第一原子力発電所の立地自治体で、東日本大震災後の事故により、町全域に避難指示が出されていた。事故から丸8年になる今年4月10日、町域のうち大川原と中屋敷地区の避難指示が解除され、ようやく町民の帰還が可能になった。

 5月1日には、被災以来、会津若松市に置いていた町役場の本庁舎機能を大川原地区に移し、災害公営住宅の入居を募集するなど、町の再生に向けて新たな一歩を踏み出した(図1)。

図1●5月1日に本庁舎機能を移した大熊町大川原地区にある町役場新建屋
(出所:日経BP)
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 大川原地区は、福島第一原発の西南約6kmに位置し、町内でも比較的、放射線量が低かった。このため優先的に除染し、「居住制限区域」に区分して日中の立ち入りを可能にし、「先行復興ゾーン」として、インフラ整備などを進めてきた(図2)。

図2●4月10に避難指示が解除され、住民の帰還が始まった
(出所:日経BP)
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5種類の防草シートを敷設

 同地区に「大熊町ふるさと再興メガソーラー発電所」が稼働したのは2015年12月。福島県などが出資する福島発電(福島市)を事業主体とし、11人の地権者から土地を借りて発電事業を開始した。出力は1.89MWで固定価格買取制度(FIT)により売電している(図3)。

図3●「大熊町ふるさと再興メガソーラー発電所」(完工時)の全景
(出所:福島発電
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 元々は田畑で、農業振興地域に属する第一種農地だった。本来であれば、農地転用は難しいが、復興特別措置法による特例として認められた。ただ、20年間の発電事業が終わった後は、農地に戻すことになっている。

 また、売電収益の一部を町の復興事業に活用するほか、約3.2haのサイトのうち、約1haのエリアに5種類の防草シートを敷き、防草効果や耐久性などを検証している。県内に太陽光発電所が急増していくことから、運営ノウハウの1つとして蓄積・公開していくのが狙いだ。

 「ふるさと再興メガソーラー」は、県道166号線と大川原川に挟まれた東西に細長いエリアにあり、段々畑だった地形を残し、東に向かって階段状に低くなっている。EPC(設計・調達・施工)サービスは、IHIプラント建設が担当し、中国トリナ・ソーラー製の太陽光パネルを約7700枚設置した。パワーコンディショナー(PCS)は東芝三菱電機産業システム(TMEIC)製、架台は鍋清製のアルミニウム製架台を採用した(図4)。

図4●県道166号線沿いに立地する。トリナ・ソーラー製の太陽光パネルと東芝三菱電機産業システム(TMEIC)製のPCSを採用した
(出所:日経BP)
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 常磐自動車道を挟んで向かい側には出力11.7MWのさらに規模の大きな別のメガソーラーが稼働しており、大川原地区の中でも、太陽光発電所の集積エリアになっている。ここから南に下ったクルマで5~6分のところに新庁舎や公営住宅を含めた復興拠点がある。

シートの材質と構造に違い

 導入した5種類の防草シートは、東側から(1)ポリエステル(PET)製の長繊維不織布に耐候性樹脂コーティングしたもの(ユニチカ製シートを太陽工業が施工)、(2)ポリプロピレン(PP)製の長繊維不織布(デュポン製シートをグリーンフィールドが施工)、(3)PET製の柔不織布とPET製の高密度不織布の組み合わせ(白崎コーポレーションが施工)、(4)PET製の高密度織物(大建工業製シート)、(5)PET製の長繊維不織布(東洋紡製シートを日本コーケンが施工)。

 施工業者が想定している耐用年数は、概ね10~15年となっている。

 現在、国内で製品化されている防草シートの主要な材質は、ポリエチレン(PE)、PP、PETなどが多く、PPは軽量で強度に優れ、PETは耐候性が高いなどの特徴がある。また、シート構造には、縦糸と横糸を編んだ「織布」と、網目のない「不織布」があり、それぞれに、繊維密度の高いタイプと、低いタイプがある。

 一般的に「織布」は、透水性や通気性があることや地面に馴染みやすい長所がある一方、織り目がずれやすく、草に対する貫通抵抗力が弱い欠点がある。これに対し、「高密度の不織布」は、草の突き抜けには強いものの、透水性や通気性が低く、裂けやすく、厚く柔軟性に劣るので地面との密着性が低い欠点がある。また、「低密度の不織布」は、突き抜けに弱いものの、柔軟性があって裂けにくく、透水性や通気性に優れる利点がある(図5)。

図5●防草シートの材質と構造による特徴
(出所:白崎コーポレーション・佐治健介氏)
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 シート構造の違いによる特性を補うため、表面をコーティングして透水性をなくしたり、異なる構造の不織布を2層構造にしたりした製品も開発されている。ただ、防草シートの機能では、こうした材質・構造の違いのほか、施工する地面の処理や、シートとシートのつなぎ目の処理など、施工手法とその品質も大きく影響する(関連記事)。

「テープはがれ」は見られず

 「メガソーラービジネス」では、「ふるさと再興メガソーラー」が稼働して約半年後の2016年春に現地を訪れて、「メガソーラー探訪」で取り上げた。今回、それから3年後の状況を取材するため、2019年6月に現地を訪れた。

(1)の「PET製長繊維不織布に耐候性樹脂コーティングしたタイプ」のエリアは、施工当初、ピン頭部に貼り付ける粘着テープが、はがれかかっているものがあったが、その後、施工し直し、今回の取材時には、はがれている箇所はなかった。シート表面に土が積もり、そこにコケや草が生えているのが目立つが、これは、このエリアがサイト内で最も低く、雨水が溜まりやすく、それに伴って土が残るためと考えられる(図6)(図7)。

図6●「PET製長繊維不織布に耐候性樹脂コーティングしたタイプ」・稼働して6カ月後
(出所:日経BP)
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図7●同タイプ・稼働して3年半後
(出所:日経BP)
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(2)の「PP製の長繊維不織布」のエリアは、シートの固定方法に特徴があり、円形の樹脂製押さえカバー(ワッシャー)の上から鋼製のL型アンカーピンを突き刺してシートを押さえている。アンカーピンが錆び始めているが、固定する機能に問題はないという。ワッシャー付近に溜まった土から草が生えている箇所があるが、シート下からに出てきたわけではないので、根が浅く引き抜くとすぐに除草できた(図8)(図9)。

図8●「PP製の長繊維不織布」・稼働して6カ月後
(出所:日経BP)
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図9●同タイプ・稼働して3年半後
(出所:日経BP)
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(3)の「PET製の柔不織布とPET製の高密度不織布を組み合わせたタイプ」のエリアは、(1)と同様に固定ピンに粘着テープを張ることでピン穴をカバーしている。3年前には、杭との隙間からヨモギの葉がはみ出している箇所があったが、今回は「草のはみ出し」はなく、パネル下に土が溜まってコケが生えている箇所が散見された(図10)(図11)。

図10●「PET製の柔不織布とPET製の高密度不織布を組み合わせたタイプ」・稼働して6カ月後
(出所:日経BP)
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図11●同タイプ・稼働して3年半後
(出所:日経BP)
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(4)の「PET製の高密度織物」は、コストがほかのシートの3分の1と最も安価で、敷設した5種類のなかでは唯一の「織物」になっている。そのためか、施工当初、刀状葉のとがった先端がシートの下から突き抜けている部分があったが、今回は、そうした「突き抜け」は見られず、(3)エリアと同様、パネル下に土が積もってコケと背の低い草が生えている箇所があった(図12)(図13)。

図12●「PET製の高密度織物」・稼働して6カ月後
(出所:日経BP)
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図13●同タイプ・稼働して3年半後
(出所:日経BP)
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(5)の「PET製の長繊維不織布」のエリアは、施工面でテープを効果的に使っているのが特徴だ。固定ピンの上だけでなく、シートとシートの重ね部にもテープを張っている。3年経っても、こうしたテープに「はがれ」はなく、シートとシートの境界は適切に保たれている(図14、図15)。

図14●「PET製の長繊維不織布」・稼働して6カ月後
(出所:日経BP)
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図15●同タイプ・稼働して3年半後
(出所:日経BP)
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シート上に土がたまりコケが…

 O&M(運営・保守)を担っている福島発電・浜通り事務所の担当者によると、「稼働以来、防草シートを施工したエリアは1回も除草していないが、土が溜まった場所に小さな草が生える程度で、大きな草は生えていない。これまでのところシート自体に損傷はなく、10年程度は十分に持ちそうだ」と見ている。

 シート上に土が溜まりやすい場所は、シートの材質や構造とは無関係で、サイト内での位置に起因しているという。相対的に低く、雨水が溜まりやすい部分に土が溜まってコケが生え、それによってさらに土が溜まりやすくなるようだ。全体的にパネル下に土の堆積が目立つのは、日陰でコケが生えやすいからと考えられる(図16)。

図16●雨が降ると東側の低地エリアに水が溜まりやすい
(出所:日経BP)
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 見学した際に、シートを固定するピンの間際から数十cm程度のヨモギが生えていたケースもあったが、引っ張ると簡単に抜けた。これは、根がシート下の地面まで届いていないためで、シートの下から芽を出したのではなく、シートの上に落ちた種が、わずかに土が積もったピン周辺で発芽して伸びたからだと推察される(図17)。

図17●雑草はシートの上だけに根を張っているため、すぐに引き抜ける
(出所:日経BP)
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 3年前のシート施工当初、杭基礎と境やシート接合部から草が出ていたり、織布タイプに草の突き抜けが見られたが、今回はほとんどなかった。これは、シート施工者が定期的に点検して補修するなど、保守体制がしっかりしていることを物語る。

 福島発電によると、シート施工業者とは、施工後の定期的な保守・点検について決めていないが、比較可能な複数社による検証サイトのため、自主的に点検・保守に来ているという。防草シートの機能を維持するには、施工後の保守が重要だけに、「ふるさと再興メガソーラー」の防草機能が順調に保たれているのは、こうした適切な保守の効果も大きいと思われる。

残り2.2haは刈り払い機で除草

 「ふるさと再興メガソーラー」は、防草シートを敷設した1ha分のほか、残りの2.2haのエリアは、造成した状態のままにし、定期的に刈り払い機で除草している。従って、防草シートと機械による除草作業の経済性などを比較することもできる。

 福島発電・浜通り事務所では、シートのないエリアについては、年3回、5月と7月、9月に刈り払い機で除草している。2回は直営の作業員、1回は大熊町を通じて地域の作業者に委託しているという。2.2ha分の除草には、作業員5人で4日間が標準になるという(図18)。

図18●2.2ha分は刈り払い機で除草している。5月の除草から約1カ月後の状態
(出所:日経BP)
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 刈り払い機による除草では、金属製の回転刃を使うと、ケーブルなど発電設備を傷つけてしまうリスクがあるため、「ナイロンカッター」を使っている。ナイロン製のコードが高速回転することで、雑草を引きちぎるように刈り取るため、幹の太い草は刈りにくくなるものの、設備の損傷を防げる。

 除草作業の人件費では、放射線量の高い土壌などを運び出す除染作業を参考にした。福島県内では除染作業に1人1日、1万5000円を支払うのが一般的という。そこで、除草作業の人件費を1人1日・1万3000円とし、除草1回の人工(にんく)である20(5人×4日)にかけると26万円になる。これが年間3回で10年とすると約780万円になる。

 福島発電によると、除草作業に要する10年間のトータル費用(約780万円)は、防草シートの施工費用と、ほぼ同程度になるという。防草シートは手間がかからないという利点があるが、地域に雇用を提供するという点では、機械除草の意義も大きいと言う。

 ちなみに、同社では、発電所に面したフェンスと道路の間は、ツル性植物への対策から除草剤を使っているという。発電所の敷地ではないが、美観上、除草対策を行っているという。「ラウンドアップマックスロード」という除草剤を、2カ月に1回程度、噴霧しているという。パネル下の敷地内に除草剤を使わないのは、20年後に農地に戻すことに配慮しているほか、コスト面でも広い面積への利用は難しいという。

帰還希望者は12.5%

 大熊町では4月10日に、2地区で避難指示が解除され、5月から本庁舎機能が、町内に戻った。原発の立地自治体で、避難指示が解除されたのは初めてだ。

 とはいえ、復興への道のりは容易ではない。同町の避難人口は、約1万人だが、町のアンケート調査では、町への帰還を希望しているのは、そのうちの12.5%に留まり、その多くが中高齢者層だ。町では5年後の町域での居住人口2600人を目指している。

 若い世代の帰還を促すには、学校や病院など、基礎的な生活インフラの整備のほか、新たな雇用機会の創出が不可欠になる。復興計画では、植物工場などのプロジェクトが掲げられているが、太陽光発電事業は、こうした復興プロジェクトの原資になるとともに、将来的にこうした施設に安価でクリーンな電力を供給できる可能性もある。

●設備の概要
発電所名大熊町ふるさと再興メガソーラー発電所
住所福島県大熊町大字大川原字西平地内
発電事業者福島発電(福島市)
土地所有者民有地(地権者11人)
設置面積約3.2ha
出力1.89MW
年間予想発電量約2200MWh
EPC(設計・調達・施工)サービスIHIプラント建設
O&M(運用・保守)福島発電
太陽光パネル中国トリナ・ソーラー製(7704枚)
パワーコンディショナー(PCS)東芝三菱電機産業システム(TMEIC)製
架台鍋清製
防草シート日本コーケン(東洋紡製)、大建工業製、白崎コーポレーション、グリーンフィールド(デュポン製)、太陽工業(ユニチカ製)など
着工日2015年7月21日
運転開始日2015年12月18日
■変更履歴
公開当初、大建工業製防草シートの耐用年数を5年としていましたが、10年以上です。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。 [2019/08/08]