「ヌートリアがかじって短絡」、「池の修繕中の発電は可能?」、加東市の水上太陽光

発電量は上ぶれ、台風の襲来にも安全性は良好、接続箱は陸上に

2019/11/19 06:00
加藤 伸一=日経BP総研 クリーンテックラボ

 兵庫県中部にある加東市の稲作地域に、隣り合うように並んでいる3つのため池に、いずれも太陽光パネルが浮かんでいる場所がある(図1)。3つの池は北から南に向けて小さい順に並んでおり、それぞれ「新池」、「更池」、「大池」と呼ばれている。いずれも、加東市屋度地区の水田などに水を供給する農業用ため池である。

図1●三つの池に太陽光パネルが浮かぶ
上から下に「新池」、「更池」、「大池」(出所:コムシスクリエイト)
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 これらの太陽光発電所は、通信インフラなどを手掛ける日本コムシスグループが開発、運営している。

 すべてのパネルを水上に設置した「加東市屋度大池太陽光発電所(サン・レイクス屋度 加東)」(出力約2MW)と、地上と水上にまたがってパネルを設置した「加東市屋度太陽光発電所(サン・ファクトリー カワタ 加東)」(約1.3MW)の水上部分(出力71.5kW)となっている。

 日本コムシスグループでは、日本コムシスがEPC(設計・調達・施工)とO&M(運用・保守)サービスを手掛けている。また、コムシスクリエイト(東京都品川区)が発電事業者として、19カ所・合計出力約61.2MWの太陽光発電所を運営している。

 日本コムシスがEPCサービスを手掛けた水上メガソーラーとしては、兵庫県稲美町にある「広谷池」に設置した「広谷池水上太陽光発電所」(太陽光パネル出力6.8MW、連系出力5MW)もある。この水上メガソーラーは、西日本で最大規模とされる(関連ニュース)。発電事業者は、二川工業製作所(兵庫県加古川市)である。

 コムシスクリエイトが運営している太陽光発電所は、加東市のメガソーラーのほか、茨城県常陸太田市の約2.8MW(メガソーラー探訪の関連コラム)、栃木県那須塩原市の同5.7MW(同コラム)、群馬県昭和村の合計約5.6MW(同コラム)、岩手県金ケ崎町の約20MW(同コラム)などがある。

 いずれも、加東市の案件と同様、EPCやO&Mは日本コムシス、発電事業者はコムシスクリエイトとなる。太陽光パネルは長野県安曇野市の1.8MWでCIS化合物型を採用した以外は、いずれも結晶シリコン型を採用し、メーカーはさまざまだが、パワーコンディショナー(PCS)は、宮城県利府町の約12.7MWと北海道江別市の約2MWを除く17カ所は、東芝三菱電機産業システム(TMEIC)製で共通している。

 加東市の3つの池は、いずれも地元の屋度自治会が管理している。屋度自治会から水上を借りて、太陽光発電設備を設置した。

 最初に設置したのは、一番小さな「新池」に浮かんでいる286枚、太陽光パネル出力71.5kWだった(図2)。これは地上設置型の出力約1.3MWの「加東市屋度太陽光発電所」の増設分だった。「新池」は、地上設置型が並ぶ土地の隣にある。この発電所の買取単価は36円/kWh(税抜き)で、2015年3月に稼働した。

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図2●「新池」の71.5kWは、隣の地上設置型の増設分
(出所:上はコムシスクリエイト、下は日経BP)
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 ここが日本コムシスグループによる水上を活用した太陽光の発電事業、EPCサービス参画への糸口となった(開発経緯を中心とした2016年11月掲載のメガソーラー探訪)。

 「新池」を借りるため、屋度自治会と交渉をはじめたところ、自治会側から、近くにある他の2つの池にも、水上に太陽光発電設備を設置できないか、打診された。

 そこで、打診された「大池」と「更池」の水上も活用し、パネル出力約2MW、連系出力1.5MWの「加東市屋度大池太陽光発電所」を開発した(図3)。大池には5768枚・出力1.442MW、更池には2268枚・出力567kWの太陽光パネルを浮かべた。

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図3●上の「更池」には2268枚、下の「大池」には5768枚の太陽光パネルが浮かぶ
(出所:上はコムシスクリエイト、そのほかは日経BP)

 投資額は約6億円で、買取単価は32円/kWh(税抜き)で関西電力に売電している。発電電力に対して、限度一杯となる85%の力率制御が課せられている。

 太陽光パネルを水上に浮かべるフロート架台は、タキロンエンジニアリング(大阪市北区)製を採用した(図4)。同社製を選んだのは、FIT以前に日本コムシスがEPCサービスを担当した水処理施設に設置した太陽光で、タキロンエンジニアリングの関連部材を採用し、その品質を高く評価していたことがきっかけだった。同社の製品化したフロート架台を使った場合の事業性や長期信頼性などを検討し、採用を決めた。

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図4●アルミ架台を樹脂の部材で浮かべたような構造のフロートを採用
(出所:日経BP)
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 コムシスクリエイトの加東市の3つの池だけでなく、西日本最大規模である広谷池の水上メガソーラーのEPCサービスでも、タキロンエンジニアリング製を提案して受託した。

 タキロンエンジニアリングのフロート架台は、一般的な地上設置タイプに似たアルミ架台のような部材を樹脂の部材を使って水上に浮かべる構造になっている(関連コラム:上下水道への「ふた」が起点に、安定・信頼性が武器のフロート)。仏シエル・テール・インターナショナル製のフロート架台のような、ほぼ樹脂製部材のみで構成する製品とは、大きく異なる。

 レールのように細長いアルミの支柱を縦横に組み、「浮き」のような役割を担う樹脂製の中空部材を取り付ける構造になっている。地上設置型の架台と同様、設置角に傾けた部材に太陽光パネルを固定する。

 9枚ごとなどを1つの単位として太陽光パネルを支えるユニットを組み、このユニット単位で池に浮かべる。ユニット単位で強固な構造となり、これを連結していくことで、池の上に浮かんだフロート全体が、さらに安定する。風や水の流れを受けても、大きく傾かない構造になっている。

 ユニットを連結した最後列には、白い板が覆っている。強風による吹き上げを防ぐために設置した防風板である(図5)。

図5●防風板は、台風の強風などによる吹き上げ対策
(出所:日経BP)
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 安定した構造に加えて、防風板の効果もあり、2018年秋に強風を伴う勢力の強い台風が上陸、通過した時も損壊はなかった。フロート架台では、ジョイント部分が構造上の弱点と指摘されることが多いが、びくともしていなかったという。

ヌートリアが電線を齧って短絡

 商用運転を開始して以降、「大池」と「更池」の水上を活用したメガソーラーは、順調に推移している。年間予想発電量の約210万kWhに対して、平均では230万kWh以上で推移しており、240万kWh以上まで上振れする年もあった。

 池の水が太陽光パネルを冷やし、夏の高温期でも発電効率が低下しにくくなる「冷却効果」については、正確に比較検証できるデータはないものの、地上設置型に比べて発電量が大きめに出るように感じるという。

 太陽光パネルの割れも、これまでに1枚にとどまるなど、トラブルの少ない発電所となっている。

 ただし、水上に特有のトラブルもあった。池の周辺に住みついた「ヌートリア」が、池を泳いでフロートにはい上がり、電線をかじって損傷させ、直流回路が地絡する被害が生じた(図6)。

図6●電線が齧られて地絡した
(出所:コムシスクリエイト)
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 ヌートリアは、外来の小型哺乳類で、北米に多く生息している。カピバラに似た、可愛らしい容姿をしているが、日本固有の生態系を脅かしたり、農作物を食べたりするだけでなく、巣穴を広げることで河川の堤防や池の堤体を決壊させた例まで報告されており、駆除計画を策定した地方自治体も多い。

 加東市の水上メガソーラーでは、フロート上で電線がヌートリアに齧られて損傷し、地絡する被害が相次いだ。

 そこで、コムシスクリエイトが加東市に相談すると、知見を授けた上、捕獲用のワナを貸し出してくれた(図7)。このワナを使い、ヌートリアを捕獲した。捕獲したヌートリアは、加東市が引き取った。

図7●ワナは加東市が貸した
(出所:コムシスクリエイト)
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 この後、小動物が電線を噛んで地絡するトラブルは数年間、起きなかった。しかし、2019年に入り、また電線の地絡が生じた。点検すると、久しく見ていなかった噛み跡が電線から見つかった。

 またヌートリアが出没するようになった可能性があるという。

 ヌートリアがかじった電線を含む加東市の水上メガソーラーの直流回路は、他の水上太陽光発電所とは大きく異なる部分がある。

 接続箱が、陸上に設置されていることである(図8)。一般的な水上太陽光発電所では、接続箱もフロートの上に乗せている。この違いは、加東市の水上メガソーラーの電気保安管理業務を担当している、関西電気保安協会の方針による。

図8●地上に並んだ接続箱
(出所:日経BP)
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 水上メガソーラーの電気保安管理業務は、O&Mを担う日本コムシスが、関西電気保安協会に委託している。

 同保安協会から、水上に設置した設備についての保安管理業務の受託を断られたため、接続箱の設置場所を、フロート上から陸上に変えた。太陽光パネル14枚を直列で接続した送電線を合計574回路分、陸上まで延ばしてから接続箱に入力している。

池の修繕で着床、発電を継続できるか?

 池の管理者にとっては、水上を太陽光発電事業者に貸すことで、新たな収入が生まれる。従来、農業用ため池は、管理や修繕費用の確保が難しかった。屋度自治会では、水上の賃料収入が入ったことで、先送りしてきた地元の社(やしろ)を新設できたと感謝されたという。

 「新池」でも、大規模な修繕が実施されることになった。堤体を修繕する工事が1年8カ月~2年間にわたって実施される。

 この工事の間、池の水は抜かれる。さらに、工事期間中は、太陽光パネルの位置を、現在浮かんでいる場所よりも、上流側に移すことを求められている。

 コムシスクリエイトでは、この工事への対応を検討している。同社が望むのは、移した先の上流側の場所で、池から水を抜き切った後にも、発電は続けていくことである。

 発電を継続できるかどうかは、移した先の上流で、池の底がどんな状態になっているかによる。平坦な場所が広いほど好ましく、凹凸があっても、吸収できれば問題ない。

 池からすべての水が抜かれた後は、フロートが池の底に直接、置かれて「着床」した状態となる。フロートや太陽光パネル、電線が、適正な範囲の状態を維持したまま着床できるのであれば、そのまま発電を続けられる。

 考慮する点は、フロートが大きく傾いて転覆しないか、太陽光パネルや電線に、過剰な荷重がかかることがないか、などとなる。

 池の底の状態によっては、太陽光パネル9枚ごとのユニット単位で切り離し、着床させれば良い。この場合には、電線の引き回しを工夫する必要もある。

 ユニット単位での着床にも限りがある場合には、近くで土地を探し、ユニットを分解した上で、陸上に引き上げる必要がある。こうなると、発電の継続は難しい。

 発電事業者としては、2年間以上にわたることが予想される売電の停止は、極力、避けたいところだ。しかも、フロートと太陽光発電設備を陸上に引き上げる際と、工事が終わって水上に戻す際に、それぞれコストがかかる。

 「新池」で、水がすべて抜かれるのは、実は初めてではない。今回、計画が決まった大規模な修繕のための調査が2016年以降に実施され、この時にも、池からすべて水が抜かれた。

 この時には、フロートが浮かんでいる場所から動かす必要はなく、そのままの位置で着床させた(図9)。池の底の凹凸は少なかった。ただし、念のため、ユニット単位に切り離した上、発電は止めた。

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図9●「新池」の水が抜かれたときの様子
(出所:コムシスクリエイト)

 発電を止めた期間は約2カ月間で、しかも、冬の発電量が比較的少ない時期だったため、影響は限定的だった。

 その調査が終わった後、再び水が入ってきた時の浮かび上がり方など、水量の変化にともなうフロートの状態の変化にも、大きな問題はなく、改めてタキロンエンジニアリング製のフロートの利点を確認できる機会になったとしている。

 この時の経験から、フロートが浮かんでいる場所の付近であれば、そのまま着床させ、発電を続けられることがわかった。ただし、今回、移すことが求められている上流の場所については、詳細な状態を把握できていない段階という。

●発電所の概要
発電所名加東市屋度大池太陽光発電所
(サン・レイクス屋度 加東)
所在地兵庫県加東市屋度字柳入、大縄場(大池、更池)
敷地面積約5万6600m2
(大池:1万8400m2、更池:7300m2
発電設備の設置面積約2万5700m2
太陽光パネル出力2.009MW
(大池:1.442MW、更池:0.567MW)
パワーコンディショナー(PCS)出力1.5MW
力率制御85%
年間予想発電量約210万kWh
(一般家庭約600世帯分の消費電力に相当)
投資額約6.0億円
発電事業者コムシスクリエイト(東京都品川区)
EPC(設計・調達・施工)サービス日本コムシス
O&M(運用・保守)日本コムシス
太陽光パネル現代重工業製
(多結晶シリコン型 、出力250W/枚、8036枚)
PCS東芝三菱電機産業システム(TMEIC)製
(定格容量500kW・直流入力600V対応、3台)
フロートタキロンエンジニアリング(大阪市北区)製
太陽光パネルの設置角20度
売電開始2015年12月16日
固定価格買取制度(FIT)上の売電価格32円/kWh(税抜き)
売電先関西電力