「水鳥のフン」「釣り人」、兵庫のため池に見る水上太陽光の運用上の課題

フンは洗い、釣り人は警備システムによる対策を検討

2020/01/21 06:00
加藤 伸一=日経BP 総合研究所 クリーンテックラボ

 兵庫県稲美町は、東は明石、西は加古川に近い平野部にある。農業用のため池が多く点在し、町内を移動すると、大小の水面が次々と目に入る。

 その一つが、稲美町野寺にある「穴沢池」で、その水上には、太陽光パネル出力が約960kWの太陽光発電設備が浮かんでいる(図1)。

図1●穴沢池水上太陽光発電所
(出所:太陽ホールディングス)
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 「穴沢池」の水上太陽光発電所は、開発費約2億6200万円で、年間発電量約120.3万kWhを見込んでいる。2019年1月に稼働した。固定価格買取制度(FIT)に基づく売電単価は18円/kWh(税抜き、以下同じ)で、関西電力に売電している。

 EPC(設計・調達・施工)サービスは、積水ハウスが担当した。太陽光パネルはアンフィニ(大阪市浪速区)製、パワーコンディショナー(PCS)は東芝三菱電機産業システム(TMEIC)製を採用した。

 水上に太陽光パネルや接続箱を浮かべる部材であるフロートは、環境資源開発コンサルタント(大阪市北区)製を採用した。

 「穴沢池水上太陽光発電所」を開発・運営しているのは、太陽グリーンエナジー(埼玉県嵐山町)である(前々回のメガソーラー探訪:太陽HDが水上型で「100%太陽光」達成、アップル向けから国内全事業に拡大)。

 同社は、プリント基板用の絶縁材であるソルダーレジストの大手、太陽インキ製造を中心とする、太陽ホールディングス(太陽HD)グループの再生可能エネルギー発電事業会社である。

 太陽インキ製造は、2018年に米アップル向けの生産を「100%再生可能エネルギー」で賄うことを公約している。さらに、2019年11月には、アップル向け製品製造に限らず、太陽HDグループの国内事業全体についても、消費電力に対して、「太陽光発電で消費電力の100%相当を賄える」規模を実現したと発表している。

 こうした取り組みを支えるのが、「穴沢池」の太陽光発電所をはじめとする、太陽グリーンエナジーが開発・運営している太陽光発電所である。

 すべて水上の太陽光発電所である点がユニークで、これまでに10カ所が稼働し、その年間予想発電量は、合計で約16.1GWhに拡大した。この発電量は、国内におけるグループ全体の消費電力に対して、110%相当としている。

 水上型の太陽光発電所には、日々の運営の中で、野立て型にはない利点がある一方、野立て型よりも注意を払わなければならない点もある。

 利点のうち、最も大きいのは、雑草対策となっている。野立て型では、草刈りや除草剤の定期的な散布、施工時に砕石や防草シートなど雑草の育成を抑制する構造を組み込むなど、何らかの対策が必要なことがほとんどである。草刈り作業や除草剤の散布では、定期的に一定のコストが生じる。

 水上型の太陽光発電所の場合、雑草対策がほぼ要らない。池の堤体など周囲の一部のみに限られる。

 この効果は大きく、太陽グリーンエナジーの荒神文彦(こうじん・ふみひこ)社長によると、FITに基づく買取期間の20年間だけを見ても、同じ規模の高圧連系の野立て型と水上型を比べると、「水上型の方が池ごとに億円単位で雑草対策のコストを抑えられるのではないか」としている。

 一方で、水上型で悩ましいことの一つは、水鳥のフンである。

 野立て型でも、鳥のフンが太陽光パネルの上に落ち、白っぽい跡がパネルの上に固着することはよくある。しかし、フンが覆う面積はわずかで、さらに、雨が降れば雨水によって流れ落ちることが多く、発電量を大きく下げることは、ほとんどない。

 水上型の場合、フンの影響が大きくなることがある。「穴沢池」の水上太陽光発電所は、その代表例のような状況になることがある(図2)。

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図2●北西端から北側と西側の列に集中
(出所:日経BP)

 ため池の場合、普段から水鳥が多く生息している池や、冬季になると、渡り鳥が飛来する場となる池もある。水上に浮かぶフロートや太陽光パネルは、天敵となる動物が近づきにくい。水鳥や渡り鳥にとって、より安全にとまって休息できる場所となる。太陽光発電設備の設置前に比べて、池に飛来する鳥の数が増える傾向にある例もある。

 水鳥や渡り鳥は、野山の鳥に比べて、大型の種が多い。そのためのフンも広い範囲に広がりやすく、場合によっては、白いペンキを缶ごとぶちまけたような状態になる。野立て型太陽光よりも水上型で、「フン公害」がひどくなるのはこうした背景がある。

 1匹のフンでさえ、パネルの半分から1枚全体を覆ってしまう。まして、群れをなしていると、あたり一帯のパネルが真っ白になる。こうなると、発電量に影響する。

 「穴沢池」の水上太陽光発電所の現地を撮影した2019年12月上旬には、北西端を中心に、北側と西側の1~2列に、大きな水鳥が群れをなしてとまっていた。

 水鳥がとまっているあたりの太陽光パネルは、軒並み真っ白で、まるで豪雪地域に雪が降り積もったような状態になっていた。これらの太陽光パネルを含むストリング(パネルを接続する単位)では、発電量が低下していた可能性がある。

 太陽グリーンエナジーでは、フンの固着があまりに酷い時期には、状況を見ながら、パネルの表面を洗浄している。現地の企業に委託している。

 「穴沢池」の水上太陽光のほか、穴沢池に近い同じ稲美町にある「魚住池・草谷池」(太陽光パネル出力:約1.57MW)、岐阜県養老町にある「平池」(約1.080MW)、奈良県大和郡山市にある「小林池」(約544kW)という3カ所の水上太陽光で、同じように水鳥や渡り鳥のフンが目立つという(図3)。

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図3●穴沢池に近い「草谷池・魚住池」(上)、岐阜県の「平池」(下)でも水鳥のフンが多い
(出所:太陽ホールディングス)
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 水上太陽光発電所の運営で、もう一つ悩ましいのが、「釣り人の侵入」である。

 水鳥や渡り鳥にとって、天敵となる動物から逃れやすい場所になっているのと同じように、魚にとっても、フロートや太陽光パネルは、下に潜ることで鳥に捕獲されにくい安全な場所となっている。

 このため、池に太陽光パネルを浮かべる前に比べて、池の中を泳いでいる魚の寸法が総じて大きくなっているという見方もある。捕獲されにくくなったために、魚がより大きく育つようになった可能性がある。

 そうなると、太公望にとっても、より魅力的な釣り場となる。

 水上太陽光では、堤体全体をフェンスで囲んでいる場合は少ない。フェンスを設けていても、地上のPCSにつながるケーブルが上陸しているエリアに限定している場合が多い。

 経済産業省が定めているのは、フェンスを設けることではなく、「周囲から第3者が自由に出入りできないように措置すること」なので、池の水によって堤体から太陽光パネルが隔離されている状況は、この条件を満たしている。必ずしもフェンスを敷設しなくても良い。

 釣り人は、堤体全体がフェンスに囲われている場合でも、立ち入ることがある。電線を地上まで敷設し、かつメンテナンス時の通路の役割を担う場所のフロートの上にまで侵入し、フロート上で魚を釣っている痕跡が見つかる場合もあるという。

 こうした「釣り人の侵入」は、各地の水上太陽光発電所で生じているようだ。

 釣り人の侵入によって、太陽光発電事業者が最も恐れるのが、釣り人がフロート上で滑るなどして転倒し、池の水中に落ちる事故である。また、高圧の発電設備であるため、万が一、釣り人が素手で触れた場合、感電して死に至る事故が生じる恐れもある。

 もし、フロートの下に潜ってしまったら、自力ではい上がることは、難しい場合が多いだろうという。

 釣り人への注意喚起として、各地の水上太陽光発電事業者は、さまざまな工夫を施している。代表的なのは、池に注意を促す看板を設置することである(図4)。しかし、現実的には抑制効果は限られる。

図4●他の発電事業者による例
(出所:日経BP)
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 太陽グリーンエナジーでは、警備会社と相談して、通報システムの導入を検討している。

 遠隔監視カメラをベースとするシステムで、釣り人の侵入を検知すると、警備会社が確認し、状況に応じた「追い払い策」を講じるというものである。

 それでも一定以上、繰り返される場合には、警察に通報することを構想している。

●発電所の概要
発電所名穴沢池水上太陽光発電所
所在地兵庫県加古郡稲美町野寺字穴澤「穴沢池」
発電事業者太陽グリーンエナジー(埼玉県嵐山町)
池の面積約4万7500m2
太陽光パネルを浮かべた面積約7950m2
太陽光パネル出力約960kW
年間予想発電量約120.3万kWh
EPC(設計・調達・施工)積水ハウス
太陽光パネルアンフィニ製
(単結晶シリコン型)
パワーコンディショナー(PCS)東芝三菱電機産業システム(TMEIC)製
フロート環境資源開発コンサルタント製
稼働開始時期2019年1月31日
固定価格買取制度(FIT)上の売電単価(税抜き)18円/kWh
売電先関西電力