日本最大・260MWのメガソーラー、美作市に稼働

広大な残置森林で自然環境に配慮、稼働後に希少鳥類を確認

2020/07/21 05:00
金子 憲治=日経BP総合研究所 クリーンテックラボ

瀬戸内市のメガソーラーを抜く

 昨年12月、国内最大の設備規模となるメガソーラー(大規模太陽光発電所)が岡山県美作市に完成し、商業運転を開始した。出力約260MWに達する「パシフィコ・エナジー作東メガソーラー発電所」だ。

 事業区域は、東京ドーム87個分に相当する約410ha。この広大な敷地のうち、約4割を残置森林としてもとの自然環境をそのまま維持し、残りの約6割の約236haを3つのエリアに分けて造成し、合計で約75万枚の太陽光パネルを敷き詰めた(図1)。

図1●「パシフィコ・エナジー作東メガソーラー発電所」。手前と奥を含めた3サイトで構成される
図1●「パシフィコ・エナジー作東メガソーラー発電所」。手前と奥を含めた3サイトで構成される
(出所:パシフィコ・エナジー)
クリックすると拡大した画像が開きます

 3つのエリアから総延長17kmの自営送電線を地中に敷設して、1カ所の連系変電所に送電し、中国電力の送電線に太陽光で発電した電気を送っている(図2)。

図2●総延長17kmの地下ケーブルを経て変電所から中国電力の系統に接続
図2●総延長17kmの地下ケーブルを経て変電所から中国電力の系統に接続
(出所:日経BP)
クリックすると拡大した画像が開きます

 これまで、国内で稼働しているメガソーラー設備で最大規模となるのは、同じく岡山県の瀬戸内市にある「瀬戸内Kirei太陽光発電所」の235MWだった。「パシフィコ・エナジー作東メガソーラー発電所」は、これを20MW以上超えることになった。

 ただ、詳しくいうと、これらの出力規模は、敷地内に設置した太陽光パネルの合計になる。電力会社に売電するために商用系統に送電できる最大容量である「連系出力ベース」で比べると、「瀬戸内Kirei太陽光発電所」の186MWに対し、「作東メガソーラー発電所」は150MWなので、国内で2番目となる。

 現在、国内で計画中のメガソーラーを見渡しても、太陽光パネルの合計出力が200MWを超えそうなプロジェクトは数案件しかなく、今後、それらが完成しても、「作東メガソーラー発電所」が国内トップスリーに入る規模になることはほぼ間違いない。

1500Vで効率向上とコスト削減

 同発電所の事業主体はSPC(特定目的会社)のパシフィコ・エナジー作東合同会社。出資構成やファイナンススキームに関しては、非公開だが、プロジェクトの開発から、建設、稼働後のアセットマネジメント(AM)は、パシフィコ・エナジー(東京都港区)が担っている。同社は、米バージニア・ソーラー・グループ傘下で、米大手エネルギー・不動産関連企業のJamiesonグループに属す。

 EPC(設計・調達・施工)サービスは日揮が務め、完成後のO&M(運営・保守)サービスは旭電業(岡山市)が担当している。太陽光パネルは中国トリナ・ソーラー製の多結晶シリコン型(340W/枚と345W/枚)、パワーコンディショナー(PCS)は東芝三菱電機産業システム(TMEIC)製の2.5MW機を導入した。

 トリナ・ソーラー製パネルは、耐久性に優れる両面ガラスタイプを採用した。このパネルとTMEIC製のPCSは直流1500Vに対応しており、直流回路は1500Vで設計した。従来の1000Vに比べ、高電圧化により発電設備のシステム効率が上がるほか、ストリング(直列回路)のパネル枚数が増えて接続箱の数が減り、施工やO&Mコストの低減も見込める(図3)(図4)。

図3●太陽光パネルは、トリナ・ソーラー製多結晶シリコン・両面ガラスタイプを採用
図3●太陽光パネルは、トリナ・ソーラー製多結晶シリコン・両面ガラスタイプを採用
(出所:日経BP)
クリックすると拡大した画像が開きます
図4●PCSは、東芝三菱電機産業システム(TMEIC)製2.5MW機を採用した
図4●PCSは、東芝三菱電機産業システム(TMEIC)製2.5MW機を採用した
(出所:日経BP)
クリックすると拡大した画像が開きます

 年間で約2億9000万kWhの発電量を見込んでおり、約20万tの温室効果ガスの排出抑制効果となる。FITを利用し、売電単価32円/kWhで中国電力に全量を売電している。

リゾート開発が頓挫

 国内最大の太陽光発電所のある美作市作東地区は、岡山県北東部に位置し、中国山地の山あいに伸びる道沿いに集落や田畑が連なる。江戸時代には、姫路と出雲を結ぶ出雲街道の土居宿があり、諸大名が参勤交代の定宿とするなど、宿場町として栄えた。旧作東町は2005年に周辺5町村との合併により美作市の一部となった。

 これだけの規模のメガソーラーが稼働しているにもかかわらず、作東地区の発電所周辺をクルマで走っても、太陽光パネルが目に入ることはほとんどない。パネルを設置した3つのエリアは、いずれも小高い丘陵の頂を含めた斜面にパネルを設置し、麓に森林を残したため、発電設備は木々に隠れ、主要道路からはほとんど見えなくなっている。

 事業用地は、旧ペニンシュラゴルフクラブ湯郷コースの跡地と旧作東セントバレンタインリゾート計画の跡地だった。かつて旧作東町とフランスのセント・バレンタイン市が姉妹都市だったことから、同市にちなみ、宿泊施設なども備えた大規模な複合リゾート施設が計画された。だが、部分的に開発された段階で頓挫し、放置されていた。

 パシフィコ・エナジーは、まずこのリゾート施設の開発跡地を買い取り、川や道を挟んだ3エリアを造成して太陽光パネルを設置する計画を立てた。開発当初、これらを「エリアA」、「エリアB」「エリアC」として詳細な造成設計を進めた。その後、隣接するゴルフ場跡地もメガソーラー用地として一体的に開発することになり、ここを「エリアG」とした。

 しかし、最終的に施工に着手する際の図面には、AとC、そしてGの3エリアで、エリアB がない。実は、開発計画を詰めていく過程で、自然環境への影響に配慮し、エリアBにはまったく手を付けずに残すことにした。残置森林率が、森林法で求める25%を大きく超える41%まで高まったのは、こうした経緯があった(図5)。

図5●着工に際して作成した完成予想図
図5●着工に際して作成した完成予想図
左からエリアG、エリアA、エリアC。3エリアに囲まれた山林地帯(残置森林)が「エリアB」だったが、環境配慮で開発を取りやめた(出所:パシフィコ・エナジー)
クリックすると拡大した画像が開きます

稼働後の調査で希少種を確認

 パシフィコ・エナジーが開発に着手した当時、メガソーラー施設に対しては法や条例による環境影響評価(環境アセスメント)は求められていなかった。とはいえ、美作市を含む岡山県北部は中国山地の森林が連なり、自然が豊かだ。パシフィコ・エナジーは、この地域にすでに2016年7月に出力42MWの「美作武蔵メガソーラー発電所」を稼働させており、同発電所には、シカが侵入することがあるという(図6)。

図6●「パシフィコ・エナジー美作武蔵メガソーラー発電所」に現れたニホンジカ
図6●「パシフィコ・エナジー美作武蔵メガソーラー発電所」に現れたニホンジカ
(出所:パシフィコ・エナジー)
クリックすると拡大した画像が開きます

 さらに規模が6倍になる「作東メガソーラー発電所」の開発にあたっては、岡山県、美作市と自然保護協定を締結し、それに基づいた環境影響評価を実施することになった。調査の結果、エリアBを中心に、希少な鳥類の営巣や植物の希少種が見つかった。そこで、エリアB全体を残置森林として残し、自然環境を維持することにした。

 とはいえ、そのほかのエリアにも希少種が見つかったことから、これらの種に関しては敷地内のほかの場所に移植した。岡山理科大学の研究者に依頼して現地視察を行い、こうした移植に関して指導・助言を受けたという。

 商用運転を開始してから約半年後の今年7月、事業区域内の希少種などを調査したところ、希少鳥類の営巣が見つかった地域(エリアB)では、その鳥類自体の生息が確認された。大規模な造成によって75万枚ものパネルを敷き詰め、商用運転を始めてからも、隣接する残置森林区域では、従来の生態系が保たれているといえそうだ(図7)。

図7●残置森林となった「エリアB」には、豊かな混交林が広がる
図7●残置森林となった「エリアB」には、豊かな混交林が広がる
(出所:日経BP)
クリックすると拡大した画像が開きます

2エリアは「北向き」

 完成したエリアGとエリアA、エリアCを眺めると1つのメガソーラーとして建設されながら、それぞれの起伏の違いから、太陽光パネルの列が作り出す景色は微妙に異なった様相になっている。実は、3つのエリアのうち、太陽光発電に適している南向き斜面は、エリアGだけで、エリアAとCは、いずれも緩やかな北向き斜面になる(図8)(図9)(図10)。

図8●ゴルフ場跡地を活用した「エリアG」
図8●ゴルフ場跡地を活用した「エリアG」
(出所:パシフィコ・エナジー)
クリックすると拡大した画像が開きます
図9●リゾート開発跡地を利用した「エリアA」
図9●リゾート開発跡地を利用した「エリアA」
(出所:パシフィコ・エナジー)
クリックすると拡大した画像が開きます
図10●リゾート開発跡地を利用した「エリアC」
図10●リゾート開発跡地を利用した「エリアC」
(出所:パシフィコ・エナジー)
クリックすると拡大した画像が開きます

 事業用地の傾斜方向の違いは、調整池の場所からも分かる。「作東メガソーラー発電所」には3エリアで合計21カ所もの調整池がある。エリアGでは南側に6つの池があるのに対し、エリアAとCで北側を中心にそれぞれ9カ所と6カ所の調整池がある。

 南向きのエリアGは、パネル横置きで6段の大面積アレイ(パネルの設置単位)を、設置角10度程度に浅い角度で設置した。緩やかな傾斜と相まって、地面に沿ってほぼ平らにパネルを敷き詰めたように見える。パネルの鮮やかな濃紺により波打った湖面のようだ(図11)。

図11●南向きの「エリアG」は湖面のように見える
図11●南向きの「エリアG」は湖面のように見える
(出所:日経BP)
クリックすると拡大した画像が開きます

 一方、エリアAとCは北向き斜面のため、敷地の底部から発電設備を見上げると、パネル裏のバックシートの白色と、おびただしい本数の杭基礎が目立つことになる。丘陵の上から眺めると、パネルの表面が見えるが、南向きのエリアGと違い、アレイとアレイが鱗にように折り重なって見える(図12)(図13)。

図12●北向きの「エリアA」を下から見上げた情景
図12●北向きの「エリアA」を下から見上げた情景
(出所:日経BP)
クリックすると拡大した画像が開きます
図13●北向きの「エリアC」を上から見下ろした情景
図13●北向きの「エリアC」を上から見下ろした情景
(出所:日経BP)
クリックすると拡大した画像が開きます

 北向きのエリアAとCでは、地面の傾斜と逆の角度でパネルを設置するため、アレイ最上部は、地面から3~4mにもなる。パネルの交換などは高所作業になる半面、パネル下の空間が広いため、日常的な除草作業などの点では有利になる。逆に南向きのエリアGでは、アレイ最上部でも2m程度だが、パネル下の空間が狭く除草には不利になる(図14)(図15)。

図14●南向きの「エリアG」は、アレイが低い
図14●南向きの「エリアG」は、アレイが低い
(出所:日経BP)
クリックすると拡大した画像が開きます
図15●北向きの「エリアA」は、アレイが高くなる
図15●北向きの「エリアA」は、アレイが高くなる
(出所:日経BP)
クリックすると拡大した画像が開きます

調整池は県基準の1.8倍

 3つのエリアに共通しているのは、パネルを設置できない急な法面が少なく、残置森林を除いた敷地を最大限に使ってパネルを敷いたことだ。造成勾配は東南西方向最大35%、北方向最大15%とした。元々の傾斜を生かしつつも、3エリアの造成工事で動かした土量は約780万m3に上り、国内でも最大規模の巨大土木工事となった(図16)(図17)。

図16●建設中の様子。巨大な重機を使った造成工事
図16●建設中の様子。巨大な重機を使った造成工事
(出所:パシフィコ・エナジー)
クリックすると拡大した画像が開きます
図17●建設中の様子。緩やかな斜面に造成してパネル設置可能エリアを広げた
図17●建設中の様子。緩やかな斜面に造成してパネル設置可能エリアを広げた
(出所:パシフィコ・エナジー)
クリックすると拡大した画像が開きます

 リゾート開発やゴルフ場跡地とはいえ、森林法に基づく林地開発許可は、「開発用途の変更」ではなく、新たに取得した。許可を得るには、県の指導を受けつつ、開発に伴う保水力の低下に対応し、治水対策として十分な調整池を設置する必要がある。

 調整池の容量は、目的や開発規模で一律に決まっているわけではない。下流の流下能力を考慮の上、想定される雨量のピーク流量を調整できることが求められる。例えば、開発地に降った雨が流れ出る川が細く堰が低いなど、一定の時間に水を流せる「流下能力」が小さいと一時的に雨水を貯めて置く調整池に大きな容量が必要になる。

 また、調整池の容量を決めるにあたり、どの程度の最大雨量を想定するかは、自治体の考え方などによって変わってくるが、「作東メガソーラー発電所」では、21カ所もの調整池の設置によって、県の求める1.8倍もの容量を確保したという。

 さらに、周辺の自治区から要望を受けて、事業用地の外に元々、あったため池の改修や浚渫工事なども実施したという(図18)。

図18●浚渫工事を実施した事業用地外の池
図18●浚渫工事を実施した事業用地外の池
(出所:日経BP)
クリックすると拡大した画像が開きます

 旧作東町に隣接した兵庫県佐用町では、2009年による水害で甚大な被害を受けた。その際の雨量は600年に1度の確率で起こるレベルだった。「県水準の1.8倍」であれば、この記録的な豪雨にも耐えられるという。実際、建設中に中国地方は何度か集中豪雨に見舞われたが、先行して建設した調整池によって、乗り切ることができたという。

 かつて事業用地にあったゴルフ場や計画されていたリゾート施設では、ここまで余裕をもった雨水対策を実施していなかったことから、メガソーラー建設に伴う治水対策によって、周辺地域の防災対策は、かえって向上したことになる。

 新設した調整池のなかには、池底の設計を意識的に深くしておき、年間を通じて干上がらずに、ある程度、水が溜まっている状態にしてある。これは、調整池が、水生生物の新たな生息地になることも想定したものという(図19)。

図19●調整池の1つ。年間を通じて水が溜まるように設計
図19●調整池の1つ。年間を通じて水が溜まるように設計
(出所:日経BP)
クリックすると拡大した画像が開きます

撤去費用を外部積み立て

 このほか、周辺の自治区から要望を受けて、田畑などの獣害対策用のフェンスを新設したり、美作市の要望により、操業開始後、発電設備の撤去費用を地域の金融機関に積み立てて市が管理する仕組みを設けるなど、法や条例の枠を超えて対応してきたという。

 「作東メガソーラー発電所」の開発にあたり、測量や設計などを請け負ってきたファナテック(岡山県美作市)の阿部芳孝代表は、「かつてリゾート開発が頓挫して放置されたことで、周辺住民には水害などを懸念する声もあった。そんななか、メガソーラー開発に伴って十分に余裕のある治水対策が徹底されことは地域もプラス」と話す。

 阿部さんは、「事業用地の中で、元の自然が最も残っていたエリアBは水系にも近く、このエリアをすべて残すことになったことで安心感が増した。国内最大のメガソーラーが、地域にとっても良い形で実現した」と、評価する。

●設備の概要
発電所名パシフィコ・エナジー作東メガソーラー発電所
住所岡山県美作市作東地域
発電事業者パシフィコ・エナジー作東合同会社
開発事業者パシフィコ・エナジー
事業区域面積約410ha
出力太陽光パネル・257.7MW、連系出力・150MW
年間予想発電量年間約2億9000万kWh
EPC(設計・調達・施工)サービス日揮
O&M(運用・保守)旭電業
太陽光パネルトリナ・ソーラー製多結晶シリコン・両面ガラスタイプ(340W/枚・37万6264枚、345W/枚・37万6264枚、合計約75万2528枚)
パワーコンディショナー(PCS)東芝三菱電機産業システム(TMEIC)製2.5MW機 ・60台
架台日創プロニティ
着工日2017年3月
売電開始日2019年12月
自営線による送電線延長約17km
売電先中国電力
売電単価32円/kWh