一関の先進メガソーラー、IT駆使して積雪によるロスを最小化

精緻な遠隔監視から、自家消費、蓄電池の併設へ

2021/11/19 08:25
加藤 伸一=日経BP 総合研究所 クリーンテックラボ

 岩手県一関市・束稲(たばしね)山に、連系出力が1.99MW、太陽光パネル出力が約2.35MWのメガソーラー(大規模太陽光発電所)「束稲太陽光発電所」がある(図1)。

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図1●束稲太陽光発電所
図1●束稲太陽光発電所
(出所:エプセム)
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 2014年9月に売電を開始してから、7年が経過した。

 省エネ関連などの技術開発ベンチャーである、エプセム(埼玉県川口市)が開発・運営している。同社は、太陽光発電関連では、発電事業のほか、太陽光発電付きの街路灯、EPC(設計・調達・施工)やO&M(運用・保守)サービス、遠隔監視システムなども手掛け、この発電所もEPCとO&Mは自社で手掛けた。太陽光パネルは東芝製、パワーコンディショナー(PCS)は東芝三菱電機産業システム(TMEIC)製を採用している。

 同社によると、この7年間の発電の状況は、年ごとに見ると、事業計画時の予想を上回る状態が続いている。発電量が大きく下がる状況も見られない(図2)。

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図2●7年間の発電量の状況
図2●7年間の発電量の状況
下のグラフで、7年目の4月が極端に少なくなっているのは、メーターの計測状況の一時的な変化によるもので、発電量そのものには大きな変化はない(出所:エプセム)
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 ただし、冬季の積雪の状況によって、発電量が上下に振れる。例年、12月や1月は、他の月に比べて発電量が大きく下がる。

 同社の太陽光発電所では、遠隔監視システムの表示画面を通じて、ひと目で発電の状況を把握できる。このシステムを通じて、積雪時の発電状況もすぐに把握できる。

 特徴は、発電所内の配置を地図状にイラスト化して、ストリング(太陽光パネルを接続した単位)ごとに発電状況を色分けして表示している点にある(図3)。

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図3●遠隔監視システムは約40カ所で採用
図3●遠隔監視システムは約40カ所で採用
下は関東の他社のメガソーラーの例。影による影響(上)や、台風の通過時にもトラブルなく発電している様子(下左)、大雪の際には積雪で発電が停止したものの(下中央)、2日後の晴天時に溶けて発電が再開(下右)した様子がわかる(出所:エプセム)
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 発電量は1分ごとに計測、送信する。リアルタイムの表示では、この1分間隔で計測したデータを確認できる。蓄積した過去のデータも容易に参照でき、そこでは3分間隔の平均値を使っている。

 発電状況は、色の種類や濃淡で段階を分けて、地図上に表示する。時間ごとの発電量の変化や、影や雪などパネルを覆う障害物の影響、周囲に比べて発電量が落ちている状況などを確認できる。

 日時や発電量だけでなく、日射量と気温を表示し、気象状況との関連性も把握しやすくしている。

 このストリング監視システムの構築では、エプセムの東社長のプログラムの知見が生きている。とくに、インターネット上でプレイするゲームの開発で培った技術が有効だったという。

 積雪による発電量の極端な低下は、稼働後1年目から生じた。月ごとの売電状況だけでなく、遠隔監視システムの日々の状況からも把握できた。

 束稲のメガソーラーは、山の上にある(図4)。冬にはある程度の積雪があり、気温が低くなる。積雪期には、氷点下まで気温が下がっている時間が長い。

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図4●山の上にあり冬は雪が積もる
図4●山の上にあり冬は雪が積もる
(出所:エプセム)
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 この環境によって、太陽光パネルに降り積もった雪は、そのまま放っておくと、寒さによってカバーガラスの表面に凍りついてしまう。パネルに積もった雪は、凍り付いてしまうと、その後、なかなかパネルから滑り落ちなくなる。

 太陽光パネルを覆って発電量が極端に下がるだけでなく、重量物がパネルに載り続けている状態になるので、パネルや架台に過剰な応力がかかり、長期的な信頼性が低下してしまう恐れもある。

 そこで、積雪するとできるだけ早く、凍り付いてしまう前に、太陽光パネルに積もった雪を降ろすことにした。

 この作業は、地元のシルバー人材センターに委託している。農家が多い地域であり、本来は収入や本業の作業に限りがある時期に、ある程度、定期的に、除雪という手慣れた作業で収入が加わる利点が、地元側にもあるのではないかとしている。メガソーラーに来て除雪の作業を繰り返す中で、冬の恒例の慣れた仕事で臨時収入が得られれば理想的だろう。

 除雪の作業でも、1分ごとに変わる状況がひと目でわかる遠隔監視システムが効果を発揮する。除雪を委託するエプセム側は、除雪が終わったストリングの発電量が一気に回復するので、その場所の除雪が完了したことがすぐにわかる(図5)。

図5●除雪の効果
図5●除雪の効果
積雪時の時間ごとの発電状況。太陽光パネル上の雪が緩み始めた10時ころから除雪を始め、発電量が大きく向上するストリングが増えている(出所:エプセム)
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 除雪の作業者も、その場で表示画面を見つつ作業しているので、作業の残り状況がリアルタイムでわかり、励みになる。もし、除雪し忘れてしまった場所があったとしても、表示画面ですぐにわかるので、忘れたまま帰宅するといったミスを防げる。

 寒い中での作業になるが、東隣にはエプセムの事業所がある。この建屋の中で、暖をとりながら過ごすことができる。

 このように、積雪にもうまく対応してきたが、7年目となる2020年の冬には、発電量が大きく下がった。「とにかく積雪が続いて、晴れる日がわずかだった」という。

 これから迎える2021年の冬、新たな対策を試みる。それは、地下水をくみ上げて太陽光パネルの上から流す、というものだ。

 地下水は年を通して水温は約15℃で安定している。冬に流せば暖かい。雪を溶かす効果、凍結を防ぐ効果を期待できる。

 山の上にありながら、太陽光パネルの割れなどの被害は少ない。7年間のうちに交換したのは、約9000枚のうち15枚程度にとどまる。

 カラスなどによるガラスの割れは、ほとんどない。カラスの天敵であるタカやトンビなどの猛禽類が多く生息している地域のためではないかとみている。

 また、施工時に現地で全数検査するといった念入りな対応も奏功しているようだ。

 このように開発した太陽光発電所が岩手県一関市千厩町などあと4カ所ある。出力約2MWが2カ所、同1MW、同500kWである(図6)。

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図6●東北で開発した他の発電所
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図6●東北で開発した他の発電所
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図6●東北で開発した他の発電所
岩手県千厩2発電所(左上:出力1MW)、岩手県千厩3発電所(右上:2MW)、岩手県野土発電所(左下:500kW)、宮城県金成発電所(右下:2MW)(出所:エプセム)

 4カ所のうち2カ所は売却した。残りの2カ所は所有している。当初は、すべて売ることも覚悟していたが、資金繰りが好転し、所有し続けられる状況になったという。

 小規模のベンチャー企業であることから、最初の束稲のメガソーラーの時点で、資金調達に苦労していた。事業資金は金融機関から借りようと考えた。しかし、どの金融機関も融資には至らなかった。1行のみ、完成した頃に融資するという条件で、融資を受けられる見込みが立ち、設備の調達を担ったサンデン商事が発電設備・資材を発注した(前回の掲載記事)。

 しかし、その後、この金融機関から、融資の実行が完成後になると伝えられた。それでは発電設備・資材の支払いに間に合わない。そこで、この金融機関からの融資を諦め、サンデン商事からの借り入れに切り替えた。サンデン商事は、その資金をメガバンクから借り、エプセムに貸した。

 買取価格は40円/kWh(税抜き)である。年間発電量は約250万kWhを見込み、年間9000万~1億円の売電収入を想定した。稼動1年目の売電実績は1億円を若干、下回る結果となった。それでも一般的な水準で見れば好調である。

 ここで、自社開発した遠隔監視システムが大きな利点をもたらした。

 地方の金融機関2行が、借り換えの融資を希望してきた。いずれも建設前には、融資を断られた金融機関だった。1年目の実績に加え、ストリングごとの発電量を分単位で把握でき、履歴も確認できることなどが評価され、融資の条件が有利になった。このうちの1行から、相対的に有利な条件で融資を受け、借り替えることになった。

 その後も、メガソーラーの売電状況が好調で、資金繰りはどんどん改善していった。残りの4カ所もすべて売ることも想定していたが、資金繰りや融資条件の改善によって、売却したのは2カ所で済み、残りの2カ所は保有し続けている。

 思わぬ展開から所有することになったメガソーラーもある。長崎県諫早市にある出力約2MWである(図7)。

図7●出力約2MWの長崎県諫早発電所
図7●出力約2MWの長崎県諫早発電所
(出所:エプセム)
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 関東の取引先企業の関連で関わった太陽光発電所の開発が、長崎にも派生した。そこでの施工を受注した。

 この発電所の完成間近になって、発電事業者が経営難に陥った。エプセムへの施工費も7割は支払い、残り3割は未払いとなった。2020年3月、新型コロナウイルス感染症の影響が本格化し始めたころだった。

 この発電所を巡って金融機関などと相談や交渉を続ける中で、金融機関から、エプセムに買って欲しいという打診があった。

 移動に制約の大きな状況で現地を視察して、かつ、購入を決断できる企業は、なかなか存在しない。「エプセムなら、開発から施工の状況を熟知していて、あとは資金の問題だけだろう。融資はするから」。こうして購入した。

 これまでの岩手県などの発電所に比べ発電量の多さに驚いているという。九州電力送配電による出力抑制の実態にも驚き、こちらは同社によるオンライン制御に変えて、相対的に売電ロスを抑えている。

 また、連系用の昇圧変圧器に特徴がある。一般的な、1つの筐体に500kWの昇圧変圧器を4台収めた機種などに対して、500kWの単機を4カ所に置く構成とした。PCSとともに昇圧変圧器も分散させた(図8)。

図8●昇圧変圧器は500kWごとに分散
図8●昇圧変圧器は500kWごとに分散
施工中の様子(出所:エプセム)
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 今後、自家消費や蓄電池併設への取り組みも積極的に進めていく。まず、建て替え中の自社の新たな本社において、太陽光発電電力をより多く活用する。電気自動車(EV)への充電にも、太陽光発電を使う計画である。

 岩手県において、蓄電池併設型の太陽光発電所も開発している。蓄電池に貯めておけば、電力の市場価格が高い夜間なども売電できる上、固定価格買取制度(FIT)後、地域の安いベース電力として活用しやすくなると見ている。

●発電所の概要
発電所名束稲太陽光発電所
所在地岩手県一関市東山町田河津
敷地面積約4万m2
発電事業者エプセム(埼玉県川口市)
出力約2.2MW
年間予想発電量約250万kWh
設計・施工エプセム
調達サンデン商事(東京都港区)
O&M(運用・保守)エプセム
太陽光パネル東芝製
パワーコンディショナー(PCS)東芝三菱電機産業システム(TMEIC)製
投資額約6億2000万円
売電開始時期2014年9月
買取価格40円/kWh(税抜き)