【千葉の太陽光被災・その4】再連系したら、接続箱が燃えた!
PCSを再起動すると、接続箱がアークを発し、筐体の外側まで焦げた
2019/12/26
このシリーズでは、エネテク(愛知県小牧市)が、太陽光発電所の点検やO&M(運用・保守)サービスを担う中で対応してきたトラブル事例を紹介している。同社は、2007年に創業した電気設備工事会社で、太陽光発電の施工も多く担当してきた。O&Mサービスでは、点検時に原因分析だけでなく、状況によっては、その場で不具合の原因を解消するといったワンストップの対応が特徴となっている(関連コラム)。
今回、紹介するのは、売電を開始してから約5年間、一度も点検やメンテナンスを施したことがなかったという太陽光発電所における例である。
関東地方にある低圧配電線に連系している太陽光発電所で、数区画の発電所が同時に開発され、隣接している。
この低圧の太陽光発電所の開発にかかわった企業が、稼働して5年経ったのを機に、発電所の状態を把握したいと考え、点検した。この点検を、エネテクが受託した。
エネテクの点検担当者が、現地を訪問して驚いたのは、発電所の一帯が雑草に覆われていて、雑草のほかには、まったく何も見えないことだった(図1)。
とくに、クズなどツル性の植物が伸び放題となっており、ツルやそれに付いた葉が幾重にも分厚く覆っていて、深い森のようだった。
まるで、アニメ映画「天空の城ラピュタ」そのままの様相で、そこに太陽光発電所があることを知らなければ、まったく気づかないだろうという状況だった。
点検をするにも、まず敷地内に入ること自体、容易ではないと、ひと目でわかったという。エネテクの点検担当者は、発電設備に近づくための準備として、鎌で手刈りしながら発電所内に入る通路を作った。
敷地内に入ってからも、フェンスの周りから地面、アレイ(太陽光パネルを固定する単位)全体まで、あらゆるところにツルが絡みついていた。これらを一つ一つ、除去していった(図2)。
こうして、点検できる環境を整えてから、発電設備を調べてみると、大きな異常が生じている集電箱があることがわかった。
低圧の発電所で、小容量のパワーコンディショナー(PCS)を採用しているため、集電箱は、PCSと売電用メーターの間に配置されている。
集中型のPCSを使っている太陽光発電所のように、複数台の接続箱からの直流電流を束ねてPCSに送るのではなく、複数台の小型PCSからの交流電流を束ねて、配電線に送るために使われている。
この集電箱に異常が生じ、もし稼働が止まるようなことがあると、PCS段階までは通常に発電や送電、交流への変換ができていても、その先で売電用メーターへの送電が止まるので、売電できなくなる。
エネテクが発見した集電箱の異常は、筐体の中が水浸しで、水たまりまでできていることだった(図3)。2つの区画の集電箱に、水たまりができていた。
なぜ、集電箱の筐体の中が水浸しになり、水たまりまでできているのか。調べてみると、集電箱から「メインブレーカー」までを結んでいる電線の敷設に問題があった。
メインブレーカーは、低圧発電所で何らかの事故が起きた際に、その事故による悪影響が配電線まで及ばないようにするために、低圧発電所全体からの送電を遮断するためのもので、電柱に取り付けられている。
このメインブレーカーにつながる電線は、数本を樹脂製配管に入れて敷設されている。メインブレーカーは、電柱に取り付けられているので、電線は地上から電線を登るように敷設される。
問題は、樹脂製配管の切り口が、上を向いて敷設されていることだった(図4)。エネテクによると、樹脂の配管で保護しながら電柱を登るように電線を敷設する場合、樹脂の配管の出口となる切り口は、下を向けなければならない。上向きだと水が配管の中に入りやすくなるためである。
樹脂製配管の切り口と、中を通っている電線の隙間は、パテ(充填剤)で埋める。しかし、パテに、わずかな隙間があったり、水の通りやすい微細な形状ができたりするなど、配管の切り口から雨水が入り込むことがある。そもそも雨水が直接、触れにくい状態にしない限り、雨水の侵入を防ぐのは難しい。
エネテクが「下向き」を提唱する理由はこのためで、下を向いていれば、雨水が直接、パテに触れる可能性が格段に小さくなる。
高い位置にあり、上向きの切り口から配管に入った雨水は、配管内を地面に向けて流れる。地面付近から集電箱の送電側の端子までは、電線と配管は、少し登るように敷設されるものの、集電箱の中まで水が入り込んでしまうと見ている。
配管内の地面に近い低い場所にたまった雨水が、蒸発と結露を繰り返している間に、接続箱の中まで徐々に入り込み、水浸しになったり、水たまりができるまでになったと推測している。
この状態を見つけた後、エネテクでは、まず応急措置を講じた。地上に近い低い位置で、樹脂製配管に穴をあけた(図5)。これによって、配管内にたまっていた雨水を、配管の外に出した。
根本的な解決策として、メインブレーカーに向けた電線の敷設を、配管の切り口が下に向くように変えることを提案している。
水浸しになっていたり、水たまりができていた2個の集電箱では、筐体内で部材を固定する役割の金属製の固定具が、真っ白に腐食していた(図6)。水浸しになっていなかったそのほかの集電箱には、この白サビはまったく生じていなかった。
こうした白サビは、長い期間、放置していると、集電箱の電気的な機能そのものに悪影響を及ぼす恐れがある。腐食した部分が発熱し、発火する恐れもある。このため、これら2個の集電箱の交換も提案している。
現時点でも、絶縁抵抗値への影響が見られる(図7)。正常範囲の値には収まっているので、そのままでも集電箱としての機能をある程度、維持できるものの、白サビのない集電箱と比べると、著しく悪い数値となっている。
絶縁抵抗値の「正常」の判定値は「0.2MΩ以上」となっている。水浸しにならず、白サビのない集電箱では、「176MΩ」など、大幅に高い値を示したのに対して、水浸しとなり、白サビが生じていた2個の集電箱の絶縁抵抗値は、「0.356MΩ」と「0.989MΩ」と、正常値ギリギリの低い値だった。
集電箱の絶縁抵抗値が下がると、安全機能が働いて、漏電遮断器が動作する可能性が高まる。この場合、他の発電設備の状態が良好でも、売電できなくなる。
5年間、一度も点検やメンテナンスをせずに放置していなければ、早く気付いて傷の浅いうちに対応でき、集電箱の交換といったコストが嵩む対応には至らなかった可能性もある。定期的に適切なメンテナンスの重要性を示す例としている。