串間市のバイオマス発電所、「発火事故」乗り越え安定稼働に

国内初、ペレット工場併設のガス化方式、「タール問題」も克服

2020/03/18 05:00
金子憲治=日経BP総合研究所 クリーンテックラボ

火災事故で4カ月間停止に

 今年2月7日、宮崎県串間市にある「大生(おおばえ)黒潮発電所」が約4カ月ぶりに再稼働を果たした。同発電所は、定格出力1.94MWの木質バイオマス発電施設で、昨年10月16日に、設備の一部が発火する事故が発生し、停止していた。

 「大生黒潮発電所」は、木質ペレットを低酸素状態で蒸し焼き(熱分解ガス化)して水素など可燃性ガスを取り出し、そのガスで内燃機関であるガスエンジン発電機を稼働させる仕組み。2018年3月に稼働し、固定価格買取制度(FIT)により売電している(図1)。

図1●「大生黒潮発電所」の全景
(出所:シン・エナジー)
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 再生可能エネルギー事業などを手掛けるシン・エナジー(神戸市)のほか、南那珂森林組合、大王テクノ、南国殖産の出資したSPC(特定目的会社)「くしま木質バイオマス」が事業主体となり、金融機関から融資を受けた。森林組合が地域の未利用材を供給し、シン・エナジーが発電設備の設計・施工から運営・管理を担うという体制となっている(図2)。

図2●「大生黒潮発電所」の事業スキーム
(出所:シン・エナジー)
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 同発電所の特徴は、ペレット工場を併設していること。周辺地域から排出される未利用木材を粉砕しておが粉にし、乾燥工程を経てペレットに成形している。ペレット製造からガス化発電設備までのプロセスをパッケージ化したケースは国内で初めてで、ガスエンジンの稼働に伴う排熱をペレット製造に活用することで、システム全体の効率が上がる。これをうまく運用できれば、全国の林業の盛んな地域に応用できることから、注目されている。

温水乾燥機の内部で発火

 昨秋の発火事故は、このプロセスの中で、おが粉を乾燥させる「温水乾燥機」で起きた。10月16日午前10時30分頃に乾燥設備の内部から発火し、排気ファンと設備内部の後方まで延焼した。消防に通報、消火活動により同日午後2 時ごろに鎮火した。負傷者はなく、近隣周辺への延焼もなかった(図3)。

図3●発火事故の起きた温水乾燥機
写真は事故後、改修済みの様子(出所:日経BP)
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 ガス化装置の燃料であるペレットは、含水率8~10%まで乾燥させる必要がある。生木である未利用材を粉砕しておが粉にした時点で含水率は約50%で、これを乾燥機に通すことで13%程度まで下げている。さらにペレット成形時の加熱で含水率は8~10%になる。

 導入した温水乾燥機はドイツStela(ステラ)社製の低温ベルトドライヤー(ベルトコンベア式乾燥機)で、100度以下の低温を有効利用できるのが特徴だ。

 「大生黒潮発電所」の乾燥工程の仕組みはこうだ。ガスエンジン発電機の排熱で約80℃の温水をつくり、この温水と熱交換した40~60℃の温風を吹き付けて乾燥室内のおが粉を加熱する。温風は4カ所から吸気し、1カ所のファンで排気している。乾燥装置の前方から投入されたおが粉は、ベルトコンベアの上を後方に移動しながら徐々に乾燥していく。

 10月の事故では、乾燥設備内部で発火し、排気ファンと乾燥設備内部の後方に延焼した。排気ダクトから炎が吹き上がり、設備内後方のおが粉が燃え、その近くの壁面が焼けこげたという。装置内前方のおが粉は、まだ含水率が高いことから、燃え移らなかった。

火源を特定できず

 シン・エナジーによると、事故後、消防署によって現場検証が行われたが、原因の特定には至らなかったという。40~60℃の温風を吹き付けられたおが粉の温度は、30~40℃になるが、木材の発火温度である約280℃に達するとは考えられない。そのため温風加熱による自然発火ではなく、何らかの火源があり、それが乾燥の進んだおが粉に引火した可能性が高い。だが、装置内には火花が飛ぶような電気回路はなく、火元が特定できなかった。

 シン・エナジーがステラ社に確認したところ、同社製の乾燥設備は全世界で既に600台以上が導入されており、1年に数件程度の火災事故が報告されているという。そこで、シン・エナジーでは、メーカーから過去の発火ケースの情報を収集しつつ、独自の調査と燃焼試験に基づき、出火原因の可能性を推定した。

 同社によると、発火までのプロセスとして可能性のあるのは、(1)高速回転の排気ファンから火花が発生し、ダクトに付着したおが粉から発火。(2)ゴムパッキンで絶縁されていた点検窓に静電気が溜まり、その放電によりおが粉が発火ーーという2つが考えられた。

 そこで、再発防止策として、(1)原料入り口に金属除去設備を追加し、金属片などの混入を防止。(2)乾燥設備の点検窓に接地線(アース)を接続し、確実に接地を取ることで静電気の蓄積を防止(図4)。(3)乾燥機内部の点検頻度を、3カ月に1回から毎月実施に変更し、乾燥したおが粉の長期堆積を防止。なお、内部点検頻度のメーカー推奨は6カ月に1回という。

図4●点検窓に接地線(アース)を接続して静電気に対策した
(出所:日経BP)
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 実は、木材の乾燥工程に採用される設備としては、現在国内では回転式のロータリーキルン(窯)方式が主流になっている。高温で撹拌しながら乾燥させるため、装置がコンパクトになり短時間で処理できる利点がある。発火事故を機にキルン方式に変えることも検討したが、最終的には、既存のベルト式乾燥機を修復し、引き続き使用することにした。

 キルン方式への転換を見送った理由は、同方式では、運転に重油などの燃料が必要になり、ガスエンジンの低温排熱の利用によるシステム効率の向上を実現できないこと。加えて、高温で運転するキルン方式にも、発火リスクがあることから、火災事故の再発防止という点からも、万全な対応にならない面もあるという。

安定稼働までに1年を要す

 「大生黒潮発電所」は、こうした対策を打ったうえで、2月7日に運転を再開した。約4カ月間の停止中でも、契約していた未利用材の搬入は継続された。このため既存の貯木場がいっぱいになり、新たに第2貯木場を新設して、急場をしのいでいた(図5)。

図5●新設した第2貯木場
(出所:日経BP)
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 その後、運転は順調で、送電端出力は約1.7MWとなっている。同発電所では、ガスエンジン発電機 10 基のほか、その排熱を活用したバイナリー発電機 1 基も導入している。バイナリー発電機は、低沸点媒体(今回はフロン系)を介して発電機を回す仕組みで温水でも稼働する。つまり、エンジン排熱をバイナリー発電と木質乾燥の2つの用途で有効利用している。こうした高度な排熱利用システムも国内で初めてという(図6)。

図6●バイナリー発電機でもエンジン排熱を利用
(出所:日経BP)
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 実は、「大生黒潮発電所」は2018年3月に稼働して以来、安定的に発電できるようになるまで約1年を要した。昨年10月の発火事故は、安定運用が軌道に乗った矢先の出来事だった。とはいえ、温水乾燥機の事故は、ガス化発電システムの根幹を左右するものではないこともあり、今回の発火防止策によって、順調な運用に戻りそうだ。

 安定稼働まで1年もかかった最大の問題は、ガス化発電そのものの運転状況にあった。事業開始当初、1週間ほど運転すると、ガスエンジン内部に大量の「タール」が付着して稼働できなくなってしまった。タールとは、有機物質を熱分解する際に水素や一酸化炭素などガス成分にならなかった、粘り気のある有機系液体(油分)。バイオマスのガス化では付き物とも言え、大量に発生すると後工程のガスエンジンが止まってしまう。これまでにも、国内外でバイオマスガス化発電を運用する際、大きな課題となってきた。

想定以上の「クリンカ」発生

 導入したドイツ・ブルクハルト社製のガス化装置とガスエンジン発電機は、こうしたタールの問題を克服したとされていた。しかも、製造した木質ペレットは、同社の推奨する性状や含水率などの基準を満たしていた(図7)。

図7●成形直後の木質ペレット
(出所:日経BP)
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 にもかかわらず、わずか1週間で稼働不能になるほど、大量のタールが発生したのは、ガス化装置内に想定以上の「クリンカ」がこびり付いたからだ。クリンカとは、熱分解ガス化の際、固体として残る無機系物質(灰分)で、ガス化炉の底や壁などに付着し、徐々に大きな塊になってくる。そうなると、熱分解を妨げ、タールができやすくなる。

 ブルクハルト社の推奨する運用では、4~6週間の連続運転の後、ガス化装置を止めて、内部のクリンカを取り除くことを求めていた。それがわずか1週間しか運転できなかった。

 シン・エナジーでは、想定以上のクリンカが発生する原因を突き止めるため、同分野の研究者の協力も得て、日本各地で産するスギ材の成分やガス化によって残る灰の組成を分析した。その結果、灰組成に占める、ある特定の無機成分が、地域によって大きく異なることを見出した。串間市の発電所で利用しているスギ材では、40%以上なのに対し、ドイツ内のバイオマス発電所で使われるマツ系木材では10~20%、国内でも地域によっては20~30%に過ぎないことがわかった。

 バイオマスガス化の場合、灰組成の違いによって、クリンカの成長度合いが異なることから、宮崎県にある「大生黒潮発電所」で、想定以上のクリンカが発生したのは、地域から産するスギ材の特性が原因の1つと推察された(図8)。

図8●破砕中の未利用材。同じスギでも地域によってガス化で残る灰組成は異なる
(出所:日経BP)
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4週間の連続運転を達成

 そこで、シン・エナジーでは、燃料の改質やガス化工程の条件などを独自に工夫することで、地域産のスギ材を使っても、クリンカの発生を抑制できるようになった。その結果、メーカーの想定する連続運転時間である4週間以上を達成したという(図9)。

図9●ドイツ・ブルクハルト社製のガス化装置とガスエンジン発電機
(出所:日経BP)
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 国内未利用材を使った木質バイオマス発電を事業的に軌道に乗せるには、燃料の運搬コストを考えると半径50km程度の地域から木材を集めるのが限度と言われる。一方で、この範囲で収集できる材を使った発電設備の規模は最大でも数MWで、木質ボイラーによる蒸気タービン発電機(外燃機関)を導入するには、規模が小さすぎる。

 こうした国内産木質バイオマス発電の壁を乗り越えるのが、小規模でも効率の高い内燃機関(ガスエンジン)による発電機を導入し、その燃料を木材のガス化によって生み出すという、ガス化発電システムになる。ただ、タールの問題などで安定運用が難しく、長期間の連続運転に成功しているケースはほとんどなかった。

 「大生黒潮発電所」が、国内材の灰組成を分析してタール問題を克服し、安定運用にめどを付けたことは、地域木材を使ったバイオマス発電の可能性を広げることになる。