今夏、太陽光の被災状況を総括、低圧サイトが半数以上
夏の大雨で広島、山口、長崎などで太陽光発電所が被災
事故報告の65%が低圧サイト
今年も、初夏に全国的に大雨が続き、水害に巻き込まれて被災する太陽光発電所があった。経済産業省は、9月までに有識者会議(新エネルギー発電設備事項対応・構造強度ワーキンググループ)で、今年度の大雨・台風など自然災害による事業用太陽発電設備への被害状況を公表した。これは、電気事業法に基づく事故報告を集計したものだ。
それによると8月31日までの集計で43件となり、そのうち他の物件(第三者)に損傷を与えたケースが10件、自設備の主要電気工作物が破損したケースが33件だった。33件の災害別内訳は、土砂崩れ・地盤沈下が19件と群を抜いて多く、そのほか河川氾濫による浸水が8件、突風が4件、倒木が1件、落石が1件だった(図1)。
今年4月から、10kW以上50kW未満の低圧連系する事業用太陽光発電設備にも事故報告の義務が課された。これに基づき、8月31日までに58件の事故報告があった。このうち28件が自然現象によるものだった。つまり、既述した事業用太陽光発電設備全体の事故件数である43件のうち、低圧事業用サイトが28件で実に65%を占めていたことになる。
土石流の原因と疑われたが…
ここ数年、日本列島は、春から夏、秋にかけて毎年のように豪雨や台風に見舞われている。2018年と2019年は、勢力の強い台風が相次いで上陸して太陽光パネルの飛散や浸水、土砂崩れの被害があった。2020年は、台風の直撃は少なかったものの、7月に停滞した前線の影響で、九州や東北など各地で大雨となり、大きな被害が出た。
2021年も昨年と似た傾向で、台風の上陸は少なかったものの、7月初めに梅雨前線の停滞による「令和3年7月豪雨」があり、静岡県や広島県、島根県などで、浸水や土砂崩れによる被害があった。中でも、静岡県熱海市伊豆山では、大規模な土石流が発生し、当初、被害地区に近い山に設置されていた低圧連系の太陽光発電所が保水力低下の原因と疑われた。しかし、最終的に土石流の原因は山間に積まれた「盛り土」と推定され、太陽光発電所との因果関係は否定された(図2)。
ただ、もともと伊豆山周辺ではメガソーラー(大規模太陽光発電所)の建設計画もあり、熱海市で起きた土砂災害を機に、斜面設置の太陽光発電所に対する議論が活発化した。全国の自治体でも、斜面に設置した太陽光パネルにより地域の災害リスクが増すとの懸念が高まり、条例で立地規制を行うなどの動きも出てきた。
一方、その後も、全国的にゲリラ豪雨などによる災害が頻発した。8月に入ると、青森県や福岡県、佐賀県、長崎県、山口県など、9月には長野県などで大雨による家屋の浸水などの被害が発生し、複数の市町村に災害救助法が適用された。
堤防決壊でアレイが大破
広島県竹原市では「令和3年7月豪雨」で7月7日から8日にかけて降り続いた豪雨により12時間の降水量が観測史上最大となった。土砂崩れや道路の陥没、河川護岸の崩壊、住宅地への浸水などの被害が発生した。
この時の水害で同市下野町にある太陽光発電所が被災した。この地域を流れる賀茂川が危険水位を超えて住宅地が浸水したほか、西ノ川の堤防が決壊し、川沿いに設置していた太陽光発電所に土石が流れ込んだ。川に近い南端のアレイ(パネルの設置単位)がほぼ大破した(図3、図4、図5)。
被災した発電所のあったエリアは、もともと市が公表したハザードマップでも、浸水リスクが高い地域に入っており、河川に近い太陽光の被災リスクが顕在化した形だ。
裏山からの土砂崩れで損壊
同市内では山に近い緩やかな斜面にも、住宅地域の遊休地に太陽光発電所が点在しており、その中で小川に沿って設置されたサイトでは、川沿いの法面が崩壊しかかった。同サイトは、敷地全体に防草シートを施工しており、雨による表面流水による浸食にも耐性が高くなっているものの、その分、石積みの法面側に大量の雨水が流れ、小川の増水と合わせて激しく浸食された可能性がある(図6、図7)。
また、竹原市に隣接する東広島市では、山間に立地する低圧連系太陽光が被災した。サイト北側の裏山が大雨で崩れて倒木や土砂が流れ込み、複数アレイが損壊したと見られる。今夏に見た時点ですでに復旧が進んでいたため、「令和3年7月豪雨」より以前に被災した可能性もあり、崖に近い山間立地のサイトでは、敷地が平坦であっても外から侵入する雨水や土砂による被災リスクにも配慮する必要があることを物語る(図8、図9)。
アレイの半分まで浸水
山口市では、8月20日の大雨で仁保川支流の問田川沿いの田んぼと太陽光発電所が浸水した。太陽光は、低圧連系と高圧連系する複数サイトが被災したと見られる。高圧連系する発電所は、太陽光パネル・横置き4段のアレイ(パネル設置単位)を20度程度で設置していた。地面からの設置高は1m程度を確保していたが、アレイ2段目の途中まで冠水した(図10、図11)。
この発電所は、河川水の浸水に備えて、パワーコンディショナー(PCS)や昇圧器も1m程度の高さで据え付けていたものの、これらの設備も水に浸かってしまった可能性もある(図12、図13)。
山口市の公表しているハザードマップを見ると、被災した発電所エリアは洪水浸水想定区域に区分けされていない。ハザードマップでは、仁保川など流域面積の大きい河川について洪水浸水地域を想定しているため、支流である問田川の増水まで考慮していなかったか、今回の浸水が、周辺の排水施設から溢れた雨水が溜まる内水氾濫だった可能性もある。
法面が崩壊して電柱が落下
また、長崎県波佐見町では、段状の造成地に設置した低圧連系太陽光発電所の一部が土砂崩れで損壊した。幹線道路沿いで車窓から見えたため、SNSなどで画像が発信された(図14)。
同町では8月11日から記録的な大雨が降り続き、14日には町内全域の5305世帯に、災害が発生または切迫していることを示す「警戒レベル5・緊急安全確保」が発令された。実際に、河川の増水や土砂崩れに伴う道路の損壊などの被害が発生した。
被災した太陽光発電所は、南北に細長い敷地が4区画、西側に下って棚田のように並んでいる。このうち上から2番目のサイト法面が崩れて、連系用の柱上トランスを備えた電柱が下のサイトまでずり落ちた。このサイトには、太陽光パネル・横置き4段のアレイが20列ほど設置されており、そのうち5~6アレイの西端が、地面が崩落したことでパネル2~3枚分にわたって損壊した(図15、図16)。
同町は、お茶の産地で、周辺には棚田のように造成された茶畑が多い。被災した発電所も、もともと茶畑だった場所を利用した可能性もある。
茶畑から太陽光パネルに変わって保水力が落ちていたなか、記録的な大雨が降り続いたことで、法肩が徐々に浸食され、崩れ落ちたという背景も考えられる。
造成工事に伴う切土、盛り土で形成される法面は、風雨による浸食や風化による影響を受けやすく、どんな工法を採用するか、安定した事業運営のポイントになる。「記録的な大雨」が常態化するなか、あらためて保守的で慎重な設計が求められそうだ。