現地レポート アメリカ太陽光発電の最前線

系統増強に80億ドル、風力・太陽光を需要地に大規模送電

8000マイルの送電線敷設で60GWの再エネ追加

2021/05/07 05:00
Junko Movellan=ジャーナリスト

「米国雇用計画」と連動

 今年4月、米エネルギー省(DOE)は、全国の送電網を強化するために最大82.5億ドルに達する投融資を行うと発表した。具体的には、30万~60万Vの高圧電流を送る基幹送電線を建設する。エネルギー長官のジェニファー・グランホルム氏は、「(この融資プログラムにより)基幹送電線の建設が容易になり、再生可能エネルギー電力の到達範囲、信頼性、レジリエンス(回復力)が高まるとともに、国のクリーンエネルギー資源の導入拡大と活用の阻害要因を取り除くことができる」としている。

 この投融資プロジェクトは、3月末にバイデン米大統領が発表した「米国雇用計画(アメリカン・ジョブス・プラン)」と銘打った8年間で2兆2500億米ドル(約250兆円)の大規模インフラ計画を反映している。このインフラ計画は、気候変動に対応して、「2035年までに100%カーボンフリー電力」、そして「より柔軟性のあるグリッド(電力網)構築」などが含まれている(図1)。

図1●「米国雇用計画(アメリカン・ジョブス・プラン)」に含まれる再エネ導入拡大を可能にする送電網インフラ強化
図1●「米国雇用計画(アメリカン・ジョブス・プラン)」に含まれる再エネ導入拡大を可能にする送電網インフラ強化
(出所:Sarah Harman, U.S. Department of Energy)
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米国は3系統を独立に運用

 米国土木学会(ASCE)のデータによると、米国の送電網システムの大部分は1950年代と1960年代に構築され、それらの平均寿命は50年と想定されている。つまり、既存の送電網は寿命に達したか、それを超えたことになる。

 ASCEは、送電網の経年劣化は、故障率の上昇、広範囲にわたる送電停止、および回復時間の遅延につながる可能性があり、 停止は、公益事業会社だけでなく、この電力に依存している企業や顧客にとっても経済的損失の一因になるとしている。

 米国内の送電網は、西海岸のウエスタン・インターコネクションと東海岸のイースタン・インターコネクション、そしてテキサス州の大きく分けて3つの系統からなっている。これらの送電ネットワークは境界線を越えていくらか電力を融通できるものの、密接に連携するようには設計されていない。

 テキサス州と言えば、今年2月中旬に起きた、大寒波による大規模停電が記憶に新しい。氷点下で寒さが厳しくなり、暖房利用などの電力需要が急激に増加したところに、基幹エネルギーである天然ガスパイプラインや風力発電設備が凍結し、電力供給が滞った。テキサス州の電力網は、近隣の州と繋がっていないため、同州内で電力不足に見舞われた場合、外へ助けを求めることができない。この「電力系統の分断化」は、送電網インフラの改善に向けた投資を促す一因となっている。

22の基幹送電増強プロジェクト

 分断化と老朽化に加え、もう1つ米国の送電網には大きな問題がある。それは送電線の「容量」だ。

 DOEでエネルギー長官を務めるジェニファー・グランホルム氏は、「再エネ電源の出力規模が大きい地域は、電力需要の多い人口密集地から遠く離れていることが多い。そのため、送電容量が不足した場合には、物理的に送電できず再エネの活用が困難になる。送電容量を増強しないと、これらの発電所から需要地に再エネを確実かつ一貫して供給できない」との問題意識から、「クリーンエネルギーが生産された場所から最も必要とされる場所に確実に送電できるよう、DOEは、電力網全体のレジリエンスを向上させ、送電容量を拡大するプロジェクトに資金を提供する」と語った。

 DOEの発表と同時期に、新規の基幹送電線の建設に関した分析レポートが非営利団体である「米国人のためのクリーン・エネルギー・グリッド(ACEG)」から発表された。「すぐに建設可能な送電網プロジェクト:米国の活用されてない再エネ資源へ繋がる」と題するこのレポートには、もし「より好ましい政府政策・規制が実施されると、短期間に着工できる22の基幹送電網プロジェクト」が挙げられている(図2図3図4)。

図2●現在提案されている22の新規・基幹送電網建設プロジェクト
図2●現在提案されている22の新規・基幹送電網建設プロジェクト
(出所:Americans for a Clean Energy Gridの資料を元に筆者作成)
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図3●米国系統運用機関(ISO)・地域送電機関(RTO)の地図
図3●米国系統運用機関(ISO)・地域送電機関(RTO)の地図
(出所:FERC)
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図4●現在提案されている22の新規・基幹送電網建設プロジェクト
図4●現在提案されている22の新規・基幹送電網建設プロジェクト
(出所:Americans for a Clean Energy Grid)
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太陽光と風力で電源構成19%に

 22のプロジェクトすべてが完了した場合、8000マイル(1万3000km)もの送電線が追加され、42GWの発電容量を追加的に送電できるとしている。

 再エネに関しては、これらの新基幹送電網プロジェクトにより、約2億2000万MWhに達する新規の風力および太陽光発電が導入・送電可能になると予測している。出力規模にすると、60GWの再エネが追加できることになる。これは、風力と太陽光発電の設置規模が現在のレベルから50%増加することになり、さらに、風力と太陽光発電が米国総電力供給量に占める割合が11.6%から19%に増加すると予想している。

 送電網の建設では、いつもコストがボトルネックとなるが、ここでの22の新基幹送電網プロジェクトにかかる総コストは330億ドルに上る。

 これらのプロジェクトを現実化するために、ACEGが「より好ましい政府政策・規制」として挙げるのは、投資を促すために連邦政策である設備投資税額控除(ITC)を基幹送電網に適用すること。ちなみに、太陽光発電産業では、2006年にITCが実施されて以来、市場は100倍以上に拡大し、過去10年間だけで年間平均50%の成長を遂げている。ITCは、米国での市場拡大に大きく貢献してきた。

 実際、バイデン大統領の「米国雇用計画」の中にも送電網向けITCが含まれている。バイデン大統領の「2035年までに100%カーボンフリー電力」という具体的な目標に向け、分断化・老朽化し、容量不足などの問題を抱える送電網の課題を、この政権下でどれだけ克服できるのだろうか(図5)。

図5●「米国雇用計画(アメリカン・ジョブス・プラン)」を発表するバイデン大統領
図5●「米国雇用計画(アメリカン・ジョブス・プラン)」を発表するバイデン大統領
(出所:The White House)
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