現地レポート アメリカ太陽光発電の最前線

太陽光パネルで用水路を覆う「ソーラーカナル」構想、全長で13GW

加州研究者が発表、温暖化対策のほか、節水、土地保護、大気質改善の効果も

2021/06/07 22:00
Junko Movellan=ジャーナリスト

水路からの蒸発を抑制

 多様な気候と壮大な自然を満喫できるカリフォルニア州だが、その地形上、地震、津波、偏西風、地すべり、そして山火事など自然災害が多い。それらに加えて、同州はここ数十年、深刻な干ばつの問題を抱えている。

 先月、米国カリフォルニア大学マーセド校から「太陽光パネルで水路(運河と用水路)を覆うことによるエネルギーと水への双方利益」(https://escholarship.org/uc/item/8cj5j07p)という研究論文が発表された。

 その論文の筆者の一人でありカリフォルニア大学サンタクルーズ校(UCSC)で博士研究員を務めるブランディ・マッククイン博士は、「(太陽光パネルが水路を覆う)『ソーラーカナル(用水路)』というアイデアは、カリフォルニアの水と気候の両方にとって、メリットがあることを見出しました。 約 4000 マイル(約6400km)の運河が、州全体で約 3500 万人もの人々と 約570 万エーカー(約2万3000km2)の農地に水を運んでいます。 これらの運河を太陽光パネルで覆うことで、カリフォルニアの最も重要な資源の 1 つでもある貴重な水の蒸発を減らし、州の再生可能エネルギーの目標を達成するのに役立ち、同時に費用も節約できます」と語る(図1)。

図1●カリフォルニア州の大規模な用水路上に太陽光パネルが設置されたイメージ画像
(出所:Solar AquaGrid LLC)
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井戸が枯渇した地域も

 カリフォルニア州では、何年にもわたり深刻な干ばつが続いており、多くの場所で地下水が過剰に汲み上げられ、井戸を枯渇させてしまった。

 同州は干ばつによる水不足に対して、農場、都市、野生生物、生態系への信頼できる供給を維持しながら、地下水の汲み上げを減らすことを既に義務化しており、さらに、 広範な気候変動イニシアチブの一環として、2020 年 10 月、ギャビン・ニューサムカリフォルニア知事はカリフォルニア天然資源庁に、2030 年までに陸域と沿岸水域の 水資源を30% を節水する取り組みを先導するようした。

 マッククイン博士によると、カリフォルニア州の 4000 マイルの運河すべてを太陽光 パネルで覆うと、蒸発を減らし、年間 650 億ガロン(約2460億ℓ)以上の水を節約できるという研究結果が出ているという。 これにより節水できる水の量は、5万 エーカー(約202km2)の農地を灌漑、または、200 万人以上の住宅の水需要を満たすのに十分な量に匹敵すると推測される(図2)(図3)。

図2●世界最大規模の約 4000 マイル(約6400km)に渡るカリフォルニア州の運河ネットワークの地図
(出所:論文より)
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図3●カリフォルニア州の運河ネットワークの一部
(出所:California Department of Water Resources)
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発電効率が3%向上

 実際、カリフォルニア州のこの運河ネットワークを太陽光パネルで覆うと全長でどれくらいの出力容量になるのだろうか?

 この研究によると、約13G Wに達するという。

 2018年にカリフォルニア州議会は、「ゼロエミッション電力目標を設定する上院法案100(SB100)」を可決した。「SB100」では、2030年までに電源構成の60%を太陽光発電など再生可能エネルギーからの供給に転換し、2045年までに電力供給の100%をゼロエミッション電源とすることを義務付けた。

 今年4月現在で同州に設置・稼働済みの発電事業用太陽光発電は14GWなので、「ソーラーカナル」の規模がいかに大きく、同州の再エネ目標の達成に大きく貢献することがわかる。

 ソーラーカナルの利点は、節水だけではない。水は陸地よりもゆっくりと加熱されるため、パネルの下を流れる運河の水によってパネルが 華氏で約10°F (摂氏約5.55℃)冷却され、太陽光発電の発電量が最大 3% 増加する可能性があるという。

 さらに、未開発の土地に建設するのではなく、既存の運河の上に細長く太陽光パネルを設置することで、8万 エーカー(約324km2)以上の農地や自然の生息地がメガソーラー(大規模太陽光発電所)に転用されるのを回避でき、カリフォルニアの水と土地資源の両方について持続可能に貢献できる。

 まだ利点はある。クリーンな空気。

 カリフォルニアは、米国の消費者が食べる果物、ナッツ、野菜の 50% 以上を生産している、農業大国でもある。しかし、多くの農場はディーゼル駆動の灌漑ポンプに依存いており、その結果、カリフォルニアの農業地帯でもある同州中部は、国内で最も大気質が悪く、温室効果ガスの排出と大気汚染が発生している。

 同州に渡る運河のネットワークに太陽光パネルを設置することにより、この温室効果ガスを排出するディーゼルの農業用ポンプを電動式などに置き換えることができるというわけだ。

 節水、クリーンエネルギー、土地保護、大気質の改善など利点が多い「ソーラーカネル」だが、気になるのはコストだ。

インドでは導入例も

 実は、今回の論文の目的は、主要な運河システム全体での蒸発水の節約と財務上の利点を定量化することだった。 世界最大規模であるカリフォルニア州の運河ネットワークは、幅広い気候、日射量、および水の価格が考慮されなくてはならない。

 さらに、太陽光パネルを運河に沿った地上設置に加え、鋼トラス橋とサウペンション(吊り)・ケーブル橋構造の異なる技術で経済性のシミュレーションが行われ、正味現在価値(NPV)が比較された(図4)。

図4●異なる運河用の太陽光発電設置構造。aは 地上架台、bは 鋼トラス橋構造、cは サスペンション・ケーブル橋構造
(出所:論文より)
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 マッククイン博士は、「インドのグジャラート州で使用されているものと同様の鋼製トラスシステムを使用する場合は、コストが(3つの構造の中で)最も高くなります。 インドのパンジャブで使用されているものと同様の吊りケーブルを使用したケースでは、鋼トラス設計よりも(コストが) 40% 安価でしたが、従来の地上設置システムよりも依然として高価でした。しかし、システム双方の利点を財務分析に加えると、吊りケーブル設計が最高のNPVを示しました。 双方の利点には、運河のより涼しい環境による 太陽光パネルの効率向上、太陽光パネルによる日陰が水生雑草の成長を軽減、そして、日陰により蒸発が減少することによる節水が含まれます」と説明する。

 マッククイン博士がこう語るように、現在でもインドではこうした運河上への太陽光パネルが設置されている例がある。一方、カリフォルニア州ではまだ部分的にも「ソーラーカネル」の導入例はないという。

 ただ、同博士によると、「ソーラーカネル」プロジェクトに対しては、すでに州の高官や地方の水道局から関心が寄せられているという。