現地レポート アメリカ太陽光発電の最前線

太陽光の大量導入を支える「古いテクノロジー」!?

「揚水式水力」が長周期のエネルギー貯蔵として再評価(前半)

2020/09/08 05:00
Junko Movellan=ジャーナリスト

「長周期」の調整力不足が露呈

 このコラムの前回記事(米加州で大停電!、再エネ導入で前進も系統の安定運用が後手に)で、米カリフォルニア州が「温室効果ガス(GHG) 排出フリー電源システム(ゼロ・エミッション)への移行」を達成するため、太陽光発電の導入拡大と化石燃料による火力発電所の廃止を同時に進めるが故に、系統運営に問題が生じている実態を取り上げた。

 一方、昼間に太陽光発電からの電力を充電し、夕方のピーク時に放電できるリチウムイオン電池がメインとなるエネルギー貯蔵テクノロジーが、天然ガス火力の代替に再エネを増やしていく上で重要な役割を果たす、という方向性をこれまでのコラム記事で再三、触れてきた。

 住宅用蓄電池、さらに発電事業用のリチウムイオン電池と言えば、米国の著名起業家で、話題に事欠かないイーロン・マスク氏の創業した企業「テスラ」がまず頭に浮かぶであろう。

 テスラの住宅用蓄電池「パワーウオール」、発電事業用蓄電池「パワーパック」は、革新的な蓄電テクノロジーとして、人をワクワクさせ、市場を斬新に変え、大きなシェアを占めることが期待されるものだ。

 しかし、今回、カリフォルニア州で起きた大規模停電で、重要性が評価されたのは、こうした新タイプの蓄電テクノロジーばかりではない。大停電で、明らかになった課題の1つは、長時間での需給バランスの改善に効果のある「長周期エネルギー貯蔵」の必要性である。こうした長周期エネルギー貯蔵テクノロジーで最も活用されているのは、実は「古いテクノロジー」である揚水式水力発電である(図1)。

図1●米加州で最大規模の揚水式水力発電 (1212MW) が導入されているウイスホン湖
(出所:California Energy Commission)
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蓄電池の貢献は「ゼロ」!?

 米国でエネルギー貯蔵市場が立ち上がった当初は、調整力市場を通じて、短時間の充放電で生み出した調整力を系統運用事業者に提供する「アンシラリーサービス」がメインで、同サービス用には、「短周期」向け需給改善システムが活用された。

 近年では、カリフォルニア州やニューヨーク州など多くの州政府がエネルギー貯蔵設備の導入を義務化し、 昼間に太陽光発電からの電力を充電し、夕方のピーク時に放電する「シフト目的」の長周期対策での使用が拡大している。しかし、昼間から夕方以上のもっと長期の時間、または数日をカバーできるエネルギー貯蔵が注目され始めた。

 ちなみに、定格放電時間が0.5時間未満を「短周期」、2時間までを「中周期」、そして4時間以上を「長周期」と、一般的に分類されているが、カリフォルニア州の気候とクリーンエネルギー 目標達成に向け長周期エネルギー貯蔵テクノロジーを支援するカリフォルニア長周期エネルギー貯蔵協会(LDESAC) は、4時間周期を短周期としており、長周期エネルギー貯蔵は少なくとも「8時間」電力を供給できるものとしている。

 カリフォルニア・エネルギー貯蔵アライアンス (CESA) よると、エネルギー貯蔵は、同州における電力系統のピーク需要を満たすのにひと役買っているものの、リチウムイオン電池などのエネルギー貯蔵は、同州でも導入の初期段階にあるため、州全体の需要に対してわずかな容量しか貢献できていないという。

 カリフォルニア州で停電が発生しちゃ今年8月14日の電力供給を見てみよう。同州の送電系統を管理するカリフォルニア独立系統運用機関(CAISO)のデータによると、同日の最大供給出力は4万7051MWで時間帯は午後5時ちょうどだった。

 最大供給出力時の電源構成は、53%が天然ガス火力、22%が再生可能エネルギー、そして17%が隣接する州からの輸入電力となっており、エネルギー貯蔵(水力を除いた)による供給は「0%」だった。ちなみに水力は8%貢献している。1日を通してみても、全体の48%は天然ガス、19%は再エネ、同じく19%が輸入で、やはりエネルギー貯蔵は0%である(図2)。

図2●8月14日におけるCAISOでの時間別・テクノロジー別の電力供給出力(MW)(緑線=再エネ、肌色線=蓄電池、オレンジ色線=ガス火力、赤色線=州外からの輸入、水色線=大規模水力)
(出所:CAISO)
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「1.3GWの揚水」を新規計画

 ただ、この統計では「エネルギー貯蔵」はパーセントとしては「ゼロ」だが、まったく貢献しなかったわけではない。まだまだ充放電量が少なく、全体から見ると微々たる量なので、グラフ上に表れていないのだ。

 蓄電池のみを集計した公表データを見ると同日最高供給出力(放電)は「午後6時40分の147MW」で、最低供給出力(充電)は「午後10時のマイナス179MW」になっている。火力発電は長時間、電力を供給しているが、蓄電池の供給時間は2時間が最大である。どちらにしろ、加速的に増える太陽光発電の余剰出力を吸収し、天然ガス火力の需給調整力を代替できるレベルにほど遠い(図3)。

図3●8月14日におけるCAISOでの時間別・蓄電池による電力供給出力(放電)(MW)
(出所:CAISO)
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 同州の電力事業者の規制を受け持つカリフォルニア州公益事業委員会(CPUC)の「2019−2020年資源総合計画(Integrated Resource Plan =IRP)」には、2045年までに100%再エネと排出フリー電源を達成するためには、少なくとも70GWのエネルギー貯蔵が必要との分析結果を出しており、さらに2030年以降に必要になるエネルギー貯蔵は少なくとも6~8時間、または数日、季節間をカバーできる長い放電時間が必須としている。

 カリフォルニア長周期エネルギー貯蔵協会(LDESAC)でエグゼクティブ・ディレクターを務めるジュリア・プロチニック氏によると、現在同州には4GWの長周期エネルギー貯蔵がありその容量のほとんどは8つの既存する揚水式水力発電により供給されている。

 プロチニック氏は、長周期エネルギー貯蔵の重要性と、揚水式水力の新規計画について以下のように語った。

 「カリフォルニア州のロサンゼルス市は、先月起こった、停電を同州南部にある『カスタイック揚水式水力発電』を稼働することによって回避できました。しかし、カリフォルニア州全体を守るためにはまだまだ系統スケールのエネルギー貯蔵が必要です」。

 「いくつかの新規の長周期エネルギー貯蔵が今、そのギャップを補うために提案されています。その1つは『イーグルマウンテン揚水式水力発電』で、州の停電に備えた十分な電力を充電し、放電できます。この設備は1300 MW(1.3GW)の容量で、18時間にわたり2万3400 MWhの電力を供給できます」。

 「化石燃料への依存を減らし、気候目標を達成するために、カリフォルニア州は、太陽光や風力発電といった、出力変動のある再エネを今後さらに、系統に統合していきます。それに伴い、州内にクリーンで信頼性の高い電力を十分に保証するためには長周期エネルギー貯蔵が必要です。 州が、グリッドの脱炭素化、そしてガス火力を転換する中、長周期エネルギー貯蔵は、グリッドの信頼性を確保する基本となるでしょう」(関連記事:「揚水式水力」が長周期のエネルギー貯蔵として再評価=後半、太陽光への出力抑制率が12%に、季節を超えた貯蔵に期待)。