太陽光「過剰設備」と「出力抑制」で発電コスト削減!?
「暗黙のストレージ」で、蓄電池の容量を減らす
「再エネ100%」実現戦略を分析
「過剰な設置と出力抑制でクリーン電力100%を達成する」という、何ともショッキングなタイトルのウエビナー(WEB 上でのセミナー)が今月中に15日間、開催された。主催者は、クリーン・エネルギーを推進する非営利連合である米クリーン・エネルギー・ステイツ・アライアンス(CESA)である。
電力会社では、必要以上の「過剰な発電所」は無駄な投資であり、太陽光を含む発電事業者にとって「出力抑制」は収入の減少を意味する。「過剰な設備と出力抑制」を推奨するようなセミナータイトルには、誰しも違和感を持つだろう。
この発表は、電力需要を100%再生可能エネルギーで賄うための研究活動の一環になる。具体的には、クリーン・エネルギーに関するリサーチを行う米クリーン・パワー・リサーチ(Clean Power Research)が、米中西部の地域送電機関(RTO)であるミッドコンティネント独立システムオペレーター(MISO)のサービス地域全体で再エネ100%を模索する研究・調査分析の一部である。
この分析の結果としてMISO地域において、太陽光と風力発電の「過剰な建設と出力抑制」が最も費用対効果の高い「再エネ100%」実現戦略であることを示した。
「再エネの拡大と迅速な送電」を効果的に実現することを目指し、発電設備のテクノロジーと最適な導入量、そして需給バランスを調整するテクノロジーを見出すため、シナリオ分析が行われた。クリーン・パワー・リサーチでリード・アナリストを務めるマーク・ペレズ氏がそれぞれのシナリオと分析結果を発表した。
なぜ「暗黙のストレージ」なのか?
まず、(1) 発電設備のテクノロジーには、太陽光と風力発電、(2) 需給バランスを調整するテクノロジーには、リチウムイオン蓄電池などの電力貯蔵、そして「暗黙のストレージ(貯蔵)」との位置づけで「過剰な発電設備」とその「出力抑制」を考慮した。どうして「暗黙」と呼ぶのかという質問にペレズ氏は、「過剰な発電設備と出力抑制は、事実上、需給バランスを調整する機能を持っているから」と答えた。
シナリオでは、太陽光と風力発電、さらに電力貯蔵のコストを大きく左右するテクノロジーの発展度合いを、2025年に「高いケース」「低いケース」、そして2050年に「高いケース」「低いケース」の4つのシナリオも加えた。
ちなみに、シナリオ別の発電事業用太陽光発電の資本的経費(Capex)は以下のようになっている(図1)。
風力適地ミシガン州の分析結果
「2050年・テクノロジー発展度・高い」シナリオでは、2050年には太陽光発電の開発が大きく進展し、資本的経費が大幅に低くなる。その結果、2050年には太陽光発電が「テクノロジーのチョイス」となり、さらに、風力発電の開発が浸透している地域でも、太陽光を導入する方がコスト面で利点があると、ペレズ氏は説明した。
さらに、MISO全体、3つの地域に分けたもの、さらに、10のゾーンに分けて分析した。これら条件・要因をもとに分析し、再エネ100%を達成するための「最適化」は、均等化発電コスト(LCOE)を使って比較した。
ここでは、分析結果を簡単に説明するために、MISOの10ゾーンの一部に当たるミシガン州を例に挙げる。ミシガン州は、米中西部に位置し、五大湖に隣接している。緯度は日本の北海道とほぼ同じで、太陽光よりも風力発電の方が、潜在的な資源量がはるかに大きい(図2)。
「太陽光のみ」では大規模な貯蔵が必要
まず、最初のシナリオの前提は、2025年にテクノロジーの発展は低く、再エネ100%を太陽光発電のみで達成するケース。100%を満たすためには、出力66GWの太陽光発電が導入される。
当たり前だが、日没後に発電しない太陽光のみで100%の電力を賄うためには、電力貯蔵が必須となる。夏季の7月第4週目のある1日を例にとって見てみると、日中の余剰を蓄えるために出力41GW、そして夕方以降に放電するためには出力17GWの電力貯蔵が必要となる。
ペレズ氏によると、この規模で充電できるストレージは水力発電になるという。その週の電力供給の日内変動を緩和するためには、4時間分(容量230GWh)の電力貯蔵設備が必要になるという(図3)。
太陽光発電は日内変動よりも大きな問題がある。それは季節的なインバランス(需給の不一致)だ。ペレズ氏によると、この季節的インバランスを緩和するためには、なんと205時間(容量13.5TWh)分の電力貯蔵設備が必要になるという。
この大容量の電力貯蔵の必要性により、このシナリオのLCOEは、「177セント/kWh」と大変に高コストとなっている。ただ、このシナリオでは全ての発電量を電力貯蔵に充電するので、出力抑制率は「0%」である(図4)。
過剰設置で蓄電池は削減
この同じシナリオ下で、太陽光発電を「オプティマル(最上・最適)」レベルで「設置し過ぎる」ことでコストを低減できるだろうか? 前のシナリオで導入した66GWの2.6倍となる174GWを過剰に設置し、大規模な出力抑制をかけると、電力貯蔵の必要容量が大幅に減少できる。実際、蓄電池の容量は4時間分(容量719GWh)まで小さくなっている。
このシナリオのLCOEは「26.9セント/kWh」と、大幅に発電コストが下がっている。つまり、全ての太陽光発電を電力貯蔵に充放電するより、太陽光発電を過剰に設置し、出力抑制をオプティマルレベルで実施するほうが、 もっともコスト的に効率がよいという結果になる。ちなみに、総発電量に対する出力抑制率は約60%にもなる(図5)。
次は、前回のシナリオ(太陽光のみで過剰・2025年テクノロジー低い)で、テクノロジー発展度を、「2050年に高い」に変えてみると、LCOEが70%削減され、「7.9セント/kWh」になる。
今度は、このシナリオ(太陽光のみで過剰・2050年テクノロジー高い)のうち、発電設備を「太陽光」から「風力」に変えたケースを見てみよう。分析データによると風力発電は太陽光と全く反対の季節性を示していて、冬季には発電量が「過剰」となるが、夏季には大きな不足が生じる。
風力に変えたシナリオ(風力のみで過剰・2050年テクノロジー高い)だと、風力の過剰設置によって夏季の長期供給不足を回避できる。このシナリオで導入する風力発電は73GWで、大容量蓄電池によって出力抑制をなくした「風力のみ」ケース(図2の表になし)に比べて2.7倍の設置量となる。過剰設置に出力抑制を付け加えることで、LCOEは、太陽光発電の設置過剰シナリオに比べ86%低い「6.2セント/kWh」になる。このシナリオで必要な電力貯蔵は3時間(容量239GWh)となっている。
「太陽光+風力」の過剰設置が最安
最後に、太陽光と風力発電のハイブリッドシナリオ(太陽光と風力で過剰・2050年テクノロジー高い)を見てみる。このケースでは、オプティマルレベルの過剰設置量に加え、太陽光と風力のオプティマルなハイブリッド比率も分析している。
結果は、太陽光と風力の発電量が37%対63%。設備出力でみると、太陽光42GWと風力28GWとなっている。このシナリオで必要な電力貯蔵は6時間分(容量419GWh)で、LCOEは、太陽光の設置過剰シナリオに比べ52%低く、風力の設置過剰シナリオに比べ24%低い「4.7セント/kWh」になる。さらに、出力抑制率も太陽光発電のみよりも低い40%となっている。
太陽光のみ、風力のみではなく、これら2つを併用し、過剰建設と出力抑制を「暗黙のストレージ」として機能させ、相対的に小規模な貯蔵設備を使うことで、100%準備万端な電力を24時間365日確実に提供できる、ということになる。
これは従来のイメージからは「発見」にも思える。日本では、蓄電池を含め需要を超える過剰な再エネ設備や、出力抑制される再エネ電力を「もったいない」として「回避すべき状態」とする認識が強いが、今回の分析からは、LCOEを抑える費用対効果の点で、推奨されるべき状態ということになる。