メガソーラーの番人、先進的O&Mの現場

牛舎近くの岡山・美咲町の太陽光、ロボット洗浄の効果は?

売電額の1%弱で約9000枚を洗い、売電額は1割弱増える

2020/07/22 05:00
加藤 伸一=日経BP 総合研究所 クリーンテックラボ

 岡山県久米郡美咲町の山あいに、太陽光パネルの出力が約2.37MW、連系出力が1.98MWのメガソーラー(大規模太陽光発電所)「PVNext EBH 美咲町発電所」がある。

 このメガソーラーで6月中旬、太陽光パネルの洗浄が実施された。9130枚の太陽光パネルすべてを純水で洗った(図1)。

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図1●9130枚の太陽光パネルを純水で洗った
色の違いからも汚れが落ちていることがわかる。このアレイは、奥から手前に向けて洗浄している(出所:日経BP)

 発電事業者は、特定目的会社(SPC)のヴェガ・ソーラー合同会社で、エンバイオ・ホールディングス(エンバイオHD)が全株を所有している。

 元々、ネクストエナジー・アンド・リソース(長野県駒ケ根市)と共同で開発した発電所で、エンバイオHDは当初からSPCに出資していた。2015年9月に売電を開始した後、2018年3月にエンバイオHDがネクストエナジーの持ち分を買い取った。

 「PVNext EBH 美咲町発電所」は、山あいに位置し、北隣りに牛舎が立地している(図2)。売電を開始してから、太陽光パネルの表面を覆うカバーガラスが汚れたり、度々割れたりしており、その対応に悩んでいた。

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図2●山あいにあり、牛舎が近くカラスの飛来も多い
(出所:上と中は日経BP、下はエンバイオHD)
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 汚れは、山林特有の草木や土に伴うものに加えて、牛の餌を目当てに牛舎に集まってくるカラスのフンによるものだった。カバーガラスが割れる原因は、そのカラスが石をくわえて飛来し、太陽光パネル上空から落とすことだった。

 まず、カラスの飛来に対策を打った。上空に向けて光を発するLEDライトを備えた機器を架台の高い位置に取り付け、カラスの嫌がる色やパターンの光を上空に向けてランダムに発する。この対策がある程度効き、カバーガラスが割れる太陽光パネルの数は激減した。

 そして今回、汚れへの対応として、太陽光パネルの表面を洗った。共同開発元でもあるネクストエナジーが洗浄作業を担当した。

 洗浄に際して、ネクストエナジーは、「年間売電額の約1%の洗浄コストで、洗浄後の年間売電額が1割弱増える」という試算を示した。エンバイオHDにとっても利点を感じる内容だったことから、洗浄を委託した。

 同発電所の固定価格買取制度(FIT)による売電単価は40円/kWh(税抜き)である。洗浄によって、2020年の売電額は約1億1670万円に盛り返すと算出した。2019年の約1億1000万円に比べ、約670万円の増収になる。

 エンバイオHD、ネクストエナジーともに、この発電所の稼働後の状況から、太陽光パネルの汚れによる影響が小さくないと考えていた(図3)。

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図3●「PVNext EBH 美咲町発電所」の発電量、日射量、PR値の推移
2018年10月のPR値(赤丸で囲まれている部分)は、何らかの計測のトラブルによる異常値(出所:エンバイオHD、ネクストエナジー・アンド・リソース)
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 「発電できた可能性のある最大発電量」と「実際の発電量」の差を示す、システム出力係数(Performance Ratio:PR)の値も、パネルの汚れによる影響の可能性を示していた。この発電所では、所内の日射計の計測値を基に「発電できた可能性のある最大発電量」を日ごとに試算し、パワーコンディショナー(PCS)単位での「実際の発電量」と比較している。

 PR値は、太陽光パネル単位で表面温度や日射量、風の状態などを正確に計測し、それらを基に算出しないと、実測値と誤差が生じる。季節による変動もある。場合によっては日射計のトラブルとみられる異常値を示すこともある。そこまで加味して多数のセンサーを導入して計測している発電所はまずないので、あくまで参考値となる。

 そこでネクストエナジーでは、同発電所のPR値の推移から近似曲線を作成した。その結果、変動要因による幅を考慮してもPR値が徐々に下降している傾向がわかった。

 このPR値の推移のグラフを見ると、例年、2~4月にかけては比較的良好で、5~12月ころは平均的だが、1月にガクンと落ちている。こうした月ごとなどの短期的な傾向はあまり参考にならず、長期的な傾向で捉えるのに適した指標という。

 ネクストエナジーによると、季節性などの例として、この発電所で毎年1月が極端に低いのは積雪の影響が大きいと推察している。

 5月以降、日射量の多い時期にそれほどPR値が高くならないのも、気温が高いために太陽光パネルの温度が高くなり、結晶シリコン型の太陽電池セル(発電素子)の効率が下がることや、雑草や落葉による影などの要因も考えられるという。

 洗浄の作業は4日間でほぼ完了した(動画図4)。洗浄ロボットのほか、水と純水製造機を持ち込んで現地で生成した純水を使い、アレイ(太陽光パネルを架台に設置した単位)ごとに洗った。ロボットは、ラジコンで操作する。

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図4・動画●洗浄作業の様子
下の2段の画像のアレイは、奥から手前に向けて洗浄している(出所:日経BP)

 洗浄ロボットは、ここ数年間で進歩しているようだ。登場した当初は、アルミフレームの段差を乗り越える時に、ガタンガタンという大きな音を伴う機種が目立った。試験的に洗浄した際、この音を聞いてセルにマイクロクラック(微細な割れ)が生じるのでないかと懸念する発電事業者やO&M(運用・保守)サービス事業者も多かった。こうした懸念は、ほぼ解消されているように見える。

 敷地面積が広いことから、純水を送るホースの長さがロボットの移動を制約する場面も出てくる(動画の後半)。こうした場所は、翌日以降にホースの配置を変えて洗浄した。

 とはいえ、ロボット洗浄においても、まったく人手が不要というわけではない。ロボットをアレイに設置する作業、鳥のフンなどの固着が強い汚れを和らげる作業、パネルの隙間から伸びている雑草の除去などは人手に頼っている(図5)。

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図5●ロボットの移動、固着が強い汚れの緩和などは人手で
(出所:日経BP)
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 今回の洗浄から、約1カ月間が経った。発電量への影響は、梅雨という時期もあって変動要因が大きく、やはり年間レベルで評価したいという。

 ただし、洗浄前後のPR値には、すでに変化の兆候が表れている(図6)。洗浄開始日である6月17日~7月16日の1カ月間の前年(2019年)との値を比べると、洗浄後の2020年のPR値は82.8%となり、前年同期間の75.0%から7.8%ポイント高くなっている。

図6●洗浄後1カ月間の推移
(出所:エンバイオHD、ネクストエナジー・アンド・リソース)
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 ネクストエナジーによると、気温が約2℃低いという有利な条件はあるものの、そうした条件だけでここまで回復するとは考えにくく、洗浄の効果として自信をもって示せる数値としている。

 稼働した初年度のPR値が81.8%で、これと同水準に戻ったとみている。

土嚢やブロック塀で豪雨に対応

 この太陽光発電所では、排水対策も追加している。豪雨などによって、雨水の流れる水道(みずみち)ができやすい場所への対策である(図7)。

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図7●土嚢やブロック塀を追加
(出所:日経BP)
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 想定外の水道は、地面を削るだけでなく、土が流れ出ることで、基礎を支える地耐力が下がるリスクもある。

 中国地方ではここ数年、観測史上、最高レベルの豪雨に見舞われ、災害が相次いでいる。同発電所でも、地面が雨水で削れて深い溝ができ、架台を支える基礎の周囲が深く浸食されてしまった場所もあった。

 これに対応し、土嚢を敷き詰めたり、ブロック塀を追加したりするなど、新たな排水対策を早めに打っている。