メガソーラーの番人、先進的O&Mの現場

イノシシが避ける「嫌な匂いのテープ」、太陽光でも活用はじまる

ゴルフ場で実績、架台の支柱に張り付け、2~3カ月効果持続

2020/11/04 11:20
加藤 伸一=日経BP 総合研究所 クリーンテックラボ

 太陽光発電所は、自然が豊かな山林の近くに立地することも増えてきた。工業団地の空き区画といった平坦な用地が少なくなったためである。山林には鳥や動物が多く生息している。そのような場所に太陽光発電所が完成すると思わぬ来訪者もやってくる。

 山林に近いサイトでは、キツネやサル、イノシシ、シカなど大型哺乳類が敷地内に入ってくることも多い。動物たちにとっては、それまで走り回って活動してきた場所である。発電所ができた後も、そこを活動範囲にするのは無理からぬことと言えよう。

 もともと里山に棲む動物は、人の気配がしなければ、街中や畑に入り込むことも多い。住宅の食料や畑の農作物が盗まれたり食べられたりする被害も珍しくない。

 2020年は、新型コロナウイルス感染症の拡大防止策として、人の屋外活動が減っている。この影響もあって、山林に近い地域では、例年以上にサルやイノシシ、シカ、クマなどが人里に降りているとみられ、物的な被害や死傷者も多く報じられている。

 このうちイノシシが太陽光発電所の敷地内に入ることで、発電事業者が困るのは、至る所で地面を掘り込むことにある。鼻を使って、大きな穴を掘っていく(図1)。

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図1●イノシシが地面を掘り込んだ跡
防草シートを破って地面が掘り込まれている。防草シート上には、イノシシの足跡が見える。長崎のメガソーラーにおける例(出所:日経BP)
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 地面に穴を掘るのは、エサとなるミミズや虫の幼虫を獲るためのようである。こうした地面を掘る行動が習慣になっている面もあるようだ。

 太陽光発電所では、基礎の下や近辺を掘り込まれてしまうと、基礎を支える土が減ってしまい、想定していた地耐力が失われる恐れがある。また、土を掘る際に、防草シートに大きな穴を開けることがある。

 いずれも、設計時に想定していた基礎や防草シートの機能を損ない、安全面への影響のほか、保守作業の効率を悪化させることになる。

 また、子連れのイノシシの場合には、親が人に突撃して襲うことがある。太陽光発電所の敷地内に入り込んだ場合、点検従事者などがこの危険にさらされる。

 発電事業者のなかには、対策を講じている場合もある。イノシシによる被害の先達である、農地やゴルフ場などにおける撃退手法を参考としてきた。

 イノシシが敷地内に侵入してくるルートには、フェンスを飛び越えるか、フェンスと地面のすき間から入り込むか、2つしかない。

 外周のフェンスを飛び越えて侵入してくることへの対策では(図2)、イノシシがジャンプしても跳び越せないような、できるだけ高いフェンスを選ぶことがまず考えられる。対策として、高さ2m程度のフェンスを採用することが多い。

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図2●できるだけ高いフェンスを選び(左)、忍び返し(右)をつける
和歌山のメガソーラーにおける例(出所:日経BP)
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 さらに、「忍び返し」と呼ばれる、敷地の外に向けて折り曲げたような部材を追加する場合もある。イノシシから見ると、柵の上に向かって飛んでも、飛び越えられないように見え、抑止策になる。それでも、飛び越える例も報告されており、侵入を完全に防げるわけではない。

 フェンスの下からの侵入を防ぐ方法には、電気柵や有刺鉄線がある(図3)。

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図3●電気柵(左)、フェンスの下に張った有刺鉄線(右)
和歌山のメガソーラーにおける例(出所:日経BP)
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 電気柵は、動物にとって高い電圧が流れており、侵入しようとするイノシシに嫌気を起こさせる効果を狙う。有刺鉄線は、フェンスの下に張る。フェンスの下を潜って侵入することを防ぐ。

 一定の効果はあるものの、それでもフェンスの下から、イノシシは侵入する。フェンスの下の土を掘って地面に穴を開け、敷地内に入ることがある。

 掘り込みを防ぐために、フェンスの外に分厚いシートを敷き詰めたメガソーラー(大規模太陽光発電所)もある。

 それでも動物の侵入を完全に防ぎきることはできない。万全の対策はなく、イタチごっことなる。現実には、いくつかの対策を組み合わせて本当に困る場所だけは掘られないように防ぐ、という対応になっていることが多い。

 このような中、イノシシが嫌がる匂いを使う手法も広がりつつある。ゴルフ場などで活用されてきた手法である。

 例えば、メガソーラー(大規模太陽光発電所)向けに除草剤の供給実績を伸ばしているレインボー薬品(東京都台東区)では、除草剤の顧客である太陽光発電所からの相談を通じて、こうしたイノシシ除け効果のあるテープが太陽光発電所向けに広がり始めたという(図4)。

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図4●イノシシ除けのテープ
不織布に匂いがしみ込んでいる(上)、張り方のコツ(下)(出所:レインボー薬品)
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 同社が販売しているのは、青色の不織布のテープである。不織布には、イノシシの嫌がる匂いをしみ込ませてある。

 この不織布のテープを張ると、その場所に近づいたイノシシは、匂いを嗅ぎつけて嫌がり、近づかなくなるという(動画)。イノシシの鼻に近い位置となる、地上20~30cm程度の高さに、たるまないように敷設するのが望ましい。イノシシの嗅覚の良さ、記憶力の良さを逆手にとって活用する発想である。

動画●イノシシが避けている様子がわかる

(出所:レインボー薬品)

 この匂いは、人間にとってはそれほど嫌なものではない。

 テープが青色なのは、イノシシが認識しやすい色のためである。嫌な匂いがする場所を視覚的にも認識しやすくする。

 同社は元々、このテープをゴルフ場の顧客を想定して製品化した。ゴルフ場の場合、芝に穴を掘り込まれてしまうと、営業面で直接的な損害につながる。イノシシによる被害が最も深刻な分野の1つといえる。

 ゴルフ場の場合、電気柵やフェンス周辺の対策に加えて、グリーンなどイノシシに掘り込まれたくない場所は、夜間は厚いシートで覆い隠す手法も講じている。ただし、このシートの着脱作業を毎日繰り返すのは、作業者の身体的な負担が大きく、優先度の高い場所だけに限定されている。

 シートの代わりに、イノシシ除けのテープが使われるようになっている(図5)。シートの敷設に使われていたピンを支柱に使い、これを4本建ててテープを張って囲う。この四隅の中には、イノシシが入り込まなくなる。

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図5●ゴルフ場における活用例
イノシシに掘り込まれて損傷した芝(上)、四隅をピンで囲って設置(中)すると、1カ月後には芝が生えて元に戻り始めたことがわかる(下)(出所:レインボー薬品)
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 不織布のテープにしみ込んだ匂いそのものは、1カ月間程度で減退していく。しかし、イノシシはその場所と匂いを記憶しているので、実際には2~3カ月間は効果が続くようだ。

 同社の除草剤のユーザーである太陽光発電所から、イノシシ対策を相談された際、このイノシシ除けテープを提案したところ、この発電所は提案を受け入れて採用した(図6)。

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図6●ゴルフ場跡を活用したメガソーラーにおける活用例
イノシシに掘り込まれ(上)、フェンスは破られた(中)。その後、外周のフェンスに張った様子(下)(出所:レインボー薬品)
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 この太陽光発電所は、山あいのゴルフ場跡地に立地している。稼働後、イノシシが敷地内に侵入し、地面を掘り込む被害が続いていた。

 地面を掘り込まれることによって、基礎の地耐力が低下してしまうことや、電線などの損傷を懸念していたほか、日々のO&M(運用・保守)の作業に支障も出ていた。

 この太陽光発電所は、比較的念入りに点検や草刈りを実施している。点検従事者が歩き回る際に、イノシシが掘り込んだ穴は足元を不安定にし、注意深く歩かないとつまずいて足をくじいたり、転倒したりするといった事故の原因になりかねない。

 草刈りでは、イノシシが掘り込んだ穴が起伏となり、乗用型草刈機を使えない場所が出てきていた。こうした場所は刈払機や手作業で除草することになり、作業時間が長くなり作業者の身体的な負担も増す。

 この発電所では、外周のフェンス下部のほか、敷地内でも接続箱の周辺をはじめ、掘られると本当に困る場所については、架台の支柱にテープを張って囲んだ。本来は、敷地全体に張ることが望ましいが、コストや作業性を考慮して優先順を決めた。

 張った場所では、イノシシが掘り込むことがなくなり、効果が表れているという(図7)。

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図7●アレイ下に張った例
(出所:レインボー薬品)
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