メガソーラーの番人、先進的O&Mの現場

予防保全を徹底、理想は「変動要因は気象のみ」、オリックスのO&M子会社

洗浄を年1回、パワコンの基幹部品まで備蓄

2020/11/25 07:00
加藤 伸一=日経BP 総合研究所 クリーンテックラボ

 太陽光発電所の理想的な運営や管理の姿は、発電ロスは常に最小で、不具合が起きる可能性を最小に抑えており、かつ、安全性もできるだけ高いというものである。

 発電設備の状態を細かく把握することで、高い精度で発電量を予想できる利点にもつながる。

 そのためには、発電所の運営に関する状況を網羅的に把握し、例えば、不具合であれば、わずかな兆候の段階で根本的に対処することが望ましい。自らコントロールできない敷地外の原因によるトラブルについても、迅速な対応が必要になる。

 こうした運営は、火力発電などの既存の電源や、大規模なプラントや工場などでは、比較的高い水準で実現されていると思われる。

 太陽光発電でも、こうした理想的な運営を目指す発想を持つ発電事業者はいる。しかし、歴史が浅く、O&M(運用・保守)の知見やインフラも限られているため、現時点でこうした運営を実現できている発電所は少ない。

 一部、ベンチャー企業や同族経営の中小企業などで、企業トップがこのような発想を強く持ち、トップダウンでこうした運営を志している例があるが、現時点では珍しい例となっている(関連コラム1:エネルギー・ITベンチャーによる「不良ゼロ」目指すメガソーラー、同コラム2:「水を抜く池」で低圧・水上太陽光、「両面発電」「パネル毎監視」も採用、同コラム3:「きめ細かな保守」で事業性を高める、みやま市・佐賀市のメガソーラー)。

 このような中、国内トップクラスの運営規模を持つ、オリックスグループのオリックス・リニューアブルエナジー・マネジメント(OREM:東京都江東区)が、こうした理想的な運営に取り組んでいる(図1)。

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図1●太陽光パネルと接続箱の点検の様子
(出所:オリックス・リニューアブルエナジー・マネジメント)
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 OREMは、オリックスグループが運営している太陽光発電所のアセットマネジメント(AM)やO&Mサービスを担当している。2018年に設立された。

 オリックスは、国内でトップクラスの規模で太陽光発電所を開発・運営しており、OREMがO&Mを担当している太陽光発電所は86カ所・合計出力約450MWに達する。

 同社は、AMに関わりながらO&Mを受託することにこだわる。これによって、理想的に近い発電所運用を実現できると考えているからだ。

 一般的な太陽光発電のO&Mサービス企業の場合、年1回の巡視・点検や、緊急時の現地への駆けつけ、年に何回と回数を決めた草刈りといった内容でサービスを提供している。

 中には、現地で気づいたことやその適切な対処策を発電事業者に助言するO&Mサービス事業者もある。しかし、それでも、あくまで発電事業者に対してO&Mに関わる「作業の提供」「トラブルへの単発の対応」の範囲にとどまってしまう。

 これに対して、OREMが志向するのは、「長期間の運営において、事業性を最大に高めるためのO&Mを包括的に提供すること」にある(図2)。

図2●アセットマネジメントにも関わり、O&Mを一任してもらう
(出所:オリックス・リニューアブルエナジー・マネジメント)
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 KPI(重要業績評価指標)の達成を条件に、発電所ごとにサービスの提供内容や修繕計画などまで一任してもらい、自社の判断で実行するO&Mに取り組んでいる。発電事業者との信頼関係なしには実現できない仕組みで、オリックスグループならではの利点が生きている。

 特に「予防保全」を重視している。O&Mの費用としては短期的に高く感じる額になるが、売電ロスの要因を解消することで、発電事業者にとっては、売電額の増加分(なりゆき運用時と比較した売電収入改善効果)の中から十分に賄える範囲になり、長期的に事業性が向上するイメージだ。

 設立から2年の現状で、現在受託しているオリックスの合計約450MWの発電所に関して、受託してから5年以内に売電額の増加分によって同社によるサービス費用が相殺されて実質ゼロになる見通しが立っているという(図3)。

図3●売電収入の改善分でO&Mコストを相殺できる
(出所:オリックス・リニューアブルエナジー・マネジメント)
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 具体的には、2018年のOREM設立時に受託した際、それ以前のO&Mコストは発電所全体で実質的に約3300円/kWだった。これを同社が受託して、独自の判断による予防保全や修繕などのO&Mサービスを実施していくことで、設備の不良などに関する突発的なトラブルや予期せぬ対応などが減っていった。

 同社が提供する包括的なサービスでは、サービス開始当初は費用が相対的に高く感じるかもしれないが、単発のサービスに頼ると単価が高くなる想定外の対応などが減る傾向にあるので、2024年にO&Mコストは約2300円/kWまで下がる見込みという。同社によるサービス開始前に比べて約1000円/kW下がることになる。

 加えて、売電ロスの要因を解消することによる売電額の増加効果が大きいので、増加分でO&Mコストを相殺した後、おつりがくるようになる。発電事業者にとっては、売電額が増えるだけでなく、その増えた分でO&Mコストを賄えるようになるという、持ち出しが実質ゼロでサービスが受けられるとしている。

 O&M費用を相殺した後、売電額の増加効果分は、そのまま増益につながることになる。

年に1回は洗浄とドローン

 OREMでは、受託しているそれぞれの発電所で年に1回、太陽光パネルの洗浄と、ドローン(無人小型飛行体)を使った空撮による点検を実施している(図4)。

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図4●太陽光パネルの洗浄の様子
(出所:オリックス・リニューアブルエナジー・マネジメント)
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 洗浄を年1回、実施するのは、太陽光パネルをできるだけきれいな状態に保っておきたいという意向による。

 日本では1~2週に一度は雨が降るため、雨水によって汚れが流れ落ちる。その効果を当てにし、ある程度の汚れは容認している発電所がほとんどである。

 こうした中で、同社は、その効果も利用した上で、極力、常にきれいな太陽光パネルで発電できる状態を提供したいと考えている。費用対効果も考えた上、年1回は洗浄する方針を採っている。

 立地上、汚れやすい発電所については、回数を増やしている。

 逆に、ほとんど汚れが目立たないため、一度も洗浄していない発電所も1カ所だけある。北海道更別村の十勝スピードウェイ内の遊休地にある出力約22MWのサイトで、太陽光パネル下側のアルミフレームの段差脇にすら汚れが溜まらないため、洗浄を見送っている。

 このように、フレーム脇の汚れすらためたくない、というのが同社の考え方という。太陽光パネルメーカーが推奨している「きれいな状態で使用すること」という条件をできるだけ維持する。その背景には、将来、パネルの交換が必要となった場合、パネルメーカーとの交渉に生きるという読みもある。

 ドローンを使った太陽光パネルの点検も、年に1度、実施している。2018年から受託している発電所は3巡目に入っている。

 赤外線カメラで空撮した熱分布画像から、異常のある太陽光パネルやストリング(パネルを接続した単位)を発見し、原因と状況の深刻度を把握する。その場所ごとに改善策やその策による収益改善効果の見通しなどを見極めて実行する。

 福岡県大牟田市にある太陽光パネル出力約14.3MWのメガソーラーでは、2018年、2019年に各1回のドローン点検と修繕を実施し、年間で700万円以上の収益改善効果を生んだという。

 2018年のドローン空撮と解析で約100万円を要した。この時、1117カ所の異常を発見した。異常箇所のうち、修繕に要するコスト以上に発電収益の改善が見込まれる場所に絞って約200万円を投じて修繕した。この結果、日射量を前年と同量に調整した数値で比べた年間700万円以上の収益改善効果があった。

 1年後、2019年のドローン点検では、異常を発見した場所が219カ所と約5分の1と大幅に減った(関連コラム)。

 毎年ドローン点検を実施することで、年次の健康診断のように、その時点での状態をデジタルデータ化して時系列で比べられるようになる。

 その都度、空撮画像を発電所の売電ロスを減らす手がかりにするとともに、翌年の空撮画像からは、前年のドローン点検で発見した異常箇所のうち、修繕した場所が、適切に改善できていることを発電事業者と共有することもできる。

 こうした改善効果の社内や発電事業者との情報共有が、ドローンの活用で実現できた利点の1つだった。

 もし、改善策を講じていなかったら、ひと目でそれがわかる。適切に改善策を講じていることも、ひと目で理解してもらえる。こうした良い意味での「緊張関係」は、デジタル化によって初めて実現できるもので、今後、より広い範囲で応用したいという。

 洗浄とドローン点検については、O&M全般の受託ではなく、単発でも受託する方針である。

 洗浄では、2020年は約600MWを実施する予定で、2021年には約1GWに拡大していく。2021年の目標の約1GWのうち、約700MWはすでに受注済みとなっている。

 洗浄サービスの単価は300円/kWで、一般的なサービスの500円/kWに対して安価としている。

 ここでは、スケールメリットが生きている。オリックスのメガソーラーのO&M分だけでも洗浄作業を担う各地の委託企業(パートナー企業)にとっては規模の大きな取引となる。

 お互いに利点の大きい取引となるよう、パートナー企業に発注する手法を工夫している。例えば、1つのパートナー企業に対して依頼回数が多く、かつ、年度の初めに一定の規模で発注するなど、パートナー企業にとって利点が大きく、安定的な事業にできるように心がけているという。

 雑草対策については、太陽光発電所ごとの状況に合わせて、乗用型やラジコン型の効率的な草刈機や刈払機のほか、除草剤など幅広い手法を活用している(図5)。

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図5●ラジコン型草刈機を使った除草の様子
(出所:オリックス・リニューアブルエナジー・マネジメント)
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IGBTまで在庫を持ち、一次対応も自社で

 発電設備に不具合やその兆候を発見すると、迅速に対応する。その深刻さの度合いによって、すぐに交換するのか、様子を見るのかといった判断を下す。

 すぐに交換する場合に備えて、同社では発電設備の在庫を十分に持つようにしている。これによって、O&Mを受託している発電所に設備面のトラブルが起きた場合でも、売電損失を最小化する。

 もちろん、国内の他の多くのO&Mサービス企業でも、こうした対応として、太陽光パネルについては備蓄している。

 同社ももちろん、太陽光パネルは備蓄している(図6)。

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図6●不具合を発見した太陽光パネルの交換の様子
(出所:オリックス・リニューアブルエナジー・マネジメント)
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 ここから先が、ほとんどない対応になる。接続箱や、パワーコンディショナー(PCS)の資材・部材まで多く保有している。これらを発電所内の倉庫、全国各地の倉庫で保管し、故障時には迅速に対応する。

 PCSでは、分散型の機種については、交換用の本体を多く確保している。これは、分散型の機種の場合、故障時には部分的な交換ではなく、本体をそのまま交換する対応が多くなるためである。

 分散型は、製品の特徴上、集中型と比べると、ある程度の頻度で故障が起きる。故障率が想定以上に高い場合には、メーカーと故障率によって瑕疵担保責任を変えるような内容を契約に追加してもらうこともある。

 集中型については、フィルター、ファン、表示用ディスプレイだけでなく、スイッチギア、IGBT(直交変換を担うパワー半導体)といった基幹部品まで、在庫を確保している。

 こうした基幹部品まで在庫を確保することは、メーカーの協力がないと実現できない。同社がO&Mを受託している案件で採用されている集中型の機種は、東芝三菱電機産業システム(TMEIC)製が多く、同社の協力を得て実現している。

 スイッチギアやIGBTは、PCSメーカー以外は開けられない場所に設置されている。この場所を開けると、それだけで保証の対象外とするメーカーがほとんどで、点検や交換の際には、メーカーの技術者が現地に来て作業することになる。

 それでも在庫を自社で保管するのは、大量生産品ではないことから、万が一、メーカーが在庫を切らせているタイミングを想定したリスク管理である。在庫がない場合には、交換までに数カ月を要する恐れもある。その間の集中型PCSの稼働停止は、他の設備に比べて売電ロスへの影響が大きい。

 そこで同社では、メーカーに在庫がなかった場合に、自社で保管しているものを使って、メーカーの技術者に交換してもらうことを想定している。これによってPCSの停止による売電ロスを最小化できる。

 TMEIC製の機種に何らかのトラブルが起きた際のいわゆる「一次対応」についても、TMEICの技術者に来てもらうことなく、自社で対応できる。TMEICによる一次対応の教育を受けた技術者が対応する。

 ここまで踏み込んだ対応が可能なO&Mサービスは珍しい。

 電気主任技術者の有資格者も、社内に多く抱えている。8月時点で合計で50人おり、このうち第一種が2人、第二種が20人と有資格者数が少ない種別も含む。

 本社に6人が在駐しており、このうち第二種が2人いる。そのほかは全国各地の拠点に在駐している。

見える化の成果は「標準プロセス化」や経営効率化にも

 こうしたO&Mサービスで得た太陽光発電所の状態は、デジタル化・見える化している。予防保全を重視していることから、発電設備ごとの状態なども、今後、より細かく把握できるシステムに進化させていく。

 発電所の状況を網羅的に把握できれば、それらのデータと気象情報をかけあわせれば、時間単位の発電量の予測などを、より高い精度で実現できる。いわば「変動要因が気象のみ」というような運営に近づく。

 短時間の単位で高精度に発電量を予想できれば、連系先の系統の安定化のほか、火力発電の予備力を減らせるなど、電力インフラ全体の運営コストの低下にもつながり、新たな価値も加わる。社会的な意義も高い。

 もし、高精度な発電量の予測と、より細かなPCSの遠隔制御ができる太陽光発電所が増えてくれば、現在、九州で実施されているような出力抑制は、本当に抑制が必要な時間と量だけ抑制する運用も可能になる。そうなれば、発電事業者にとっても相対的に抑制量が少なくて済む。

 OREMでは、こうした「見える化」の成果を、売電収益の最大化やO&Mの最適化だけでなく、自社の経営効率の向上にも活用していく(図7)。

図7●運用に必要な要素を網羅的に把握し、変動要因の最小化とともに、標準プロセス化を目指す
(出所:オリックス・リニューアブルエナジー・マネジメント)
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 AMやO&Mにかかわる従事者側の動きや対応に関する面も、ITを活用してデジタル化・見える化している。

 例えば、当初は手探りでの対応が必要など、ノウハウを確立していくまでは、専門の知見や特別な能力を持つ従事者が深くかかわる必要がある。

 それが「見える化」され、一般的な作業のレベルにまで落とし込めれば、誰でも対応できる状況に近づく。実際には、「誰でも対応できる」わけではないが、専門の知見や特別な能力を持つ従事者が深くかかわる必要性を少なくしていく。

 このように、AMやO&Mにかかわる要素それぞれを「標準プロセス化」や「ルーチン化」し、可能な限り誰でも可能なものに近づけていくことを目指す。専門知見や特別な能力をもつ、いわゆる「トップ人材」を、その専門性や能力を本当に生かすべき業務のみに専念させていくのが理想という。

 太陽光発電では、まだ確立されていない分野も多く、時間とともに「トップ人材」が優先的に取り組むべきテーマは変わってくる。その変化に柔軟に合わせられるような適切な従事者の配置を目指している。