太陽光発電事業者のための法律Q&A

リモートワークで電子署名の導入を検討しています。注意点は?

<第70回>太陽光発電コンサル会社で起きた電子契約に関する紛争の判例解説

2021/01/07 23:30
弁護士法人 匠総合法律事務所 代表社員弁護士 秋野卓生

 感染症対策でリモートワークが広がり、「はんこ」文化が課題になっています。電子署名は、比較的、容易に実施できるメリットがあるものの、トラブルが起きる可能性もありますので、導入には慎重な準備や運用が必要です。今回は、太陽光発電事業に関するコンサルティング会社を舞台に、電子署名による契約が争点になった「東京地裁令和元年7月10日判決」について解説します。

 この判例は、まだ我が国では2件しか出ていない電子契約の成否が争点となった事案に対する判決です。

 経緯は、太陽光発電事業に関するコンサルティング会社を買収した原告が、被告太陽光コンサル会社に対して、資金提供をしていたものの、被告代表者(以下「被告Y1」)との信頼関係を喪失し、つぎ込んだ資金の回収に関して紛争となり、訴訟に発展しました。

東京地方裁判所の外観
(出所:日経BP)
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太陽光コンサル会社を買収→資金提供

 被告Y1は、2014年4月、被告太陽光コンサル会社を設立し、太陽光発電事業に関するコンサルティング業務を開始しました。

 原告は、2014年6月ないし7月頃、被告Y1に対し、原告において被告太陽光コンサル会社を買収した上で、太陽光発電事業を自社事業として行うことを提案し、同月22日付け買収提案書を提示して買収の条件などを説明しました。

 被告Y1は、原告のこの提案を受け入れることとし、同年8月7日、原告との間で、原告に対して被告太陽光コンサル会社の普通株式全部を段階的に譲渡する旨の合意を交わし、被告太陽光コンサル会社は、事実上、原告の太陽光発電事業を担当する一部門として業務を行うこととなりました。

 上記買収により、被告太陽光コンサル会社は、原告の指示に従い、被告太陽光コンサル会社名義の銀行預金口座の通帳、実印及び印鑑カードを原告に預け、原告が、被告太陽光コンサル会社名義の銀行預金口座の出入金、被告太陽光コンサル会社の経理業務及び対外的な契約を行うなど、被告太陽光コンサル会社の事業や業務を管理することとなりました。

 また、被告Y1は、被告太陽光コンサル会社の代表取締役でありながら、原告のエネルギー事業本部長という肩書を付与されて業務を行うことになりました。

 また、原告は、被告太陽光コンサル会社に対し、契約を締結する場合には、原告法務部による契約書面のリーガルチェックや、原告における契約相手方に関する社内審査及び契約締結についての稟議決裁を経る必要があり、稟議決裁を得たら、原告が管理している被告太陽光コンサル会社の実印を契約書に捺印するため、原告法務部に対して捺印申請を行わなければならない旨を説明していました。

 原告は、2014年11月13日、被告太陽光コンサル会社との間で、原告の太陽光発電事業に関するアドバイザリー業務を被告太陽光コンサル会社に委託し、原告は、同アドバイザリー業務の対価として、被告太陽光コンサル会社に対し、契約締結日から2015年3月末までに原告グループ会社によって太陽光発電事業に関して実行された投資金額の合計の5%を支払うという内容のアドバイザリー契約を締結しました。

 被告太陽光コンサル会社は、本件施設の設置、省庁への届出、電力会社との売電交渉、更には本件施設の運営などの業務を行いました。

 原告は、被告太陽光コンサル会社が太陽光発電事業を行うに当たって資金不足とならないよう、相互極度貸付契約を締結の上(電子署名がなされている)、2014年9月10日から2015年6月30日までの間に、被告太陽光コンサル会社の銀行預金口座に合計7億1205万2275円を送金しました。

太陽光発電事業からの撤退

 原告は、2014年10月ないし11月頃、事業環境の変動から太陽光発電事業の拡大を取りやめ、太陽光発電事業としては原告が保有する4個の太陽光発電施設(以下「本件施設」)への投資のみを行うことを決定しました。

 そこで、被告太陽光コンサル会社は、太陽光発電事業とは別の事業として、フィリピンにおける商業施設及び住宅の工事の請負業者から太陽光パネルの仕入れ及び納入を受注し(以下「フィリピン案件」)、同年12月15日、原告の稟議決裁を受けずに上記請負業者に納入するための太陽光パネルを代金3億2323万9610円で発注しました。しかし、フィリピン案件は、仕入れた太陽光パネルの輸送中に上記請負業者から契約を解約されたため、同太陽光パネルを在庫として抱えることとなり、失敗に終わりました。

信頼関係が喪失

 原告及び被告太陽光コンサル会社は、上記フィリピン案件の経緯から、相手方に対する信頼を低下させ、2015年6月ないし7月頃、両者間の関係を解消することになりました。

 そこで、被告太陽光コンサル会社が仲介して原告が本件施設を売却し、その代金をもって原告が被告太陽光コンサル会社による太陽光発電事業に投じてきた資金を回収することとなり、原告及び被告Y1は、本件清算について合意しました。

 投資資金の回収については、準消費貸借契約を締結することとなりました(以下「本件準消費貸借契約」)。

 原告の従業員は、2015年7月29日、原告法務部に対し、被告太陽光コンサル会社の実印を本件準消費貸借契約書及び本件コンサルティング契約書などに用いることの許可を求める捺印申請書(以下「本件捺印申請書」)を提出しました。

 被告Y1は、本件捺印申請書の「決裁者(必須)」の決裁印欄に自身の認印を押印しました。

 そして、本件清算合意に基づき、原告のもとで本件準消費貸借契約書及び本件コンサルティング契約書が作成され、被告Y1は、本件準消費貸借契約書の連帯保証人欄に署名押印しました。

署名捺印のイメージ
(本文の事例とは関係ありません)
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「準消費貸借契約書」は無効?

 被告Y1は、本件準消費貸借契約書には、被告太陽光コンサル会社の実印によって顕出された印影があるが、これは、当時、被告太陽光コンサル会社の実印を所持していた原告が、被告太陽光コンサル会社に無断でその実印を押印したことによるものであるから、本件準消費貸借契約書は被告太陽光コンサル会社の意思に基づき作成されたものではなく、したがって、本件準消費貸借契約は成立していない、と裁判上主張しました。

「電子署名」も無効か?

 本判決が注目されている点が、電子署名についても無効を主張している点です。

 被告Y1は、本件相互極度貸付契約書上の被告太陽光コンサル会社名下の電子署名は、原告が被告太陽光コンサル会社に無断で行ったものであるし、原告から被告太陽光コンサル会社の銀行預金口座への合計7億1205万2275円の送金も、上記口座の通帳を管理していた原告自身が行ったものであり、被告太陽光コンサル会社は上記送金に関与しておらず、その根拠及び上記金員の用途も知らない。したがって、本件相互極度貸付契約は成立しておらず、これに基づく被告太陽光コンサル会社への金員の交付もないから、本件旧債務は存在しない、と主張しました。

東京地裁の判決は?

 東京地裁は、「被告太陽光コンサル会社は、太陽光発電事業を行うための資金として、原告から合計7億1205万2275円の送金を受け(被告太陽光コンサル会社が銀行預金口座の通帳などを原告に預けていたことは、同口座への送金などによる金員の受領権限も原告に委ねたものと解し得る)、その後、同送金に係る金員が本件相互極度貸付契約に基づく貸金であることを前提とする本件清算合意に応じた上、上記のとおり、上記金員の残金である本件旧債務を目的とする本件準消費貸借契約の締結に応じたものであって、本件相互極度貸付契約が存在することを前提とした行動を一貫して取っていたのであるから、本件相互極度貸付契約書上の被告太陽光コンサル会社名下の電子署名は、被告太陽光コンサル会社の意思に基づくものであると認めるのが相当である。

 したがって、被告太陽光コンサル会社は、原告との間で、本件相互極度貸付契約書により本件相互極度貸付契約を締結し、同契約に基づき、原告から貸金として合計7億1205万2275円の交付を受けたものであるから、本件旧債務が存在しなかったとは認められない」と判示し、電子署名は有効である旨の判断をしました。

東京地方裁判所の外観
(出所:日経BP)
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被告は「錯誤無効」を主張

 被告Y1は、本件コンサルティング契約は、本件準消費貸借契約及び本件連帯保証契約と表裏一体の関係にあるところ、本件コンサルティング契約には、原告が何らの制限なく自由に本件施設の売却の諾否を決定できる旨の条項(1条及び2条)、原告は同契約を解除しても債務不履行責任を負わない旨の条項(11条及び13条)及び同契約の有効期間を定める条項(12条)が設けられていたが、被告Y1は、被告太陽光コンサル会社の代表取締役として本件準消費貸借契約を締結し、個人として本件連帯保証契約を締結するに当たり、本件コンサルティング契約の上記各条項は存在しないものと信じていたとして、錯誤無効の主張をしました。

 この錯誤がなければ、被告太陽光コンサル会社が本件準消費貸借契約を締結することはなく、被告Y1が本件連帯保証契約を締結することはなかったのであるから、上記各契約の締結は、法律行為の要素に関する錯誤があったものとして無効である(民法95条)という主張です。

 これに対し、東京地裁判決は、「原告と被告太陽光コンサル会社との間で本件準消費貸借契約が、原告と被告Y1との間で本件連帯保証契約がそれぞれ締結された事実が認められ」、「また、本件準消費貸借契約と同様に、原告と被告太陽光コンサル会社との間で本件コンサルティング契約が締結された事実が認められるところ」「被告Y1は、本件資料に基づき、被告太陽光コンサル会社は本件施設の一括売却に関するコンサルティング業務を「非独占的・非排他的」に行う権利を得るにすぎず、原告が売却の決定権を有するという説明を受けた上、原告に対して被告Y2を本件準消費貸借契約についての連帯保証人に追加するよう求めており、その際、本件コンサルティング契約の内容について確認又は抗議をしたことを認めるに足りる証拠がないことに鑑みれば、被告Y1は、本件コンサルティング契約の内容を正しく理解した上で本件捺印申請書の決裁印欄に押印し、被告太陽光コンサル会社の実印を本件準消費貸借契約書に用いることを求めたものと認めるのが相当である。

 したがって、被告太陽光コンサル会社及び被告Y1の主張するように、仮に本件コンサルティング契約の内容が本件準消費貸借契約及び本件連帯保証契約を締結するに当たって重要な事項であったとしても、被告Y1が、本件コンサルティング契約の内容について錯誤に陥っていたとは認められないから、本件準消費貸借契約及び本件連帯保証契約が錯誤により無効となるとはいえない」と判示し、錯誤無効の主張は認めませんでした。

親子会社間でも契約締結は代表者の手で

 本判決は、数少ない電子契約に関する判例として有名です。

 電子署名を親会社が勝手に実施したという主張に対して、契約内容と矛盾した行動を取っていないとして、電子署名は、子会社の意思に基づき作成されたものであると認定しています。

 しかし、本件では原告が被告太陽光コンサル会社の実印を所持し、原告が捺印したり、原告が電子署名を被告太陽光コンサル会社として実施している点が、トラブルリスクが大きい点です。

 この電子署名については、手軽に実施できるメリットがあるものの、本判決にあるように、「無断でなされた」というトラブルも起きる可能性がありますので、慎重な取扱いをお願いしたいところです。

電子署名の比喩的なイメージ
(本文の事例とは関係ありません)
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