太陽光発電事業者のための法律Q&A

工事遅延により太陽光発電事業を断念、施工会社の法的責任は?

<第71回>事業の断念後、損害賠償請求を巡る訴訟判決の解説

2021/02/04 17:00
弁護士法人 匠総合法律事務所 代表社員弁護士 秋野卓生

工事未着手で契約解除

 全国的に太陽光発電所が急増して目に付くようになり、従来に比べると建設計画に対して地域住民などから反対が起きやすくなっています。加えて、新型コロナウイルスの感染拡大により物流が停滞するなど、部材調達が遅れるケースも目立ちます。太陽光発電所の建設における遅延リスクは一層、高まっています。

 今回取り上げる裁判例(東京地裁令和元年12月20日判決)は、山口県下関市に太陽光発電施設を設置する計画を被告(太陽光発電システムの設計、施工会社)が、原告(自然食品、健康食品等の販売会社)に持ちかけて、コンサルティング契約、工事請負契約等を締結したところ、被告が工事に着手せず、契約解除のトラブルとなった事例です。

 原告と被告間で締結された契約は、下記3つの契約でした。

 1つ目は、原告が行う太陽光発電事業(以下「本件事業」)につき、本件事業の実施に必要な業務一切を原告の代理人として行うことなどを、報酬額4000万円と定めて被告に委託する旨の業務委託契約(以下「本件契約1」)。

 2つ目は、経済産業省の設備認定を受けた発電事業者の地位を、3780万円で原告が被告から譲り受ける旨の契約(以下「本件契約2」)。

 3つ目は、太陽光発電施設を1億3327万2000万円(消費税込み)で施工する請負契約(以下「本件契約3」)。この請負契約には、以下の「特約1」と「特約2」がありました。「特約1」は、太陽電池モジュール(太陽光発電パネル)、パワーコンディショナー、架台などは、原告から被告への部材支給品とする。「特約2」は、工事用資材及び工事用機器の本件各土地などへの搬入、搬出又は使用に係る一切の費用は被告の負担とする。また、工事用資材及び工事用資材の搬入に際して養生又は道路工事などが必要となる場合には、被告がその責任及び費用で実施する。

周辺住民からの苦情

 まず、工事着手前に、周辺住民から苦情が寄せられました。被告は、住民説明会を開催し、要望を受けた進入路の整備などを行うことになりました。

 被告は、原告も、その状況を認識しており、被告との間で、本件工事の工期を順次後ろ倒しすることについて合意したと裁判で主張しています。

 この主張に対し、東京地裁判決は、「仮に被告主張のとおり周辺住民からの苦情に対応するために工期を後ろ倒しすることにつき原告が了解したとしても、周辺住民との問題は平成27年8月終わりには解決したことが認められるのであり、周辺住民との問題が生じたことを理由に上記のとおり平成28年12月になっても本件工事が進められなかったことを原告が了解したとは到底いえない」と判示して、被告の工事遅延の責任を認めました。

東京地方裁判所の外観
(出所:日経BP)
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太陽光パネルの納品遅延

 太陽光発電施設に関する建築請負契約(本件契約1)には、「特約1」として「太陽電池モジュール(太陽光パネル)、パワーコンディショナー、架台などは、原告から被告への部材支給品とする」があり、太陽光パネル5800枚のうち4000枚を調達しましたが、残りの1800枚については最後まで調達できませんでした。この理由は、太陽光パネルの売買契約を締結していた売主a社が破産手続の開始決定を受けたことによるものでした。

 東京地裁判決は、太陽光パネルなどの本件工事に必要な部材は被告の責任で本件各土地に搬入することが予定されていたというべきであるとして、原告の責めにはせず、太陽光パネルが一部納品遅延となっても架台の工事などには取りかかれたであろうから、全く着工しないのは、被告による工事遅延である旨を判示しました。

 この点についての判示は、以下の通りです。

 (ア)「本件契約1」で本件パネルのみならず架台も原告から被告への部材支給品とされているところ、「本件契約3」では架台については原告が被告から購入してその代金を支払うこととされていること。

 (イ)工事の発注者にすぎない原告が、工事に用いる部材を具体的に選定し納入先やその時期等の判断をし得るとは考え難いこと。

 (ウ)「本件契約3」において、工事用資材の本件各土地などへの搬入に係る費用は被告の負担とする旨が定められていること

 (エ)実際にも、a社が本件パネルを発注した際の発注書の記載内容に照らすと、上記a社の発注は被告の関与の下で行われたと認められることからすれば、ここでいう「部材支給品」とは、原告がその購入に係る契約の当事者となって代金支払義務を負担すべき資材を意味することを超えて、原告が本件各土地に搬入すべき責任を負う資材を意味すると解することはできないというべきであり、本件パネルは原告が調達することになっていた旨の被告代表者の供述は信用することができない。

東京地方裁判所の正門
(出所:日経BP)
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材料が揃わなくても着工しなければならないのか?

 工事業者の立場からすると、工事途中に材料が調達できず、工事中断となり、多数の職人に休業日分の補償をしなければならなくなるなど、損害が大きくなってしまうので、材料調達の目処が立ってから工事計画を立てたいという事情はよく分かります。

 判決文からは、このあたりの事情が主張されていないようなのですが、太陽光発電施設の工事では、職人をあらゆる地域から集めてきて、工事中断で一度、リリースしてしまうと、工事再開の場面で職人を集めてくることが出来なくなってしまい、工事が遅れてしまうので、工事中断中も補償をして、職人に他現場に出ないように引き留めるケースがあります。

 この点について、東京地裁判決は、「本件パネルが全部揃わなければ架台設置工事を開始できないと認めるに足りる証拠は存しない(この点についての被告代表者の供述は、具体性を欠く上、何ら裏付けがなく、採用することができない)」と判示しています。

太陽光発電所の着工までには様々なハードルがある
(出所:日経BP、画像はイメージで本文内容とは直接、関係しません)
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地位買戻し契約でも損害

 結局、原告は、本件の太陽光発電事業を断念することとし、被告との間で経済産業省の設備認定を受けた発電事業者の地位及びa社から納入済みであった本件パネル4000枚を代金1億9000万円で購入する旨の契約を締結しました。

 東京地裁判決によれば、原告が「本件契約1」に基づく業務委託費として3000万円を、「本件契約2」に基づく本件地位の譲渡代金として3780万円を、「本件契約3」に基づく代金の一部として合計9328万3815円(架台費用2175万9623円、解体工事費等3672万円、着工金3480万4183円)を、それぞれ被告に支払ったこと、本件パネル売買契約に基づく本件パネル5800枚等の購入代金の一部としてa社に合計1億6691万4000円を支払ったことが認められますので、1億9000万円で地位を買い戻してもらったとしても、損害が残ります。

 この損害賠償を求めて原告は裁判を起こしました。

 被告は、地位買戻し契約を締結したのだから、黙示にトラブル解決の和解契約も締結したのだと主張していますが、東京地裁判決は、「原告は、本件契約1ないし3に基づき、被告及びa社に対して、合計3億円以上の金銭を支払っており、そこから本件地位買戻契約及び本件各土地売買契約において原告及びb社が被告から受け取る金額を控除しても、原告は本件契約1ないし3によって1億円以上の損失を発生させたものであるところ、このような多額の金額について、口頭で清算することは社会通念上考え難い。そして、被告代表者の供述は、上記両契約書の内容に照らし、信用することができない」として、黙示の和解契約の成立は否定しました。

工事遅延のトラブル防止の重要性

 今回の判例解説における教訓は、工事遅延のトラブルは、太陽光発電事業の断念という大きな損失に結びついてしまうリスクがある点です。

 工事業者が近隣住民対応をする中で工事遅延が発生するケース、台風などの災害に伴い、工事遅延が発生するケースなど、工事遅延のトラブルが多く発生する太陽光発電施設工事において、工事遅延が生じないように慎重な計画及び着実な材料調達、工事遂行、そして工事監理など、しっかりと体制を整えて臨みたいところです。

メガソーラー建設を巡る地域からの反対が目立っている
(出所:日経BP、画像はイメージで本文内容とは直接、関係しません)
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