太陽光発電事業者のための法律Q&A

新型コロナウイルスの影響による工期遅延は、「不可抗力」と言えますか?

<第61回>「不可抗力」による工期遅延への対応と、今後のEPC契約の在り方

2020/03/09 05:00
弁護士法人 匠総合法律事務所 代表社員弁護士 秋野卓生

 中国国内で、感染拡大が確認されている新型コロナウイルス感染症の防疫措置に伴い、太陽光発電関連の資材等の供給が遅延するといった状況が発生しています。

 太陽光発電業界では、固定価格買取制度(FIT)により、認定取得後、3年以内に運転を開始するという「3年ルール」などにより、今年度末の完工を目指している太陽光発電事業者も多くいることから、納期遅延、工期遅延に伴うトラブルの発生が予想されます。

 本稿では、新型コロナウイルスの影響による納期遅延や工期遅延は、「不可抗力」と言えるのか? について裁判例に照らし、検討したいと思います。

コロナウイルスの感染が経済活動に大きな影響を与えつつある
(出所:国立感染症研究所)
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「ナイロンブーム」で裏地の納期が遅延

 参考になる判例としては、新潟地裁長岡支部による「平成12年3月30日判決」があります。この判決は、スキーウェアの製造を主たる業とする原告が、スキーウェアの材料である裏地を被告に発注したが、被告が納期に遅れたためウェア全体の製造が遅延し、納入先である販売業者から買受契約を解除されるなどして1億6934万9038円及び遅延損害金の賠償を被告に求めた事案です。

 被告に納期遅延が発生した原因は、平成8年頃、一般衣料分野での急激なナイロン需要が発生する世界的な「ナイロンブーム」が発生し、国内染色工場の処理能力が飽和状態となったことに基づくものでした。

 新潟地裁長岡支部の平成12年3月30日判決では、確定納期の合意ではない「希望納期」について、過去の取引経過を前提として「原告の希望通りに納品できない特段の事情がある場合には、被告が最大限の努力をすることを前提に、希望納期におくれたからといって直ちに被告が債務不履行責任を負うことにはならないと解すべき」合意と解した上で、「納品日が『希望納期』から遅延した主たる原因は折からのナイロンブームといういわば不可抗力であるというべきであり、原告の提示する『希望納期』が染工場の繁閑の制約を受けざるを得ないという意味で納期の目安にとどまることを前提とする限り、被告の担当者であるSらは、そのような状況のもとで原告担当者であるGらと頻繁に連絡を取り合いながら、『希望納期』からの遅れを少しでも解消すべく善良な管理者としての義務を果たして納品を了したものと認められる」と判示し、履行遅滞責任は生じないと判断しました。

 同判決の事案が「不可抗力」に該当することとの比較から、今回のコロナウイルスの影響は、不可抗力と考えられます。

 従って、納期遅延や工期遅延があっても債務者に責めに帰すべき事由はなく、遅延損害金などの損害賠償義務はないものと判断しています。

 法律相談の現場では、工期延長の合意書を交わし、この合意書に「発注者と受注者は、今回の事態が不可抗力に該当することを相互に確認すると共に、引渡しまでの期間が、本契約締結時に想定されていた工期を超えたとしても、相互に一切の異議を申し立てず、遅延損害金は発生しないことを合意する」と記載することをアドバイスしています。

これからのEPC契約では?

 一方、今後、新しくEPC(設計・調達・施工)契約を締結する案件に関しては、工期の定めをどのようにするか、という法的課題があります。

 今後、発注する太陽光発電関連の資材については、納期が全く読めない状況にありますので、工期の記載も「予定工期」とならざるを得ません。

 この「予定工期」の法的拘束力について、東京地裁による平成25年3月15日判決は、請負契約書上、完成時期について「平成18年11月末日予定」と記載されていた事案において、「本件請負契約書では完成時期が平成18年11月末日『予定』と記載されているだけであること、甲第120号証によれば、本件物件の工期は8カ月程度が妥当であることが認められるところ、仮に本件請負契約において工事の完成期限が平成18年11月30日と合意されたとすれば、原告は契約締結日から5カ月未満で工事を完成させなければならないことになってしまうことに照らせば、原告と被告が本件請負契約において平成18年11月30日という確定期限をもって完成期限を合意したとまでは認めることができない」と判示しました。

 上記新潟地裁長岡支部の平成12年3月30日判決の事案では、納期について「希望納期」という用語を用い、東京地裁平成25年3月15日判決は、「平成18年11月末日予定」と工期の記載がなされていました。

 このような確定工期の記載ではないケースにおいては、「予定工期」(努力義務)の合意と認められ、請負人が遅延損害の責任を負うか否かについては、ケースバイケースにて判断する傾向であることが確認できます。

 そして、「予定工期」が努力義務としての合意であった場合、最大限努力を行なったという事実が認定されれば、請負人は履行遅滞責任を負わない可能性があることが判例上確認できます。

 現在の新型コロナウイルスの影響による太陽光発電関連の資材などの納品時期が読めない状況下においては、EPC契約書の工期の記載を確定工期の記載とはせず、「予定工期」(努力義務)の記載とし、やむを得ない事情がある場合には、遅延損害のペナルティーを負わない工事請負契約書・契約約款への修正をアドバイスしています。

新型肺炎の世界的な感染拡大による世界経済の停滞が懸念される
(出所:ジョンズ・ホプキンズ大学のシステム科学工学センター)
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建築現場の一時中止の際は?

 国土交通省は直轄工事・業務について受注者の意向を尊重しながら一時中止などの対策を講じました。

 建設現場での新型コロナウイルスの感染が確認されたことを受けた措置であり、同じような事態は、沢山の職人が集まる工事現場であれば、どこでも起こりうる話です。

 元請建築会社は、建設現場の労働者の安全を配慮する義務を負うことから、工事の一時中断もやむを得ません。この場合、工期が伸びたとしても、遅延損害金の支払義務はない(受注者に帰責事由はない)という結論となりますが、下請業者、孫請け業者、職人は、現場が止まると、請負代金の支払いを得ることが出来ず、生活上窮地に立たされるリスクがあります。

 本稿執筆時点では、現場職人の救済措置の発表はありませんが、長期化するリスクが生じるようであれば、公的支援を検討すべきであろうと考えます。

メガソーラー建設現場の様子(画像イメージで本文の内容は直接関係しません)
(出所:日経BP)
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経産省が下請事業者配慮の要請文書

 経済産業省は、新型コロナウイルス感染症により影響を受ける下請事業者との取引について、今後、下請事業者における生産・調達コストの上昇による単価引き上げ問題、風評や他の材料調達困難を理由とした親事業者による受領拒否・返品などの取引上の問題が発生する可能性があり、これらの対応にあたっては、独占禁止法及び下請法上問題とならないようにするため、以下の配慮を行うよう各関係団体を通じて親事業者へ要請を出しました。

独占禁止法及び下請法に関連した親事業者への経産省の通達
(出所:経産省)
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 今回のような不可抗力が生じると、立場の弱い下請事業者への不当なしわよせがなされるケースが出てくることが予測されます。

 同様の事態は、建設業法が適用される請負契約の当事者にも該当する事項ですので、建設業界全般にて独占禁止法、下請法、建設業法違反が生じないように高いコンプライアンスの意識で臨むことが求められます。

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