太陽光発電事業者のための法律Q&A

EPC契約を締結する前段階で、締結義務はあるのか?

<第83回>太陽光事業で、EPC契約などの締結義務が否定された最新判例

2022/03/22 05:00
匠総合法律事務所 弁護士・秋野卓生、弁護士・丹羽響

建設請負事業者が発電事業者を提訴

 太陽光事業においては、コスト及びリスクの軽減の観点や、相互に強みを補完する観点などから、合弁会社を設立して、太陽光発電事業を行うことがあります。近年も、大手総合商社と電力会社などが共同で日本において太陽光発電事業の開発・運営を行う合弁会社を設立したことが発表されています。

 今回取り上げる裁判例(東京地裁・令和3年3月22日判決)は、そのような合弁会社を用いたビジネススキームに関連し、建設請負事業者が合弁会社ら(合同会社及びその代表社員ら)に対して、合弁会社においてEPC(設計・調達・施工)を一括して発注する義務ないし発電設備設置工事を発注する義務が存するにもかかわらず、これを履行しなかったとして、損害賠償を主張して提訴した事案です。

 では、本件の事案を見ていきましょう。

 まず、前提として、次の経緯により、合弁会社が設立されました。

 本件の原告は、太陽光発電システムの設計、施工などを目的とする会社であるところ、他人所有の土地における太陽光発電事業への参入を決め、2013年1月11日、電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法6条2条に基づく再生可能エネルギー発電設備の認定(以下「本件発電設備認定」)を受けました。

 もっとも、その後、2013年末頃、経済産業省より、発電設備認定の保有者と事業予定地の権利者が一致しない場合には、売電事業を行うことを認めない方針が発表されました。そのため、原告及び被告代表社員らを含む、当時の本発電事業参画者は、新たに被告合同会社を設立することとし、被告合同会社に本件発電設備認定及び土地所有権などの権利関係について一本化することとしました。

東京地方裁判所の外観
東京地方裁判所の外観
(出所:日経BP)
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合弁会社設立に際して確認書を作成

 以上の経緯で太陽光発電事業のための合弁会社が設立されましたが、本件では、設立に際して、原告、被告合同会社及びその他関係者間において、次のような確認書(以下「本件確認書」)が作成されていました。

1、被告合同会社登記後、速やかに原告に2500万円(税別)の支払を行う。

2、被告合同会社登記、同同意書に押印に当たり、原告に次の業務を担当させる。また、予算組、及び同執行、支払条件については、別途原告からの提示を基本とする。

(1)原告を被告合同会社のEPCとして担当させる。

(2)予算案は、@166円/W(材・工込)を基本とし、上記のとおり、原告の見積りに変えることが出来るものとする(但し、造成別、変電所費用別)。

3、今後、締結する被告合同会社と原告の「地位の移転」関係一切の書面については、上記1、2の履行を条件とする。

 原告は、被告合同会社設立後、本件確認書を前提に、本発電事業のEPC契約に関する協議を被告代表社員に対して持ちかけたものの、被告代表社員側はこれに応じることはありませんでした。

 そのため、原告は、本件確認書により、被告合同会社には、原告が提示する見積りどおりの工事代金額によって、発電システム全体の設計、太陽光パネル等の部材や資材等の選定・調達、太陽光パネルの設置を含む発電設備工事の施工・監理までの一連の工程を原告に対して一括発注する義務、又は、原告が発電設備設置工事について工事単価を1W当たり166円とすることを基本とする見積書を提出した場合には、当該見積りにかかる工事を原告に発注する義務があると主張しました。

契約締結の義務を負わせることは可能か

 現在の日本において、契約を締結するか否かという判断は、本来的に自由ですが(山本敬三『民法講義Ⅳ‐1契約』(有斐閣2017年)17頁)、裁判例上は、契約を締結する義務を定める合意について有効に成立し得るということが前提とされています(東京地裁・平成25年8月15日判決、東京地裁・平成18年2月13日判決等を参照。ただし、そのような合意が成立していると解される場面は限定されています)。

 本件においても、裁判所は、契約を締結する義務を定める合意が有効に成立し得るということを前提に、そのような内容の合意が成立していた否かという点について検討しており、結論として、これを否定しています。

東京地方裁判所の正門
東京地方裁判所の正門
(出所:日経BP)
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裁判所は3つの観点で検討

 では、本件では、どのような点から、本件確認書ではEPC契約などの締結義務が定められていない(合意されていない)と判断されたのでしょうか。

 裁判所は、大きく分けて、以下の3つの観点から検討を行っています。

(ア) 本件確認書の文言

(イ) 締結予定の請負契約の内容に関する協議状況

(ウ) 本発電事業が実現する蓋然性

 本判決は、あくまでも個別の事例判断ですが、契約書や合意書の解釈方法という観点からは、他の件にも通ずるところがありますので、以下で確認したいと思います。

 まず、(ア)本件確認書の文言についてですが、裁判所は、次のように判示しています。

 「しかし、本件確認書では、EPC契約の内容は何ら特定されておらず、工事費用についても単価が1W当たり166円とされる以外のことは定められていないし、『業務を担当させる』、『EPCとして担当させる』という文言自体、『義務を負う』とは異なる。したがって、本件確認書の記載は、被告茂原ソーラーパーク(引用者注:被告合同会社)が、原告とEPC契約を締結して、原告の見積りにより本件発電事業のEPCを一括発注する義務又は原告が提出した工事単価1W当たり166円による見積書に係る発電設備設置工事を発注する義務を負うことを直ちに意味するとはいえない」

 裁判所は、本件確認書の文言や規定から、これが、直ちに法的義務を課すことを意図したものとは解することができないと判断しています。契約書や合意書のみならず、法令についても、その解釈の足掛かりとなるのは、規定された条項そのものです。文言を離れて規定内容や合意内容を解釈することは、解釈者のフリーハンドを認めることになるため、本件でも、裁判所は、文言そのものを確認しているものと考えられます(もっとも、法的文書について、常に文言から形式的に判断されるわけではない点には留意が必要です)。

東京地方裁判所の外観
東京地方裁判所の外観
(出所:日経BP)
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経験則からみて、不自然か否か

 次に、(イ)締結予定の請負契約の内容に関する協議状況についてですが、裁判所は、次のように判示しています。

 「本件確認書は、原告……と被告Y1(引用者注:被告代表社員)との間で、原告がEPCを担当するという話をしていたことを前提に作成されたものと認められる。しかし、原告代表者及び被告Y1の供述によっても、原告及び被告Y1との間で、EPC契約の具体的な内容等が協議された事実は認められず、被告茂原ソーラーパークが原告とEPC契約を締結してこれを原告に一括発注すること又は原告の提出した見積書によって発電設備設置工事を原告に発注することが、確定していたとまでは認められない」

 このように、裁判所としては、契約を締結する義務を生じさせるような場面では、抽象的に締結が予定されているというだけではなく、締結予定の契約内容について既に協議が実施されており、相当程度特定されているはずであると考えています。この点は、契約締結義務の有無が争点となった他の裁判例においても、同様の判断がなされており(前掲東京地裁・平成25年8月15日判決、東京地裁・平成18年2月13日判決等)、裁判所が特に重視している点と考えられます。

 なお、裁判所は、契約内容の特定に関連し、次のようにも判示して、原告の主張を前提とすると、契約内容が特定されていない状況は不自然であると指摘しています。

 「本件発電事業は、発電出力約50MWで、約1万5000世帯の電力を補う小型の火力発電所並みのものである……。そして、原告が平成29年11月22日に作成した予算見積りによれば、本件発電事業に係る工事代金は94億6598万4000円とされ……、相当大規模な工事になることが想定される。このような規模の工事について、EPC契約の具体的内容が何ら特定されていない段階で、被告茂原ソーラーパークが本件一括発注義務又は本件工事発注義務を負うことは考え難い」

 大規模な太陽光発電事業には大掛かりな工事が必要となるところ、そのような工事を発注するにあたっては、通常、契約内容が事前に特定されているはずであるという経験則から、原告の主張を退けています。ある文言を解釈するにあたっては、このような経験則が判断を左右することも珍しくありません。契約書などを作成する際には、経験則からみて不自然な状況か否かという点も考慮して、事後的にどのように判断され得るか、注意する必要があります。

 最後に、(ウ)本発電事業が実現する蓋然性について、裁判所は、次のように判示しています。

 「また、本件確認書が作成された平成26年2月28日当時は、本件事業予定地の取得が未了で、本件発電設備認定の保有者と事業予定地の権利者が一致しておらず、本件発電設備認定が取り消される可能性もあったこと……に照らしても、被告茂原ソーラーパークが、本件確認書の作成時点で、原告に対し、EPCの一括発注又は発電設備設置工事の発注を確約することは不自然である」

 この点は、契約内容が特定されていたとしても、別途問題になり得る点です。そもそも発電事業が実施されるか否か不透明な状況であれば、仮に、契約内容が特定されていたとしても、契約締結義務について合意することは考え難いという判断もあり得ます。

 太陽光発電事業では、権利の譲渡などに関連して、契約締結義務が定められることもあり得ますが、契約締結義務について合意する場合や同合意を検討する際には、上記のような観点から、明確な条項を規定することや契約内容について十分協議して、事後的な紛争に陥らないように、事前に予防することが望ましいといえます。

契約内容について事前に十分な協議を
契約内容について事前に十分な協議を
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契約交渉の不当破棄の問題

 以上のように、本件で裁判所は、本件確認書の規定内容を複数の観点から解釈し、EPC契約などを締結する義務まで定めたものではないと判断し、契約を締結しなかったことについて、被告合同会社に債務不履行責任は生じないとしています。

 ただし、契約の締結を巡る問題として、契約締結の義務について合意していなければ問題がないというわけではありません。

 一般的に、取引を開始して契約準備交渉段階に至った場面では、当事者は、互いに相手方の人格や財産を害さないという信義則上の義務を負うとされています(最高裁・昭和59年9月18日判決)。契約を締結するか否かという観点からは、いわゆる「契約交渉の不当破棄」という問題として扱われており、「契約交渉の過程で、交渉当事者の一方が、相手方の言動を信頼し、契約が締結されるものと考えて行動したところ、相手方が契約交渉を打ち切ったり、その他の理由で契約の締結に至らなかったりする場合」に、「交渉相手の言動が信義に反し、不誠実であると評価されれば、この者は、これによって他方当事者が被った損害を賠償する義務を負う」(潮見佳男『新債権総論Ⅰ』・信山社出版2017年・126頁)とされています。

 現に本件の事案においても、一部の被告は、同信義則違反の主張を想定していると思われる反論を行っています。本件では原告が明示的に信義則違反を主張しておらず、また、信義則違反に起因する損害が不明であることもあり、特に争点とされなかったものと思われますが、他の同様の事案では、契約交渉の不当破棄という問題も十分争点になり得るところです。契約締結の自由があることが前提ではありますが、契約交渉に際しては、相手方に不測の損害を与えるような行為は法的責任を問われ得るということを念頭において、誠実に対応することが求められます。

契約当事者は互いに相手方の人格や財産を害さないという信義則上の義務を負うとの最高裁判例も
契約当事者は互いに相手方の人格や財産を害さないという信義則上の義務を負うとの最高裁判例も
(画像は最高裁判所の外観)
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