太陽光発電事業者のための法律Q&A

メガソーラー建設巡り施主と施工者が紛争、発電事業の譲渡が無効に

<第74回>メガソーラー売却を「通謀虚偽表示」により無効とした最新判例

2021/05/11 05:00
弁護士法人 匠総合法律事務所 代表社員弁護士 秋野卓生

 メガソーラー事業者と施工会社との紛争は、工期遅延、請負代金不払い、工事の瑕疵など多岐にわたります。

メガソーラー事業者と施工事業者間の争いには様々なケースが…
メガソーラー事業者と施工事業者間の争いには様々なケースが…
(出所:日経BP、本文内容とは関係しません)
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 今回紹介します、メガソーラー事業に関する最新の判例も、もともとは、メガソーラー事業者と施工会社との紛争に端を発しています。

 メガソーラー事業者と施工会社との紛争は、裁判にまで発展。そして、裁判所からの調停案の提示を受け、メガソーラー事業者は、事業譲渡し、破産申立を行いました。

 今回のケースは、破産管財人がメガソーラーの事業譲渡は「通謀虚偽表示」に該当し無効であるとして、メガソーラーに設定した工場財団についての所有権移転登記の抹消登記手続などを求めて訴訟を提起した事例です。東京地方裁判所が、昨年12月25日に判決を言い渡しました。

訴訟の舞台となったメガソーラー

 破産者であるメガソーラー事業者(以下「破産会社」、代表者はD)は、本件土地について地上権の設定を受け(2013年9月1日、地代を月額30万6000円)、本件土地上に発電設備を設置するとともに、上記地上権及び発電設備から構成される工場財団(以下「本件工場財団」)の表示登記手続を行いました。

 破産会社は、再生可能エネルギー発電事業計画認定として、「本件高圧発電認定」及び「本件低圧発電認定」(以下併せて「本件事業計画認定」)における発電事業者たる地位(以下「本件事業者地位」)を取得するとともに、東北電力との電力受給契約における名義人(以下「本件電力名義」)となりました。

 その後、破産会社は、発電事業譲受会社との間で、本件高圧発電事業及び本件地上権を譲渡する旨の代物弁済契約並びに本件低圧発電事業の譲渡契約をそれぞれ締結したとして(以下併せて「本件各譲渡」)、発電事業譲受会社に対し、本件工場財団の所有権移転登記手続及び上記地上権の移転登記手続をするとともに、本件事業者地位の名義及び本件電力名義を破産会社から発電事業譲受会社に変更する手続をしました。

 その後、2018年3月28日、破産会社は、破産手続の開始決定を受け、本件裁判の原告が破産管財人に選任されています。

メガソーラー事業者にとって不利な調停

 破産したメガソーラー事業者はまず、2014年3月6日、施工会社に対し、本件請負契約に関する工事につき、施工会社の責めに帰すべき事由により工期内に完成させ、引渡しをすることができなかったと主張して、違約金の支払を求める訴えを東京地方裁判所に提起しました。

 また、破産会社は、同年7月30日、施工会社に対し、主位的に本件請負契約に係る工事が完成していないことを前提として仕事の完成を求め、予備的に上記工事が一応完成していることを前提に瑕疵修補に代わる損害賠償を求める訴えを東京地方裁判所に提起しました。これに対し、施工会社は、破産会社に対し、本件請負契約に基づく請負代金の支払を求める反訴を東京地方裁判所に提起し、以上の事件は併合審理されました。

 この事件について、東京地方裁判所は、調停に付した上で、2016年12月6日、破産会社が本件高圧設備の引渡しを受けるのと引き換えに、2017年12月31日限り本件請負契約の請負代金6億7791万2865円を支払う旨の調停に代わる決定をした(以下「本件調停に代わる決定」)。同決定は、2016年12月20日の経過により確定しました。

東京地方裁判所の正門
東京地方裁判所の正門
(出所:日経BP)
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 破産会社は、本件請負契約に係る紛争により、太陽光発電設備を稼働して発電収入を得ることができず、資金繰りが困難となったことから、地主に対する地上権の地代の支払を滞納することになりました。

 破産会社代表者Dは、2015年8月、地主の代表取締役であるEに対し、施工会社との紛争が解決するまでの間、地代の支払を猶予して欲しい旨を依頼したところ、Eは、滞納地代について、地主の破産会社に対する貸付金に振り替え、施工会社との紛争解決後に一括して支払うという扱いにすることを了承しました。

 地主は、破産会社と施工会社との間の紛争の解決にも積極的に協力する姿勢であったことから、Dは、地主に対し、施工会社に譲歩を迫って早期の和解による解決をするために、本件地上権を消滅したことにして、地主から施工会社に対し本件高圧設備の撤去を要求することによって圧力をかけることを依頼し、破産会社と地主は、本件地上権が消滅したことを仮装するとの合意をしました。

発電事業譲受会社にメガソーラー事業を譲渡

 発電事業譲受会社は、本件調停に代わる決定が確定した2016年12月20日に設立されました。裁判所は、「発電事業譲受会社の設立及び運営(本件各譲渡に係る各種手続を含む)は、いずれもDが主導して行ったものと推認するのが相当である」と判示しています。

 本判決は、その上で、「破産会社は、本件請負契約に関する施工会社との紛争に起因して資金繰りが困難となっていたことから、地主が本件地上権に基づいて、施工会社に対し本件高圧設備の撤去を求めることによって、本件請負契約に関する施工会社との間の紛争を自身に有利に進めることを企図して、地主との間で、本件地上権の設定契約を抹消することを仮装したものの、結局、破産会社が本件高圧設備による売電収入が得られない中、本件請負契約に関する施工会社との間の訴訟では自身の主張が認められず、本件調停に代わる決定により、2017年12月31日までに請負代金6億7791万2865円を施工会社に支払う義務を負うことになったというのである。その後、発電事業譲受会社が、本件地上権を譲り受けたとして、施工会社に対し本件高圧設備の撤去を求める訴えを提起している(第2事件)のであり、本件地上権を破産会社から移転した上で施工会社に対し本件高圧設備の撤去を求めるという限度では、破産会社と地主との上記の仮装と類似の構造となっている」

 「以上の事実からすれば、発電事業譲受会社の設立に関しては、破産会社の代表者であったDが、本件請負契約に基づく施工会社からの請負代金請求に対抗すべく、地主との間の通謀虚偽表示によって施工会社との間の交渉を有利に進めようと考えたのと同様の発想に基づき、破産会社が有する本件地上権や本件高圧発電事業及び本件低圧発電事業の仮装譲渡先として発電事業譲受会社を設立したことがうかがわれる」と判示しています。

東京地方裁判所の外観
東京地方裁判所の外観
(出所:日経BP)
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 破産会社と発電事業譲受会社は、2017年2月8日、本件工場財団について、根抵当権者を発電事業譲受会社、債務者を破産会社とし、極度額を2000万円とする根抵当権設定登記手続をしました。

 裁判で、発電事業譲受会社は、代表者が、タンス預金から2000万円貸付をした担保である旨を主張しましたが、本判決は、別会社の「保有する資金2000万円を、いったん発電事業譲受会社の預金口座に入金した上で破産会社に対する貸付けとして送金し、その後、破産会社から別会社に返還したものであり、別会社を起点及び終点として2000万円の資金を還流させたものに過ぎないものであり、本件貸付けは、発電事業譲受会社ないし代表者の独立した原資によるものではなく、むしろ、「破産会社に対する貸金債権の外観を作出する目的で行われたものと推認される」と判示しています。

 破産会社と発電事業譲受会社は、同年12月8日付で、本件工場財団について、同年9月30日売買を原因とする破産会社から発電事業譲受会社に対する所有権移転登記手続を行うとともに、破産会社と発電事業譲受会社は、同日付で、本件工場財団の所有権移転を原因とする本件地上権の移転登記手続を行いました(なお、発電事業譲受会社は、後記のとおり、本件工場財団の所有権移転登記の原因について、同年9月30日に破産会社と発電事業譲受会社との間で締結した、破産会社の発電事業譲受会社に対する2000万円の貸金債務に代えて、本件地上権を譲渡し、本件高圧発電認定に係る発電事業者たる地位及び本件電力名義を発電事業譲受会社に変更すること(以下、本件高圧発電認定に係る発電事業者たる地位及び本件電力名義を変更することを併せて「本件高圧発電事業の譲渡」)を内容とする代物弁済契約であると主張しています。以下、被告の主張する当該代物弁済契約を「本件代物弁済」という)。

 破産会社は、破産会社から発電事業譲受会社へ本件事業者地位を変更する再エネ発電事業計画の変更認定を申請するとともに、本件電力名義の名義変更手続をしました。

裁判所の判決は?

 破産会社の発電事業譲受会社に対する、本件代物弁済による本件地上権及び本件高圧発電事業の譲渡並びに本件低圧発電事業の譲渡(本件各譲渡)は、いずれも、仮に当該譲渡に係る合意が成立していたとしても、その実質は、破産会社(D)において、施工会社による本件請負契約に係る請負代金6億7791万2865円の回収への対抗策として、発電事業譲受会社を設立した上で、発電事業譲受会社への譲渡があったとの外観を仮装したものというほかなく、破産会社及び発電事業譲受会社には、本件各譲渡をする意思がなかったものと認められるから、いずれも「通謀虚偽表示(民法94条)により無効なもの」というべきである。

東京地方裁判所の外観
東京地方裁判所の外観
(出所:日経BP)
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「通謀虚偽表示」とは?

 民法94条の「通謀虚偽表示」とは、相手方と意を通じて行った虚偽の意思表示です。

 (1)「意を通じている」という点と、(2)「虚偽の意思表示である」という要件が整うと成立します。

 互いに、その意思表示が真意でないことを知りながら、虚偽の意思表示をしても、その法律効果は、「無効」となりますよ、という規定が民法第94条に規定されているのです。

 本件では、メガソーラー建設をめぐる施工会社との紛争にて、裁判所から不利な調停案の提示を受けたメガソーラー事業者が、メガソーラーの譲受会社を作出し、事業譲渡した上で、地主とも通謀して、施工会社にプレッシャーを与えるべく通謀虚偽表示がなされたという事案であり、事案として珍しい事案であろうと思います(通謀虚偽表示の典型例は、不動産の仮装売買で、親類間で行われたり、夫婦間で税金対策や強制執行を免れるなどの目的で行われることが多いのです)。

破産管財人が見破る

 本件で、エビデンスは整えられ、各譲渡手続きが行われているのですが、破産管財人はこの不自然さに気がつき、本裁判を提起したものと思われます。

 良く悪質な第二会社を設立して、事業譲渡を行い、元の会社は、もぬけの殻にして破産申立を行うケースなどで、この破産管財人による否認権の行使がなされるケースがあります。

 が、本件は、おそらく、施工会社への請負代金不払いを徹底するための各手続きであったと想定され、私どもも、太陽光発電設備建設を巡るトラブルの法律相談を受けていますが、ここまで大胆なケースは見たことがなく、その意味で、珍しい事案に対する判決であると言えるでしょう。

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