太陽光発電事業者のための法律Q&A

太陽光設備の施工ミスで発電ロス、賠償額の算出方法は?

<第85回>近時の裁判例解説を踏まえた具体的な相談事案への対応について

2022/05/24 05:00
匠総合法律事務所 弁護士・秋野卓生、弁護士・角谷昌彦

施工不備で1系統が未発電

 最近、太陽光発電設備工事の施工者様より、当事務所に、次のような内容のご相談を頂きました。

(ご相談内容)

<前提>

・太陽光発電設備の配線施工ミスにより、発電していない個所があることが発覚しました。具体的には、太陽光発電設備の3系統のうち、1系統が未発電の状況にありました。

・未発電の原因となった配線施工については、当方の施工不備であることが判明したので、既に、是正工事を完了しています。

<対応方針>

・未発電部分が存在したことに関しては、実損分を支払う方向で考えています。

<ご質問>

・この場合、実損分の金額の査定方法は太陽光メーカーで作成したシミュレーションを基に日付換算して金額を査定する方法で良いでしょうか?

・計算以上の要求をされた場合の対処方法などありましたら教えてください。

 メガソーラービジネス誌においては、太陽光発電事業に関連し、重要と考えられる裁判例を多く取扱い、ご紹介して参りましたが、実際の事例に直面した際に、これらの裁判例をどのように用いて、解決への整理をすればよいのか、皆さんと一緒に見ていきたいと思います。

太陽光発電所の建設には、施工ミスによる損害賠償のリスクが…(写真は記事内容とは関係ありません)
太陽光発電所の建設には、施工ミスによる損害賠償のリスクが…(写真は記事内容とは関係ありません)
(出所:日経BP)
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施工ミスによって賠償すべき損害とは?

 工事の施工者は、注文者に対して、契約不適合責任(民法改正前の瑕疵担保責任に相当します)に基づいて、契約不適合(民法改正前の瑕疵に相当します)によって生じた損害を賠償する責任を負います。ここで、契約不適合によって生じた損害は、大別して、(1)契約不適合を是正するために必要となる費用と、(2)契約不適合が存在しなかった場合に得られたはずの利益(逸失利益)とに分けて整理することができます。

 本件では、未発電の原因となった配線施工について、既に是正工事が完了しているとのことですので、(1)の問題は解決済みとなります。ご相談を頂きました、未発電部分が存在したことによる実損分をどのように算出すべきであるかという点は、(2)の逸失利益の問題と整理されます。

裁判所は「逸失利益」を厳格に判断

 一般的に建築訴訟で逸失利益が問題となることが多い場合として、賃貸用の建物又は店舗用の建物に契約不適合が存在し、一定期間当該建物を賃貸できず、あるいは当該建物で営業できない場合を挙げることができます。

 このような場合、建物を使用できない期間の営業利益、賃貸用建物の賃料について損害賠償を認めるためには、契約不適合が存在しなければ、営業利益又は賃料を確実に取得できていたであろうことの立証が必要と考えられており、裁判例も同様の考え方を示すものが多いところです。

 例えば、賃貸用建物の場合に関して、東京地裁・平成25年12月24日判決は、次のような判断を示しています。

 この事案で、原告は、賃貸用の建物に契約不適合が存在したことを理由に、賃借人から契約更新を断られたとして、賃借人が賃貸借契約を更新することを前提とした賃貸借契約期間に相当する賃料の損害賠償を求めました。しかし、裁判所は、原告の主張に対して、「原告は、本件賃貸借契約が更新されることを前提に、平成26年6月までの逸失賃料を損害とすべきであると主張する。しかしながら、本件賃貸借契約の契約書(甲3)によれば、本件賃貸借契約は、これまで法定更新されてきたものではなく、満了になる都度、合意更新をしていることが認められ、そうすると、更新日までは賃貸借契約が継続される可能性は高いといえても、期間満了後も、これまでと同様に更新されるとは限らないので、本件賃貸借契約の満了日以降の逸失賃料を認めるのは相当でない」と判示して、更新を前提とした賃貸借期間に相当する賃料の損害賠償を否定しました。

 裁判所は、従前は賃貸借期間が満了になる都度、合意更新をしていること自体は認めつつ、「期間満了後も、これまでと同様に更新されるとは限らない」と指摘しており、賃料を確実に取得できたとまでは言えない点を考慮したものと推察されます。

 このように、逸失賃料の損害賠償に関して、裁判所は厳格に判断をする傾向を見ることができ、この考え方は、本件のように営業利益の損失が主張された場合にも妥当するものと考えられます。

東京地方裁判所の正門
東京地方裁判所の正門
(出所:日経BP)
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台風で飛散したケースの判例は?

 これまでに述べましたとおり、逸失利益の損害賠償においては、契約不適合が存在しなかったのであれば、その利益を確実に取得できたであろうといえるか否かという点に判断のポイントが置かれています。

 太陽光発電設備工事に関しても、施工者の施工不備によって台風時に太陽光パネルが飛散するなどしたため、注文者が施工者に対して、補修工事費用に加え、太陽光パネルの飛散などの発生から補修工事の完了までの期間に電力を販売できなかったことによる逸失利益の賠償を請求した事案に関して、東京地裁・令和3年3月18日判決は、「カ 逸失利益 0円 原告は、本件事故により逸失利益が生じた旨主張するが、その額を認めるに足りる的確な証拠はない」と判示して、逸失利益の賠償を否定しています。

 このような裁判例の考え方を前提とすると、実損分の金額を、太陽光メーカーが作成したシミュレーションを基に算出した主張は、シミュレーションどおりの発電量が得られるとは限らないことを理由として、認められない可能性が高いと考えられます。

 そもそも、太陽光発電設備の発電量は、その性質上、天候等の外的要因への依存を避けられないため、未発電であった1系統の太陽光発電設備の確実な発電量を特定することは不可能であることを前提に、施工者は、契約不適合を是正するために必要となる費用を賠償することで足り、逸失利益の賠償までは不要であるとの解釈も考えられます。

 それでは、上記のような解釈に基づいて、本件で逸失利益の損害賠償は不要であると主張できるでしょうか。答えは、「本件に関しては」、できないと考えます。

 東京地裁・平成25年12月24日判決は、期間満了後に賃貸借契約が更新されるか否か、つまり、賃料債権が発生するか否かが不確実である点を問題視しました。また、東京地裁・令和3年3月18日判決も、現実に発電は行われていなかった、太陽光パネルの飛散などの発生から補修工事の完了までの期間における発電量及びその売電額の特定がないことを問題視した事案です。いずれの事案においても、賃料又は発電量の発生自体を確実に注文者が得られたであろうとはいえない、と裁判所が判断したと推察されます。

東京地方裁判所の外観
東京地方裁判所の外観
(出所:日経BP)
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木陰で起きた発電ロスでの判例では?

 一方で、本件の場合には、配線施工ミスが存在しなければ、その系統の太陽光発電設備が発電をしたこと自体は確実視することが可能であり、あとは、具体的な発電量に関し、確実視できる数量をどのように算出するかという点が問題となっています。この点が、東京地裁・平成25年12月24日判決、東京地裁・令和3年3月18日判決と大きく異なる点といえます。

 そして、確実視できる発電量の算出方法に関しては、このコラムの第81回でご紹介しました東京高裁・令和3年9月8日判決の考え方が参考となります。

 この事案では、太陽光発電設備を設置した隣地にある樹木の日影の影響で、実際の発電量が予想発電量に満たなかったことが問題となり、太陽光発電設備の施工者に対して、損害賠償請求がなされました。

 裁判所は、隣地の樹木群の日影による影響を受けた太陽光パネルの範囲を、設備全体の合計216枚の太陽光パネルのうち、6枚と認定し、平成29年4月から平成30年3月までの間、これらの6枚の太陽光パネルについては、発電量を実質的にゼロだったと考えることを相当であるとしました。その上で、当該年度における設備全体としての発電量を210で割り、太陽光パネル1枚当たりの発電量を概算しました。そして、隣地の樹木群が存在しなければ、太陽光パネル1枚当たりの発電量×6枚分の発電量・売電収入が得られたと推認されるとして、差額分を損害と認めました。

 これは、発電量の減少分は、日影が存在しなかった場合に、確実に取得できたであろう発電量と等しいという考え方に基づいて、設備全体に占める日影の影響を受けた太陽光パネルの割合から発電量の減少分を算定したものであり、この点で、東京高裁・令和3年9月8日判決は、「日影の影響を受けた太陽光パネルについても、日影が存在しなければ、他の太陽光パネルと同等の発電をしたことは確実といってよい」ことを前提にしていると推察されます。

木陰による発電損失を算定した判例が参考になる(写真は記事中の裁判とは関係ありません)
木陰による発電損失を算定した判例が参考になる(写真は記事中の裁判とは関係ありません)
(出所:日経BP)
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本件についての検討

 この裁判例の考え方を参考に、ご質問事項を検討していきましょう。

 まず、先ほども述べましたとおり、太陽光メーカーで作成したシミュレーションはあくまでも予測値であり、確実に取得できたであろう発電量の算出基準として利用することは相当とはいえないと考えられます。

 そして、本件では、太陽光発電設備の配線施工ミスにより、太陽光発電設備の3系統のうち、1系統が未発電の状況にあったとのことですから、東京高裁・令和3年9月8日判決を参照し、下記の順序で実損害を把握できます。

(1)1系統が未発電の状態下での総発電量を把握する

 まずは、引渡し時から、配線施工ミスの是正工事が完了するまでの間の発電量、つまり、残り2系統の太陽光発電設備のみが稼働したことによる発電量を把握します。

 以下では、便宜上、この発電量を100(単位略)と考えていきましょう。

(2)配線施工ミスにより未発電となった1系統の太陽光発電設備による発電量が、全体の発電量に占める割合を特定する

 例えば、3系統の太陽光発電設備をそれぞれA系統、B系統、C系統とした上で、Aの発電量:B系統の発電量:C系統の発電量=5:2:3、といった具合です。具体的な算出方法としては、東京高裁・令和3年9月8日判決に従い、太陽光パネルの面積比率を用いる方法が良いでしょう。

 本件では、1系統が未発電の状況にあったということですので、東京高裁・令和3年9月8日判決において問題となり得る、隣地の樹木群の日影による影響を受けた太陽光パネル6枚の発電量について、本当に「実質的にゼロ」であったと言ってよいかという問題は生じず、太陽光パネルの面積比率を用いることが説得的です。

(3)(1)及び(2)を前提として、発電量の減少分を算出する

 以上を踏まえて、発電量の減少分を算出します。

<ケース1>A系統が未発電の場合

 例えば、A系統が配線施工ミスにより未発電であった場合、B系統及びC系統での発電量が100、また、発電量の比率は、A:B+C=5:5ですので、A系統が未発電であったことによる発電量の減少分は100と算出できます。

 この場合には、発電量100に対応する電気価格を実損害として把握できます。

<ケース2>B系統が未発電の場合

 同様に、B系統が配線施工ミスにより未発電であった場合、A系統及びC系統での発電量が100、また、発電量の比率は、B:A+C=1:4ですので、B系統が未発電であったことによる発電量の減少分は25と算出できます。

 この場合には、発電量25に対応する電気価格を実損害として把握できます。

 事前に提示したシミュレーションの数値が実際の発電量を上回っている場合、発注者はシミュレーション記載の発電量を得ることができると期待していることと相まって、シミュレーションを基に算出した金額の損害賠償を請求される事案も見受けられるところですが、上記東京高裁・令和3年9月8日判決の判示内容、具体的な計算根拠を明示した資料を準備の上、誠実にご説明を尽くして、対応していくことが肝要と考えます。

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