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合意の当事者でない者にも「仲裁合意」の効力は及ぶ? (page 4)

<第86回>太陽光発電設備に係る設計施工契約中の仲裁合意に関する最新判例

2022/06/21 05:00
匠総合法律事務所 弁護士・秋野卓生、弁護士・丹羽響
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本件仲裁規定の解釈

 では、本件では、具体的にどのような事情が重視されて、本件仲裁規定が、被告A及び被告Bとの関係でも効力を有すると判断されたのでしょうか。

 まず、裁判所は、仲裁合意の効力が及ぶ範囲について、次のとおり述べています。

 「仲裁合意の効力は、原則として合意をした当事者のみに及ぶと解されるが、例外的に、仲裁合意の当事者以外の者であっても、その者の地位、当事者との関係、当事者間の紛争に対する関与の程度等の個別事情を考慮した上で、当該仲裁合意をした当事者において、当該当事者以外の者との間の紛争も仲裁によって解決する合理的意思があると解される場合には、当該当事者以外の者が示す仲裁合意の効力の享受に関する態度いかんも踏まえて、当事者以外の者に対しても仲裁合意の効力が及ぶ場合があると解される」(下線は引用者による)

 このように、裁判所は、仲裁合意については、例外的に、個別の事情の下で、仲裁合意の当事者以外の者であっても効力が及ぶことを認めています。上記規範について、裁判所は明確な理由を述べていませんが、個別事情次第では、(黙示的に合意が成立するのではなく、)当事者以外の者にも効力が及ぶと示している点は、意義があると思われます。

 なお、上記規範における考慮要素(観点)を大きく分けると、以下の2点となります。

【考慮要素(観点)】

(1)仲裁合意をした当事者の合理的意思

*仲裁合意の当事者以外の者の地位、当事者との関係、当事者間の紛争に対する関与の程度等の個別事情を考慮して判断する。

(2)当該当事者以外の者が示す仲裁合意の効力の享受に関する態度

 まず、裁判所は、上記の規範の下で、上記(1)「仲裁合意をした当事者の合理的意思」の検討のために、被告A及び被告Bの立場について、次のように検討しています。

 「被告つうけん(引用者注:被告B)は、被告アクティブ(引用者注:被告C)が契約主体となる前に本件請負契約に関して原告……との間で協議をしていた者であり、被告アクティブとのグループ内における業務分担の都合で契約主体とならなかったに過ぎないのであるから、本件請負契約に関して、実質的にみて被告アクティブと同様の立場にあり、同被告と別個の地位ないし役割を果たしていたものではない。また、被告Aは、本件請負契約の締結及び履行(工事の設計及び施工)に当たって、被告つうけん及び被告アクティブの従業員として行動した者であるところ、被告Aのこの行動は、専ら被告つうけん及び被告アクティブの組織としての業務を一従業員の立場から遂行したものであって、それとは異なる個人的な行為であったことをうかがわせる事情はない。以上のことから、本件請負契約の締結及び履行に関連して生じた民事紛争において、被告つうけん及び被告Aは、基本的に、被告アクティブと別個独立に解決されるべき立場にはないとみるのが相当である」(下線は引用者による)

 当該部分は、上記の規範のいう「その者の地位、当事者との関係、当事者間の紛争に対する関与の程度」を具体的に検討したものになり、従前の交渉経緯やその役割からして、被告A及び被告Bは、仲裁合意の当事者である被告Cと別個独立の地位にあると評価する必要はないと判断しています。実務上も、関連会社が窓口となって、実際には別会社が契約を締結することは、ままあることであり、この点は、留意する必要があるところです。

 また、以上に加え、裁判所は、上記(1)「仲裁合意をした当事者の合理的意思」の検討として、原告の各被告らに対する請求の関連性についても確認しており、各請求は「責任を基礎付ける重要な事実を共通にしている」(下線は引用者による)としています。

 以上を前提に、裁判所は、「本件訴訟で問題となる被告らとの間の紛争は、その内容に照らして、全ての被告との関係で同一の手続において一体として審理判断されるにふさわしい性質のものといえる。仮に、被告つうけん(引用者注:被告B)及び被告Aとの関係では訴訟による解決を図るということになると、訴訟において、被告つうけん及び被告Aが、本件請負契約及びその履行に関連する資料を有し、敗訴の場合には求償権を行使する相手となり得る被告アクティブ(引用者注:被告C)に対して訴訟告知をし、被告アクティブが訴訟に補助参加する事態が生じることが容易に想定されるが、訴訟ではなく仲裁による解決を目的として本件仲裁合意をした被告アクティブにおいて、仲裁手続で原告らの主張を争いつつ、訴訟においても補助参加をして争うという事態が生じることを想定ないし許容しているとは考え難い」(下線は引用者による)と判示しています。

 要するに、被告Cとしては、せっかく仲裁合意をして、簡易迅速に解決することを予定していたにもかかわらず、(責任を基礎付ける重要な事実を共通にする請求を受けた)他の者の訴訟に付き合わされてしまうのでは、仲裁合意の意味がなく、仲裁合意をするに当たってそのような事態は許容していないはずだということを示しています。

 以上をもって、裁判所は、上記(1)「仲裁合意をした当事者の合理的意思」について、「原告……と被告アクティブ(引用者注:被告C)との間の本件仲裁合意においては、本件請負契約の締結及び履行について生じた紛争は、全て仲裁手続において統一的に解決することが意図されていたと解され、そうすると、本件における被告つうけん(引用者注:被告B)及び被告Aに対する責任追及も、仲裁手続において解決することが予定されていたというべきである」と判断しています。

 また、裁判所は、上記(2)「当該当事者以外の者が示す仲裁合意の効力の享受に関する態度」の検討として、「本件仲裁合意の当事者でない被告つうけん(引用者注:被告B)及び被告Aは、本件仲裁合意の存在を主張して訴えの却下を求めており、本件仲裁合意の効力を享受して仲裁手続によって紛争解決を望む態度を示しているから、これら被告について本件仲裁合意の効力を及ぼしても、これら被告の裁判を受ける権利を一方的に奪うことにはならない」(下線は引用者による)と示しています。

 この点、合意の効力を判断するものである以上、上記(1)が検討されるのは当然のことですが、当事者以外の者を拘束して問題ないのかという観点からは、上記(2)の検討が重要であると思料します。したがって、当事者間の合理的な意思のみによって、仲裁合意の効力を当事者以外の者に対しても及ぼすことを許容した判決ではないという点は、注意が必要です。

札幌高等・地方裁判所の正門
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(出所:photpAC)
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