仲裁合意の成否は厳格に解すべき
以上では、仲裁合意の効力が及ぶ範囲について本判決を題材に確認してきましたが、その前段階として、そもそも仲裁合意が成立しているのかという点が問題となることがあります。
この点、上記のとおり、仲裁合意をすると、裁判を受ける機会を失うこととなることを考慮すると、仲裁合意の効力については、慎重に検討するべきです。
実際、東京高裁・平成25年7月10日判決は、「甲又は乙は、前条のあっせん又は調停により紛争を解決する見込みがないと認めたときは、甲乙双方の合意に基づいて審査会の仲裁に付し、その仲裁判断に服する」という条項により、仲裁合意が成立しているかという点が問題となった事件において、仲裁合意の解釈に当たっては、その効果が裁判を受ける権利に関わるため、慎重な判断が必要であると述べた上で、「審査会の仲裁に付するためには、双方の合意に基づいてすると規定しており、本件約款の条項とは別に仲裁合意をすることを想定した規定となっている上、……仲裁合意の効果についての注意事項は記載されていない。そうすると、本件約款の文言解釈からすると、本件約款を取り交わしたことのみでは、仲裁合意としては不十分で、審査会の仲裁に付する旨の別途の書面の合意が必要であると解するのが相当である」(下線は引用者による)と判断しています。
なお、本件でも、原告は、仲裁合意の成否について争っていましたが、上記東京高裁判決の事案とは異なり、仲裁規定に「甲乙双方の合意に基づいて」という趣旨の文言が含まれていなかったため、上記のように、別途の書面の合意が必要であるという議論には至りませんでした(原告側もそのような主張はしていません)。
上記東京高裁判決と本件の判決からすると、仲裁合意の成立については、厳格に解するものの、そのような厳格な認定により成立が認められた場合には、その効力の及ぶ範囲については、個別事情を基に柔軟に解する余地があるということになるのではないでしょうか。
いずれにせよ、仲裁合意に係る文言の解釈については、その効果がドラスティックなだけに、特に留意が必要であって、仲裁合意の効力が及ぶ範囲や要件については、明確にした上で契約を締結することが望ましいと言えます。