太陽光発電事業者のための法律Q&A

合意の当事者でない者にも「仲裁合意」の効力は及ぶ?

<第86回>太陽光発電設備に係る設計施工契約中の仲裁合意に関する最新判例

2022/06/21 05:00
匠総合法律事務所 弁護士・秋野卓生、弁護士・丹羽響

「仲裁合意」とは?

 契約当事者間の紛争を解決する法的方法として、訴訟を思い浮かべる方が多いと思いますが、訴訟手続はある程度の時間と費用を要する手続であるため、より簡易迅速に紛争を終結させる手段として仲裁という制度が用意されています。実際に、建設工事に関する請負契約書においては、紛争の解決方法として、仲裁制度による解決を指定していることが少なくありません。

 例えば、民間連合協定工事請負契約約款や民間建設工事標準請負契約約款等では、建設業法による建設工事紛争審査会のあっせん又は調停の手続内で協議することで解決を図るものとし、これが整わない場合には、仲裁合意書に基づいて、審査会の仲裁判断に従うという規定(仲裁合意規定)が設けられています。このように一般的な約款にも仲裁合意規定は設けられているため、請負人側としても、特に意識することなく、仲裁合意規定を含んだ契約を締結していることがあるのではないでしょうか。

 他方で、仲裁合意は、後述のとおり、訴訟による解決を排除する効力を有するため、当事者の思いもよらぬ結果をもたらす可能性も否定できません。

 今回取り上げる裁判例(札幌地裁・令和4年2月8日判決)は、太陽光発電事業者・施工業者間で太陽光発電設備の設計及び施工等に関する請負契約を締結した場合に、契約当事者以外の者にまで、当該請負契約中の仲裁合意の効力が及ぶかという点が争点となった事案であり、仲裁合意が訴訟に及ぼす影響を確認するのに資する裁判例と言えます。

 では、本件の事案を見ながら、仲裁合意について確認していきましょう。

 先取りになりますが、本件の判決においては、契約締結に至る経緯等の従前の経緯が重視されているため、以下ではまず、事実経緯について確認します。

札幌高等・地方裁判所の外観
札幌高等・地方裁判所の外観
(出所:photoAC)
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契約締結の経緯

 本件の原告は、太陽光発電事業を行う事業者であり、太陽光発電事業を行うための土地を取得し、同土地に太陽光発電設備を建設することを計画していたところ、被告B(法人)の従業員であった被告A(個人)が、同建設工事を請け負いたい旨を原告に伝えたことを契機に、原告と被告Bとの間で同建設工事に係る請負契約の締結に係る交渉が行われました。

 もっとも、その後、被告らの事情により、実際の工事は、被告Bの子会社である被告C(法人)が行うこととなったため、最終的には原告と被告Cとの間で交渉が行われ、太陽光発電所の発電設備設置工事及び同設備の敷地の造成工事を内容とする請負契約が締結されました(以下「本件請負契約」)。

 なお、被告Aは、後に被告Bから被告Cに転籍しており、被告Cにおいて、同建設工事の設計及び施工に関与しています。

契約締結から訴訟に至る経緯

 その後、発電所の工事中に、同発電所設置予定地の高盛土部分が崩壊する事故が発生したことを契機として、原告は、被告Cに対して、同事故に関する修復工事を行うことを求めるとともに、発電所の工事に関して多数の瑕疵が発覚したなどと主張して、これについても修復工事を行うことを求めました。

 原告(当時、原告の太陽光発電事業部門を分社化するために設立された別会社が権利を承継していますが、便宜上、以下でも「原告」といいます)と被告Cは修復工事に係る協議(任意交渉)を行いましたが、原告が被告Cの提案する修復工事の計画案を受け容れなかったため、協議が打ち切られました。

 そのため、被告Cは、本件請負契約の規定(後述の本件仲裁規定)に基づき、原告を相手方として、中央建設工事紛争審査会に対して調停を申し立てましたが、同調停でも協議は整わず、最終的に原告は、被告Cに加えて、被告A及び被告Bをも被告として、訴訟を提起しました。

建設工事紛争審査会の仕組み
建設工事紛争審査会の仕組み
(出所:国土交通省ホームページ)
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仲裁合意の効力

 以上の経緯で原告と被告らとの間の訴訟が係属することとなりましたが、本件請負契約中には、次のような条項が含まれていました。

第●●条 この契約の条項で甲乙(注:「甲」は原告、「乙」は被告Cを指します。)協議を要するものにつき協議がととのわない場合、その他この契約に関して甲乙間に紛争が生じた場合は、建設業法による建設工事紛争審査会のあっせん又は調停によって、その解決を図る。

2 前項の審査会があっせん若しくは調停しないとき、又はこれを打ち切った場合においては、その旨を当事者が受けたときは、紛争を同審査会の仲裁に付し、その判断に服する。

 仲裁合意は、仲裁法において定義されており、「既に生じた民事上の紛争又は将来において生ずる一定の法律関係(契約に基づくものであるかどうかを問わない)に関する民事上の紛争の全部又は一部の解決を一人又は二人以上の仲裁人にゆだね、かつ、その判断……に服する旨の合意」を意味するとされています(仲裁法2条)。

 また、当事者がいったん仲裁合意をすれば、当該合意に基づく仲裁判断は、一定の場合に不承認とされる例外を除き、確定判決と同一の効力を有し(同法45条1項、2項)、当事者は仲裁判断に拘束され、これに対し、不服申立てをすることも許されません(同法46条)。

 そのため、仲裁合意が存する場合には、訴訟を提起したとしても、訴訟要件を欠くとして、訴えが却下されてしまいます。

 本件では、上記条項が仲裁合意に当たるところ(以下「本件仲裁規定」)、本件請負契約は、原告と被告Cとの間で締結された契約であるため、本件仲裁規定の効力が被告A及び被告Bにも及ぶのかという点が争点の1つとなりました(原告は、効力が及ばないため訴訟要件は満たしていると主張し、被告らは、効力が及ぶため訴訟要件を欠くと主張しています)。

 この点、契約は合意によって成立するものであり、合意(約束)したからこそ拘束されるというのが契約法の原則です。本件においても、原告は、同原則を主張し、本件仲裁規定の効力は、原告及び被告Cの間でのみ効力を有すると主張していました。

 他方で、仲裁合意の効力は誰に及ぶのかという問題(仲裁合意の効力の人的範囲の問題)については、法人が仲裁合意を締結した場合に同法人の代表取締役等にもその効力が及ぶのかという命題を中心に議論されてきました(中村達也『仲裁合意の効力の人的範囲について』国士舘法學第49号222頁)。

 本件で、裁判所は、仲裁合意の効力は例外的に合意の当事者以外にも及ぶことを前提に、本件の個別具体的な事情から本件仲裁規定の意味を解釈し、かつ、合意当事者以外の者の裁判を受ける権利についても配慮した上で、本件仲裁規定は、被告A及び被告Bとの関係でも効力を有すると判断しました。

札幌高等・地方裁判所の外観
札幌高等・地方裁判所の外観
(出所:photpAC)
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本件仲裁規定の解釈

 では、本件では、具体的にどのような事情が重視されて、本件仲裁規定が、被告A及び被告Bとの関係でも効力を有すると判断されたのでしょうか。

 まず、裁判所は、仲裁合意の効力が及ぶ範囲について、次のとおり述べています。

 「仲裁合意の効力は、原則として合意をした当事者のみに及ぶと解されるが、例外的に、仲裁合意の当事者以外の者であっても、その者の地位、当事者との関係、当事者間の紛争に対する関与の程度等の個別事情を考慮した上で、当該仲裁合意をした当事者において、当該当事者以外の者との間の紛争も仲裁によって解決する合理的意思があると解される場合には、当該当事者以外の者が示す仲裁合意の効力の享受に関する態度いかんも踏まえて、当事者以外の者に対しても仲裁合意の効力が及ぶ場合があると解される」(下線は引用者による)

 このように、裁判所は、仲裁合意については、例外的に、個別の事情の下で、仲裁合意の当事者以外の者であっても効力が及ぶことを認めています。上記規範について、裁判所は明確な理由を述べていませんが、個別事情次第では、(黙示的に合意が成立するのではなく、)当事者以外の者にも効力が及ぶと示している点は、意義があると思われます。

 なお、上記規範における考慮要素(観点)を大きく分けると、以下の2点となります。

【考慮要素(観点)】

(1)仲裁合意をした当事者の合理的意思

*仲裁合意の当事者以外の者の地位、当事者との関係、当事者間の紛争に対する関与の程度等の個別事情を考慮して判断する。

(2)当該当事者以外の者が示す仲裁合意の効力の享受に関する態度

 まず、裁判所は、上記の規範の下で、上記(1)「仲裁合意をした当事者の合理的意思」の検討のために、被告A及び被告Bの立場について、次のように検討しています。

 「被告つうけん(引用者注:被告B)は、被告アクティブ(引用者注:被告C)が契約主体となる前に本件請負契約に関して原告……との間で協議をしていた者であり、被告アクティブとのグループ内における業務分担の都合で契約主体とならなかったに過ぎないのであるから、本件請負契約に関して、実質的にみて被告アクティブと同様の立場にあり、同被告と別個の地位ないし役割を果たしていたものではない。また、被告Aは、本件請負契約の締結及び履行(工事の設計及び施工)に当たって、被告つうけん及び被告アクティブの従業員として行動した者であるところ、被告Aのこの行動は、専ら被告つうけん及び被告アクティブの組織としての業務を一従業員の立場から遂行したものであって、それとは異なる個人的な行為であったことをうかがわせる事情はない。以上のことから、本件請負契約の締結及び履行に関連して生じた民事紛争において、被告つうけん及び被告Aは、基本的に、被告アクティブと別個独立に解決されるべき立場にはないとみるのが相当である」(下線は引用者による)

 当該部分は、上記の規範のいう「その者の地位、当事者との関係、当事者間の紛争に対する関与の程度」を具体的に検討したものになり、従前の交渉経緯やその役割からして、被告A及び被告Bは、仲裁合意の当事者である被告Cと別個独立の地位にあると評価する必要はないと判断しています。実務上も、関連会社が窓口となって、実際には別会社が契約を締結することは、ままあることであり、この点は、留意する必要があるところです。

 また、以上に加え、裁判所は、上記(1)「仲裁合意をした当事者の合理的意思」の検討として、原告の各被告らに対する請求の関連性についても確認しており、各請求は「責任を基礎付ける重要な事実を共通にしている」(下線は引用者による)としています。

 以上を前提に、裁判所は、「本件訴訟で問題となる被告らとの間の紛争は、その内容に照らして、全ての被告との関係で同一の手続において一体として審理判断されるにふさわしい性質のものといえる。仮に、被告つうけん(引用者注:被告B)及び被告Aとの関係では訴訟による解決を図るということになると、訴訟において、被告つうけん及び被告Aが、本件請負契約及びその履行に関連する資料を有し、敗訴の場合には求償権を行使する相手となり得る被告アクティブ(引用者注:被告C)に対して訴訟告知をし、被告アクティブが訴訟に補助参加する事態が生じることが容易に想定されるが、訴訟ではなく仲裁による解決を目的として本件仲裁合意をした被告アクティブにおいて、仲裁手続で原告らの主張を争いつつ、訴訟においても補助参加をして争うという事態が生じることを想定ないし許容しているとは考え難い」(下線は引用者による)と判示しています。

 要するに、被告Cとしては、せっかく仲裁合意をして、簡易迅速に解決することを予定していたにもかかわらず、(責任を基礎付ける重要な事実を共通にする請求を受けた)他の者の訴訟に付き合わされてしまうのでは、仲裁合意の意味がなく、仲裁合意をするに当たってそのような事態は許容していないはずだということを示しています。

 以上をもって、裁判所は、上記(1)「仲裁合意をした当事者の合理的意思」について、「原告……と被告アクティブ(引用者注:被告C)との間の本件仲裁合意においては、本件請負契約の締結及び履行について生じた紛争は、全て仲裁手続において統一的に解決することが意図されていたと解され、そうすると、本件における被告つうけん(引用者注:被告B)及び被告Aに対する責任追及も、仲裁手続において解決することが予定されていたというべきである」と判断しています。

 また、裁判所は、上記(2)「当該当事者以外の者が示す仲裁合意の効力の享受に関する態度」の検討として、「本件仲裁合意の当事者でない被告つうけん(引用者注:被告B)及び被告Aは、本件仲裁合意の存在を主張して訴えの却下を求めており、本件仲裁合意の効力を享受して仲裁手続によって紛争解決を望む態度を示しているから、これら被告について本件仲裁合意の効力を及ぼしても、これら被告の裁判を受ける権利を一方的に奪うことにはならない」(下線は引用者による)と示しています。

 この点、合意の効力を判断するものである以上、上記(1)が検討されるのは当然のことですが、当事者以外の者を拘束して問題ないのかという観点からは、上記(2)の検討が重要であると思料します。したがって、当事者間の合理的な意思のみによって、仲裁合意の効力を当事者以外の者に対しても及ぼすことを許容した判決ではないという点は、注意が必要です。

札幌高等・地方裁判所の正門
札幌高等・地方裁判所の正門
(出所:photpAC)
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仲裁合意の成否は厳格に解すべき

 以上では、仲裁合意の効力が及ぶ範囲について本判決を題材に確認してきましたが、その前段階として、そもそも仲裁合意が成立しているのかという点が問題となることがあります。

 この点、上記のとおり、仲裁合意をすると、裁判を受ける機会を失うこととなることを考慮すると、仲裁合意の効力については、慎重に検討するべきです。

 実際、東京高裁・平成25年7月10日判決は、「甲又は乙は、前条のあっせん又は調停により紛争を解決する見込みがないと認めたときは、甲乙双方の合意に基づいて審査会の仲裁に付し、その仲裁判断に服する」という条項により、仲裁合意が成立しているかという点が問題となった事件において、仲裁合意の解釈に当たっては、その効果が裁判を受ける権利に関わるため、慎重な判断が必要であると述べた上で、「審査会の仲裁に付するためには、双方の合意に基づいてすると規定しており、本件約款の条項とは別に仲裁合意をすることを想定した規定となっている上、……仲裁合意の効果についての注意事項は記載されていない。そうすると、本件約款の文言解釈からすると、本件約款を取り交わしたことのみでは、仲裁合意としては不十分で、審査会の仲裁に付する旨の別途の書面の合意が必要であると解するのが相当である」(下線は引用者による)と判断しています。

 なお、本件でも、原告は、仲裁合意の成否について争っていましたが、上記東京高裁判決の事案とは異なり、仲裁規定に「甲乙双方の合意に基づいて」という趣旨の文言が含まれていなかったため、上記のように、別途の書面の合意が必要であるという議論には至りませんでした(原告側もそのような主張はしていません)。

 上記東京高裁判決と本件の判決からすると、仲裁合意の成立については、厳格に解するものの、そのような厳格な認定により成立が認められた場合には、その効力の及ぶ範囲については、個別事情を基に柔軟に解する余地があるということになるのではないでしょうか。

 いずれにせよ、仲裁合意に係る文言の解釈については、その効果がドラスティックなだけに、特に留意が必要であって、仲裁合意の効力が及ぶ範囲や要件については、明確にした上で契約を締結することが望ましいと言えます。

東京高等・地方裁判所の正門
東京高等・地方裁判所の正門
(出所:日経BP)
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