太陽光発電事業者のための法律Q&A

「メガソーラー裁判」を読み解く、地裁の判断はなぜ覆ったのか?(前半)

<第75回>東京高裁・伊豆高原メガソーラーに関する判決の解説

2021/06/23 19:00
弁護士法人 匠総合法律事務所 代表社員弁護士 秋野卓生

控訴棄却も、実質的に地裁の判決理由を否定

 2020年6月~8月のこのコラムで、静岡県伊東市八幡野の大規模太陽光発電所(メガソーラー)建設に関する訴訟に関して解説しました(関連記事:「メガソーラー裁判」を読み解く、「行政裁量」の逸脱・濫用とは?)。

 この案件の事業者である伊豆メガソーラーパーク合同会社(同市)が、市による事業地内河川の占用の不許可処分取り消しを求めた訴訟の控訴審判決で、東京高裁は4月21日、市に取り消しを命じた一審の静岡地裁判決を支持し、市側の控訴を棄却しました。

 東京高裁の判決は、事業者に処分理由を十分に提示していない伊東市の手続き上の不備を認める一方、事業者が主張する「条例前の着工」は、市の事業許可の条件である防災措置の先行実施がないことなどから認定せず、実質的に「市が事実誤認の条例違反を理由に不許可とした」地裁の判決理由を否定し、伊東市が法令などの適合性も勘案し不許可処分とすること自体は「裁量権の逸脱や乱用に当たらない」と結論付けました。

 今回は、この「東京高裁令和3年4月21日判決」について解説します。

東京高裁の外観
東京高裁の外観
(出所:日経BP)
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静岡地裁の判断を振り返ると…

 静岡地裁はまず本件処分について、河川敷地の占有の適否は、河川法の目的に沿って判断する必要があるとした上で、災害防止や流水の正常な機能の維持などにより公共の安全を確保する観点には専門技術的判断を、それ以外の公共の福祉を増進する観点には政策的判断を要するとして、それぞれに河川管理者(市)の裁量を認定しています。この際、河川法は、本件のような普通河川について、河川法の適用を受ける河川以上に強力な河川管理の定めを置くことを禁止していると解し、これに反する条例等の制定は認められないとしています。

 同裁量権の行使の適否について、地裁は、いわゆる判断過程審査に該当する基準を設定し、裁量の逸脱濫用の存否を検討し、違法にあたるかどうかを判断する、としています。

 そして地裁の判決は、本件不許可処分に関する裁量的判断の要素として、(1)占有目的、(2)条例との適合性、(3)市議会におけるメガソーラー事業への反対決議等の存在、(4)カルバート等の機能、を挙げています。

 まず、(1)の占有目的については、申請事業者が河川敷地を占有する直接的な目的は、当該箇所に橋を架けることにあったため、メガソーラー事業を運営するという目的も含めて考慮することは、認められないようにも思われます。もっとも、占有によって実施する事業の内容により、河川へ影響を及ぼす可能性があることから、当該事業を含めた占有目的を考慮することを認めています。

 次に、(2)の条例との適合性については、「現に太陽光発電設備事業に着手している者」(附則2条)に該当するかを検討しています。

 また、(3)の市議会における反対決議等については、河川及びその周辺の地域の環境保全だけでなく、申請目的をも考慮した景観及び自然環境保全の観点から、一般社会住民の容認するものであるか否かを考慮して良いかという問題になります。地裁は、これら事項については、敷地占用自体によりもたらされる影響ではなく、河川・周辺の地理的範囲を超えた事項を考慮することにほかならないので、考慮すべきでないとしています。更に、本件カルバート等について悪影響が無いことについては争いがない以上、住民や市議の同意を要件とするような判断は認められるべきでないとしました。

 最後に、(4)のカルバート等の機能については、当該カルバート等が占用許可をされうる施設の例として規定されており、これを設置すること自体が河川管理機能を害するものではないにも関わらず、公共性が高くないと評価した点につき明らかに合理性を欠くとしました。

 上記理由から、静岡地裁は結論として本件不許可処分には、裁量の逸脱濫用があるとして、違法としました。

静岡地裁の外観
静岡地裁の外観
(出所:日経BP)
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東京高裁の判断は?

 一方、東京高裁は同じく裁量に関する判断について、以下のような検討を行っています。

 高裁は、占有を許可することで災害防止や流水の正常な機能の維持等の妨げにならない場合であっても、普通河川条例及び河川法の目的等を勘案し、占用を許可しないことが相当であれば、不許可とすることができるとし、河川管理者の裁量を認めています。

 その上で、裁量判断の考慮要素として、県が定める審査基準等に照らし、「真に公共性のある事業を行うために必要と認められる」ものであって、「一般社会住民の容認するものであること」、「当該占用により河川及びその附近の自然的及び社会的環境を損なわず」、かつ、「必要やむを得ないと認められるもの」に該当するか否かを挙げています。

 また、占有の「公共性の高さ」や、申請の主体が「公益性のある事業又は活動を行う者」に当たるか否か、さらには、当該事業の公共性又は公益性の有無に関する事情の1つとして、当該事業に係る行為が、法令等又は法令等に基づく処分に適合するか否かを考慮することも許されるとしました。

 まず、(1)の占用目的との関係で、メガソーラー事業のための開発・運営の目的も含めて考慮することを認める点では、高裁も地裁と同様です。

 次に、(2)の条例違反の事実については、地裁とは異なり、本件事業者は「現に」「事業に着手している」事業者には該当しないものとされました。そのため、普通河川条例の経過措置を定めた附則2条の適用がなく、同条例10条により、事業者は、市長の許可を得て工事を実施する必要があったところ、許可を得ていなかったため、条例違反に当たるものとされました。加えて、市が行った行政指導・許認可に付した条件につき、事業者が必要な対応を行っていなかったことにも言及しました。

 また、(3)の市民グループによる当該事業への反対署名や市議会で反対決議がなされたことについては、そこで指摘された事項が、当該事業に係る事業地の面積・規模の大きさに照らし、「あながち不合理なものとは言い難い」と言及しており、高裁は、こうした事項も裁量的判断の考慮要素として認めたものと考えられます。

 以上を踏まえ、東京高裁は、当該事業が、処分の段階で、「公共性」「公益性」が高いと評価できたかには疑問があるとし、「一般社会住民の容認するものであるとは認め難く」、必ずしも許可する必要があるとはいえなかったとして、不許可処分に裁量権の逸脱濫用はなかったと判断しました。高裁は、別途手続上の違反により、不許可処分自体は違法と判断しましたが、裁量権の逸脱濫用の有無という点で、上記地裁の判決とは異なる判断をしたものと言えます。

 上記のとおり、本件不許可処分に関する裁量的判断について、原審と控訴審では異なる結論に至ったわけですが、上記のような相違点を踏まえた上で、いずれの判断が妥当なものであったか、またはどのような判断をすることが妥当だったといえるでしょうか。

 これについては、7月のこのコラムで詳しく解説します。

伊豆高原メガソーラーパークの建設現場事務所
伊豆高原メガソーラーパークの建設現場事務所
(出所:日経BP)
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