太陽光発電事業者のための法律Q&A

「メガソーラー裁判」の論考、景観条例を巡り攻防も

<第64回>静岡地裁・伊豆高原メガソーラーに関する判決の解説

2020/06/26 05:00
弁護士法人 匠総合法律事務所 代表社員弁護士 秋野卓生

伊東市に処分取消を言い渡す

 静岡地裁は今年5月22日、静岡県伊東市で建設中の「伊豆高原メガソーラーパーク発電所」(連系出力40MW)に関わる訴訟に関して判断を下しました。同判決(静岡地裁令和2年5月22日判決)は、メガソーラー(大規模太陽光発電所)の建設を巡り、事業地内の川に橋を架けることを市が不許可としたことについて、処分の取り消しを言い渡しました。

 今回、静岡地裁令和2年5月22日判決の判決文を熟読しました。

 メガソーラー建設にあたり、知っておかなければならない法律知識が沢山含蓄されており、この判決をもとに、最新の判例の考え方を1つ1つの論点毎に分析していきたいと思います。まず、今回は、メガソーラー建設を規制する条例の適用に関する論点について解説します。

 メガソーラー建設反対運動のなか、メガソーラー建設を規制する条例が制定される例があり、本件裁判でも「伊東市美しい景観等と太陽光発電設備設置事業との調和に関する条例」(以下、判決に倣い「本件規制条例」)が制定されています。

 宅地造成等規制法8条に基づく工事許可がなされた後、条例が制定された場合、条例の適用が過去に遡求されることはなく、本件規制条例の施行に際しても「現に太陽光発電設備設置事業に着手している者」については、同条例の規定は適用されない旨の経過措置の規定が設けられています。

 さて、静岡地裁令和2年5月22日判決では、この規制条例の適用についてどのような主張・反論がなされ、裁判所がどのように判断したのか、以下に分析したいと思います。

判決を言い渡した静岡地裁
(出所:日経BP)
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宅造法8条「工事許可」を受ける

 本件事案で、原告は、平成30年2月15日、太陽光発電設備の建設を目的として、伊東市から、メガソーラー建設事業地(以下「本件事業地」)について、宅地造成等規制法8条に基づく工事許可を受けました。

(宅地造成等規制法8条)

 第八条 宅地造成工事規制区域内において行われる宅地造成に関する工事については、造成主は、当該工事に着手する前に、国土交通省令で定めるところにより、都道府県知事の許可を受けなければならない。ただし、都市計画法(昭和四十三年法律第百号)第二十九条第一項又は第二項の許可を受けて行われる当該許可の内容(同法第三十五条の二第五項の規定によりその内容とみなされるものを含む。)に適合した宅地造成に関する工事については、この限りでない。

 2 都道府県知事は、前項本文の許可の申請に係る宅地造成に関する工事の計画が次条の規定に適合しないと認めるときは、同項本文の許可をしてはならない。

 3 都道府県知事は、第一項本文の許可に、工事の施行に伴う災害を防止するため必要な条件を付することができる。

 なお、判決文中に、伊東市の主張として「原告は、平成30年5月31日に宅地造成等規制法上の工事許可に基づく形質変更工事に着手していたと主張するが、工事実施に当たり防災工事を先行し、防災工事完成後に被告市長の確認を受けること、その他の造成工事等は防災工事完了後とし、被告市長の確認を受けた後でなければならないとする当該許可時に付された条件に違反しているのであって、必要な法的手続等を行った上で実施された事業ではない」という主張がありますので、宅地造成等規制法8条3項の条件が付されていた可能性があります。

景観に関する「規制条例」との関係

 伊東市は、平成30年3月26日、「伊東市美しい景観等と太陽光発電設備設置事業との調和に関する条例」(以下「本件規制条例」)を制定し、同条例は、同年6月1日、施行されました。

 本件規制条例では、事業者は、伊東市市内において太陽光発電設備設置事業(太陽光発電設備を設置する事業又は太陽光発電設備を設置するために行う樹木の伐採、土地の造成等による区画形質の変更を行う事業〔同条例3条2号〕)を実施しようとするときは当該事業に着手しようとする日の60日前までに、所定の事項を市長に届け出なければならず(同条例10条1項)、事業者は伊東市市内において太陽光発電設備設置事業を実施しようとするときは市長の同意を得なければならない(同条例11条1項)旨定めています。

 また、市長は、同意を得ずに太陽光発電設備設置事業に着手した事業者に対し、期限を定めて必要な措置を講じるよう勧告することができ(同条例13条2項)、勧告を受けた事業者が正当な理由がなく当該勧告に従わないときは、当該勧告に従わない事業者の氏名及び住所並びに当該勧告の内容を公表することができます(同条例14条1項)。

 もっとも、本件規制条例の施行の際、「現に太陽光発電設備設置事業に着手している者」については、同条例11条1項の規定は適用されません(同条例附則2条。以下「本件経過措置」)。

メガソーラーの建設が予定されている付近の山あい
(出所:日経BP)
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「設置事業に着手」に該当するか?

 伊東市は、訴訟において「原告が平成30年6月1日までに事業に着手した事実はない」と主張しました。

 本件規制条例における「事業の着手」は、事業区域において、必要な法的手続などを行った上で太陽光パネルの設置や太陽光発電設備を設置するために行う樹木の伐採、土地の造成等による区画形質の変更を行う事業を指すものであり、現地調査、測量、資材などの搬入、太陽光パネルの制作などの準備行為は含まない。このことは、平成30年2月末から被告のホームページ上に掲載・公表している」と主張しています。

 「必要な法的手続等を行った上で」という点が、伊東市の主張したい大きなポイントであったと思います。伊東市は、「工事実施に当たり防災工事を先行し、防災工事完成後に被告市長の確認を受けること、その他の造成工事等は防災工事完了後とし、被告市長の確認を受けた後でなければならないとする当該許可時に付された条件に違反しているのであって、必要な法的手続等を行った上で実施された事業ではない」と主張しています。

 これに対する裁判所の判断は、次の通りです。

 「本件経過措置は、同条例の施行前の時点で太陽光発電設備設置事業に着手した事業者に本件規制条例11条が適用されることで、当該太陽光発電設備を利用した発電事業の遂行が困難となり、それによって当該事業者が不測の損害を被ることを防ぐ趣旨と解される」

 「太陽光発電設備設置事業とは太陽光発電設備を設置する事業又は太陽光発電設備を設置するために行う樹木の伐採、土地の造成等による区画形質の変更を行う事業を指す(同条例3条)ところ、上記趣旨を踏まえると、当該樹木の伐採や区画形質変更に係る伐採届や宅地造成等規制法に基づく工事許可処分を受けた上で工事の一部を実施すれば、所要の許認可を経た上での工事である以上、当該事業者において太陽光発電事業を遂行できるとの期待が生ずるのが通常であるというべきである」

 「そして、原告が、本件規制条例の施行前である平成30年5月31日までに、提出した伐採届に基づいて伐採を行い、本件事業について宅地造成等規制法に基づく工事許可を受け、それに基づく形質変更工事として土地の掘削を行ったこと、当該形質変更工事は、原告代理人弁護士らが被告市長らと面会し、本件経過措置の適用に関して議論した上、本件規制条例の施行前に着工すると明確に予告した上で行われていることなどの本件の具体的事情等を踏まえると、原告について、本件経過措置が定める『現に太陽光発電設備設置事業に着手している者』に該当すると認めるのが相当である」

「伊豆高原メガソーラーパーク発電所」建設工事の事務所
(出所:日経BP)
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宅造法の「条件の遵守」は?

 これに関連して、宅地造成等規制法8条3項の条件の遵守は求められないのか、という論点があります。

 伊東市は、本件経過措置に定める「事業の着手」とは、事業区域において、必要な法的手続等を行った上で太陽光パネルの設置や太陽光発電設備を設置するために行う樹木の伐採、土地の造成等による区画形質の変更を行う事業を指すところ、原告が平成30年5月31日に行った宅地造成等規制法上の許可に基づく地質変更工事は、当該許可に付された条件に違反しているのであって、必要な法的手続等を行った上で実施したものではないと主張しました。

 これに対して判決は、「被告が指摘する『必要な法的手続等』の内容は明確とはいい難い上、所要の許認可を得ることに加え、内容を問わず当該許認可に付された条件についてまで違反しないことを指すというような限定的な解釈は当然には肯定し難い」と判示しています。

 要するに、本件規制条例の施行の際、「現に太陽光発電設備設置事業に着手している者」については、同条例11条1項の規定は適用されないという条例附則2条の記述からは、許認可に付された条件に違反している場合には、「現に太陽光発電設備設置事業に着手している者」にはあたらないと解釈する理由がないと判示しているのです。

条例の適用巡り、市長と原告が攻防

 本件規制条例は、平成30年6月1日施行であり、それまでに「現に太陽光発電設備設置事業に着手」する事が、原告がメガソーラー建設を進めるにあたって必須であったことは明白です。

 この条例施行直前の伊東市長と原告らの攻防が判決文には克明に記されています。

 「本件事業に本件規制条例11条が適用されると被告が見解を改めたことを受けて、原告の代表者や原告の代理人弁護士など数名(以下あわせて「原告代理人弁護士ら」)は、平成30年5月30日、被告市長及び副市長(以下「被告市長ら」)と面会した」

 「原告代理人弁護士らは、本件事業地を取得した上、平成28年8月時点で伐採届を提出し、これに基づき、すでに一部で伐採を行っているから、本件経過措置が定める『事業の着手』があったというべきである、住民に不信感を持たれるので造成工事を差し控えてきたが、被告が平成30年5月31日までに着工しない場合には本件経過措置の『事業に着手』の要件を満たさないと判断するなら、すでに宅地造成の工事許可がされている範囲の土地(変更申請に係る範囲の土地ではない)について、同日から造成工事を行う旨述べ、被告の見解を問い質した」

 「被告市長らは、本件事業に本件規制条例11条が適用されると被告が見解を改めたことに関しては、伐採届の数値の誤りが発覚したこと、伐採届の対象は調査用道路なので本施工ではない、原告が宅地造成の工事許可について変更申請をしており、当該変更許可がされる前に着工すれば停止命令を行うことが適切であると静岡県から指導されていることなどの理由を挙げて、原告が同日までに造成工事に着工しても、本件経過措置が定める『事業の着手』に当たらないと思う旨回答した(ただし、被告は、上記第2の3(1)のとおり、原告が行った工事が許可条件に違反していることのみ主張しており、本件経過措置の適用に関し被告市長らが述べた上記理由を本件訴訟において主張していない)。被告市長らの回答を受けて、原告代理人弁護士らは、同日より造成工事に着工する旨告げた」

 「平成30年5月31日、原告は、本件事業地において、宅地造成等規制法上の工事許可に基づく形質変更工事(本件事業地から八幡野川への土砂流出を防ぐために調整池兼沈砂池を施工するとともに排水路としての機能を有するメンテナンス道路を敷設するため、重機で幅2.8m、長さ7mを掘削する工事)に着工した」

 上記の攻防について裁判所は、以下の通り判示しています。

 「平成30年5月30日に原告代理人弁護士らと被告市長らとの間で本件経過措置の解釈を巡って議論がなされ、その際原告に本件経過措置が適用されない理由として被告市長らが述べたことは、いずれも本件訴訟において被告が主張していないし、同月31日にメンテナンス道路を敷設するための掘削を行って防災工事部分に着手しているから防災工事に先行して形質変更工事を行っておらず、条件違反はないとの原告の主張に対し、被告は具体的な反論をしていないなど、本件経過措置の解釈や原告への適用を巡る被告の対応や主張等は一貫性に欠けるといわざるを得ない」

 「これらの事情を踏まえると、被告が上記のとおり指摘する点は、原告が『現に太陽光発電設備設置事業に着手している者』に該当するとの上記認定判断を覆すには足りず、被告の主張は採用できない」

「伊豆高原メガソーラーパーク発電所」建設工事の事務所
(出所:日経BP)
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マンション建設を巡る判例との比較

 筆者は、この静岡地裁令和2年5月22日判決を熟読した際、比較検討したいと考えた過去の判例が頭に浮かびました。

 東京都国立市で、高層マンションの建築を巡って付近住民と建築主との間に紛争が生じているときに、市ないし市長が、景観保持を訴える付近住民側に立った条例の制定等をすることが、はたして不法行為になるのか?が争われた国立市建物建築物高さ制限条例無効確認等請求事件控訴審判決(東京高裁平成17年12月19日判決)です。

 マンションデベロッパーが、国立市の通称「大学通り」沿いの土地に高層マンション(地上14階建て、高さ約44m、総戸数353戸)の建築を計画し、東京都建築主事の建築確認を得て、平成12年1月5日、本件土地の根切り工事(掘削工事)に着手した事案で、国立市は、同月24日、都市計画法20条に基づき、本件土地を含む区域について建築物の高さの最高限度を20mとすることなどを内容とする「中3丁目地区地区計画」を決定・告示し、同月31日、国立市長は、国立市議会に対し、建築基準法68条の2に基づき、同地区計画の内容に沿う「国立市地区計画の区域内における建築物の制限に関する条例の一部を改正する条例」案を提出したので、同市議会は即日これを可決し、これを受けて、国立市長は同年2月1日、同条例を公布し、同条例は即日施行されたという事案です。

 東京高裁平成17年12月19日判決は、マンションデベロッパーによる条例の無効確認などの請求は、不適法として却下しましたが、条例制定等の国立市及び国立市長の行為が不法行為に該当するとして請求した損害賠償請求については、国立市及び国立市長の行為が全体としてみればマンションデベロッパーの営業活動を妨害する行為であり、その態様は行政の中立性・公平性を逸脱し、異例かつ執拗な目的達成行為であって、行政権の行使として社会通念上許容される限度を逸脱しており、不法行為が成立すると判示しました。

東京高裁の外観
(出所:日経BP)
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首長の「中立公正」とは?

 国立市建物建築物高さ制限条例無効確認等請求事件控訴審判決(東京高裁平成17年12月19日判決)は、国立市長の言動によって本件建物の建築反対運動が発生し紛糾したこと、本件建物の建築を阻止するため当初の対応を変更し、急激かつ強引に条例を制定・施行したこと、その後も市長は留保を付けずに本件建物が違法建築である旨答弁し、さらに、検査済証の交付について抗議し、本件建物への電気・ガス・水道の供給を留保するよう働きかけたこと、これら本件建物の建築・販売を阻止するような言動が、Xの営業活動を妨害する行為であって、地方公共団体及びその首長に要請される中立性・公平性を逸脱すると判断しています。

 では、市長選挙の公約で、マンション建築反対を訴え、民意を受け、市長に当選した後、公約を実現すべく、マンション建築反対の趣旨で市長としての執務を行うことは、首長に要請される中立性・公平性を逸脱する違法行為となるのでしょうか?

 首長が公約を捨てて中立の立場をとることは、自らを首長に選出した住民を裏切るような行為であり、そのような行動を取れるわけがないではないか!と、十何年も前に、この判決を見たときは、疑問を感じました。

 まさに、首長の政治責任(民意を裏切れば、次の再選はおぼつかない)と法的責任(私企業に対する不法行為責任)の分岐点を明確に示さなければ、首長の責任は、不安定となりかねません。

 今回、伊東市長は、本件規制条例制定にあたっては、経過措置を設け、「現に太陽光発電設備設置事業に着手している者」には不測の損害を与えないというバランスを取りました。

 しかし、静岡地裁令和2年5月22日判決の争点は、メガソーラーの建設事業地内の川に橋を架けることを市が不許可とした処分の有効性です。

 「事業地内の川に橋を架けること」という全体計画のなかの一部について不許可とする行動は、政治的責任の範囲にとどまるのか、法的責任にまで及ぶ行為なのか、という視点を持ちながら、次回、この行政処分についての静岡地裁令和2年5月22日判決の中身を解説したいと思います。

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