太陽光発電事業者のための法律Q&A

メガソーラーの工期が遅れました。どんな場合に施工者の責任が問われますか?

<第53回>太陽光発電所の建設における「工期遅延」のトラブル

2019/07/24 05:00
弁護士法人 匠総合法律事務所 代表社員弁護士 秋野卓生

損失は誰が責任を負うのか

 メガソーラー(大規模太陽光発電所)ビジネスにおいては、ファンドが活用される場面が増え、この場合、設立されたSPC(特別目的会社)をアセットマネージャーが管理し、事業実施のために各種契約が締結されることになります(図1)。

図1●ファンドによるメガソーラー事業のスキーム例
(出所:匠総合法律事務所)
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 とりわけ発電設備の建設などにかかるEPC契約(太陽光発電所の建設工事請負契約等)においては、「工期遅延」によって様々な損害の発生が考えられます。

 例えば、SPCが金融機関から借り入れをしていた際には遅延分の金利が損失として生じる場合がありますし、施工業者(EPC事業者)としては、業者発注による手待ちリスクが考えられます。

 そして、このような損失をもたらす「工期遅延」が、請負工事そのものを原因としているのか、 EPC事業者の責に帰すことのできない事由をその原因とするのかにより、遅延によって生じた損失を誰が負担するのか、判断の分かれる場合があります。

 工期遅延に至る理由は様々で、建設工事の瑕疵だけでなく、SPC・アセットマネージャーからの要請に応じるために遅延せざるを得ない場合や、業者発注に遅れが生じた場合なども考えられます。これらのうち、その一つを原因とするのではなく、複数の原因が重なって、工期遅延が生じることもあるでしょう。

 そのため、どのような原因により工期が遅延した場合に、誰がその遅延による責任を負うのか、あらかじめ確認し、工事実施に備えておくことが肝要となります。

工期遅延の原因に応じた対応

 上述のように、工期遅延の原因は様々で、それらの一つ、または複数が原因となって工期遅延が発生する場合もあります。その場合に、当該遅延によって生じた損失の負担はどのような形で決定されるのでしょうか。

 一般的に、工期遅延による損害賠償請求が認められるための要件としては、次のように整理されます(図2)。

図2●工期遅延による損害賠償請求が認められるための一般的な要件
(出所:匠総合法律事務所)
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 工期遅延による損害賠償額の算定方法につき、例えば、東京地判平成28年4月7日判決では、工期遅延の原因ごとに(遅延の発生と原因の存在)、当該原因が誰に帰責するものなのか(原因の帰責性)を判断し、その上で損害の認定を行っています(損害発生との因果関係)。

 具体的には、SPC・アセットマネージャー、請負業者側の双方に工期遅延の原因があるとして、それぞれ具体的にその原因を認定し、その上で、当該原因と損害発生との因果関係の存否を判断しています。

 なお、この裁判例では問題となりませんでしたが、例えば、一つの工期遅延の原因について、双方に帰責性がある場合については、損害額について責任割合による過失相殺の適用もあり得るところです。

大量の指示、仕様変更があった場合

 では、具体的に、各当事者に生じる責任について、見ていきたいと思います。

 まず、SPC・アセットマネージャーによる設計変更や種々の要請に応じた結果、工期遅延が発生した場合には、SPC・アセットマネージャーの責任となるのでしょうか。それとも、そのような要請に応じつつも、予め定められた工期を遵守しなかったEPC事業者の責任となるのでしょうか。

 得てしてSPC・アセットマネージャーから必要以上の指示や説明を求められる背景には、明らかに施工精度が低い、同様の施工不良が複数箇所でみられるなど、EPC事業者の施工に対する不安感を原因とする場合が考えられます。EPC事業者としては、工期内に修繕できる程度の工事上の不備であったと理解していても、その判断ができないSPC・アセットマネージャーが修正などを指摘した結果、工期が遅延してしまう事態が生じ得ます。

 一般に、SPC・アセットマネージャーからの指示の理由が、工事の不具合を是正するためのものである場合、その指示内容について合理性がある場合は、請負人が当該指示に従って工事を行ったとしても追加報酬が発生するものとはいえないと考えられます。

 そのため、同様に、その程度の指示であれば、従来の工期で行うこともEPC側に予定されていると考えられ、この場合に工期遅延が生じれば、その責めをEPC事業者が負うことになると思われます。他方、このような合理的な限度を超える量や時期での指示がなされた場合にまで、EPC事業者にそれによって生じた工期遅延の責任を負わせるのは妥当とはいえないでしょう。

 例えば、太陽光発電設備工事の事案ではありませんが、発注者が、自宅の増改築工事を請け負った施工業者に対し、工事の履行遅滞による約定の違約金ないし損害賠償などを請求した横浜地判平成28年2月9日判決が参考になります。

 この裁判例は、以下のような事実を挙げて、「工期の遅延について被告に帰責すべき部分があるとしても、工事内容の追加や変更にともない予定の工期が延びることは当然であり、本件請負契約及び本件覚書上もかかる工期の延長が規定されていることにも照らし、工事引渡の遅延について、被告に故意はもとより重大な過失があるとまでは認めがたいというべき」として、施工業者側の責任を否定しています(図3)。

図3●横浜地判平成28年2月9日判決では、施工業者側の責任を否定した
(出所:匠総合法律事務所)
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 太陽光発電設備工事においても、このように、工期の延長が必要となることが合理的に予期できるような工事内容についての変更や追加をSPC事業者側が行った場合には、それに因果関係を有する遅延については、EPC事業者に責任を追及することは難しいように思われます。

許認可の取得が遅れた場合は?

 では、工事を施工するにあたり必要な行政との折衝や、行政からの許可の取得に、想定外の時間を要したことにより、やむなく、一定期間、工事着工を遅らせなければならない場合など、EPC事業者にも、SPC・アセットマネージャーにも想定されなかったような事由が原因で、工期遅延が生じた場合の責任はどうなるでしょうか。

 この点について、建設工事の事案ではありませんが、大阪地判昭和51年12月13日判決が参考になります。この裁判例は、医療器具の製造委託において、受託者側が約定の納期を徒過したため、委託者が委託契約を解除した上、得られたはずの利益を、損害賠償として求めた事案です。この事案では、納期遅延の原因は、当該医療器具の製造に必要な薬事法所定の手続に予想外の長時間を要したことなどにありました。

 一度、両当事者において、手続きに時間を要したことを理由として、納期の延期を合意していましたが、更にその延期後の納期も手続に時間を要したために徒過することになってしまったため、委託者は、受託者に当該原因についての過失があったと主張しました。しかし、裁判所は、仮に被告に過失があったとしても、一旦延期の合意がなされている以上、被告の責めに帰すべき事由には当たらないと判断しました。

 当事者の責めに帰することのできない事由を原因とする、工期遅延などの債務不履行事案に関して、天災など明らかにEPC事業者の問題とならないような場合を除いては、この種の事例で刊行物に載っているものは、あまり見かけません。そのため、この裁判例は、EPC事業者にも、SPC・アセットマネージャーにも想定されなかったような事由が原因で、工期遅延が生じた場合であっても、EPC側が責任を負うことになってしまうのか、という点を検討する際の判断材料の一つとして、参考になるものと思われます。

メガソーラー建設では、悪天候や許認可の遅れなどで工期が遅れることも多い
(出所:日経BP、写真はイメージで記事内容と直接、関連しません)
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「協力義務違反」が問題となる余地

 また、太陽光発電設備工事を、実際に施工するにあたり、想定していた地形と異なるなどして、架台やパネルの設置位置や施工方法の変更が生じる場合があります。このような状況において、SPC・アセットマネージャーがEPC事業者からの設計変更の申し出や問い合わせに応じなかった場合、それによって生じた工期遅延の責任は、誰が負担するべきなのでしょうか。

 EPC事業者が工事を開始、完成するためには、SPC・アセットマネージャーからの指示が不可欠な場合もあり、そのような場合にまで、SPC・アセットマネージャーが不協力の態度を取った場合には、信義則上の協力義務に反すると判断される余地もあります。

 名古屋地判昭和53年12月26日判タ388号112頁では、発注者が、請負業者からの着工の指示の求めに対して一向に応じず、さらに、指図の催告をしたにもかかわらずこれにも応じなかった場合に、「請負人に対し相当期間内に工事に着手することを指図して請負人として負担する義務を履行させ契約の目的を達成することに協力する義務を注文者は負う」として、当該協力義務の違反を認め、損害賠償義務を認定しました。

 この裁判例は、EPC事業者がSPC・アセットマネージャーに対して、損害賠償を求めた事案でしたが、SPC・アセットマネージャーからの指示が不可欠であるにもかかわらず、SPC・アセットマネージャーが不協力の態度を取ったことにより、工期遅延が生じた場合にまで、EPC事業者が責任を負う必要はないように思われます。

 太陽光発電所工事においては、往々にして工期遅延が発生し、その際に売電利益相当額の賠償請求がなされるなど、賠償請求の額が多額になることがあります。

 工期遅延が予測される事態が生じた場合には、関係当事者全員が協議の場を持ち、工期変更の合意や遅延による損害発生防止の策を早めに協議し、後々大きなトラブルに発展しないように努めていただきたいと思います。

「工期遅延」への対応を事前に協議しておりくことが重要
(出所:日経BP、写真はイメージで記事内容と直接、関連しません)
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