太陽光発電事業者のための法律Q&A

「メガソーラー裁判」を読み解く、「行政裁量」の逸脱・濫用とは?

<第65回>静岡地裁・伊豆高原メガソーラーに関する判決の解説(その3)

2020/08/06 05:00
弁護士法人 匠総合法律事務所 代表社員弁護士 秋野卓生

 今年5月22日、静岡地裁は、静岡県伊東市で建設中の「伊豆高原メガソーラーパーク発電所」(連系出力40MW)に関わる訴訟に関して判断を下しました。同判決(静岡地裁令和2年5月22日判決)は、メガソーラー(大規模太陽光発電所)の建設を巡り、事業地内の川に橋を架けることを市が不許可としたことについて、処分の取り消しを言い渡しました。

 この訴訟で裁判所が示した判断は、メガソーラーに関する最新の判決であり、メガソーラー建設にあたり、知っておかなければならない法律知識が多く含まれています。このコラムでは、6月掲載号でメガソーラー建設を規制する「条例の適用」に関し、7月掲載号では、市による「不許可」の有効性について論考を行いました。3回目の今回は、「行政裁量」について解説します。

行政裁量の逸脱・濫用

 「行政裁量」とは、法律が行政機関に独自の判断余地を与え、一定の活動に自由を認めている場合を指します。

 法律が一定の裁量を認めている以上、裁量の範囲内では法律の解釈、適用の問題を裁判所の司法審査の対象とすることはできません。

 したがって、裁判所の司法審査は、裁量の逸脱、濫用の点に限られることになります(行政事件訴訟法30条)。

 本判例では、メガソーラー建設地内の川に橋を架けることを市が不許可にした事案であり、まさに河川法・普通河川条例についての許可権者である河川管理者(伊東市長)の合理的な最良の範囲内の行為については、司法審査の対象が及びません。

 しかし、裁量の逸脱、濫用がある場合には、司法審査の対象となります。

 静岡地裁判決でも「裁判所が河川管理者である被告市長による普通河川条例4条に基づく許可・不許可の処分の適否を審査するに当たっては、当該処分が裁量の行使としてされたことを前提として、その基礎とされた重要な事実に誤認があること等により重要な事実の基礎を欠くことになる場合、又は、事実に対する評価が明らかに合理性を欠くこと、判断の過程において考慮すべき事情を考慮しないこと等により当該処分が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合に限り、裁量を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法となるとすべきものと解される」と判示しているところです。

判決を言い渡した静岡地裁
判決を言い渡した静岡地裁
(出所:日経BP)
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河川法とは?

 河川法1条は、河川について、洪水、高潮等による災害の発生の防止、河川の適正な利用、流水の正常な機能の維持及び河川環境の整備と保全のために河川管理をすることにより、国土の保全と開発に寄与し、もって、公共の安全を保持し、かつ、公共の福祉を増進することを法の目的とし、また、河川法2条が、河川管理については上記の目的が達成されるように適正に行わなければならないと定めています。

 そして、河川法24条は、河川区域内の土地を占用しようとする者は河川管理者の許可を受けなければならないと定めています。

 この河川管理者の許可を要する理由について、静岡地裁判決は「河川区域内の土地は、本来的に、河川管理施設と相まって、雨水等の流路を形成し、洪水を疎通させ、洪水による被害を除去又は軽減させるためのものであり、かつ、公共用物として一般公衆の自由な使用に供されるべきものであるから、このような特性に鑑み、その占用は原則として認めるべきではないところ、占用の目的や態様によっては公共の利益が増進される場合もあり、その占用を認める必要がある場合も数多くあることから、特定人に対して本来の用法を超えて特別の使用権を設定するものである」と判示しています。

伊東市長の「裁量」

 伊東市長の裁量の範囲について、静岡地裁は、「河川敷地の占用を認めるに当たっては、上記法の目的に沿うものであることが要請されているというべきである。そして、河川法施行規則12条は、許可申請書の様式、添付書類を定めるにとどまり、法令上、許可の基準に関する規定が設けられていないことからすると、災害の発生の防止や流水の正常な機能の維持等により公共の安全を保持する観点は、専門技術的な判断を必要とし、それ以外の公共の福祉を増進する観点は、政策的な判断を必要とすることから、それぞれについて許可権者である河川管理者の合理的な裁量に委ねていると解すべきである。

 これと同様に、普通河川条例4条に基づく河川敷地の占用許可についても、占用の目的や態様等に鑑み、河川敷地の上記特性との調和を計りながら河川管理者が許否の判断をする事柄であるといえ、河川管理者である被告市長の合理的な裁量に委ねられているというべきである」と判示しています。

裁判の舞台となったメガソーラーの設置エリアに通じる道路の工事現場
裁判の舞台となったメガソーラーの設置エリアに通じる道路の工事現場
(出所:日経BP)
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合理的な裁量の範囲の逸脱

 伊東市長には、河川管理者として普通河川条例4条に基づく河川敷地の占用許可について裁量権が存在します。

 しかし、前回解説したとおり、「本件各不許可処分は、原告が本件規制条例11条に違反したという点において重要な事実の誤認があることにより、重要な事実の基礎を欠き、また、判断の過程において本件事業から生ずる影響といった考慮すべきでない事情を考慮し、考慮した事項に対する評価が明らかに合理性を欠くなど、社会通念上著しく妥当性を欠くというべきであるから、いずれも被告市長に与えられた裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法」と判断されたのです。

不許可処分の手続的違法

 行政手続法8条1項本文は、「行政庁は、申請により求められた許認可等を拒否する処分をする場合は、申請者に対し、同時に、当該処分の理由を示さなければならない」と規定しています。

 これは、申請を拒否する理由の有無についての行政庁の判断の慎重と公正妥当を担保してその恣意を抑制するとともに、拒否の理由を申請者に知らせることによって、その不服申立てに便宜を与え、これにより行政運営における公正の確保と透明性の向上を図り、もって国民の権利利益の保護に資する(同法1条参照)趣旨によるものです。

 行政手続法8条1項本文の趣旨に鑑みれば、申請により求められた許認可等を拒否する処分を書面でする場合にその書面に付記すべき理由としては、いかなる事実関係に基づきいかなる法規を適用して当該申請が拒否されたかを、申請者においてその記載自体から了知し得るものとしなければなりません。

 しかし、本件各不許可処分においては、この理由が不明瞭でした。

 静岡地裁判決は、以下のように判示しています。

 「本件各不許可処分は、本件事業を遂行する上で必要な工事を行うことを事実上困難にさせる重大な処分であるところ、本件各不許可決定通知書は、その処分の理由として事実関係が何ら示されず、本件要領で引用する通達に規定された「社会経済上必要やむを得ない」に該当しないと判断したことを記載するのみある。「社会経済上必要やむを得ない」との文言は、非常に概括的・抽象的であり、評価の結果を指すに等しく、「社会経済上必要やむを得ない」に該当しないと判断するに至った具体的な勘案事項は全く示されていないから、原告において、いかなる理由により、いかなる勘案事項をいかなる事情を考慮した結果「社会経済上必要やむを得ない」に該当しないと判断するに至ったのかを知ることは困難である。以上の事情を踏まえると、行政手続法8条の要求する理由提示としては不十分であり、本件各不許可処分は、理由付記の点からも違法であって、取り消されるべきである」

判決を言い渡した静岡地裁
判決を言い渡した静岡地裁
(出所:日経BP)
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不利益処分の理由をどの程度特定して提示すべきか

 最高裁平成23年6月7日第三小法廷判決は、不利益処分の理由をどの程度特定して提示すべきかについて、「当該処分の根拠法令の規定内容、当該処分に係る処分基準の存否及び内容並びに公表の有無、当該処分の性質及び内容、当該処分の原因となる事実関係の内容等を総合考慮してこれを決定すべきである」と判断しています。

 従って、

(1)根拠規定となる条文の条番号

(2)根拠条文及び審査基準・処分基準の内容

(3)どのような事実関係があると判断したのか、また、なぜ(2)のルールが適用され又は適用されないと判断したのか

 という点の記載を要することになります。

 伊東市は、本件事業の計画について伊東市議会が全会一致で反対の決議をしたことをもって本件事業が一般社会住民の容認するものではないことが明らかになったといえ、原告は、上記反対決議を当然認識しているから、いかなる事実関係に基づきいかなる法規を適用して本件各不許可処分をされたかを記載自体から了知しうると主張しました。

 要するに、メガソーラー建設について反対の総意であることから、メガソーラー建設にあたって必要となるメガソーラー建設地内の川に橋を架けることは不許可とすると言っているに等しいことになります。

 ところが、静岡県知事が管理する2級河川の占使用の許可等の基準を河川管理施設等構造令に定めるもののほか別に定めるとし、別に定めるものとして、存在する「河川敷地の占用許可について」(昭和40年12月23日建設省発河第199号、昭和58年12月1日建河政発第96号改正 静岡県知事あて建設事務次官通達)」は、「占用許可の基本方針」として、河川敷地は、公共用物として本来一般公衆の自由使用に供されるべきものであるので、原則としてその占用は認めるべきではないが、「社会経済上必要やむを得ず許可する場合」においては占用許可準則に従い処理する旨記載しています。

 伊東市長のなした不許可処分には、いかなる事実関係に基づいて、本件カルバートや本件仮設排水管等の設置について、どの点が裁量基準のどの項目を満たさないために不許可とされたのか記載されていません。

 静岡地裁判決も「一般社会住民の容認するもの」であることから「社会経済上必要やむを得ない」と評価するという適用関係は、その文言や本件要領の規定の仕方に照らしで明確ではなく、被告が付記した理由の記載自体からそのような適用関係を読み取ることは困難といわざるを得ない。と判示しているところです。

裁判所から違法と判断される行政処分

 メガソーラー建設反対を選挙の際に公約とした市長が、その公約を守るため、本件不許可処分をなしたものであり、法的には無理があったとしても、市長の行為は政治的に非難されるべきものではありません。

 しかし、裁判所から違法と判断される行政処分をなした法的責任は残るものであり、私は、裁判による解決を図ることには、一定のリスクがあり、他の解決手段はないものか?と思案をしているところです。

 やはり、民意を受けた一政治家としての信念を全うするという観点からは、民意を反映した条例にての解決が妥当ではないか、と思うのです。

 次回は、条例にての解決として、どのような解決が可能か、について私見を述べたいと思います。

「伊豆高原メガソーラーパーク発電所」建設工事の事務所
「伊豆高原メガソーラーパーク発電所」建設工事の事務所
(出所:日経BP)
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