太陽光発電事業者のための法律Q&A

新築建物で太陽光の発電量が減った場合、どこまで損害賠償できますか?

<第54回>太陽光発電パネルへの日照阻害が発生した場合の損害賠償金額

2019/08/23 05:00
弁護士法人 匠総合法律事務所 代表社員弁護士 秋野卓生

 隣地の太陽光パネルへの日照阻害が発生した場合、損害賠償責任に関するトラブルが発生すると、本来、売電により得られるはずだった売電利益を得ることができなかったとして損害賠償責任が論点となるケースがあります。

 この損害賠償責任の範囲についての法律上の解釈について今回、解説します。

福岡地裁判決における原告の主張は?

 このコラムでも紹介した福岡地裁判決平成30年11月15日判決の事案における原告の主張は以下のような内容です(関連記事1)(関連記事2)。

 被告の本件建築行為により、本件設備の総発電量は平成26年度(前年12月から当年11月までを1年度とする。)の1万8075kWhであったものが、平成27年度には9850kWh、平成28年度には1万200kWhとなり、年平均で45.5%減少した。そのため、平成26年度の売電代金が78万8832円であったものが、平成27年度には売電量が8969kWh、売電代金が43万512円、平成28年度には売電量が8976kWh、売電代金が43万2848円となり、年平均で45.3%減少した。

 そのため、原告には次の各損害が発生した。

原告の主張した損害額
(出所:筆者の資料も共に日経BP作成)
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無駄になった投資費用相当額を損害とする考え方

 隣家の日影が係ることにより太陽光発電システムとして十分に機能しなくなった太陽光発電システムの設置費用相当額を損害と考える考え方が投資費用相当額を損害とする考え方です。

 この場合の損害の計算式は、以下の計算式になります。

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発電収益も損害に含むとする考え方

 再生可能エネルギー固定価格制度のもと、法律上、売電をする経済的利益が法的に保護されている以上、太陽光発電システムにより発電をして収益する利益までを法的に保護するという考え方です。

 この場合、太陽光発電システムからの売電により得られる経済的利益は将来のものとなりますが、損害賠償金は現在支払われるものであるため、この点について「割引現在価値」の考え方を用いて調整をする事となります。

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 なお、厳密に計算するのであれば、太陽光発電システムのメンテナンス費用等の損益相殺を要する事となります。

当事務所の立場は?

 上記のとおり、損害の考え方としては、無駄になった投資費用相当額を損害とする考え方と太陽光発電システムにより発電をして収益する利益も損害に含まれるという考え方のいずれの考え方もありうるところです。

 この点についての私見は以下の通りです。

 太陽光発電システムに日照を受ける利益の保護は、絶対的な法的利益ではなく、太陽光発電システムの所有者の法的利益と隣地所有者の土地所有権に基づく法的利益の利益衡量により定まるものです。

 学説上も受光利益は、太陽光パネルによる受光を遮る障害物が存在しないという、他者の土地利用状況に依存して享受しうる利益(状況依存的な利益)と解されています。

 そうすると、特に公法上の規制に違反していないにもかかわらず損害賠償を命じられる場合には、太陽光発電システムを使って得られる経済的利益まで賠償の範囲に含まれるとするのでは、損害賠償の範囲が広すぎるのではないでしょうか?

 福岡地裁平成30年11月15日平30(ワ)358号は、受光利益は法律上保護に値する利益に当たるけれども、他方で受光利益を超えた権利性を認めませんでした。これは、「どの程度の受光が確保されれば権利ないし利益の侵害とならないかなどの明確な基準が存在しないことに加え、電力の安定的かつ適切な供給の確保及びそれに係る環境への負荷の低減を巡る今後の社会の情勢や政策手法の変更にも影響される」ことから、具体的な権利内容が特定できない点を理由とすると考えられます。

太陽光パネルへの影は、発電量の低下に直結する
(写真はイメージで裁判事例とは関係ありません)(出所:日経BP)

逸失利益との条件関係は認められるが・・・

 当該不法行為と発電効率が落ちたことで逸失利益が生じるであろうこととの間には条件関係は認められるものの、ここで損害との因果関係が認められるためには、条件関係に加えて相当因果関係が存在する(当該因果の経過が社会通念上一般にありうる)必要があります。この点、確かに太陽光が建造物により遮断されるなどすれば、将来的に得られるはずであった発電による収益が減損するという条件関係は認められるものの、当該建造物が建築なされなかったとしても、その他の要因(他の建造物が建築された、天候悪化が続いた等)による発電収益の減損も十分に考えられることから、当該逸失利益まで損害として因果関係を認めるのは相当ではないと考える余地もあります。

 以上の理由により、当事務所としましては、あくまで、投資によって生じる損失の限度で保護されるべきもの考え、無駄になった投資費用相当額を損害とする考え方の限度で法的保護を行えば足りるものと考えています。

 この点、明確な判示をする裁判例がまだ、存在しないところであり、今後の新判例の登場が注目されます。

太陽光パネルへの影は、発電量の低下に直結する
(写真はイメージで裁判事例とは関係ありません)(出所:日経BP)
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