太陽光発電事業者のための法律Q&A

メガソーラー開発業務の委託料を巡り紛争、訴訟沙汰に

<第77回>「通謀虚偽表示」により契約が無効に、東京地裁判決の解説

2021/09/13 05:00
弁護士法人 匠総合法律事務所 代表社員弁護士 秋野卓生 

メガソーラーで起きやすいトラブル

 メガソーラー(大規模太陽光発電所)の開発から建設、完成までには、大きなお金が動き、関係者も多くなります。このため、当事者間での架空の合意とも言える「通謀虚偽表示」の発生する確率の高いビジネスであるとも言えます。

 「通謀虚偽表示」とは、相手方と意を通じて行った虚偽の意思表示のことで、民法第94条では、互いにその意思表示が真意でないことを知りながら虚偽の意思表示をしても、その法律効果は「無効」となる、としています。

 当事者間で「意を通じている」という点と、「虚偽の意思表示である」という要件が整うと成立します。

 今回、取り上げる判例も、メガソーラー建設に絡み、「通謀虚偽表示」が問題になったもので、東京地裁は、既述した要件に該当すると判断して、当事者間の合意を「無効」と判示しました。東京地方裁判所が今年2月16日に判決を言い渡しました。

東京地方裁判所の正門
東京地方裁判所の正門
(出所:日経BP)
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 まず、訴訟に至った経緯を見てみましょう。

 原告は、総合建設業のほか、太陽光発電設備の設計及び施工、太陽光設備などの販売業務などを営む株式会社です。

 被告は、太陽光発電設備の販売、施工、保守管理、太陽光発電などによる電気供給事業、各種コンサルティング業務などを営む株式会社です。

 原告は、2012年11月28日頃、被告との間で、事業主A社が計画した大規模な太陽光発電プロジェクト(以下「本件プロジェクト」)に関し、原告において太陽光パネルなどの太陽光発電設備を設置するための用地確保に関する業務及びこれに付随する業務を行う旨の合意をしました(以下、当該合意に係る契約を「本件業務委託契約」)。

報酬額「1MW当たり100万円」と口約束

 その際、原告及び被告は、上記契約に係る報酬額について、原告が取得した用地に係る太陽光発電設備の出力1MW当たり100万円とすることを合意しました。

 なお、原告代表者と被告代表者が旧知の仲であったことなどから、本件業務委託契約が締結された当時、同契約に係る契約書は作成されていませんでした。

 被告は、2012年11月30日、B社との間で、太陽光発電施設の開発を協力して推進することを目的とする業務提携に合意しました(以下「B社間合意」)。

 上記合意に係る契約書には、要旨以下のような記載があります。

被告とB社間の業務提携の内容
被告とB社間の業務提携の内容
(出所:筆者資料を元に日経BP作成)
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 その後、原告及び被告は、いくつかの経緯を経て、「被告は原告に対し、案件ごとに業務の報酬として、1MW当たり200万円(消費税別)を支払う」と記載された業務委託契約書(以下「本件契約書」)を2012年11月20日付けで作成しました。

 この本件契約書に記載された1MW当たり200万円に相当する業務委託料の支払いを求め、裁判が起こされたのです。

「200万円」への増額を画策したが…

 東京地方裁判所は、以下の通り判示しました。その内容を読むと、当初1MW当たり100万円としていた報酬額が、同200万円に上げられ、その業務委託契約書が作成された経緯が分かります。

 本件業務委託契約における原告の報酬は、2012年11月に同契約が締結された際、本件プロジェクトに係る太陽光発電設備の出力1MW当たり100万円とする旨の合意がされていたところ、原告代表者は、2016年頃から、被告代表者に対し、設備用地の紹介者に対する謝礼に充てる費用を捻出するため、1MW当たりの報酬単価を150万円に増額することを求めるようになった。これに対し、被告代表者は、原告代表者の要求は被告会社にとって何らメリットのある話ではないことから、これを断っていた。

 被告代表者は、2017年2月頃、B社間合意に係る報酬計算に関し、本件業務委託契約に基づく原告への報酬は全て被告の負担となるのに対し、原告と入れ替わる形で設備用地の地権者との土地利用に係る交渉業務などを行っていたC社に対する報酬がB社と被告との共通経費として扱われ、その費用の半分を被告が負担することに不満を覚えるようになった。

 そうしたなか、被告代表者は、本件業務委託契約に係る報酬を見かけ上1MW当たり200万円とし、その全てをB社間合意における共通経費とすることをB社に認めてもらい、さらに、1MW当たり50万円を原告から被告側に戻してもらえば、被告の利益にもなる上に、原告に対する報酬を1MW当たり150万円に増やすこともできるのではないかと考えるようになった。

 そこで、被告代表者が、原告代表者に対し、上記のような形が実現するのであれば原告に対する報酬を1MW当たり150万円としても構わないと告げると、原告代表者もこれを了承し、原告に対する報酬を1MW当たり200万円とする内容の契約書を作成することとなった。

 その後、原告は、同年4月19日に、1MW当たりの報酬を200万円とする請求書を発行し、被告代表者は、B社の副社長に対し、本件契約書を示して原告に対する報酬を共通経費として認めるよう求めたが、B社の副社長からは、C社に業務委託をせざるを得ない状況になったこと、原告は本件プロジェクトに最後まで参加しておらず、本件契約書で定める報酬金額は市場価格から大幅に外れていることなどを理由に上記要求を拒否され、上記の計画が実現することはなかった。

 以上の事実認定の上、東京地方裁判所は、「本件業務委託契約に係る報酬は、当初に合意されたとおり、1MW当たり100万円であると認められる」と判示しました。

東京地方裁判所の外観
東京地方裁判所の外観
(出所:日経BP)
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「架空の合意」は訴訟リスクに

 すでに記述しましたが、「通謀虚偽表示」とは、相手方と意を通じて行った虚偽の意思表示で、「意を通じている」という点と、「虚偽の意思表示である」という要件が整うと成立します。成立した場合、その法律効果は、「無効」となります。

 本件事案では、2016年頃から、原告代表者は、被告代表者に対し、設備用地の紹介者に対する謝礼に充てる費用を捻出するため、1MW当たりの報酬単価を150万円に増額することを求めましたが、これを被告代表者は断っています。

 他方で、被告代表者は、本件業務委託契約に係る報酬を見かけ上1MW当たり200万円とし、その全てをB社間合意における共通経費とすることをB社に認めてもらい、さらに、1MW当たり50万円を原告から被告側に戻してもらえば、被告の利益にもなる上に、原告に対する報酬を1MW当たり150万円に増やすこともできるのではないかと考え、50万円のバックマージンの支払いをすることを前提に1MWあたり200万円の業務委託料とする本件契約書を作成しているのです。

 民法94条で規定する「通報虚偽表示」の成立要件である「相手方と意を通じて」という点は、本件では認められ、1MWあたり200万円の業務委託料とする合意は、虚偽の意思表示ですから、民法94条によりこの合意は無効となります。

 もっとも、原告に対し、1MW当たり150万円とする合意は成立しているのではないか?という疑問もあります。

 被告代表者の申し出は、1MW当たり200万円の報酬合意という見かけ上の架空の合意をし、バックマージンで50万円返金してくれれば、原告に対して1MW当たり150万円の報酬を支払うことになるのだから、それで良いではないか、という提案であり、1MW当たり150万円の報酬とするという点では、真正な合意が成立していると見る余地もあります。

 しかし、原告は、本件訴訟で以下のように主張し、1MW当たり150万円の報酬とする合意に関しても否定しています。「原告は、本件契約書が作成された当時、被告から、報酬は1MW当たり200万円とした上で後日その中から被告代表者個人に1MW当たり50万円を返還して欲しいとの要望を受け、これを明確に否定しなかったことはあるが、被告が主張するような理由により本件契約書を作成することについては、その依頼を受けたことすらない。原告と被告が通謀して内容虚偽の契約書を作成したとの被告の主張を裏付ける客観的な証拠は何もなく、B社に対して内容虚偽の契約書を示して費用の折半を求めるというのはそれ自体が詐欺に該当する行為であって、原告がそのような計画に加担するはずがない」と、全面的に争っており、1MW当たり150万円の報酬とする合意が成立していたという主張をそもそもしていません。

 従って、原告から主張のない事実について裁判所は判断をしていないのです。

 事業規模が大きく、多くの事業者が関わるメガソーラー事業では、長期にわたる事業期間のなかで、「通謀虚偽表示」が起きてしまう恐れをはらんでいます。

 以前、判例解説をした東京地裁が2020年12月25日に公表した判決も「通謀虚偽表示」が論点となったトラブルケースでした(関連記事:メガソーラー建設巡り施主と施工者が紛争、発電事業の譲渡が無効に)。

 トラブルとなり、裁判にまで発展すると、関係当事者のレピテーションリスクも生じるところであり、昨今のコンプライアンスの高まりからみると、各関係当事者にて違法な「架空合意が存在しないか」というビジネスDD(デューデリジェンス)を弁護士も交えて実施する必要性を感じるところです。

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