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太陽光発電所の譲渡に際し、特約が「公序良俗」違反に(page 3)

<第78回>負担金の借り入れに関する特約が無効とされた判例の解説

2021/10/20 18:00
弁護士法人 匠総合法律事務所 代表社員弁護士 秋野卓生
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裁判所の判断は?

 これに対し、東京地方裁判所は、次の通り判示しました。

 譲渡人は、第1事件原告が系統連系負担金の借入れにおける金員を約定の期限までに返還しなかったため、同借入れに設けられた本件特約により、太陽光発電所の譲渡契約は当然に解除され、また、譲受人が有する本件各発電所における事業権及び支払済みの費用(これは支出した譲渡代金に係る返還請求権を指すものと解される)が放棄されたと主張し、また、一般に太陽光発電所が稼働に至る可能性は低く、系統連系負担金の支出が貸倒れとなる危険があったため、本件特約を設けた旨主張する。

 しかしながら、消費貸借契約において、貸主が貸付金の返還が受けられないことにより受ける損害等は遅延損害金を支払わせることにより補填されるのが通常であって、借入金が使用される予定の他の契約の効力にまで影響を及ぼすことはないというべきである。

 加えて、本件特約によれば、太陽光発電所に関する譲渡契約の解除の効果として、譲受人は、本件各発電所に係る事業権等を失うことになるだけでなく、原状回復請求権として発生する太陽光発電所譲渡契約の締結時に支払済みの譲渡代金(本件契約1につき3億5000万円、太陽光発電所譲渡契約につき2億509万8720円)の返還請求権も放棄することになるのであって、譲受人が放棄させられる上記請求権の価値は、系統連系負担金借入れにおける借入額の約2.75倍にもなり、実質的には約1.75倍の遅延損害金を徴収されているに等しいものである。

 他方、譲渡人は、本件各発電所に対する事業権を取り戻して、これを第三者に再譲渡することができ、太陽光発電所の譲渡契約における各事業権の対価は、本件発電所1につき8億2520万円、同発電所2につき2億7509万8720円(いずれも消費税込)であったことからすれば、譲渡人は、上記譲渡により少なくとも数億円単位の対価を得ることができるというべきである。

 この点につき、譲渡人代表者は、太陽光発電所は、施設が完成して稼働しない限り価値はないから、再譲渡できるとは限らないし、太陽光発電所については、電力会社が電力を固定価格(調達価格)で買い取ることが義務付けられているところ、太陽光発電所の稼働が遅れれば、その調達価格が低額となり、また、調達価格での買取りがされる期間が短くなるため、譲渡人が被る損失は10億円にも及ぶ旨供述し、本件特約により譲受人に上記の権利等を放棄させることが暴利的ではない旨供述する。

 しかしながら、本件各発電所は、現に別会社に譲渡されており、稼働に至らないからといって、直ちに譲渡可能性がないとか、譲渡価格が無価値に等しいとなるわけではない。また、弁論の全趣旨によれば、太陽光発電所が稼働に至るには、用地の地権者との交渉や同意の取り付け、用地の測量、林野開発許可の取得、発電所設備の建築工事など多岐にわたる事項を進める必要があることが認められ、このような事情からすれば、原告らから系統連系負担金の借入れに係る返済がされないことが、本件各発電所の稼働の遅れに直接の影響を与えるものとは到底考えがたい。したがって、本件特約の正当性をいう譲渡人代表者の供述は採用することができない。

 以上のとおり、本件特約は、これが適用されることにより、譲受人において、系統連系負担金借入れにかかる借入金の額をはるかに超える損失を与えるもので、暴利的なものであるといえ、また、譲渡人における損失を回避ないし軽減するために必要なものであるといった事情もなく、同特約を正当化し得る根拠もないというべきである。

 したがって、本件特約は公序良俗に反するものとして無効というべきであるから、原告らの主張には理由がある。

東京地方裁判所の外観
東京地方裁判所の外観
(出所:日経BP)
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