太陽光発電事業者のための法律Q&A

太陽光発電所の譲渡に際し、特約が「公序良俗」違反に

<第78回>負担金の借り入れに関する特約が無効とされた判例の解説

2021/10/20 18:00
弁護士法人 匠総合法律事務所 代表社員弁護士 秋野卓生

負担金の借入金を弁済できず

 太陽光発電所の建設にあたっては、系統連系に必要な工事費負担金(系統連系負担金)の金額が非常に大きく、他方で、この系統連系負担金を納付できない場合には、太陽光発電所が稼働できないというリスクを抱えることになります。

 そのため、太陽光発電所を譲渡する契約を締結した後、譲受人が系統連系負担金の負担すらできない場合には、直ちに、譲渡契約を解除して別事業者に再度、譲渡することを譲渡人としては検討することになります。

 今回取り上げる裁判(東京地方裁判所・令和3年3月4日判決)の事案では、太陽光発電所の譲渡契約の際、譲受人は、譲渡人から、電力会社に対し支出すべき系統連系負担金2億509万8720円を借り入れました。

 その際に、譲渡人は、返済期限を2017年6月30日と定め、「譲受人が借入金を返済期限までに返済しないときは、太陽光発電所の譲渡契約は直ちに解除され、譲受人は、太陽光発電用地に係る権利及び支払済みの費用を放棄する」という特約(以下「本件特約」)を交わしました。

 その後、譲受人は、譲渡人に対し、系統連系負担金の借入れに対する全額の弁済は出来ませんでした。

 譲渡人は、譲受人が系統連系負担金の借入れに係る借入金を返済できなかったため、太陽光発電所譲渡契約は、本件特約に基づき当然に解除され、かつ、譲受人は、同特約に基づく担保権の実行として、太陽光発電用地に対する権利及び支払済みの費用を放棄したと主張し、譲渡人は、2019年12月2日、別会社との間で本件各発電所の太陽光発電事業を譲渡する契約を締結しました。

 本件裁判では、この「譲受人が借入金を返済期限までに返済しないときは、太陽光発電所譲渡契約は直ちに解除され、譲受人は、太陽光発電用地に係る権利及び支払済みの費用を放棄する」との本件特約が公序良俗に違反する無効な契約条項か、が争われました。

東京地方裁判所の正門
東京地方裁判所の正門
(出所:日経BP)
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暴利的な条項か否か

 民法第90条は、「公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする」と定めています。「公の秩序又は善良の風俗」の部分を縮めて、「公序良俗」と呼ばれています。

 法律行為の目的が反社会的・反道徳的なものである場合に、その効力を無効とすることによって、法律行為の社会的妥当性を保つ趣旨で規定されており、本件では、譲渡人にとって暴利的な条項に該当するとして無効な条項ではないか、が争われました。

 裁判で譲渡人は、本件特約について、「借入金の返済すら出来ない場合、一般に太陽光発電所が稼働に至る可能性は低く、系統連系負担金の支出が貸倒れとなる危険があったことから、本件特約が設けられたものである」と主張し、公序良俗違反ではないと主張しました。

 すなわち、太陽光発電所は、施設が完成して稼働しない限り価値はないから、再譲渡できるとは限らないし、太陽光発電所については、電力会社が電力を固定価格(調達価格)で買い取ることが義務付けられているところ、太陽光発電所の稼働が遅れれば、その調達価格が低額となり、また、調達価格での買取りがされる期間が短くなるため、譲渡人が被る損失は10億円にも及ぶ旨を供述し、本件特約により譲受人に上記の権利等を放棄させることが暴利的ではないと主張したのです。

東京地方裁判所の外観
東京地方裁判所の外観
(出所:日経BP)
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裁判所の判断は?

 これに対し、東京地方裁判所は、次の通り判示しました。

 譲渡人は、第1事件原告が系統連系負担金の借入れにおける金員を約定の期限までに返還しなかったため、同借入れに設けられた本件特約により、太陽光発電所の譲渡契約は当然に解除され、また、譲受人が有する本件各発電所における事業権及び支払済みの費用(これは支出した譲渡代金に係る返還請求権を指すものと解される)が放棄されたと主張し、また、一般に太陽光発電所が稼働に至る可能性は低く、系統連系負担金の支出が貸倒れとなる危険があったため、本件特約を設けた旨主張する。

 しかしながら、消費貸借契約において、貸主が貸付金の返還が受けられないことにより受ける損害等は遅延損害金を支払わせることにより補填されるのが通常であって、借入金が使用される予定の他の契約の効力にまで影響を及ぼすことはないというべきである。

 加えて、本件特約によれば、太陽光発電所に関する譲渡契約の解除の効果として、譲受人は、本件各発電所に係る事業権等を失うことになるだけでなく、原状回復請求権として発生する太陽光発電所譲渡契約の締結時に支払済みの譲渡代金(本件契約1につき3億5000万円、太陽光発電所譲渡契約につき2億509万8720円)の返還請求権も放棄することになるのであって、譲受人が放棄させられる上記請求権の価値は、系統連系負担金借入れにおける借入額の約2.75倍にもなり、実質的には約1.75倍の遅延損害金を徴収されているに等しいものである。

 他方、譲渡人は、本件各発電所に対する事業権を取り戻して、これを第三者に再譲渡することができ、太陽光発電所の譲渡契約における各事業権の対価は、本件発電所1につき8億2520万円、同発電所2につき2億7509万8720円(いずれも消費税込)であったことからすれば、譲渡人は、上記譲渡により少なくとも数億円単位の対価を得ることができるというべきである。

 この点につき、譲渡人代表者は、太陽光発電所は、施設が完成して稼働しない限り価値はないから、再譲渡できるとは限らないし、太陽光発電所については、電力会社が電力を固定価格(調達価格)で買い取ることが義務付けられているところ、太陽光発電所の稼働が遅れれば、その調達価格が低額となり、また、調達価格での買取りがされる期間が短くなるため、譲渡人が被る損失は10億円にも及ぶ旨供述し、本件特約により譲受人に上記の権利等を放棄させることが暴利的ではない旨供述する。

 しかしながら、本件各発電所は、現に別会社に譲渡されており、稼働に至らないからといって、直ちに譲渡可能性がないとか、譲渡価格が無価値に等しいとなるわけではない。また、弁論の全趣旨によれば、太陽光発電所が稼働に至るには、用地の地権者との交渉や同意の取り付け、用地の測量、林野開発許可の取得、発電所設備の建築工事など多岐にわたる事項を進める必要があることが認められ、このような事情からすれば、原告らから系統連系負担金の借入れに係る返済がされないことが、本件各発電所の稼働の遅れに直接の影響を与えるものとは到底考えがたい。したがって、本件特約の正当性をいう譲渡人代表者の供述は採用することができない。

 以上のとおり、本件特約は、これが適用されることにより、譲受人において、系統連系負担金借入れにかかる借入金の額をはるかに超える損失を与えるもので、暴利的なものであるといえ、また、譲渡人における損失を回避ないし軽減するために必要なものであるといった事情もなく、同特約を正当化し得る根拠もないというべきである。

 したがって、本件特約は公序良俗に反するものとして無効というべきであるから、原告らの主張には理由がある。

東京地方裁判所の外観
東京地方裁判所の外観
(出所:日経BP)
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暴利行為に関する判例の傾向

 暴利行為の該当性判断に関しては、かつては「他人の窮迫・軽率・無経験に乗じて、いちじるしく過当な利益の獲得を目的とする法律行為は、無効とする」という準則が定式化されていました(有斐閣「民法講義Ⅰ総則(第3版)」山本敬三著275頁)。要するに、相手の知識不足や経験不足、困窮している状況につけ込んで、不当に過大な利益を得ようとする行為のこと指しているものとされ、暴利行為は経済的強者が弱者を一方的に搾取するものであるため、法律上はこのような行為を防止すべく無効(民法90条)という理解がなされてきました。暴利行為のリーディングケースとされる大審院・昭和9年5月1日でも、前半(「他人の窮迫・軽率・無経験に乗じて」)部分を主観的要件、後半(「いちじるしく過当な利益の獲得を目的とする法律行為」)部分を客観的要件として判断されています。

 もっとも、当時と現代では、暴利行為論の適用領域や機能に変化が見られるため、同判決の定式では十分ではなくなってきています。

 1980年代半ば頃から、下級審裁判例を中心に、消費者取引や投資取引における不当勧誘、既存の関係を利用して過大な利益を得る契約などが暴利行為論の新たな適用領域として浮上するなど、上記準則をより積極的かつ柔軟に活用しようとする動きがみられるようになりました(武田直大・民法百選Ⅱ第7版15「暴利行為」(有斐閣))。

 このような経緯を踏まえ、主観的要件については窮迫・軽率・無経験には直接該当しないような場合についても、畏怖・困惑、判断能力の低下、無知及び従属状態といった事情にまで拡張して法律行為が無効とされる判断が見られるようになってきています。また客観的要件についても、どの程度の利得があれば著しく過当な利益にあたるのか、明確な基準が存在するわけではありません。そこで主観的・客観的観点は、要件という位置づけから、両者を相関的に判断して行為の有効無効を判断するための考慮要素という理解になってきているのです(有斐閣「民法講義Ⅰ総則(第3版)」山本敬三著275頁参照)。例えば、客観的要素が強い場合には、主観的要素が弱くても暴利行為となりえ、その逆もあるということになります。このような理解から、定式的な判断ではなく、様々な事情を考慮要素として、暴利行為の該当性を判断できるようになってきています。

 本判決の判断では、譲渡人の行為が譲受人側の窮迫した状況や無経験・軽率に乗じたものとはいえないため少なからず伝統的理解における定式から離れたものであり、また拡張した主観的要素として挙げられる上記の事情も特段認められないことからすれば、客観的要素を中心に該当性が判断されたものといえ、あくまで両要素は相互補完の関係にあることを考えると、今般の理解を前提に暴利行為の該当性を判断したものといえます。

特約を設ける際の注意点

 もっとも本判決の事案における特約に関して留意すべき点は、先述のとおり、譲受人が系統連系負担金を納付できず太陽光発電所が稼働できないという共倒れのリスクを回避するために譲渡人が設けたものであって、ことさら譲受人から不当に利益をせしめるような類のものではなかったはずであるということです。すなわち本件特約は、上記事業の性質に照らし設定された一種のリスクヘッジ条項にほかならないはずであるにも関わらず、暴利行為にあたると判断しました。

 現代的な暴利行為の該当性判断の下では、様々な考慮要素をもって判断されるとの性質上どのような事情をもって「暴利行為」というかを一義的に決めることは確かに困難ではありますが、事案の特殊性に応じて当然判断においての各事情の意味合いや軽重は自ずと変わってくるものといえるでしょう。もちろん違約金があまりにも高額であるとか、目的物に対する売買代金の大小が重視されるべき事案も当然あるでしょう。そうした場合には額面自体が暴利行為の該当性の目安になるといえるでしょう。もっとも本件が譲渡の対象が各発電所の事業権といった特殊性の高い事案であることからすれば、当該特約がそもそも必要となる背景や特約の性質といった事情についてさらに深く考慮されることが望ましい事案であったと言えるでしょうが、結局のところその主張立証が十分に行われなかったが故に暴利行為と判断されたものと考えます。

 太陽光発電所の譲渡契約において、様々なリスクを想定して特約を契約書に盛り込むことになりますが、あまりに自社に有利すぎる特約は公序良俗(民法90条)に反する特約であると評価され、無効と判断される可能性もあるので、気をつけるべきでしょう。

自社に有利すぎる特約には注意を
自社に有利すぎる特約には注意を
(写真はイメージで本文の事例とは関係ありません)
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