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太陽光発電の設置目的を隠して土地取得、売主が訴えて裁判に(page 3)

<第80回>虚偽の説明で締結された土地売買契約は「錯誤無効」に

2021/12/27 17:00
弁護士法人 匠総合法律事務所 代表社員弁護士 秋野卓生
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売主に「動機の錯誤」が認められるか?

 売主、仲介業者C及びBは、住居用の土地としての販売が容易となるよう、土地を分筆して、居住用の土地として販売しており、現に、別の買主も別荘用の土地であるとの説明を受けて、隣接土地を購入している事実が認められ、こういった経緯に照らせば、売主は、本件土地を居住用又は別荘用の土地であることを前提として本件土地を販売していたと第一審の甲府地方裁判所は判断しました。

 その上で、買主は、本件土地の購入をCに持ち掛けた時点から、Cに対し、居住用又は別荘用の土地として土地を探している旨の説明や文書への記載を行っており、売主は、Cからその旨の話を聞いていました。

 そして、買主は、2019年3月21日、不動産仲介会社にて、お客様受付簿の購入目的の欄の「別荘」に丸をした上で、希望の環境の欄の「眺望(富士山)」に丸をし、希望の予算額が950万円である旨を記載して、Cに対し、居住用又は別荘用の土地として土地を探している旨を述べています。

 こういった事実から売主は、買主が、居住用又は別荘用の土地として本件土地を使用するとの認識で本件契約を締結したと第一審の甲府地方裁判所は判断し、「売主による本件契約締結の意思表示には、買主による土地の利用目的という動機についての錯誤があったというべきである」と判示しました。

 売主による「動機の錯誤」があったとして、次に問題になるのが、動機の錯誤について、明示又は黙示の表示があり、本件契約の「要素」となったか、という点です。というのは、民法95条は、錯誤無効の要件として「法律行為の要素に錯誤があったとき」と規定しており、要素の錯誤であることを要するとしているからです(民法95条本文)。

 この点について第一審の甲府地方裁判所は、次の通り判示しました。

 「売主、C及びBは、本件土地を居住用又は別荘用の土地として、分筆前の土地を分筆して販売することを前提としていたと認められる。

 また、買主側の仲介業者であるCは、買主から、別荘用の土地として購入する旨の説明を受け、Bは、Cを介して、買主による本件土地購入の申込みの経緯を聞いた上で、買主が居住用又は別荘用の土地を購入することを前提として、本件契約の契約書及び重要事項説明書の文案を作成しているが、仮に本件契約が太陽光発電事業のための売買であったとすると、仲介業者として、重要事項説明書に北杜市の太陽光発電施設設置に関する指導要綱等について記載し、契約時にその説明を行うべきであった。

 そして、売主は、2014年に、Aによる分筆前土地の買受けの申入れを太陽光発電事業に使われることを理由に断ったことがあるところ、買主が、Aとの協議を踏まえ、b社による太陽光発電事業の目的を当初から有していたにもかかわらず、Cや原告に対し、居住用又は別荘用の土地として本件土地を購入する旨の言動を一貫して行っており、説明会の告知に至るまでに、太陽光発電事業のための利用について触れることが全くなかったという経緯に照らせば、買主は、売主が、本件土地について、居住用又は別荘用の土地として販売しており、太陽光発電事業用地としては販売する意思がないことを知っていたために、あえて居住用又は別荘用の土地として本件土地を購入する旨の言動を行っていたと認められる。

 以上の本件契約に至る経過に照らせば、売主は、本件契約に際して、居住用又は別荘用の土地として本件土地を販売するとの動機を黙示に表示しており、買主も、原告の当該動機を知っていたと認めるのが相当である。

 そして、上記の事情に加え、本件土地の周辺は、別荘又は居住用の建物などが立ち並ぶ地域であるところ、本件土地付近における居住用又は別荘用の土地の購入希望者は、環境や景観を重要視し、太陽光発電設備は景観を阻害するものとして避ける傾向があること、分筆前土地のうち、未だに販売されていない土地もあることという事情も併せて考慮すれば、居住用又は別荘用の土地として本件土地を販売するとの動機は、本件契約の要素となっていたと解するのが相当である」

買主は「太陽光の禁止条項はない」と主張

 本裁判で、買主は、本件契約締結の際、売主が、本件土地の利用目的を別荘用地や住宅用地に限定しており、太陽光発電用地としての利用を認めないとの説明がなかったこと、本件契約書や重要事項説明書にも、買主又はその関係者が、太陽光発電の施設を設置し、事業を行うことを禁止する条項は一切存在しなかったことを主張し、本件裁判のポイントである「動機の錯誤」について争いました。

 これに対し、第一審の甲府地方裁判所は、「本件契約の契約書及び重要事項説明書の文案は、買主による言動に基づいて、居住用又は別荘用の土地としての販売であることを前提に作成されており、仮に本件契約が太陽光発電事業のための売買であったとすると、仲介業者として、重要事項説明書に北杜市の太陽光発電施設設置に関する指導要綱等について記載するべきものであったこと、買主が犯罪収益移転防止法4条1項の規定に基づき取引時確認が義務づけられた事項に関する顧客カードにも居住用と記載したことからすれば、契約締結に際して、太陽光発電用地としての利用を認めないとの説明がなく、契約書にその旨の条項が明記されていなかったとしても、本件契約において、売主による居住用又は別荘用の土地として本件土地を販売するとの動機は黙示に表示されて、契約の要素になっていたと解するのが相当であり、買主の主張は採用できない。

 そして、売主は、居住用又は別荘用の土地として本件土地を販売していたが、太陽光発電事業用地としては販売する意思を有していなかったことに加え、b社による太陽光発電事業の計画が判明した直後、甲府地方第一審の甲府地方裁判所に対し、買主を債務者として、本件土地について処分禁止仮処分を申立てたことからすれば、売主は、当該動機の錯誤がなければ、本件契約を締結しなかったと認められる」と判示し、「本件契約は、売主の錯誤によって締結されたものとして、無効というべきである」と判示しました。

甲府地裁の外観
甲府地裁の外観
(出所:甲府地裁ホームページ)
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