太陽光発電事業者のための法律Q&A

太陽光発電の設置目的を隠して土地取得、売主が訴えて裁判に

<第80回>虚偽の説明で締結された土地売買契約は「錯誤無効」に

2021/12/27 17:00
弁護士法人 匠総合法律事務所 代表社員弁護士 秋野卓生

太陽光建設で資産価値が下がる?

 今回、取り上げる裁判の舞台となった山梨県北杜市は、森の美しさで別荘地として開発され、高原観光も盛んな地域です。

 ところが、太陽光発電による森林伐採が進み、別荘地に隣接してメガソーラー(大規模太陽光発電所)が建設され、別荘の資産価格が急落したという報道もあります。

 本判例(東京高裁令和3年10月14日判決)の主な登場人物は、土地の売主(第一審原告、控訴審被控訴人、以下「売主」と表記)と、土地の買主(第一審被告、控訴審控訴人、以下「買主」と表記)です。

 買主が太陽光発電事業用地として利用する目的を持っていたにもかかわらず、住宅用地又は別荘用地として利用するとの虚偽の説明を行い、土地の売主から、本件土地を買い受けました。売主は、この虚偽の説明を理由に、詐欺として同売買契約(本件契約)を取り消し、又は錯誤により同契約は無効であると主張して、土地の買主に対し、所有権に基づき、共有者全員持分全部移転登記(以下「本件移転登記」)の抹消登記手続及び本件土地の明渡しを求めました。

東京高裁の正門
東京高裁の正門
(出所:日経BP)
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「錯誤無効」とは?

 「錯誤」とは、表意者が無意識的に意思表示を誤りその表示に対応する意思が欠けていることをいいます。

 本事案が適用される旧民法では「錯誤」は表意者自身が表示に対応する意思が欠けていることに気がついていない点から、意思表示をした者を保護するため錯誤の意思表示を無効としています(民法第95条本文)。なお、無効という効果を付与することには、意思主義に傾いているという批判もあり、改正民法では、無効ではなく、追認可能な「取消し」としています(改正民法95条1項)。

 「錯誤」のなかでも、意思表示そのものではなく動機から効果意思(内心的効果意思)に至る過程において、錯誤が生じることを「動機の錯誤」といいます。

 動機の錯誤は、動機が明示又は黙示に表示されて意思表示の内容となった場合に限り民法95条にいう錯誤になるとするのが通説・判例です。

 本件売買契約の事案は「動機の錯誤」のケースです。

 以下、事案の概要を見ていきましょう。

判決が認定した売買契約までの経緯

 売主らは、1946年以降、本件土地に居住し、分筆前には、牛の放牧地として使われていました。分筆前の土地は、JR小海線のf駅の徒歩圏内にあって、富士山を眺望でき、周辺には、別荘、移住者の自宅、市営住宅などが散在していました。

 b社は、2014年2月7日に設立されて、太陽光などによる発電およびその電力の販売を主な事業として行っていました。b社においては、買主と買主の息子Aが、代表社員及び業務執行社員を務めていて、他の従業員はおらず、息子Aが、太陽光発電事業に関する意思決定全般を行い、買主は、資金調達の意思決定に関与していました。

 b社は、2014年3月10日、山梨県北杜市a町○○に太陽光発電設備を設置することを前提として、太陽光発電の設備認定(ID)9件を取得したところ、その時点で、発電設備を設置する具体的な地番は未確定でした。

 Aは、分筆前の仲介業者Bを通じて、分筆前の土地の購入を売主に持ちかけていた2016年5月の時点で、北杜市に対し、分筆前土地の本件土地を含む部分に太陽光発電設備を設置する計画があるとの届出を行っています。

 Aは、2016年5月25日、本件土地の周辺土地を売買により取得し、既に取得済みの設備認定を使用して、東側の土地に太陽光発電設備を設置することを計画した上で、これらの土地の樹木を伐採しました。

 売主は、同年6月頃、東側の発電所向け土地を伐採していた業者から、b社が設備認定を取得しており、東側の土地について太陽光発電事業のために使用するという話を聞き、その後、北杜市役所の職員からも、b社が、本件土地において太陽光発電事業を行うことを前提として、設備認定を取得している旨の話を聞きました。

 売主は、2016年8月8日頃、仲介業者Bを介して、買主に対し、太陽光発電事業の目的で分筆前の土地を売ることはできないことを理由に、Aによる分筆前土地の買い付けの申し出を断りました。

 売主は、2017年7月頃、仲介業者Bから、分筆前の土地を住宅用として販売する上では分筆した方がよい旨の助言を受け、分筆前土地を居住用の土地として8筆に分筆することを前提とした販売を開始しました。

甲府地裁の判決は?

 第一審の甲府地方裁判所は、「買主はb社による太陽光発電事業の用地として使用する目的で本件土地を購入した」と認定しました。その理由は、以下の通りです。

 「買主及びAは、北杜市において太陽光発電事業に適した土地を探していたところ、Aは、d社がインターネット上に掲載されていた本件土地の販売に関する情報を見て、既に太陽光発電事業を計画していた東側発電所土地に隣接していて管理がしやすいことを理由に、b社が既に取得済みの設備認定を用いて太陽光発電事業を行うことを前提として、財務管理又は税務上の観点から、買主名義で本件土地を購入することを決めて、買主とその旨協議し、買主は、Aとの協議に基づいて、買主側の仲介業者Cに対し、本件土地の購入を持ち掛け、原告からの本件土地に至った。

 その上で、買主は、本件契約の代金決済直後の2019年6月、Cに対し、本件土地の東側の隣接土地の伐採を依頼しており、b社は、同年8月20日頃、本件土地に太陽光発電設備を設置する計画がある旨を本件土地周辺の不動産の所有者に対して告知している。

 このような経過に照らせば、買主は、b社による太陽光発電事業の用地として使用する目的で本件土地を購入したと認められる」

 一方、裁判で買主は、本件土地を購入した際には、b社による太陽光発電事業に用いる目的と併せて、別荘として使用する目的を有しており、後者の方が優越していた旨を供述しています。

 売買契約締結時においては、別荘による利用も検討していたのであって、嘘は言っていないというわけです。

 この点についての第一審の甲府地方裁判所の判断は以下の通りです。

 「Aは、本件土地購入の目的が、b社による太陽光発電事業の用地として使用する目的であったことを認めた上で、財務管理又は税務上の観点から、買主名義で本件土地を購入することとした旨の供述又は証言を行っている。

 これに加え、買主は、2018年4月19日、北杜市において不動産の仲介業を営むe社に対し、別荘利用目的の土地を購入したいとして土地の仲介を依頼し、周辺に別荘が立ち並ぶ土地の売買契約を締結したが、その後、b社は、同土地上に太陽光発電設備を設置したこと、さらには、本件契約の代金決済後、2カ月余りで、b社が北杜市に対する太陽光発電事業の開発許可を申請し、本件土地周辺の住民に太陽光発電事業の開始を告知していることを踏まえれば、買主は、b社による太陽光発電事業の用地として使用する目的で本件土地を購入したと認めるのが相当であって、買主の上記供述は、採用できない」

甲府地裁の外観
甲府地裁の外観
(出所:甲府地裁ホームページ)
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売主に「動機の錯誤」が認められるか?

 売主、仲介業者C及びBは、住居用の土地としての販売が容易となるよう、土地を分筆して、居住用の土地として販売しており、現に、別の買主も別荘用の土地であるとの説明を受けて、隣接土地を購入している事実が認められ、こういった経緯に照らせば、売主は、本件土地を居住用又は別荘用の土地であることを前提として本件土地を販売していたと第一審の甲府地方裁判所は判断しました。

 その上で、買主は、本件土地の購入をCに持ち掛けた時点から、Cに対し、居住用又は別荘用の土地として土地を探している旨の説明や文書への記載を行っており、売主は、Cからその旨の話を聞いていました。

 そして、買主は、2019年3月21日、不動産仲介会社にて、お客様受付簿の購入目的の欄の「別荘」に丸をした上で、希望の環境の欄の「眺望(富士山)」に丸をし、希望の予算額が950万円である旨を記載して、Cに対し、居住用又は別荘用の土地として土地を探している旨を述べています。

 こういった事実から売主は、買主が、居住用又は別荘用の土地として本件土地を使用するとの認識で本件契約を締結したと第一審の甲府地方裁判所は判断し、「売主による本件契約締結の意思表示には、買主による土地の利用目的という動機についての錯誤があったというべきである」と判示しました。

 売主による「動機の錯誤」があったとして、次に問題になるのが、動機の錯誤について、明示又は黙示の表示があり、本件契約の「要素」となったか、という点です。というのは、民法95条は、錯誤無効の要件として「法律行為の要素に錯誤があったとき」と規定しており、要素の錯誤であることを要するとしているからです(民法95条本文)。

 この点について第一審の甲府地方裁判所は、次の通り判示しました。

 「売主、C及びBは、本件土地を居住用又は別荘用の土地として、分筆前の土地を分筆して販売することを前提としていたと認められる。

 また、買主側の仲介業者であるCは、買主から、別荘用の土地として購入する旨の説明を受け、Bは、Cを介して、買主による本件土地購入の申込みの経緯を聞いた上で、買主が居住用又は別荘用の土地を購入することを前提として、本件契約の契約書及び重要事項説明書の文案を作成しているが、仮に本件契約が太陽光発電事業のための売買であったとすると、仲介業者として、重要事項説明書に北杜市の太陽光発電施設設置に関する指導要綱等について記載し、契約時にその説明を行うべきであった。

 そして、売主は、2014年に、Aによる分筆前土地の買受けの申入れを太陽光発電事業に使われることを理由に断ったことがあるところ、買主が、Aとの協議を踏まえ、b社による太陽光発電事業の目的を当初から有していたにもかかわらず、Cや原告に対し、居住用又は別荘用の土地として本件土地を購入する旨の言動を一貫して行っており、説明会の告知に至るまでに、太陽光発電事業のための利用について触れることが全くなかったという経緯に照らせば、買主は、売主が、本件土地について、居住用又は別荘用の土地として販売しており、太陽光発電事業用地としては販売する意思がないことを知っていたために、あえて居住用又は別荘用の土地として本件土地を購入する旨の言動を行っていたと認められる。

 以上の本件契約に至る経過に照らせば、売主は、本件契約に際して、居住用又は別荘用の土地として本件土地を販売するとの動機を黙示に表示しており、買主も、原告の当該動機を知っていたと認めるのが相当である。

 そして、上記の事情に加え、本件土地の周辺は、別荘又は居住用の建物などが立ち並ぶ地域であるところ、本件土地付近における居住用又は別荘用の土地の購入希望者は、環境や景観を重要視し、太陽光発電設備は景観を阻害するものとして避ける傾向があること、分筆前土地のうち、未だに販売されていない土地もあることという事情も併せて考慮すれば、居住用又は別荘用の土地として本件土地を販売するとの動機は、本件契約の要素となっていたと解するのが相当である」

買主は「太陽光の禁止条項はない」と主張

 本裁判で、買主は、本件契約締結の際、売主が、本件土地の利用目的を別荘用地や住宅用地に限定しており、太陽光発電用地としての利用を認めないとの説明がなかったこと、本件契約書や重要事項説明書にも、買主又はその関係者が、太陽光発電の施設を設置し、事業を行うことを禁止する条項は一切存在しなかったことを主張し、本件裁判のポイントである「動機の錯誤」について争いました。

 これに対し、第一審の甲府地方裁判所は、「本件契約の契約書及び重要事項説明書の文案は、買主による言動に基づいて、居住用又は別荘用の土地としての販売であることを前提に作成されており、仮に本件契約が太陽光発電事業のための売買であったとすると、仲介業者として、重要事項説明書に北杜市の太陽光発電施設設置に関する指導要綱等について記載するべきものであったこと、買主が犯罪収益移転防止法4条1項の規定に基づき取引時確認が義務づけられた事項に関する顧客カードにも居住用と記載したことからすれば、契約締結に際して、太陽光発電用地としての利用を認めないとの説明がなく、契約書にその旨の条項が明記されていなかったとしても、本件契約において、売主による居住用又は別荘用の土地として本件土地を販売するとの動機は黙示に表示されて、契約の要素になっていたと解するのが相当であり、買主の主張は採用できない。

 そして、売主は、居住用又は別荘用の土地として本件土地を販売していたが、太陽光発電事業用地としては販売する意思を有していなかったことに加え、b社による太陽光発電事業の計画が判明した直後、甲府地方第一審の甲府地方裁判所に対し、買主を債務者として、本件土地について処分禁止仮処分を申立てたことからすれば、売主は、当該動機の錯誤がなければ、本件契約を締結しなかったと認められる」と判示し、「本件契約は、売主の錯誤によって締結されたものとして、無効というべきである」と判示しました。

甲府地裁の外観
甲府地裁の外観
(出所:甲府地裁ホームページ)
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東京高裁判決の内容は?

 土地の買主は、太陽光発電事業を行う目的で本件土地を購入したのであり、本件契約に際し、本件土地で太陽光発電事業を行わないと発言したことはないと高等裁判所で主張しました。

 これに対し、東京高裁判決は次の通り判示しました。

 「確かに、本件契約書(甲1)には、土地の買主が売買によって取得した後の本件土地の利用方法につき、太陽光発電設備の設置場所としては使用しない旨の約定は記載されていない。しかし、本件では、Aが2016年2月26日に本件土地の購入を持ちかけて、売買交渉が開始されたが、被土地の買主X1が太陽光発電目的であることを知り、買受けの申出を断った事実がある。

 したがって、土地の買主が太陽光発電設備の設置場所として本件土地を使用する目的であることを土地の売主が知れば、本件契約が締結されなかったことは明らかであり、そのような土地の売主の意向は、土地の売主のための媒介業者であるd社にも伝えられていたことが認められる。土地の買主及びAは、ともにb社の代表社員であり、原審における土地の買主本人尋問の結果によれば、Aは土地の買主の息子であり、太陽光発電のための土地の選定についてはAが立案し、資金の調達には土地の買主が必ず関与していたことが認められる。土地の買主は、Aから、本件土地が従前購入を試みた土地であることは、「最初の時点では」聞いていなかったと供述するが、従前購入を試みた際に資金の調達の相談は受けていたはずであり、Aと土地の買主との関係からみて土地の買主の上記供述を信用することはできない。

 そうすると、このような状況下で、土地の買主がb社の代表社員であることを、d社のCに明かさずに、購入目的を「別荘」とし、取引目的を「居住用」と表明したことは、本件土地において太陽光発電事業を行わないことを表明したものにほかならないというべきである。したがって、本件契約書に太陽光発電設備の設置場所としては使用しない旨の約定が明記されていなかったとしても、本件契約に際し、土地の買主は、本件土地において太陽光発電事業を行う目的がないことを表明しており、そのことが土地の売主の錯誤を招いたのであるから、本件契約は錯誤により無効である」

東京高裁の外観
東京高裁の外観
(出所:日経BP)
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「錯誤無効」なら移転登記の抹消に

 売買契約が錯誤無効になると、売買契約は最初に遡って無かったことになりますから、買主は、本件土地上の工作物を撤去して、土地を明け渡すと共に、所有権移転登記を抹消しなければならず、甲府地裁、東京高裁共に、この判決文を維持しています。

 買主にとっては、大ダメージの判決であると言うべきでしょう。

改正民法で増加する可能性も

 改正民法95条1項2号は、動機の錯誤について、「法律行為の基礎とした事情についての認識が真実に反する錯誤」について、同条2項にて「その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていた」場合に、意思表示を取り消すことが出来る旨の規定がなされました。

 無効より取消しのほうが、追認(民法122条)可能性や取消権の行使期間制限(民法126条)の制限を受ける分、取引の相手方保護につながりますが、その結果、錯誤取消を主張できる場合を過度に限定する必要もなくなることから、改正民法施行後は動機の錯誤による意思表示の効力が争われるケースが増加する可能性があると言われています。

 内田貴民法Ⅰ(総則・物権総論)72ページにて「錯誤の要件論で重視すべきなのは、相手方の単なる知・不知(悪意・善意)ではなく、表意者の錯誤を利用することが許されるかどうかの判断ではないかと思われる」と記述されており、正義に即した適正な取引がなされているかどうかという視点から不本意な意思表示をした本人を保護するか、取引の安全を重視するか、判断することとなろうかと思います。

 メガソーラーの場合、売買契約の締結よりも設備認定の取得が先行する事例が多く、景観を理由にメガソーラーに反対する住民がいても、計画を止められないという悩ましい課題がありますが、他方で、使用目的を秘して売買契約を締結すると、その売買契約が無効(改正民法後は取消し)となり、大きなダメージを受けることになるので、注意して頂きたいと思います。

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