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「新法で洋上風力の実現に一歩、だが壁も多い」、荒川忠一東大名誉教授に聞く

メガソーラービジネス インタビュー

2019/08/15 07:02
金子憲治=日経BP総研 クリーンテックラボ

経済産業省と国土交通省が7月30日、洋上新法(再生可能エネルギー海域利用法)に基づく有望区域と促進区域を公表し、国内でも一般海域での洋上風力発電プロジェクトの開発が動き出した。一方で、日立製作所と日本製鋼所の撤退で国内に大型風車メーカーがなくなった。洋上を中心に国内風力発電への期待と課題について、世界風力エネルギー学会・副会長で自治体の主催する洋上風力に関する協議会で委員を務める荒川忠一東京大学名誉教授・京都大学大学院経済学研究科特任教授に聞いた。

「有望」と「促進」の差は?

――洋上新法に基づき、先行的に洋上風力の開発を進める「有望区域」として、秋田県沖の2海域と千葉県の銚子市沖、長崎県の五島市沖の4区域が指定されました。この選定内容に関して、どのように捉えていますか。

荒川忠一東京大学名誉教授
(出所:日経BP)

荒川 洋上新法は、大規模な洋上風力プロジェクトを円滑に進めるためのもので、こうした枠組みは風力発電業界が長年、望んでいたものです。それがようやく実現し、そのプロセスが動き出したことは、たへん意義深いものです。これを機に一日でも早く大規模洋上風力の成功例が生まれ、ほかの地域にも弾みが付けばと思います。

 今回、「有望」と指定された4区域は、すでにある程度、準備が進んでおり、地域的にもバランスがとれていると思います。ただ、ちょっと気になるのは、有望4区域には入らなかった他の7つの促進区域との差がどこにあったのか、7区域には何が足りなかったのか、公表された留意事項から分かりにくい点です。

 というのは、有望4区域の中にも課題が残っているものもありますし、促進7区域のなかにも、地域との合意形成を含め、かなり準備段階の進んだ区域もあるからです。

 こうした疑問点を抱きやすいのは、区域を選定する過程の議論が非公開になっているからです。先行して開発される有望区域になるか否かは、地域にとって大きな影響があります。なぜ、今回、「有望」とならなかったのか、どこに課題があるのかなどが分かれば、今後の取り組みに生かせます。公開の場で選考を進めたり、議事録を公表したりするなど、第三者にも選考の過程を明らかにし、透明性を高めてほしいと願っています。

――青森県陸奥湾に関しては、促進区域に指定されましたが、「防衛面への配慮から制約を受ける区域である」との留意事項が示されました。

荒川 青森県沖の洋上風力プロジェクトに関しては、防衛関係者からの要請で、ほとんどの海域が洋上風力に利用できない可能性もあります。県のゾーニング委員会は、「調整が困難、または特に配慮が必要なエリア」とし、政府による調整を期待しています。

 この問題は、青森県だけでなく、ほかの県にも広がる可能性もあります。しかし、都道府県では対応できない問題です。洋上新法で、促進区域に指定されたのですから、洋上風力を建設しやすい方向で、防衛とのバランスを採ってほしいと思います。政府の強い指導力が求められます。

「拠点港」を巡る駆け引きも

――政府は、有望区域を含め、7月末に11カ所もの「促進区域」を一挙に公表し、そのうちの4つだけを「有望」に指定しました。今回、「有望」となることは、それほど大きな意味を持つのですか。

荒川 今回、「有望」となった4区域は、いわば国内洋上風力プロジェクトの“第1期生”とも言えるものです。当然、最初に建設が始まり、それぞれの区域近くに風力設備の部材を組み立てて積み出す「拠点港」が置かれる可能性が高くなります。

 洋上風力を誘致する地域にとってみると、地元に「拠点港」が置かれるか否かで地域経済への波及効果は大きく異なってきます。新たなインフラ投資が必要な拠点港は、国内で数カ所に集約される可能性が高いため、“第一期生”が、その誘致には有利になります。

秋田県北部洋上風力発電事業のイメージ
(出所:大林組)
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 「拠点港」については、今回の4有望区域とは別に、もっと広い視点と地域から、多くの自治体が競い合う中で、決まっていくような形になればと思います。

 そもそも、今回「有望」とされなかった7つの促進区域が、今後、どんな扱いになるのか、現段階ではよく見えません。次年度以降、順次、2期生、3期生として「有望」に格上げされる区域が出てくるのか、どうすれば「有望」になるのかなど、早期に方向性を示してくれれば、次の手が考えられます。

――洋上新法による開発の枠組みは、国がゾーニングして必要な許認可を取得してから民間企業に引き継ぐ「セントラル方式」と呼ばれる再エネの開発手法をイメージしています。これは、英国などで採用され、大規模な洋上風力の開発促進とコスト削減に大きな効果があったとされています。果たして日本でもうまく機能するのでしょうか。

荒川 新法によって、初めて一般海域での30年の長期占有が可能になったことで、事業への投資が容易になります。国が主導して、区域を指定して開発をサポートしていく仕組みは、洋上風力プロジェクトを円滑に進めるには効果的に思います。

 こうした国の関与する仕組みの説明に「セントラル方式」という言い方がよく使われます。ただ、漁業関係者など地元住民の視点に立つと、この呼び名は、必ずしも良いイメージを持たれません。というのは、「政府や大手電力会社から押し付けられて場所を提供する方式」と誤解されがちだからです。

 再エネは、常に地域と密着したパワーであり、地元関係者と発電事業者がWIN-WINの関係で、相互に理解する体制を築くことがたいへんに重要です。ただ、地元関係者の事情は、地域によって様々で一律に対応できません。洋上新法が、地元住民に対する「セントラル方式の押しつけ」であってはなりません。

 そのためには、都道府県や市町村に、協議会を含めて、場所や事業者決定に大きな権限を与え、地域への還元などを主体的に決められるようにすることが重要に思います。

 こうした手続きを間違うと、地域との協調、社会的受容性への配慮不足から、洋上風力プロジェクトへの反感が高まり、地元から受け入れられません。

荒川忠一東京大学名誉教授
(出所:日経BP)

条例ベースにも可能性

――和歌山県沖など、今回、洋上新法で促進区域に指定されなかった地域でも、洋上風力の大規模プロジェクトを進めている地域もあります。再エネのデベロッパー(開発会社)の中には、洋上新法を使わずに開発を進める動きもあります。

荒川 そうした動きがあるのは承知しています。一般海域での風力プロジェクトは、洋上新法による枠組みだけではありません。短期の占有許可を自治体が条例で定め、その都度、更新する形で、進めることは可能だと思います。

 ローカルな取り組みの中で、関係当事者がうまく連携することで、ファイナンスセクターの理解を得られる可能性もあります。洋上新法による単線ではなく、複数の枠組みの可能性を残しておいた方がよいとも感じます。

 ただ、大規模な風力プロジェクトの開発には、地域からの合意を形成しつつ、環境影響評価(アセスメント)の手続きなどを進める必要があり、着工までの準備に最低でも5年程度はかかります。こうした地道な活動が求められることには変わりありません。

――地域社会への配慮不足のほか、洋上風力発電が国内で発展していくうえでの課題はありますか。洋上新法が動き出す一方で、日立製作所と日本製鋼所が風車製造からの撤退を表明するなど、国内製造業が、いまひとつ盛り上がらない気もします。

荒川 エネルギー政策としての課題は、まさにその点です。洋上新法が施行されても、いったいこの枠組みを使って、どの程度の洋上風力ができるのか、現時点でははっきりしません。政府の掲げている2030年度の「エネルギーミックスの目標(以下、ミックス目標)」では、風力は1.7%で約10GWに過ぎません。

 国内の風力発電の導入量は2017年度末で3.5GW程度で、国として2030年度までに累計で10GWしか見込んでいないというのでは、「日本に風力市場はないですよ」と言っているようなものです。これでは、民間企業は、風力発電設備の開発に投資できません。

 国内の風車メーカーの撤退が相次ぎ、ついに大型風車の国産メーカーがゼロとなってしまったのは、こうした背景があります。

日立製作所製の大型風力発電設備
(出所:日経BP)
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50GW目標で1兆円市場に

――実際、国内の風力開発では、どの程度の目標を掲げるべきでしょうか。

荒川 環境省による再エネポテンシャル調査の「経済的に実現可能なシナリオ」では、国内の陸上風力273GW、洋上141GWという数値になっています。こうした風力発電事業の潜在量を考えれば、まず洋上20GW、陸上30GWで合計50GWぐらいを掲げて欲しいところです。これで電源構成の10%程度になります。

 それでも、太陽光のミックス目標である64GWよりは小さい規模です。日本では固定価格買取制度(FIT)で太陽光の普及が先行しましたが、世界的に見ると、発電コストの安い風力がまず導入され、その次に太陽光という順です。

 現在、系統の容量問題が大きなネックになっていますが、運用の工夫でかなりの空きができることも分かってきました。北海道については、北本連系線のさらなる増強を期待しています。風力は大型化などで発電コストが下がり、系統連系のコストさえ下がれば、FITがなくても十分に事業性を確保できると見ています。

 「50GW」という数値は、いまのミックス目標の5倍ですが、“風力発電産業”として持続的に発展していくためには、この程度の導入量は必須です。この規模であれば、年に2GW程度の投資になり、約1兆円の市場になります。

銚子沖洋上風力発電所
左が風況観測タワー、右が洋上風力発電設備 (出所:東京電力HD)
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海外メーカーの対応に危惧

――太陽光発電の目標である64GWも、すでに達成が見えており、経済産業省は、「ミックス目標はキャップではない」として、競争力のある再エネ電源が目標を越えて普及することは否定していません。

荒川 それも承知していますが、再エネに限らずエネルギーに関しては、系統問題も含め国の政策による影響が大きいことは否定できません。ミックス目標がわずか10GWという数値を見ると、国内の企業経営者は、委縮してしまいます。

 今のミックス目標のなかで最も達成が難しいのが、原子力の20%です。風力の比率を10%まで高めることで、原子力の減少分を同じゼロエミッション電源である風力で補えれば温暖化対策上もメリットがあります。

――このままでは、日本の洋上で回る風車は、すべて海外製になりそうです。外国メーカー製の風車が、台風の多い日本の海で耐えられますか。

荒川 欧州製風車の設計に関しては、IEC(国際電気標準会議)基準の策定時に日本の台風を想定したデータを含めて検討しているので心配していません。

 ただ、機械は長く使えば必ず故障するものです。海外風車メーカーは、陸上風車でさえ、対応が遅く、国内の発電事業者は稼働率低下に苦労してきました。まして、洋上になった時、果たしてどこまで迅速に対応してくれるのか、やや気がかりな点です。

 日本の風力発電の研究者として、日本の海域で国内製風車が1基も回らないのは、たいへんに寂しいことです。

 三菱重工業とデンマーク・ヴェスタスとの合弁であるMHIヴェスタスの風車は、現在、すべて海外生産ですし、日立製作所の輸入するドイツ・エネルコンは、洋上向け製品を開発する予定はないと聞いています。

 これら日本企業は、高い技術力を持っているのですから、日欧連合で洋上向け風車を共同開発し、日本に風車工場を建設して組み立てるような動きになるのが理想です。そのためには、風力のミックス目標を数倍に引き上げ、国内に風力市場を作ることが大前提になります。

荒川忠一東京大学名誉教授
(出所:日経BP)