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「バイオマス発電はFITに合わない」、バイオマス産業社会ネットワーク・泊みゆき理事長に聞く

メガソーラービジネス・インタビュー

2019/10/10 05:00
金子憲治=日経BP総研 クリーンテックラボ

太陽光発電に次いで、固定価格買取制度(FIT)によって急速に増えたのがバイオマス発電だ。特に木質チップやパーム油など海外産の燃料を使った発電所の認定が急増し、稼働し始めている。一方で、輸入バイオマスによる発電事業に関しては、エネルギー自給に貢献しないなど、その推進に懐疑的な見方も多い。FITスタート以前から、バイオマスのエネルギー利用を調査・分析してきたバイオマス産業社会ネットワークの泊みゆき理事長に、バイオマス発電の課題と今後の在り方について聞いた。

パーム油発電に批判も

ーー再生可能エネルギーを支援する固定価格買取制度(FIT)の抜本的な見直しが始まり、今後、バイオマス発電の扱いが議論になりそうです。

 一概に「バイオマス発電」と言っても、様々な燃料や発電手法があり、それが議論を複雑にしています。現在、環境団体などが最も問題にしているのが、海外から輸入したパーム油を使ったバイオマス発電です。

バイオマス産業社会ネットワーク・泊みゆき理事長
(撮影:TFK)
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 パーム油については、食用を主体に利用されてきた当時から、生産時における熱帯林の保全や地域社会に悪影響を及ぼさないなどの「持続可能性」が課題とされ、そうした考え方を推進する非営利組織(NPO)「RSPO(The Roundtable on Sustainable Palm Oil)」による第三者認証が重視されてきました。

 国内の発電燃料に使う場合でも、こうした第三者認証を求めることになっています。現在、議論になっているのは、認証制度のなかでも、政府主導で作られ、PSPOより基準が“緩い”とされる制度による認証も認めるかどうか、という点になっています。

ーーバイオマス燃料の「持続可能性」では、温室効果ガス(GHG)の削減効果も大きな論点になっています。

 この点は、国の有識者会議(総合資源エネルギー調査会 新エネルギー小委員会 バイオマス持続可能性ワーキンググループ)でも議論され、栽培や加工、輸送に伴う排出を加味した「ライフサイクルGHG」の試算結果を公表しました。これを見ると、パーム油発電は、石炭や石油火力よりはGHGが減るものの、高効率な天然ガス火力に比べると、GHGが増えるという結果になっています。また、木質バイオマスでさえ、北米東海岸産の丸太からの木質チップのGHG排出量は、高効率ガス火力より多くなっています(図1)。

図1●バイオマス燃料のライフサイクルGHG排出量試算
(出所:経済産業省)
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FSC認証に“詐称”!?

ーー認証品でも、温暖化対策の視点からは問題があるということですか。

  そもそも、RSPOなどの認証制度には、パーム油なら食品、森林認証なら紙や建材への利用を想定しているため、「燃料」にした場合のGHG削減効果という視点がありません。RSPOなどの認証品であっても、環境負荷の大きい加工方法や生産地域が遠方の場合など「ライフサイクルGHG」の観点で問題があるというケースが出てくるのです。

 現在、パーム油による発電は、約180万kW分がFITで認定され、仮にこれらすべてが運転を開始した場合、賦課金は約4兆円に上ります。海外から輸入し、GHG削減効果の疑わしい発電事業を、国民の負担で支える必要があるのか、地域環境問題とは別にFITの趣旨から見ても、やはり問題は多そうです。

 再生可能エネルギーへの転換で先行するEU(欧州連合)でも、当初パーム油発電の持続可能性が問題になりました。RSPOならば良いのかなど、議論の末、最終的に「バイオマス発電にパーム油は使わない」と決めました。そこでマレーシアやインドネシアのパーム油製造業者が、日本市場に期待している面もあります。

 国内でRSPO以外の制度での認証も求められた場合、利用できるパーム燃料が増えるため、かなりの発電所が稼働する可能性もあります。

ーー木質チップやペレットによる発電でも、国内産だけでは足りず、海外から輸入するケースが多くなっています。ここでも燃料の持続可能性が問題になります。

 国内の木質バイオマス発電でも、燃料の持続可能性を評価する第三者認証の取得を求めています。この分野で代表的な森林認証制度であるFSCを取得する動きがすでに一般的になっています。ただ、FSC認証の“詐称”が疑われるとの指摘もあり、そのチェック体制が課題になり始めています。

 というのは、統計上、FSC材の生産量よりも輸入量の方が多いとの調査があり、そうしたことが起こるのは、FSC材の加工から輸送までのサプライチェーン(SC)を追跡・管理する「SC認証」のFIT制度における確認が不十分だからです。

 経産省も今春、輸入バイオマス燃料のトレサビリティに関して警告を出し、仮に不正があった場合、認定取消もあり得るとしています。

 SC認証の管理が徹底していないのは、森林認証で歴史のある北米産に加え、ベトナムなどからの調達が増えている面もあります。また、従来、輸入木材は建材や製紙に使われてきましたが、バイオマス発電では「燃料」になります。商社の中でも「建材・紙」と「燃料」とでは、部門や担当者が異なるため、認証制度の運用に慣れていない面もあります。

 最近、輸入燃料によるバイオマス発電を行っている事業者の間では、「まじめに認証品を調達している事業者がバカを見る」との声も出てきました。認証の詐称がまかり通っていては、厳しい調達基準を設けても意味がありません。いかにそれを運用・チェックしていくかが重要になります。

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FIT後、バイオマス発電は赤字に

ーー「燃料費ゼロ」の太陽光や風力と違い、バイオマス発電では、燃料コストが事業費全体の8割程度を占めると言われます。FIT期間が終わっても事業として成り立ちますか。

 燃料の持続可能性に関して、最初に述べましたが、バイオマス発電の本質的な課題、そして、それをFITで支えることの問題点は、ここにあります。

 北海道立総合研究機構林産試験場の古俣寛隆氏らの研究によると、現在、国内にある、未利用木質または一般木質バイオマスを使った発電所のほとんどは、20年間のFIT期間が終われば、十分な利益を上げることは難しいとの結論になりました。

 現在、FITの下で、輸入材を使った大規模なバイオマス発電が成り立つのは、相対的に高い買取価格が設定されたからです。木質燃料の調達コストでは、海外からの輸入材より国内の間伐材などの方が安いのですが、まとまった量を安定的に確保できるという点から、輸入チップやペレットを主体に事業計画を立てています。

 古俣氏らのシミュレーションによると、FITなしでも20%以上の利益率が出せる木質発電施設は、国内間伐材を使った30MWの大規模発電所か、同じく間伐材を使った熱利用を主体(発電1443kW、熱3988kW)とした小規模コージェネレーション(熱電併給)施設になります。輸入バイオマスを使った施設は30MW規模でも赤字に転落します。

図3●バイオマス発電の経常利益率の推移
(出所:シンポジウム「持続可能なバイオマスの条件とは~経済循環とLCAの視点から考える」小俣寛隆氏・資料)
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 この試算で十分な利益を維持できる数十MW級の間伐材利用の発電所や熱主体の小規模コージェネは、現在のFIT発電施設では存在しません。FITの下では、コージェネにするより、少しでも多く発電した方が有利ですし、地域から間伐材を集めて燃料にする場合、大規模化には限界があるからです。

「熱」の低炭素化に本領発揮

ーーそうなると、20年後、国民負担で建設されたバイオマス発電所が、バタバタと運転を止めるという事態になるのですか。

 そうなる可能性が高いと見ています。現在、国内で稼働・建設されている数十MWの大規模バイオマス発電所は、FIT終了後、輸入材より安い建設廃材などにうまく転換できない限り、発電施設自体は利用できても、発電事業を停止することになります。

 発電事業は、20年間のFIT期間中に減価償却を済ませ、予定した投資収益を確保できますが、そこで一時的に生まれた雇用は失われ、部分的に地域からの間伐材を利用していた場合、その木材は行き場を失います。

ーーそもそも「木質バイオマス発電」には、事業性がないのですか。

  バイオマスのエネルギー利用を長らく調査・研究してきた立場から見ると、バイオマスは、化石燃料に比べて高効率発電が難しいため、ボイラー燃料として熱利用するのが本筋です。FIT前からバイオマス発電の試みは多くありましたが、いずれも事業性が確保できず、ほとんど普及しなかったのはそのためです。それはFIT後も変わりません。

 世界的に見ても、木質バイオマス発電には、厳しい目が向けられています。再生可能エネルギーの中で、太陽光と風力の発電コストは急速に下がり、入札などでは、太陽光で3円/kWh、風力で6円/kWhと、化石燃料を大幅に下回っています。国内でも、太陽光発電の発電コストは、トップランナーで8円/kWh程度まで下がっています。

 これに対し、設備の減価償却後も継続的に燃料を購入するバイオマス発電は、化石燃料による発電コストに比べ、安く発電するのは難しいのが現実です。

ーー自立できない「バイオマス発電」を、FITの枠組みの中で支援すること自体に問題があったということですか。

 そうですね。いまのFITは、バイオマスのエネルギー利用という視点からは、明らかにミスリードに思います。日本では、「エネルギー」というと「電気」というイメージが強いのですが、もう1つの大きな利用形態に「熱」があります。

 温暖化対策では、当然、「電気」とともに「熱」の脱炭素化が重要になります。企業活動のエネルギーを再エネ100%で賄う国際イニシアチブ「RE100」でも、電気に加え熱を再エネで賄う必要があります。バイオマスは、「熱の脱炭素化」にこそ活用すべきです。

 ただ、熱と言っても、暖房や給湯など家庭で使う低温度帯の熱は、太陽熱や地中熱を利用することもできます。しかし、企業の生産活動などで必要とする100度を超える高い温度帯の熱を再エネから得ようとすれば、バイオマスしかありません。

 そもそもバイオマス発電の熱効率は30%台以下と低く、電気に換えた場合はロスが多くもったいないのです。バイオマスボイラーで熱として利用すれば、ボイラー効率は8割以上になります。エネルギー全体の脱炭素を目指すならば、ボイラー燃料を、重油や灯油からバイオマスに転換していくべきなのです。

 もちろんコージェネにして、発電後の排熱を低温度帯の温水で回収することも効果的ですが、高温度帯を賄える再エネがほかにないことを考えれば、発電にこだわらず、すべて熱利用する方が社会全体の脱炭素化には好ましいと思います。

バイオマスボイラーの普及を

ーー重油ボイラーに比べて、バイオマスボイラーの経済性はあるのですか。

 欧州など海外では、バイオマスボイラーの導入が増えています。それは、温暖化対策とコストダウンを両立できるからです。カロリーベースの燃料コストでは、灯油よりもバイオマスの方が安いのです。

 国内でバイオマスボイラーの普及が進まないのは、バイオマス向けボイラー設備の導入コストが海外より高く、重油ボイラーにくらべて経済性に乏しいからです。多くの場合、オーダーメイドのような設計になり割高になっています。

 ただ、この点については、今後、導入が増えて汎用化が進んだり、エネルギーサービス会社などが介在して熱を販売するスキームにするなど、工夫の余地は大きいと思います。

ーー輸入チップを使った大規模バイオマス発電を運営している事業者のなかには、国内に木質バイオマスの受け入れ設備が増えていくことで、将来的に国内林業からの間伐材の供給量も増えていく、との見方もあります。

 日本では、年間に約2000万m3もの間伐が行われています。FITがスタートし、買取単価32円/kWhのバイオマス発電によって、そのうち約3割の600万m3が山から搬出されて燃料として利用されるようになりました。

 ただ、32円/kWhという高額のFIT価格の下でさえ、発電事業者によるバイオマス材の買取価格は安く、山主にほとんど利益が還元されていません。加えて、この600万m3という間伐材の搬出には、国から多くの補助金が投入されています。そうした意味では、いまの国内産の木質バイオマス発電は、FITと搬出補助金という、二重の補助金政策によってようやく成り立っているのが実態なのです。

 32円/kWhの買取価格が前提でも600万m3の間伐材の確保に汲々としているのですから、FIT後に買電単価が市場価格近くまで下がっていくなか、輸入材に代って国産材の供給が増えるという見方には無理があります。

図2●FITによるバイオマス発電によって600万m3の間伐材が山から搬出されるようになった
(出所:日経BP)
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ーーFIT後の木質バイオマス利用はどうあるべきでしょうか。

 FITによるバイオマス発電に批判的なことを言いましたが、FITによって、600万m3もの間伐材が山から搬出されるようになったのも事実です。FITの買取期間終了に伴い、バイオマス発電所は閉鎖されていくとしても、一度、地域に根付いた間伐材などの木質バイオマス流通システムが失われてしまうのは惜しいことです。

 20年後に備え、木質バイオマスボイラーの普及やペレットの需要を増やしつつ、FITで構築されたバイオマス流通システムをボイラー燃料向けのチップ製造拠点にしたり、木質ペレット工場を建設したりして、うまく活用していくことも検討課題です。