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「FIPはコーポレートPPAへの扉を開く道のり」。アキラ・キャピタルのユン・ジアン・チョン氏に聞く

メガソーラービジネス インタビュー

2019/12/04 17:52
金子 憲治=日経BP総研 クリーンテックラボ

国内の太陽光発電に対する政策は、欧州の後を追うように、固定価格買取制度(FIT)からフィード・イン・プレミアム(FIP)への方向性が示され、FIT後に向け模索が始まる。再生可能エネルギーを主体にした投資・運用アドバイザーで実績のあるアキラ・キャピタル(Aquila Capital:本社・独ハンブルグ)のユン・ジアン・チョン(アジア圏ストラテジック・クライアント・アドバイザリー統括責任者)氏に、欧州における再エネ投資の状況や日本の再エネ市場に対する見方、投資家への期待などを聞いた。

投資家の目線が変わった

ーー11月末に、日本で初めてとなる投資家向けセミナーを開催したと聞きました。

アキラ・キャピタルのユン・ジアン・チョン氏(アジア圏ストラテジック・クライアント・アドバイザリー統括責任者)
(撮影:清水盟貴)
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チョン氏 「Energy in Motion, Energy in Transition」と題し、エネルギーシフトと欧州における再生可能エネルギー投資をテーマにパネルトークや参加者との意見交換をしました。参加者は、日本の電力・ガス会社、独立系エネルギー会社、商社、コンサルティング会社、法律事務所、銀行や運用会社、ファンドを含む金融機関など約60人でした。

 日本企業や投資家と話していて感じるのは、ここ1年で、彼らの再エネ事業に向ける目線が大きく変わってきたことです。3~5年前にはまったく違っていました。

ーーこれまで日本の企業や投資家が、再エネ事業に投資する場合、国の法的な制度を背景に、一般送配電事業者に長期固定価格で売電するFIT案件が大前提でした。

チョン氏 ここ1年で、日本の投資家が変わってきたと言ったのは、まさにその点です。かつて、欧州でも再エネ投資の主体はFITによるプロジェクトが前提でしたが、徐々に「コーポレートPPA(電力購入契約)」に軸足が移っていきました。「コーポレートPPA」とは、国の再エネ買取制度を使わず、民間企業と再エネ電力の長期買取契約を結ぶものです。こうした流れに3~5年前の日本の投資家はまったく無関心でしたが、いまでは大きな関心を示すようになってきました。

 FITは、再エネの普及政策として、日本に先行して欧州各国が導入し、大きな推進力になりました。日本企業も、国内だけでなく英国を中心に海外のFITによる再エネ事業に投資した実績もあります。日本の投資家は、国内のFITで再エネ事業の経験を積んできたので、FITによる売電事業の安心感を求める傾向が強かったのです。

「FITからFIP」で変わること

チョン氏 しかし、英国のエネルギー政策も変化し始めており、投資対象をほかの欧州の国々にも目を向ける時期になっています。それでも、FITベースのプロジェクトに限定してセカンダリー市場からプロジェクトを取得すると、相対的にリターンは小さくなります。

アキラ・キャピタルのユン・ジアン・チョン氏
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 欧州では、再エネ技術のコスト競争力が増したことで、南欧の太陽光や北欧の風力など、もはや政府の補助がなくてもやっていける段階になっています。そうなると、再エネ投資も、再エネ発電事業者が電力会社や企業と独自に長期売電契約を結ぶ「コーポレートPPA」が可能になり、投資対象になってきます。

 日本の投資家も、ようやくこうした世界の流れを見据えるようになってきました。もともと日本の投資家は、長期的な視点を重視しているので、エネルギー業界の新しい動きにも積極的に取り組んでいくと見ています。

 「コーポレートPPA」は、日本の投資家にとっては新しい分野ですが、将来の流れを理解して、開発段階から投資することで、大きなリターンも得られます。

 

ーー日本国内の再エネ事業は、世界的に見るとコストが高く、現時点で、「コーポレートPPA」のスキームで事業化されたプロジェクトはありません。そうしたなか、日本政府は、FITよりも市場原理を強めたフィード・イン・プレミアム(FIP)を導入する計画です。

チョン氏 「FITからFIPへ」という再エネ支援政策の流れは、多くの国が採用していますし、欧州でもそうでした。再エネを電力市場に統合し、競争環境を高めるためにFIP を導入しました。それによって再エネ事業者や投資家の対応力が増し、民間ベースの「コーポレートPPA」が成立するようになりました。

 太陽光、風力発電技術の低コスト化は、アジアにも波及しており、日本も同じ流れにあると思います。2~3年後には、日本の再エネ市場も大きく状況が変わっているでしょう。

ーー国内では、太陽光に関しては、FITの買取価格低下によって、再エネ開発や投資意欲が下る中、FIPがどんな制度で、どう対応すべきか、悩んでいる企業が多いと感じます。

チョン氏 欧州ではFITからFIPに移行するなか、並行して「コーポレートPPA」が成立し始め、FIPと「コーポレートPPA」が併存する局面がありました。まさに、ここ1年程度で、さらに再エネ技術のコストが下がり、「コーポレートPPA」が主体になってきました。

 結果的にFIPは過渡期の仕組みになりましたが、「FITからFIPへ」という政策変更は、たいへんに重要です。というのは、FITの下では、再エネ事業者は「ただ発電すればよい」ので、再エネ事業が閉じた形になり、市場や競争に対応した「次の展開」に進みません。

 FIPに転換して、再エネが電力市場にさらされ、他の電源とも競争する環境を作ることで、「コーポレートPPA」の下地ができます。その意味で、FIPは、「コーポレートPPA」への扉を開く道のりとも言えるのです。

リスクとリターンが変わる

ーー最終的にFIPよりも、「コーポレートPPA」が選ばれる、という流れは、電力卸市場の価格によって買取価格の変化するFIPよりも、長期固定で売電できる「コーポレートPPA」の方が、再エネ事業者にとって有利ということですか。

チョン氏 確かに「コーポレートPPA」は、FITのように長期固定価格での買い取りというイメージがありますが、実際には、常に完全に固定価格というわけでもありません。基本的に固定でありながらも、状況変化などに柔軟に対応できる、という良さがあります。

 「コーポレートPPA」が選ばれているのは、別の側面もあります。政府による補助が減っていくなか、FITやFIPなどの公的な買取制度には、常に「制度変更のリスク」が付きまといます。一方で、民間ベースでスキームを構築する「コーポレートPPA」は、国の制度に依存しないので、こうした制度リスクがありません。

 つまり、再エネ資源が豊富で、十分に効率的に電気を生み出すプロジェクトならば、国の制度を使うより、むしろ民間ベースの契約スキームの方が、低リスクなのです。

 一方で、産業界にとって電力は重要なコスト要因で、10年、15年、20年という長期で、安定的に電気を調達できる「コーポレートPPA」は、使い勝手が良いのです。加えて、独ダイムラーのように環境に配慮する需要家にとっては、再エネ比率を増やせます。

 「コーポレートPPA」には、電気小売りとPPAを締結して、電力会社を通じて需要家に電気が届く場合と、直接、需要家とPPAを交わすケースがありますが、後者の場合、電力会社が間に入らない分、需要家にとって安く電気を調達できる利点もあります。

アキラ・キャピタルのユン・ジアン・チョン氏
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ーーとはいえ、FITによる売電事業に慣れてしまった日本の再エネ事業者や投資家、金融関係者にとって、「コーポレートPPA」へのハードルは高いように感じます。

チョン氏 そうですね。確かに、FITと「コーポレートPPA」では、対処すべきリスクが異なります。補助金を前提にした場合、政府自体や制度変更のリスクが大きくなりますが、民間同士の売電事業では、一般的なビジネスリスクである信用リスク、市場リスクが大きくなります。こうしたリスクやリターンの変化に対応しなくてはなりません。

 我々が、日本の企業や投資家に欧州での再エネ事業への投資を薦めているのは、「コーポレートPPA」ベースの再エネプロジェクトに参画することで、FITとは違うリスク・リターンとそれらへの対応を学ぶ絶好の機会にもなるからです。

 再エネプロジェクトに出資するだけでなく、「コーポレートPPA」ストラクチャーの決定に関与したり、PPAの契約交渉に参加したりするなど、一連のスキームプロセスに加わることで、貴重な知見が得られます。それが、今後の再エネ事業の在り方を考え、プロジェクト効率を高め、日本に来るべき2~3年後の変化に備えることになります。

再エネ自家消費には限界

ーー事業活動を再エネ100%で賄うことを目指す「RE100」に加盟する日本企業が増え、自家消費型の屋根上太陽光を導入するなど、電力需要家が直接、再エネに投資する動きも国内で活発化しています。

チョン氏 海外でも業界によっては、需要家である企業が直接、再エネに投資して発電するというケースもあります。しかし、電力多消費型の企業の多くは、再エネ開発や投資を外部の専門企業に任せ、「コーポレートPPA」という形で再エネ電気を調達しています。

 ダイムラーをはじめ、鉄道、重工業 巨大なデータセンターを持つアマゾンやグーグルなどIT業界の大手も、「コーポレートPPA」を使って再エネを調達するのが主流です。その方が、自分で発電事業を手掛けるよりも効率的だからです。

 また、北欧の場合、電力会社はすでに多くの水力発電を持っていますが、最近では、ポートフォリオ上、風力発電を加え始めています。その場合、自ら投資してウインドファームを建設するのではなく、投資家の資金で開発された風力発電所から電力を購入することが多くなっています。巨額の投資負担なしに再エネを調達できるからです。

ーーアキラ・キャピタルでは、どんな再エネ開発プロジェクトの実績が多いのですか。

チョン氏 建設中を含めて約4GWの再エネ事業を手がけており、具体的には、太陽光、陸上風力、水力発電が中心です。特徴的には、一般的に投資機会の少ない水力発電にも取り組んでいることです。2009年から投資を開始し、143の水力発電所を運用しています。水力は、今後、再エネ主体の電源構成に移行していくなか、ベース電源として非常に重要になります。

 具体的なプロジェクトとしては、今年7月に、欧州最大のウインドファームの開発案件を取得しました。ノルウェーで計画されている400MWの発電所で、今秋に着工します。また、今年3月にはスペインで計画中の陸上風力(400MW)と太陽光発電(300MW)のプロジェクトを取得しました。

 欧州各国は、それぞれ高い再エネ導入目標を掲げているので、今後は大規模な洋上風力の開発が活発化します。日本でも、陸上立地に制約が増えるなか、今後、洋上風力はたいへんに有望と見ており、欧州での経験が生かされる場面も多くなると見ています。

日本でのセミナーで来日したアキラ・キャピタルのチーム
(撮影:清水盟貴)
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