メガソーラービジネス

「山倉ダム」「ポストFITの水上太陽光」、シエル・テール日本法人・森社長に聞く

メガソーラービジネス・インタビュー

2020/10/07 05:00
加藤 伸一=日経BP 総合研究所 クリーンテックラボ

 狭い国土の日本では、太陽光発電所の設置に向く空き地には限りがある。今後の太陽光発電の立地として大きな可能性を残しているのが耕作放棄地や屋根上、そして水面である。水上に太陽光パネルを浮かべる部材、フロート大手の仏Ciel et Terre International(シエル・テール・インターナショナル)の日本法人であるシエル・テール・ジャパン(東京都中央区)の森 一(もり・はじめ)社長に、今後の水上設置型太陽光発電の可能性、安全性とコストの両立などについて聞いた。

――水上太陽光発電の可能性をどのようにみていますか。

シエル・テール・ジャパンの森 一(もり・はじめ)社長
(出所:日経BP)
クリックすると拡大した画像が開きます

 まず、日本は国として、本気で再生可能エネルギーを大量導入したいと考えているのか、わからない部分があります。

 しかし、金融界は石炭火力発電には投資しない方向に向かっていますので、既存の設備が老朽化した時点などで、いつかはゼロになるでしょう。温室効果ガスだけの面では、原子力発電も有効な電源ですが、シエル・テールの本国でもある、原子力大国のフランスですら「2050年に原子力ゼロ」を模索しています。

――日本でも省庁や電力系企業からも「現実には、2030年時点の原子力発電は多くて15%程度ではないか」という声が聞こえてきます。

 その空白分のすべてを再エネで賄えないにしても、増える余地はありますよね。再エネ比率は50%近く必要になるのではないでしょうか。

 固定価格買取制度(FIT)の後の制度(FIP:フィードイン・プレミアム)の詳細がよくわからなくて困っている状況ですが、FIPに移行した後は、コーポレートPPA(発電事業者と電力需要家による直接の売電契約)やPPS(特定規模電気事業者)向けの太陽光発電所も本格的に立ち上がってくるとみています。

 今後の水上太陽光発電所の開発では、それぞれの地域における出力制御(出力抑制)の度合いが大きく影響してきます。抑制がどの程度、課せられるのかといったリスクを見極めるのが難しく、金融機関が融資を渋る状況が続いています。これが、地域で太陽光発電所を増やせない要因になっています。

 日本が本気で再エネを増やして使いこなしていくのなら、出力抑制を課す電源の順序や度合いを、より再エネが有利になるように変えていくべきです。

 また、再エネの中では、風力発電、とくに洋上風力発電は、限られた企業にしか実現できません。地熱発電も別の面で難しさを抱えています。いずれも、増えても限られた範囲にとどまりそうです。

 大きく増える余地が残っているのは、やはり太陽光発電でしょう。土地には限りがありますから、水上でどこまで広げられるのか。そこにわれわれが寄与できます。

シエル・テール・ジャパンの森社長
(出所:日経BP)
クリックすると拡大した画像が開きます

 現在の日本の水上太陽光発電所は約180カ所・合計出力約250MWです。このうち7割の約130カ所・約180MWが、シエル・テールのフロートを活用した案件です。ここには、シエル・テール・ジャパンが開発・運営している31カ所・出力約41MWの発電所を含みます。

 われわれの感触では、活用できる水面は多く残っています。例えば、ため池を活用して自社で開発しようとした案件の中でも、出力抑制の度合いが不透明、連系負担金が高額で見合わないといった理由で事業化を見送ったことがあります。

 こうした案件は、出力抑制の度合いや連系する送電線の空き容量の見直し次第で、事業化できる可能性があります。

 水上太陽光発電所の事業化は、技術面、金融面が大きく左右します。

 技術面については、最多の案件数といえるレベルの経験があり、それが強みです。フロートそのものだけでなく、フロートを連結したアイランドの構成、アイランドを係留するためのアンカー(池底に打ち込む碇)まで一貫して設計し、助言できます。

 金融面については、現在は「11円/kWh(税抜き:以下同じ)以下の売電単価で成り立つ事業にできるのか」ということになります。これも、水上太陽光発電所については、われわれは技術力と捉えています。

 顧客が事業性を満たせる水上太陽光発電設備のコストを実現できるように調整できる力が、技術力の1つです。

 われわれは、自社で開発する水上太陽光発電所に関して、11.5円/kWhの売電単価で出力2.5MWの案件を入札で取得済みです。今年の入札にも参加するつもりです。

 このように、現時点では実現できないかもしれないけれど、少し後の着工までにはそのコストに対応することを可能にする力があります。これも、他のフロートメーカーに比べると、ダントツの実力ではないかと自負しています。

――水上太陽光の特徴は、「既製のフロートを活用しないと実現できない」ことです。手作りでも実現できる、地上や屋根上への設置にはない要素です。日本にいち早く進出して水上太陽光の市場を生み、成長させてきた原動力はどこにあるのでしょうか。

シエル・テール・ジャパンの森社長
(出所:日経BP)
クリックすると拡大した画像が開きます

 フランスの先進的な考えで事業化された製品を、そのまま日本に持ってきて、日本人だけで展開していたのでは、難しかったと感じています。

 あえて極端な話をすると、ひとつの物事に向き合うときに、日本人はどこまでも心配性で、フランス人はまずやってみようと挑戦的です。この両方が合わさったからこそ、シエル・テール・ジャパンの成長につながったと感じています。

 何らかの問題を、顧客から指摘されたときの対応も、フランスは日本とは異なります。このことも含めて顧客には正直に伝えてきました。そうしたやり取りを顧客が信頼してくれたと感じています。

 また、国内向けは、国内で製造しています。これも日本で受け入れられた要因の1つだと感じています(関連コラム:水上に太陽光パネルを浮かべる「フロート」の開拓者)。

 シエル・テールでは現在、東南アジア、インド、米国、中国、台湾などに市場を広げています。こうした海外の成長市場において、先行した日本市場で培った経験を生かせるのが強みで、そこでは日本法人が大きな役割を果たすことになります。

 これらの海外の国々では、コスト意識が日本よりも強いと言われています。こうした市場で新たに培う経験を、今度は日本に還元していきたいと考えています。

――コストは重要ですが、安全性を欠かすことはできません。山倉ダムの被災に関する対応や、今後の方針を教えてください。

 われわれが関連するところでは、アイランド(フロートを連結した島)を出力2~3MWごとに分けたり、アンカーをまんべんなく打つという対策を講じて復旧することが決まりました(関連コラム:千葉・水上メガソーラー火災、再建案の詳細公表、アンカー本数2倍に)。

 日本ではこの数年、過去最高とされる強風や豪雨を伴う台風が多く上陸、通過しています。それも、これまでとは異なる進路です。水上太陽光発電所でも、山倉ダムのように、フロートメーカーが保証する範囲を超えた状況が生じることも考慮した設計が求められると感じています。

 ここで難しいのが、営業面と技術面のせめぎあいです。営業面では、顧客のコスト削減要求に直面します。アイランドを過剰に大きくしたり、アンカーを過剰に削減することにつながります。技術面では、それでは安全面で不安が残る場合があります。このバランスをどのように適切に満たしていくのかが重要です。

 日本で水上太陽光発電の市場の立ち上げと成長に寄与したという自負があります。その責任もあります。山倉ダムでの被災からの復旧は、現在のわれわれのすべてを投じて取り組んでいきます。

 もう一度、同じような被災がどこかで生じた時には、もう次のチャンスはないというくらいの思いで取り組んでいます。

――ポストFITの水上太陽光発電では、どのような可能性があると考えていますか。

 1つは、地域新電力向けの案件です。地域の水上太陽光発電所が地域新電力に売電して、地域でその電気を使うというものです。

 ため池は農村地域に多いので、こうした地域において、地域循環型の経済の一端を担い、地域を活性化できれば、日本の農村地域が変わってくる契機になるのではないかと期待しています。

 また、企業が所有している池もあります。ここに水上太陽光発電所を設け、自家消費に使う案件にも期待しています。「RE100」に加盟している企業などにとっては、大きな魅力となるでしょう。

 売電単価が11円/kWhという状況になると、FITやFIP以外の活用法のほうが、魅力が大きいと思います。

 すでに、兵庫県南あわじ市にあるわれわれの水上太陽光発電所の電力が、売電先の関西電力から特定卸供給契約に基づいて、生活協同組合コープ自然派兵庫(神戸市西区)に11月から供給されることが決まっています。

 また、伊藤忠商事が4月、フランスの本社であるシエル・テール・インターナショナルに7%を出資しました。伊藤忠商事は、わたしの出身企業でもあります。フランスの本社には、これまでも東京センチュリーが15%を出資しています(関連ニュース)。

 伊藤忠商事は、これまでの水上太陽光発電をベースに斬新なアイデアを持ち、ネットワークを活かして国内外でそれを展開していく方針です。

 シエル・テールにとっても、まったく新しい展開となり、これまでは考えられなかった新たな水面を活用するなど、水上太陽光発電の新たな可能性を切り拓けるきっかけとなりそうです。

シエル・テール・ジャパンの森社長
(出所:日経BP)
クリックすると拡大した画像が開きます