メガソーラービジネス

「PPAは最終的にはバーチャル型に移行へ」、中山・京大特定講師

メガソーラービジネス・インタビュー

2020/10/22 05:00
金子憲治=日経BP総合研究所 クリーンテックラボ

再生可能エネルギーを牽引する次の事業モデルとして、「コーポレートPPA」に注目が集まっている。米国では、IT企業大手が、コーポレートPPAの手法で再エネによる電力を調達することで、「再エネ100%」を目指す動きが活発化している。再エネを巡るPPAの動向に詳しい、京都大学大学院経済学研究科の中山琢夫特定講師に、海外で普及しつつあるコーポレートPPAの仕組みや、今後、国内で予想される方向性などについて聞いた。

京都大学大学院経済学研究科の中山琢夫特定講師
(撮影:日経BP)
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「再エネ自家消費」の限界を超える

ーー日本では、電気は電力会社から買うという制度になっており、需要家にとって「PPA」は聞き慣れたものではありません。「コーポレートPPA」とは、どんな仕組みですか。

中山 まず、「PPA(Power Purchase Agreements)」とは、一般的に「電力購入契約」と訳されます。コーポレートPPAとは「企業によるPPA」と言う意味になります。企業など電力の需要家が、発電事業者(IPP=独立系発電事業者)や電力会社、デベロッパーなどとの間で結ぶ契約で、特定の発電所や一定量の再生可能エネルギー電力を、両者で合意した価格(買電単価)と期間で購入するというものです。契約期間は、一般的に10年以上で、長いものでは25年に及びます。

 PPAというと、日本では馴染みがないと思われますが、例えば、固定価格買取制度(FIT)は、電力会社が再エネ発電事業者と結ぶPPAとも言えるもので、その際の買取価格と期間を国が決める、という仕組みです。実際、外資系の再エネデベロッパーなどは、FITスキームを「電力会社とのPPA」と呼ぶこともあります。

 これに対し、「コーポレートPPA」は、需要家である企業が直接、再エネ発電事業者とPPAを締結し、価格と期間、購入する電力量を決め、再エネ電気を購入するスキームを指します。企業が再エネ電力を調達する手法の1つで、欧米などで広まっています。

ーーなぜ、ここにきて注目されるようになったのですか。

中山 再エネ推進のけん引役として、企業による再エネの購買力が期待されています。そのためには、企業が既存の再エネを受動的に使うのではなく、新たな再エネ開発に能動的にかかわりつつ、経済性のあるコストで再エネを調達できることが重要になっています。

 コーポレートPPAが伸びているのは、こうした社会的な要請や、企業ニーズに合っているからです。

 企業が再エネを調達する方法には、大きく4つあります。(1)電気と分離された環境価値(グリーン電力証書など)を購入する、(2)再エネ発電事業者とPPAを締結する、(3)小売電気事業者が用意した「再エネメニュー」で電気を購入する、(4)企業が自社敷地内に再エネ設備を建設して自家消費するーーというものです。

 このうち、(1)環境価値の購入、と(3)電力会社の再エネメニューの場合、既存の再エネを利用するという点で、受動的な手法とされます。直接的に新規の再エネ投資を促す、いわゆる「追加性」には乏しくなります。

 理想的には、企業自らが自社ビルの屋根上などに再エネを建設して利用する、(4)の自家消費が最も「追加性」が高く、経済メリットも確保しやすい手法です。

 しかし、ほとんどの企業にとって、自社敷地内に再エネ設備を設置するスペースには限界があり、自家消費だけで事業運営の多くを再エネに転換するのは難しいのが現実です。

 そこで、(2)のコーポレートPPAが注目されているのです。企業がコスト競争力のある再エネ発電事業者と長期間、固定価格で購入する契約を結ぶことで、ファイナンスを可能にして新規投資を促すとともに、企業は競争力のある再エネ電源を確保できます。

世界35カ国で導入済み

ーー海外では現在、コーポレートPPAは、どの程度、広がっているのですか。

中山 IRENA(国際再生可能エネルギー機関)の集計によると、コーポレートPPAは、北米と欧州を中心に世界35カ国で導入されています。北米では、2017年に2.78GWもの新規コーポレートPPAが締結されました。2018年の第1四半期だけでも2.04GWが新規に契約されていることから、今後さらに増える可能性があります。

 欧州では、北欧諸国の企業の間で、コーポレートPPAによる再エネ調達が増えており、そのほとんどが風力発電になっています。2017年には約800MWの風力がコーポレートPPAによる契約対象になりました。

京都大学大学院経済学研究科の中山琢夫特定講師
(撮影:日経BP)
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 北米でコーポレートPPAを牽引しているのはIT系企業で、北欧での導入例も、こうしたIT企業がデータセンターを北欧に移したのに伴い、施設の空調などに必要な電力コストを抑えるために導入したケースも多いようです。

ーーここ数年、日本国内で「PPAモデル」というと、需要家(住宅・企業)の屋根上に、発電事業者が太陽光パネルを設置して運営し、需要家に電気を販売するスキームを指すこと多く、需要家と発電事業者以外の「第三者(投資家など)」が設備を保有することから「第三者保有(TPO)モデル」と呼んだり、発電事業者と需要家がPPAを締結することから、「PPAモデル」と呼んだりしています。

中山 国内で広まっている屋根上太陽光の「PPAモデル」は、需要家の敷地(オンサイト)に再エネ発電設備を設置してPPAを締結し、電気を販売する「オンサイト型PPA」になります。このスキームは、需要家が太陽光パネルの設置場所を提供することで、容易に実現できる自家消費モデルの1つとも言えます。

 実は、こうした「日本版PPAモデル」は、世界的なPPAの流れから見ると、「物理的PPA」のオンサイト型モデルと、分類できます。

 海外では再エネを対象にしたPPAの仕組みは多様化していますが、大きく分けると「物理的(Physical)PPA」と「仮想的(Virtual)PPA」に分けられます。これら2タイプは、同じ「PPAモデル」といっても、その仕組みはかなり違っています。

 「物理的PPA」では、再エネ電源からの電気そのものと環境価値を一体のものとして直接、需要家である企業に販売する仕組みで、買い手の需要家は、環境価値のある電気によって、事業を運営し、温室効果ガスを削減します。

電気と環境価値を分離

中山 一方、「仮想的PPA」では、電気そのものと、環境価値を分離します。

 再エネ事業者は、発電した電気を電力卸市場に販売し、環境価値については契約した買い手企業が取得します。また買い手企業は、事業運営に必要な電気は市場などから調達しつつ、締結した「仮想的PPA」を通じて継続的に追加性のある環境価値を確保できます。

 この仕組みのポイントは、買い手企業と再エネ発電事業者との間で、事前に環境価値を加味した「ストライクプライス」と呼ばれる価格を設定しておき、同プライスと電力卸市場(スポット市場)との間の差額(差金)を決済することです。

 市場価格がストライクプライスを下回れば、その差額を買い手企業が補填し、逆に市場価格がストライクプライスを上回ると、その差額を買い手企業が受け取ります。

 つまり、再エネ発電事業者は、ストライクプライスという固定価格での売電が保証されるとともに、買い手企業は、ストライクプライスを保証することで、継続的に環境価値を手に入れてCO2を削減できます。ストライクプライスは金融的な手法で決定されますが、電力のスポット市場に比べて競争的な水準になっていれば、買い手企業は、一般的な電気代のコスト水準で、追加性のある環境価値も手に入れられます。

 再エネの発電コストが十分に下がっている国々では、この「ストライクプラス」を電力の市場価格に近い水準で設定しつつ、再エネ発電事業者も一定の投資収益性を確保でき、プロジェクトファイナンスの組成が可能になっています。

 「仮想的PPA」の仕組みは一見複雑に見えますが、ストライクプライスさえ決まれば、その運用はシンプルです。ここ数年、北米などで導入されているコーポレートPPAは、「仮想的PPA」が主流になっています。

ーー現在、国内で一部の環境先進企業が検討しているコーポレートPPAは、「物理的PPA」を屋根上などオンサイト発電所だけでなく、企業の敷地外(オフサイト)の再エネ発電所と契約するというイメージです。ただ、その場合、需給バランスの管理や託送料がかかることが、大きな課題になっています。

中山 「物理的PPA」は、電気と環境価値が一体なので、分かりやすく素朴な仕組みですが、これを企業の敷地外で進めようとすると、需給バランスを維持する必要があり、たいへんな手間がかかります。また、米国では需要地と発電所が州を超えて遠隔になる場合など、制度上、「物理的PPA」が難しいこともあります。

 こうした背景から生まれたのが「仮想的PPA」なのです。例えば、メガソーラーからの変動する出力はその地域の電力卸市場に売ることで、需給調整は系統運用管理者が担うことになります。一方、需要家は事業運営に必要な電気を地域の市場から調達すれば、再エネ事業者も需要家も煩雑な需給バランス業務から解放されます。需要家は、「仮想的PPA」で継続的に得られる環境価値を使うことで、CO2を削減できます。

 ただ、こうした仕組みを日本で実現するのは現時点では難しいのが現実です。そもそも日本では需要家が直接、発電事業者とPPAを結べませんし、「仮想的PPA」の場合、電気そのものと環境価値を分離して取引する制度が前提になります。国内の場合、まずは「物理PPA」に挑戦するところから始まり、その煩雑さに直面するなかで制度への問題意識が高まり、「仮想的PPA」が可能になる制度を整えていく、という流れになりそうです。

FIPか、コーポレートPPAか

ーー国内の太陽光では、FITの後は、市場に連動して買取単価が決まる「FIP(フィードイン・プレミアム)」で推進する方向で、ようやく制度設計が始まりました。

中山 FIPは、電力卸市場に連動して買取価格が決まるという特徴がありますが、FITと同様に、国民が負担した賦課金で賄うプレミアムが付加されます。その点では、FIPによって再エネが自立した電源になったわけではありません。

 一方、コーポレートPPAは、民間企業同士が相対で契約するので、もはや国民が負担する賦課金は発生しません。

 逆に言えば、FIPは市場価格にプレミアムが上乗せされる分だけ、市場価格をベースにしたコーポレートPPAに比べると、再エネ事業者の事業性は高まることになります。こうした面を考えると、FITの後はまずFIPが活用され、その先にコーポレートPPAによって再エネが完全に自立した存在になるとも言えます。

 ただ、FITの後を受けて導入されるFIPでは、そのプレミアムはかなり少なくなっているはずで、市場価格にかなり近い水準になります。日本のFIPも、売電収入の基準となる「基準価格(FIP価格)」はFITの買取価格と同水準とされているので、もはや発電事業者によって魅力的な価格ではありません。

 一方、「仮想的コーポレートPPA」では、事実上、ストライクプライスという固定価格で長期間に売電できるため、売電単価が変動するFIPに比べると、プロジェクトファイナンスが組成しやすいという特徴があります。

ーー欧州系の再エネ投資・運用アドバイザーの中には、FIT後は、FIPよりもコーポレートPPAが主流になるとの見方もあります。

中山 現在、コーポレートPPAが広まっている北米や英国では、もともとFITではなく再エネ・ポートフォリオ基準 (RPS)によって小売電気事業者に再エネ販売量を義務付けてきました。FIT、そしてFIPを採用してきたドイツなどは、ここにきてようやくコーポレートPPAが導入され始めた段階です。

 その意味では、FIPとコーポ―レートPPAの両方を選べる状況になっている国々はまだ少なく、両制度がどのように使い分けられるのかなど、まだ十分に分析できる段階ではないようにも感じます。

外資系企業が突破口も

ーー国内ではまだ再エネのコストが市場価格の水準まで下がっていません。コーポレートPPAが成立するのはかなり先になるのでしょうか。

中山 国内の再エネで最も市場価格に近付いているのは、メガソーラーです。今後も、さらにコストが下がる余地はあり、条件の良い場所に大規模に開発できれば、近い将来、コーポレートPPAが成立する可能性も十分にあります。

 例えば、北海道の平坦な遊休地に巨大なメガソーラーを建設し、首都圏の大手企業が「仮想的PPA」を締結して、追加性のある環境価値を大規模に獲得するというようなスキームが考えられます。外資系デベロッパーなどは、海外での建設コストの水準を知っており、仮想的PPAにも詳しいので、突破口を開く存在になるかもしれせん。

 ただ、道内の系統運用上、電力系統に接続できなければ建設できないので、やはり系統問題の解決は重要です。

 加えて、国内の電力卸市場が健全に運用されているかもポイントです。「仮想的PPA」は固定価格での買い取りが特徴と言いましたが、ストライクプライスを適切に決めるには、電力卸市場の予測がカギになります。その点で、FIPと同様、電力卸市場が十分に成熟して、専門家やアナリストによる分析で適切に予測できることが、運用上、重要になります。

京都大学大学院経済学研究科の中山琢夫特定講師
(撮影:日経BP)
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