メガソーラービジネス

「日本の提案で“デジタルパワープラント”へ」、タイの石炭グループの太陽光

メガソーラービジネス・インタビュー

2021/01/27 11:38
加藤 伸一=日経BP 総合研究所 クリーンテックラボ
バンプージャパンの志摩渉社長
バンプージャパンの志摩渉社長
(出所:バンプージャパン)

 日本におけるメガソーラー(大規模太陽光発電所)の開発・運営は、太陽光発電の経験で先行していた欧米を中心に、海外企業による取り組みも盛んである。アジア企業も積極的で、タイの石炭関連企業であるBanpu(バンプー)もその1社である。日本法人であるバンプージャパン(東京都千代田区)の志摩渉社長に、同社の太陽光発電事業の特徴などを聞いた。

――タイの大手企業が、日本で太陽光発電事業を展開することになった経緯を教えてください。

 Banpuは元々、石炭の採掘や販売、川下では火力発電を手掛けてきた企業グループです。近年は、再生可能エネルギーに力を入れています。再エネへの取り組みは、本国のタイのほか、中国などで先行して進めてきました(図1)。

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図1●アジアで開発・運営
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図1●アジアで開発・運営
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図1●アジアで開発・運営
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図1●アジアで開発・運営
左上から右に、タイのラヨーン県スターマーケットの屋根上の317kW、タイのチョンブリー県ラグビー校の屋根上の580kW、中国のDeyuan Town の51MW、左下から右に、ベトナムのニントウアン省にあるMui Dinh風力発電所の37MW、シンガポールのジョホール海峡の水上の5MW(出所:バンプージャパン)

 タイでは、工場などの大規模施設の屋根上を活用した案件に強みを持っています。中国では、地上のメガソーラーや太陽熱発電を積極的に開発してきました。

 また、ベトナムでは風力発電事業者を買収し、シンガポールでは屋根上の太陽光発電の大手であるSunseapを買収し、それぞれの地域で再エネ発電事業を手掛けています。

 Sunseapは、米マイクロソフトや米アップルの再エネ電力の活用を支える企業として知られています。シンガポール政府による屋根上を活用した大規模な太陽光発電案件の入札に強く、発電と小売電気事業を手掛けています。

 日本における太陽光発電は、2014年に乗り出しました。FIT開始の2012年から約2年後という時期で、初期案件への取り組みという点では、出遅れた形でした。

 この経緯から、日本では当初、他社が開発していた案件を取得することが主でした。その後、自社で開発する案件が増えていきました。

 バンプージャパンの太陽光発電事業の強みは、安定した財務力や資金力、それを生かしたプロジェクトファイナンスの組成で実績があります。プロジェクトの遂行力にも自信があります。

 現在でも約20人という限られた人員ですが、2020年は4件のプロジェクトを並行して進め、このうち2件、山形県川西町の出力約25.4MW(関連ニュース)、福島県矢吹町の約9.83MW(同ニュース)は年内に運転を開始しました(図2)。

図2●山形県川西町の約25.4MW(左)、福島県矢吹町の約9.83MW(右)
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図2●山形県川西町の約25.4MW(左)、福島県矢吹町の約9.83MW(右)
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図2●山形県川西町の約25.4MW(左)、福島県矢吹町の約9.83MW(右)
(出所:バンプージャパン)

 残りの2件、福島県白河市の約10MW(関連ニュース)、宮城県気仙沼市の約20MWも、2021年に稼働する予定で、プロジェクト遂行能力の高さを示していると思います。

 これらは、立地する地域からの信頼を得られなければ、実現できません。地域との連携もとくに重視しています。

――安定した財務力や資金力が強みということですが、かつてのアジア通貨危機は、財務基盤などに影響しなかったのですか。

 本国のタイは、アジアの他の国々と同じように、1998年に起きた通貨危機の影響を受けました。この時に、Banpuの石炭関連のアセット(資産)は、オーストラリアなどの海外で多く所有していたこと、さらにそれらの地域がドルベースだったことが、通貨危機の影響を相対的に受けにくくしました。

 通貨危機を切り抜けるために受けた融資なども、きっちりと返済してきました。

 この時の融資元は、ほぼ日本の大手金融機関、現在のメガバンク3行でした。こうした経緯も、日本のメガバンクからの信用につながっています。

 また、日本で積極的に投資するタイの企業は限られているので、タイの金融機関の支援も受けやすいのです。

 このような金融機関の協力を得て、日本で開発や取得した太陽光発電所はすべて、プロジェクトファイナンスを組成して資金を調達しています。

――日本で開発・取得済みの太陽光発電所は、どの程度の規模になっていますか。

 稼働済みが11カ所・合計出力約210MW、建設中が2カ所・約30MWとなっています(図3)。

図3●日本における稼働済み・建設中の太陽光発電所
図3●日本における稼働済み・建設中の太陽光発電所
(出所:バンプージャパン)
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 開発や取得のプロセスでは、大きく3つに分けられます。まず、他社が開発中に取得した案件です。稼働済みの案件では、兵庫県淡路市の約8MW、滋賀県日野町の約3.5MW(関連ニュース)、茨城県常陸大宮市などの合計約10MWの案件が該当します。

 次に、稼働後に取得した案件です。稼働済みの案件では、山形県川西町の約25.4MW、宮城県大郷町の約28.8MW、福島県矢吹町の約9.83MW、北海道室蘭市の合計約3.4MW、佐賀県武雄市と佐賀市の合計約3MWが該当します。

 ここにではさらに2タイプあり、川西町、大郷町、矢吹町は「開発委託」案件で、室蘭市、武雄市・佐賀市は投資ファンドからまとめて購入した案件です。

 3つ目が、自社で当初から開発した案件です。北海道むかわ町の17MW、福島県会津若松市での20MWの案件が該当します。

 このほか、開発中の案件で、他社との共同事業体の形で開発している山形県飯豊町の200MWがあります。

――「開発委託」では、山形県川西町、宮城県大郷町のプロジェクトはトリナ・ソーラー・ジャパン・エナジーが開発業務を担当しています。トリナ・ソーラー・ジャパン・エナジーとの取り組みが目立ちますが、今後の稼働案件も含めて、他の企業への開発委託の例もあるのでしょうか。

 建設中の宮城県気仙沼市、福島県白河市の案件も、トリナ・ソーラー・ジャパン・エナジーが開発業務を担当する案件です。

 一方で、福島県矢吹町の案件は異なる企業への開発委託です。

 人数が限られる一方で、資金力はある程度あるという状況の中で、できるだけ早く発電所の数や合計出力を拡大できる方法を模索して、このような形になっています。

――開発委託の案件では、比較的初期の段階から、開発の内容などに意見を反映させることもできそうです。事業性や権利関係などの基本的な内容のほかに、発電所そのものの設計などに要望を出すことはありますか。

 運用時のメンテナンス性や予防保全を重視していますので、設備の配置やパワーコンディショナー(PCS)などで開発会社の提案に対して要望を出すことがあります。

 太陽光パネルの配置では、例えば、敷地内のギリギリまで目一杯並べているような設計だった場合、それは変更してもらい、メンテナンス用の管路を適切に設けて欲しいといった要求をすることになるでしょう。

 太陽光パネルの製品の変更を要求したこともあります。その案件では、開発委託会社が要求を受け入れて、パネルが変更されました。

――他社による開発案件を取得する場合で、同じように事業性や権利関係などの基本的な内容のほかに、発電所そのものの設備などで注意している点はありますか。

 この場合は、設備としては出来上がっていますので、仕様通りにできているかどうか、適切にメンテナンスされているかなどを注意しています。

 発電設備のメンテナンス状況だけでなく、外周のフェンス、雑草、周辺の木の状態などにも注目しています。

 取得後に土木工事をして状況を是正するようなことは、避けています。その工事によって、今度は他のリスクが生じることもあるからです。

 もし是正が必要な状況を見つけた場合、是正を助言し、それが実行されてから購入します。

 こうした他社による開発案件では、バンプージャパンの場合、取得後に「リファイナンス」して利幅を上げることもできます。数件をまとめてより効率の良いファイナンスに組み換えるのです。

――アジアを中心に広い地域で展開している企業グループならではのO&M(運用・保守)の手法などはありますか。

 グループ全体で、クラウドコンピューティングを活用した「デジタルパワープラント」と呼んでいる統合型のシステムを導入する予定です。2021年中に導入がはじまります。

 グループ全体のデジタル化による経営革新の一環ですが、この「デジタルパワープラント」は、日本法人の提案によるものです。

 発電所の開発企業が異なると、O&Mに使うICTのシステムも異なる場合がほとんどです。別々のシステムで運用されているので、まとめて効率的に管理するには、統合したデータを作成することが必要で、その手間によって作業の負担が増します。

 こうした日々の労力を効率化したいという思いが起点になり、日本から提案しました。拡張性のあるシステムなので、今後、新たに必要になってくる項目に対しても、グループ全体で発電所のシステムを統合したまま、新たな機能を比較的容易に追加できると期待しています。

――地域との連携に積極的に取り組んでいるとのことですが、具体的にどんなケースがありますが。

 むかわ町と会津若松市の例を挙げたいと思います。

 むかわ町は、2018年の北海道胆振東部地震で大きな被害を受けた地域の1つです。バンプージャパンのメガソーラーは、稼働して間もなく地震に見舞われました。

 メガソーラー内では、昇圧変圧器が壊れるなどの被害はありましたが、約2カ月で復旧できました。

 町全体では、とても大きな被害を受けました。そこで、近隣地域の住民を支えようと、すぐに食料や「太陽光充電スタンド」を4台寄付しました(図4関連ニュース)。

図4●北海道むかわ町に寄付した太陽光充電スタンド
図4●北海道むかわ町に寄付した太陽光充電スタンド
(出所:バンプージャパン)
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 会津若松市にある「ナリ会津」のメガソーラーは、連系出力が20MWと、会津若松市における最大規模の太陽光発電所です。同市と防災協定を締結し、メガソーラーの太陽光発電電力を非常時に活用できるようにしています(関連ニュース)。再エネ電力をベースにした地方自治体との防災協定は、国内で初めてということでした。

 メガソーラーに設置した非常用電源を活用します(図5)。メガソーラーの発電電力の入力先を非常用に自立運転機能のあるPCSに切り替えると、この非常用電源を使えるようになります。100Vの電源で充電できます。

図5●福島県会津若松市のメガソーラーの非常用電源
図5●福島県会津若松市のメガソーラーの非常用電源
(出所:バンプージャパン)
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 会津若松市との協定による取り組みでは、会津大学内にあるスマートシティ推進施設「スマートシティAiCT(アイクト)」(図6)に入居し、同市内や福島県内における再エネ電力の地産地消や再エネ電力を活用したモビリティーの活用を推進していく、という取り組みにも着手しています。

図6●福島県会津若松市のスマートシティ推進施設
図6●福島県会津若松市のスマートシティ推進施設
(出所:バンプージャパン)
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 AiCTには、アクセンチュアやマイクロソフト、ソフトバンク、コカ・コーラボトラーズ、オリックス自動車など、さまざまな分野の大手企業が入居し、実証実験などを幅広く進めています。そのような環境の中で、さまざまな相乗効果が生まれてくることにも期待しています。

 すでにその効果が出てきています。

 地元の自動車関連の企業から、いわゆる第三者所有方式によるオンサイト型PPA(電力購入契約)の太陽光案件を受託しました。

 この自動車関連企業の工場の屋根上に太陽光パネルを設置し、さらに、駐車場にはカーポート型太陽光発電システムも設置します。出力は約800kWで、設備の所有はバンプージャパンで、発電電力は工場で自家消費します。

 この工場では今後、蓄電システムを追加する構想もあります。最初は需要ピーク時の系統電力の購入量を減らすピークカットに使われる予定ですが、その後、証書なども活用し、最終的には再エネ100%を目指す計画です。